今回のテーマは「忘れられることの悲しさ」ですか。
SF的に言うなら、「認識・観測されない事象は不確定であり、存在しないのと同じ」という、シュレディンガーの猫(の思いきり拡大解釈^^;)的な概念にも通じるのではないか、と。
ドラマの中心は侑斗であり、主人公の良太郎はあくまで傍観者の立場。
それでも問題はありません。何故なら、良太郎は「他人の辛さに共感できる性格」のキャラであり、視聴者も良太郎の心情に接しながら、侑斗や、その他、忘れられた時の旅人の運命を見つめることができるから。
これが生じっか、侑斗自身の境遇を主人公に課してしまうなら、主人公の背景が重くなりすぎて、視聴者の共感を妨げてしまいます。その悲劇性に同情はできても、共感することのできない主人公……ってのは、過去のライダーにもいろいろいましたが、電王の場合はそうではない、と。
さて、この4話に関しては、さらなる事件(ハナさんの一時降板と、その穴埋めのためのコハナちゃんの登場)が起こっておりますが、これについては、あまりツッコまないでおきます。
一視聴者としては、心理的に仕事の継続が困難になった役者の気持ちに同情しつつ*1、昨今のライダーヒロインの物語半ばにおけるフェードアウトが、おかしな伝統になってほしくないなあ、と思っています。
31話「愛・ニード・侑」
洒落の効いたサブタイトルですね。
「愛」は愛理姉さん、「侑」は侑斗で、うまく「I need you.」という英文と掛け合わせています。
愛理に絡む金融会社社長に対し、リュウタロスと、侑斗が行動を起こす、というストーリー。
イマジンは、電王抹殺を目論むアントホッパーイマジン。「アリとキリギリス」は、なかなか分かりやすいネタですね。
スペック上は初期4フォームの中で最強のガンフォーム。けれども、「攻撃の命中値が異常に低い」という劇中描写のせいもあって、2体のアントホッパーに翻弄され、大ピンチに陥ります。
32話「終電カード・ゼロ」
そして、ゼロノス侑斗がついに最後のカードを使い果たす回。
カードを使うたびに、「他者からの自分に対する記憶」を消費してしまう、という事情が明かされ、侑斗の悲劇性、それにも関わらず戦うことを選択するヒーロー性が、この上なく強調された一話。
とりわけ劇場版で、「人の記憶こそが時間なんだ」と発言し、「記憶がなくなれば、その時間は消失する」という設定を明かされた以上、ゼロノスの運命の重さは電王の比ではないことがはっきりします。
その一方で、前回、ボロボロにされたリュウタロスの仇討ちのために、兄貴分として落とし前をつけようとするモモタロスの意気込みは、格好いいです。また、侑斗に負担を掛けまいと奔走するデネブのために、「キャンディーの礼」という名目で助けようとする姿勢も、「仁義の分かった任侠」していて、いいジャン、かと。
最後に、思い出しそうで結局、失われてしまった愛理姉さんの(侑斗に関する)記憶に、ほの悲しさを覚えつつ。
33話「タイムトラブラー・コハナ」
この話で、ハナに異変が起こったことがはっきりします。
まあ、実際には、9月に入ってから出ていなかったわけですが。
物語としては、謎の「新しい路線」が出現し、侑斗の記憶*2や、ハナの縮小化といった問題事に絡まってくる一方で、
クラーケンイマジン契約者のピアノ男が今回のストーリーの中心になります。
ただ、この前編だけでは、各要素がまだつながらず、どうも物語がうまく見えなかったですね。「人の記憶」に関する物語の深みは、後編で明かされます。
34話「時の間のピアニスト」
そして、ピアノ男が「人の記憶に残っていない人物」であることが判明し、イマジンの襲撃の被害から復帰できなかったという事情が明かされます。
電王の基本設定として、過去の世界でイマジンが暴れると、現在の世界にも被害が出る一方で、そのイマジンが倒されれば、被害も消える、という「いささかご都合主義的な描写」が為されていました。
初期には、「過去の世界でビルが破壊されても、その後、修復工事などが行なわれるはずだから、現在の世界で単純に消失してしまうのは、おかしい」といった批判が為されたりもしましたが、
この段階で、「過去の世界=記憶の世界」「記憶からの抹消=現実世界からの消失」という意味づけが為されました。そして、記憶から抹消されても、現実世界の中にバックアップがあれば、時間の修復作用によって、被害は抑えられる。けれども、現実世界に記憶というバックアップがほとんどなければ、時間の修復作用から取りこぼされてしまうことも有り得る……と初めて、語られたわけです。
このことにより、「記憶から忘れられた人間」であるピアノ男に、侑斗が自分を重ねたりして、世界観と人間ドラマに共に深みを与えてくれた、と思います。
コハナについては、劇中ドラマの外の現実世界でも解決すべき問題ですから、当面、すぐに何とかなるわけでもないでしょうが、トラブルをうまく昇華できる形にドラマがフォローしてくれるのを期待したい、と思います。
やっぱり、電王は「幸せを運ぶヒーロードラマ」であって欲しいですから。
PS:34話のロッドフォーム大活躍は、お見事。たまには、クライマックスフォームに頼らない戦い方も、変化があってよろしい。