ラスト・ダンジョン突入
晶華「今回はパラグラフ321番。魔法使いの大洞窟の入り口からスタートです」
イースタ(翔花)「ドラゴニーに進化したイースタのデータはこうです」
●ドラゴニー:殺傷力9、防御力9、耐久力36(残り15点)
イースタ「あれから1週間以上経っているから、耐久力が回復してもいいよね」
晶華「良くないです。ゲーム内時間では前回からさほど時間が経過していないですので」
イースタ「半減したHP(耐久力)で、ラスト・ダンジョンに挑ませるなんて、アキちゃんはそんなにイースタを殺したいの?」
晶華「殺したくはないので、何とか黒いヒスイを見つけて、最終進化を遂げてください」
イースタ「進化することで、耐久力が回復するシステムなのね。どっちにせよ、ドラゴンに進化できなければ、真のハッピーエンドを迎えられないわけだし。ストームシャドウとやり合う前に、黒いヒスイを探すわ。確か、情報を聞いていたはず」
晶華「サティンから聞いた情報ね。パラグラフ383番を参照」
イースタ「左3回、右2回、左1回。次に右1回、左2回、右3回。最後に左へ曲がれば、宝物庫ね。メモがなければ絶対に覚えていられない情報だけど」
晶華「では、ダンジョン探索のルールを説明します。まず、紙に202という数字を書いてください」
イースタ「202。書きました」
晶華「右に曲がるときは4倍。左に曲がるときは1を引いてから3で割ってください」
イースタ「??? ……そんな難しい計算が、わたしにできるわけないじゃない(涙目)」
晶華「あちゃあ、お姉ちゃんには難題だったかあ」
イースタ「どうやら、作者の人はわたしのように計算が苦手な花粉症ガールへの愛がないようね?」
晶華「まあ、この本を書いたときは、花粉症ガールのことなんて知るはずがないよね。花粉症ガールが誕生して、まだ5年なんだし」
イースタ「とにかく、計算ができないわたしのために、答えを教えてちょうだい」
晶華「ええ? どうしようかなあ?」
NOVA「やれやれ。ここは俺が手伝ってやるか」
イースタ「あ、NOVAちゃん。お帰りなさい♪」
晶華「また、スパロボ話で邪魔しに来たの?」
NOVA「いや、スパロボDDに夢中になりそうなのは、来週になってからだ。それまでにモン逆を終わらせるよう、全力全開で応援しに来たんだ」
ダンジョン攻略のための計算タイム
NOVA「では、翔花の苦手な計算は俺が代わりにするってことで、問題ないな」
晶華「まあ、答えを教えるよりも、計算過程をお姉ちゃんに助言するってことなら、許してあげても良くってよ」
NOVA「では、左に3回曲がるというのは、202−1で201にしてから、3で割って67。それをあと2回繰り返して、22から7まで来た。まず、そこまではいいな」
イースタ「パラグラフ7番ね。ええと、盗賊ランブルに背中から奇襲攻撃されてしまったわ」
NOVA「いきなり、時間を巻き戻すなよ。ZEDの魔法じゃないんだから」
イースタ「ZEDの魔法って?」
NOVA「年末には、旬の話題になるはず。それより、左3回の次に、右2回だ。7×4は何だ? 翔花、答えてみろ」
イースタ「それなら何とか。シチシ28よ」
NOVA「おお、小学生が苦戦する7の段をよく覚えていたな。じゃあ、28×4は?」
イースタ「28の段は覚えていないからダメ」
NOVA「ええい、小学校3年生に2ケタ×1ケタを教えるようなものか。20×4は?」
イースタ「ニシガ8に0を付けて80ね」
NOVA「よし、8×4は?」
イースタ「ハッシ32」
NOVA「80+32は?」
イースタ「う〜んと、くり上がりに気を付けて……112?」
NOVA「で、左に1回曲がると、111÷3で37だな」
こんな調子で、あとは右1回(148)、左2回(49→16)、右3回(64→256→1024)、最後に左1回でパラグラフ341に行き着いた。
晶華「イースタは、ええと、サティンのお父さん、クリガーとエアリアルが融合合体したキャリバーンに導かれて、宝物庫に辿り着きました。そんなわけで、NOVAちゃんはキャリバーンの役をやってちょうだいね」
NOVA「キャリバーンの役って何だよ?」
晶華「前回のプレイで、そんなキャラが突然、生まれたのよ。大丈夫、Shinyで元WhiteだったNOVAちゃんだったら、白いMSキャリバーンだって演じることができるはず」
NOVA→キャリバーン「言っていることの意味が分からんが、まあいい。俺が竜王クリガーの転生したキャリバーンを演じて、イースタを支援すればいいんだな。何とかしてみせる」
イースタ「お願いね、NOVAちゃん。いいえ、キャリバーン」
キャリバーン「とにかく宝物庫についた。黒いヒスイをゲットだぜ」
晶華「では、最終進化の時です」
ドラゴンへの最終進化
ポンポコポン。
イースタの首は長く伸び、顔も爬虫類のようになった。彼女はいまやドラゴンの中では最も美しい黄金の竜、ゴールド・ドラゴンになったのだ。
●ゴールド・ドラゴン:殺傷力11、防御力12、耐久力50
(特殊能力:電撃。通常の攻撃の代わりに、口から電撃を放射することができる。1Dで3〜6の出目なら、そのときの耐久力に等しいダメージを与えることができる。出目が1か2ならダメージ半減(端数切り捨て)。1日3回だけ使用できる)
イースタ「気分はゴルドバーンね」
キャリバーン「金竜はクラシックD&D数あるドラゴンの中でも、一般に最強の善竜とされる。D&Dでは基本、色名のドラゴン(クロマティック種)と金属竜(メタル種)に分かれ、色は強い順に赤青緑黒白の5種類。金属竜は強い順に金・銀・青銅・赤銅・真鍮の5種類だ。他にジェム・ドラゴンというのがいるが、5版では最近ようやく実装された」
イースタ「なるほど。さすがは元竜王のクリガーさんね。ドラゴンのことはいろいろ詳しいようで、と聞き入っています」
キャリバーン「うむ。お前もドラゴンとなったからには、竜族の生き方を身に付けねばならんからな……とロールプレイしつつ、本作では金赤青緑黒白の他に、5本の首を持つ最強竜のスペクトラル・ドラゴンまで用意されている。ゴールド以外の進化のパターンは以下のとおりだ」
●ヒドラ→スペクトラル・ドラゴン(5つの首ごとに別能力。後述)
●キマイラ→レッド・ドラゴン(殺傷力10、防御力11、耐久力45)
●トリトン→ブルー・ドラゴン(殺傷力9、防御力11、耐久力41)
●ナイトメア→グリーン・ドラゴン(殺傷力9、防御力10、耐久力36)
●ワイバーン→ブラック・ドラゴン(殺傷力8、防御力8、耐久力32)
●フロスト・サラマンダー→ホワイト・ドラゴン(殺傷力7、防御力9、耐久力27)
キャリバーン「一口にドラゴンと言っても、その能力はピンキリだ。最弱の白竜は、変身元の氷トカゲ(殺傷力8、防御力9、耐久力54)より明らかに弱くなってるし、まあ、それでもドラゴンブレスの特殊能力は強力なんだがな。色ごとに火炎・電撃・毒ガス・酸・冷気と属性は異なるが、その性能は同じで自分の耐久力もしくは、その半分のダメージを与える」
イースタ「スペクトラル・ドラゴンさんは、5種類のブレス全てで攻撃できるのね」
キャリバーン「ああ。その性能は以下のとおり」
★スペクトラル・ドラゴン
・赤い首(殺傷力10、防御力11、耐久力30。火炎)
・青い首(殺傷力9、防御力11、耐久力27。電撃)
・緑の首(殺傷力8、防御力10、耐久力24。毒ガス)
・黒い首(殺傷力7、防御力10、耐久力21。酸)
・白い首(殺傷力6、防御力9、耐久力18。冷気)
晶華「スペクトラル・ドラゴンの耐久力合計は120。最強竜の名にふさわしい恐るべき強さね」
イースタ「表紙にも載ってるほどだもんね。でも、首が5つもあると、ゲームとしては管理が大変だし、ロールプレイも難しそう」
キャリバーン「1人5役か。指人形で、各指ごとにキャラを割り振る感じだな。親指がお父さんで、薬指がお姉さんとか。赤い首が好戦的で、青い首がクール、緑が温厚で、黒が狡猾、白が妹キャラってところかな」
晶華「温厚な緑が毒ガス使いってのはおかしくない?」
キャリバーン「きっと、緑としては『殺戮は性に合わないので、眠らせるだけにします。くらえ、睡眠ガス!』と言いつつ、ドジっ子なので、自分が睡眠ガスと思い込んでいるのが、恐怖の殺戮ガスだと気づいていない。『皆さん、よくお眠りのようで。これで平和になりました♪』とニコニコ笑いながら、死をバラまいている」
イースタ「そんなロールプレイはイヤなので、わたしは普通に金竜でいいです」
キャリバーン「普通と言っても、最強格だけどな。スペクトラルが規格外なだけで。なお、他の種類の進化は以下のとおり(既出は省略)」
●イフリート→デーモン(殺傷力10、防御力12、耐久力99)
特殊能力:地獄の炎。通常攻撃の代わりに、相手に火の玉をぶつける。ダメージは2D×2点(4〜24点)。1日3回使用可。
●ロック→フェニックス(殺傷力10、防御力9、耐久力50)
特殊能力1:高熱放射。戦っているあいだ、相手は激しい高熱によって毎ラウンド4点ずつ、自動的に耐久力が減ってゆく。
特殊能力2:再生。戦闘の途中で、耐久力がゼロになっても、一度だけ生き返ることができる。耐久力を50に戻していい。
イースタ「とにかく、最強格の黄金竜の力を手に入れたイースタは、いよいよ宿敵との決着に気力十分で乗り込むつもりです」
さらなる迷宮探索
晶華「ゲームの都合上、一度、入り口の202に戻ることになります。そこから、また計算によって向かうべきパラグラフ番号を見つけることになりますが」
イースタ「そういうややこしいことは、NOVAちゃん、いいえ、守護霊のキャリバーンさんに任せた」
キャリバーン「お前なあ。まあ、導いてやるけどな。なお、何のヒントもなしに進むなら、1Dでランダムに進むことになるが、その内訳は以下のとおりだ」
・1〜2:巨大毒グモと遭遇してバトル。
・3〜4:グレムリンと遭遇。「本物のストームシャドウは、左3回、右3回にいるというヒントをくれる」
・5〜6:サーベルタイガーと遭遇してバトル。
イースタ「本物のストームシャドウ? どういうことかしら。その左3回、右3回って当てになるの?」
キャリバーン「計算すると448になって、重要な秘密が明らかになるんだが、それはさておき、グレムリンとの遭遇はランダムだから、確実性を期すために、他のヒントを使おう」
イースタ「他のヒントって……ちょっと待って。メモをとってあるから」
●フリントからの情報:左→右→あと2回。
●ストームシャドウからの情報:左と右に2回ずつ曲がる。
イースタ「このヒントに従うなら、左→右→左→右か、左→右→右→左の2択なんだけど、計算はキャリバーンさんに任せた」
キャリバーン「左で67、右で4倍して268までは共通として、そこから左→右だと89からの4倍で356番。右→左だと1072から1引いて3で割っての357番なんだが、お勧めは前者だな。後者だと、いきなりバトルになって、真相は分からず仕舞いだ」
イースタ「では、守護霊の導きに従い、356番に進みます」
晶華「すると、陰気な雰囲気の部屋に行き着き、祭壇のような玉座に豪華な黒塗りの棺が安置されているのが分かります」
イースタ「棺? 誰が眠っているのかしら?」
晶華「イースタが好奇心で近づこうとすると、部屋の隅の暗闇から真っ白な美しいドラゴンが姿を現します」
白竜『およしなさい! その棺の中には魔法使いが眠っています。彼の体を傷つけようとするなら……あなたと戦わなくてはなりません。お願いです。おとなしく部屋から立ち去ってください! 私は誰も傷つけたくないのです』
イースタ「ええと、サティンのお母さん……よね?」
キャリバーン「間違いない、我が妻だ。どうやら魔法使いの魔法で呪縛されているようだな」
イースタ「ええと、確かサティンからの情報で、パラグラフ・ジャンプできるのよね。+80して、436番に向かいます」
晶華「すると、サティンの話を聞いた白竜母さん、その名もシルバーミラージュさんは、いろいろと語ってくれます」
キャリバーン「おお、愛するシルバーミラージュ、愛称はシルミラよ。我もここにいるぞ」
晶華「残念ながら、守護霊の姿はシルミラさんには見ることもできませんし、声を聞くこともできません。会話をしたければ、イースタを通じて、間接的にしかコミュニケーションできないってことで」
キャリバーン「ううっ、霊体でなく、物理的な肉体が欲しいものよ」
白銀竜シルミラの話
晶華「シルバーミラージュ、略してシルミラさんは、『魔法使いに反抗できない理由』『ストームシャドウの秘密』『魔法使いの居場所』について教えてくれます」
イースタ「順番に聞いてみるわ。魔法使いには、確か服従の魔法をかけられてしまったのよね」
シルミラ『ええ。娘を助けてくれた恩人のあなたに協力したいのはやまやまですが、私は魔法使いの命令に逆らえません。魔法使いは私にこう言いました。「わしを傷つけてはならぬ。わしの肉体や魂を傷つけようとする者から、わしを守れ」とのこと。そのせいで、私はあ奴が憎くてたまらないのに、かすり傷一つつけることができず、こうして用心棒まがいのことをさせられているのです。何て屈辱的な!』
キャリバーン「まるで妻を寝取られているような気分だな」
晶華「魔法使いを倒せばいいの。ただし、シルミラさんは棺の中の魔法使いの肉体を守るけど」
イースタ「棺の中の肉体って、どういうこと?」
晶華「棺の中には、黒ローブの貧相な男が眠っています。同じ黒ローブでも、あなたが出会ったストームシャドウのような威厳はこれっぽちもありません。『これがあの魔法使いの正体です』とシルミラさんは説明します。『今、この男の魂は別の肉体に入っており、この肉体は空っぽです』」
イースタ「ええと、ストームシャドウと、もう1人、違う魔法使いがいるってこと? この肉体がストームシャドウの本体で、わたしが会ったのは体を乗っ取られた別人ってこと?」
シルミラ『少し違います。そもそも、ストームシャドウは敵ではないのです!』
イースタ「ええ? 訳が分からないよ。ストームシャドウが一族の仇だと思っていたのに、実は勘違いしていたってこと? ぶっちゃけ、ありえない」
シルミラ『いろいろと複雑な経緯がございますので、混乱するのも無理はありません。私も最初はストームシャドウが裏切ったのだと思いましたが、そうではなかった。ストームシャドウは弟子の魔法使いに裏切られて、肉体を乗っ取られてしまったのです。私たちをこんな目にあわせた男は、ストームシャドウではなく、彼に成りすました偽者ということです』
イースタ「だったら、ずっと昔、わたしの一族を虐殺したのも偽者ってこと?」
シルミラ『あなたの一族のことは分かりませんが、私の知るストームシャドウは悪人ではありませんでした。確かに、昔は多くのモンスターを虐殺したことがあるそうですが、すっかり反省して、私たちモンスターの役に立とうとしていたのです。我が夫クリガーは彼を理解し、その研究を援助していました。しかし、彼の弟子が邪悪な人間だったのです。師匠の意志など理解せず、研究を悪用して世界征服をもくろむ程に』
キャリバーン「そうか。我らを裏切ったストームシャドウは、ストームシャドウにあらず、か。盛大に勘違いしていたようだ」
イースタ「その発言は、NOVAちゃん……じゃなくて、元クリガーさんのキャリバーンさんのロールプレイってことよね」
キャリバーン「まあ、NOVA自身は、昔、本作を解いているからな。今さら、驚く話でもないが、昔はビックリしたものだ。ウォーロック連載時と話が変わっているってな」
イースタ「ええと、連載時はもっと単純な話ってこと?」
キャリバーン「そう。悪人のストームシャドウを倒して、サティンと結ばれて、分かりやすいハッピーエンドなんだが、単行本収録に際しての加筆で、ストームシャドウの背景がよりドラマチックになってな。人間とモンスターの和解の可能性が示唆されたんだ。不倶戴天の異種族が和解に至る理想的なエンドを、若い日の山本さんは描いていたんだな。現実ではそれが難しくても、物語の世界では綺麗事が通るファンタジーであってもいいというのが、作者の根底にはあって、そこに深く共感できたりもしたんだな」
イースタ「わたしとしては、ストームシャドウを許さないといけないのかしら? これまでずっと、物語の中では一族の仇として狙っていたのに?」
晶華「本物のストームシャドウと話をしたければ、左3、右3に進めばいい、とシルミラさんが教えてくれます」
キャリバーン「さっきの448番だな」
晶華「あと、ストームシャドウの体を乗っ取った偽者に出会ったら、パラグラフ番号に+50すれば、正体を暴くことができます」
イースタ「本当に仕掛けが多いのね、この章」
キャリバーン「ゲーム職人として、若き日の山本さんは非常に才気煥発だったからな。エンタメ作家としても、ずいぶんと憧れたものだ」
イースタ「作者の仕掛けを解くのは、キャリバーンさんに任せて、わたしは純粋に物語を楽しむわ。とりあえず、本物のストームシャドウさんに会いに行って(448)、それから悪人の偽者と決着をつければいいわけね」
晶華「偽者は、迷宮の入り口から左1、右2、左1に進んだ先の玉座の間にいます」
イースタ「分かっているわ。さっき、NOVAちゃんが計算したから」
キャリバーン「つまり……」
イースタ「決戦のパラグラフは357番ね」
真のストームシャドウの運命(448)
晶華「シルミラさんの情報に従い、イースタが足を踏み入れたのはファンタジーでは珍しい機械仕掛けの場所でした。ガラスケースや金属製タンク、火山の地熱を利用した蒸気ポンプと、そこから伸びる何十本もの太いパイプ。いかにも魔動科学の実験室って感じです」
キャリバーン「80年代のファンタジーでは、少し珍しい描写だな。ファンタジーにスチームパンクを組み合わせたハイブリッドなノリは、90年代にいろいろと定着するが、それまではSFの範疇だった」
晶華「そして、金属製タンクの上に突き出したドラゴンの首が話しかけてきます」
イースタ「ドラゴンの首? タンクと一体化してるってこと?」
晶華「そのドラゴンの首が、現在のシン・ストームシャドウさんなんです」
シンSS『よく来たな、モンスターよ』
イースタ「そう言うあなただって、モンスターじゃない」
シンSS『なるほど、確かに、さよう相違ない。ともあれ、説明しよう。わしが本物のストームシャドウ。そなたが仇と狙う人間だ』
イースタ「罪を認めるってこと?」
シンSS『若き日の過ちと言えような。多くの悪事を重ねたものだ。お前の一族に限らず、多くのモンスターを殺し、宝物を略奪してきた。それらの所業を悔やみ、モンスターへの罪滅ぼしがしたい。そう考えたわしに、竜王クリガーが共鳴してくれ、この施設を作るのに協力してくれたのだ』
イースタ「この施設は……何?」
シンSS『魔法の生体工学研究所と言えばいいのか。専門用語で言うなら、クローンの培養施設。分かりやすく言えば、トカゲの尻尾が切れてもまた生えてくるように、どんな生き物の組織でも再生できるようにするのが目的だ。だが、まだまだ未完成。生命の本質を解明するには至っていないので、本物の生命を創造することはできない。まがい物を造れるというに過ぎん。培養液の中でしか、生命維持ができないのだ』
イースタ「生命の創造……それって禁断の領域よ。よく知らないけど」
シンSS『創造までは至らずとも、傷ついた肉体の治癒ぐらいなら十分可能だ。さらに、わしは肉体の変身や、精神の交換についても研究した。人からモンスターへ、モンスターから人へ、自由に変身したり、精神を交換して相互の理解を深めれば、もはや姿形が違うというだけで異種族がいがみ合うこともなくなるだろう、と思ったのだ』
イースタ「人をモンスターにできるの?」
シンSS『だが、わしは見落としていた。多くの英雄物語にあるように、人が善、モンスターが悪とは単純に言えぬし、モンスターと化したのが悪人であれば、モンスターの世界の秩序さえ破壊してしまうやもしれぬ。したがって、この研究が迂闊に外に漏れぬよう、密かに人里離れた場所で続ける必要があったのだ。
『しかし、弟子のザルタンがわしを裏切った。奴はわしの魂をこのドラゴンの首に閉じこめ、我が肉体を奪い、わしになりすまして竜王クリガーを暗殺したのだ。わしの努力は何もかも水の泡と化してしまった……』
キャリバーン「ならば、お主も我と融合して、シン・キャリバーンにならないか? ストームシャドウよ」
シンSS『ん? 何やらおかしな声が聞こえたようだが?』
キャリバーン「俺だよ、俺。お前に協力した元クリガーだ。データストームのその先の世界で待っている」
イースタ「NOVAちゃん、勝手に話を進めないで。モン逆の世界に、データストームなんてないんだから」
キャリバーン「だって、エアリアルとか、キャリバーンとか言っていて、しかもストームシャドウって名前だぞ。データストームって言葉があっても不思議じゃないだろうが」
晶華「データストームがどうこうはともかく、竜首モードのストームシャドウは、こう言います』
シンSS『モンスターよ、わしは命乞いはせぬ。犯した罪のために仇と狙われ、そなたの手に掛かるのも悪業ゆえの運命と受け入れよう。それで、そなたの心が晴れるならばな。だが、わしの名を騙って暴虐を重ねるザルタンを放置はできぬ。できれば、わしに代わって、あ奴を倒してくれないか?』
イースタ「元より、そのつもりよ。ザルタンは倒す。しかし、あなたはどうしたらいいのかしら?」
シンSS『悩むことはない。そこのパイプを壊してくれ』
イースタ「壊して、どうなるの? まさか自害の手伝いをさせるつもり?」
シンSS『必要なことなのだ。ザルタンの奴は、わしの肉体を奪う際、このドラゴンの首を経由してから魂を移し替えた。もしも、ザルタンの宿ったわしの肉体を破壊しても、死ぬのはわしだけで、ザルタンの魂はドラゴンの首を経由して、自分の肉体に戻るだけだ。それをさせぬためには、中継の器たるこの身を破壊するのが最善の策というものだ。
『お前さんは仇のわしを殺しに来たのだろう。それでいい。わしは罪滅ぼしがしたい。お前さんがザルタンを倒してくれると約束するならば、わしはこの命を喜んで捧げようではないか。さあ、本懐を遂げるといい』
イースタ「アキちゃん、このストームシャドウさんを助ける方法はないの?」
晶華「ゲームブック上ではありません」
イースタ「どうしよう? 元は悪人でも反省した相手を殺すなんて、わたしにはできないよ」
キャリバーン「だったら、我が代わりにその役割を引き受けよう。イースタの体が赤色に淡く輝いて、竜王クリガーの意思がイースタの肉体を動かす。そして、ドラゴンの首の培養タンクにつながるパイプを一撃粉砕してみせよう」
晶華「粉砕されました。生命活動を維持する培養液の循環が停止したため、ドラゴンの首は苦しみ始めます。苦しい息の下から、ストームシャドウはイースタに語りかけます」
シンSS『哀しむことはないぞ、優しいモンスターよ。わしは死ぬ……しかし、そなたに希望はつながった。できるなら、我が研究を受け継ぎ、完成させて欲しい。多くの苦しんでいるモンスターを救うために……ぐふっ』
晶華「こうして、イースタが仇として狙った4人の冒険者は、全て倒されました」
イースタ「だけど、わたしの物語はまだ終わらない。改心したストームシャドウの想いを無駄にしないためにも、邪悪なザルタンは倒してみせる!」
(当記事 完。次回にて完結予定)