第三章に突入
晶華「タヌキ(ゴブリン)→人間→狼人間への進化コースをたどったモンスター少女のイースタ。盗賊ランブルと僧侶グレンを倒し、次は戦士ブリンケンを倒すための旅を継続中です」
翔花→イースタ「訂正。少女じゃなくて、大人の女性ということで。タヌキの寿命は野生で6〜8年程度みたいなので、2年も経てば、十分成熟していると思うんですよ。パートナーはいないけど、子育て経験もしたし」
晶華「では、魔物女、略して魔女イースタと呼称しましょう。通称、月光の魔女って人間世界では噂されている。ボルダー村の宿屋の主人と、タントラムの町の司教を殺害し、同町がゴーストタウンになるきっかけを作った恐ろしい化け物として、各地で指名手配されているってことで」
イースタ「ちょっと待ってよ。指名手配なんて、どうしてよ?」
晶華「考えられる理由は、ボルダー村のランブルの仲間の戦士が逃げたからね。イースタの顔を見てるし、狼人間に変身した姿が目撃されている。その話を知ったラスボスの魔法使いストームシャドウが暗躍して、イースタの似顔絵と風評を各地にばらまいたの。ストームシャドウの暗躍の件はイースタには分からないけど、賞金稼ぎの連中が何人か、イースタの前に現れて、返り討ちにあったりしている」
イースタ「顔の知られた仕置人だから、人相書きが出回っているってことね。こうなったら、早く黒いヒスイを見つけて、違う姿にならないと」
晶華「今、イースタは血の色をしたクリムゾン山脈を抜け、名高い港湾都市ドレッドノックに通じる街道を歩いています。ドレッドノックの街外れの丘にあるデルガド男爵の城に、仇の戦士ブリンケンが滞在しているという情報を聞きつけたからですが、前方から騎馬の一団がやって来ますね。『いたぞ。あれが噂の月光の魔女だ』と先頭の騎士が叫び声をあげるのが聞こえました」
イースタ「ううっ。正体がバレているなら仕方ない。狼に変身して迎え撃ちます」
晶華「残念ながら、今は昼間なので変身できません」
イースタ「何で、わたしは自分が不利な昼間にのこのこ出歩いているのよ? 変身できないなら、ただの人間のわたしにライダー(騎士)を倒せるはずがないじゃない。何とか逃げられないかしら?」
晶華「ここで、モンスターの種族による選択肢がいくつか分かれます。飛行能力を持ったガーゴイルかコカトリスなら、空を飛んで逃げることができます。足の速いケンタウロスなら、普通に走って逃げることも可能。それ以外の種族だと、道を走って逃げることはできませんが、幸い、ここは山を切り開いて作られた一本道で、両側が切り立った崖状の登り斜面になっています。何とか斜面を登ることができたら、馬で追いかけては来れないでしょう」
イースタ「だったら崖をよじ登ります」
晶華「1Dを振って下さい。3〜6で成功です」
イースタ「6」
晶華「それなら、野生で育ったイースタは険しい崖も器用に手足を使って登ることができました。これは器用な手足を持たない大トカゲや大蛇には不可能なことなので、この2種族は騎馬部隊から逃げることができず、次々とキリなく押し寄せる敵と戦い続け、ここで脱落となります。パラグラフ250番の進化で、この2種がハブられているのはバグではなくて、ここで脱落確定だからでしょうね。前回の記事では気づかなかったけど」
イースタ「とにかく、ここまで生き延びられる種族は、狼人間、ミノタウロス、ガーゴイル、ケンタウロス、コカトリス、メデューサの6種類ってことね。大トカゲと大蛇は二章をクリアできるけど、三章の最初のイベントで詰む、と」
晶華「なお、狼人間、ミノタウロスが崖に登るのに失敗すると、騎士や軍馬との戦いになります」
●騎士:殺傷力3、防御力10、耐久力13
●軍馬:殺傷力3、防御力8、耐久力13
晶華「戦って撃退した後で、また崖を登る判定をできるけど、とにかく逃げ出すまで騎士と軍馬が次々と襲い掛かるのよね」
イースタ「勝てないの?」
晶華「ここで唯一勝てるのはメデューサのみ。石化の視線に対して、騎士の方から『こいつは危険だ。鏡を持って出直すんだ』と言って、部隊ごと撤退します」
イースタ「とにかく、昼間のわたしは無力だから、夜になるまで安全なところに隠れるしかないわね」
晶華「崖の上には幸い、森が広がっています。そこなら騎馬突撃も行えないので、イースタは森を通り抜けることにしました」
ドライアドと、魔女と、謎の魔法使い
イースタ「森の中だと落ち着くわね」
晶華「タヌキだったイースタは、森の中の地下迷宮(巣穴)を懐かしく思い出します。やがて夜になり、月明かりが照らす中、前方をちらちらと白い人影が動くのが見えました」
イースタ「警戒して、狼に変身します」
晶華「キャッと可愛らしい悲鳴を上げて、薄衣を着た若い少女は逃げ出します。その軽やかな動きから、樹木の精霊ドライアドだと察しました」
イースタ「それって、お仲間じゃない?」
晶華「花粉症ガールのね。タヌキや狼の仲間じゃない」
イースタ「とにかく、驚かせたのは悪かった。話をしたいので追いかけます」
晶華「ドライアドのイラスト(パラグラフ272番)は可愛くて、お気に入りなので貼り付けちゃいます」
イースタ「自分がドライアドに変身することはできないのね」
晶華「残念ながらね。とにかく、ドライアドの後を追っても見失うのですが、古い神殿跡らしい崩れた石造りの建物を発見します。ここで廃墟に近づくか、それともドライアドのことを諦めて引き返すかの選択肢が出ますが?」
イースタ「ドライアドは廃墟に逃げ込んだのかしら? よく分からないけど、廃墟にふらふら近づいていきます」
晶華「廃墟に近づくと、近くの木が3本動き出しますね。2階建ての家ぐらいの高さで、枝をざわめかせ、太く頑丈な根をタコの脚のように使って、じわじわと巨体を這い進ませて来ます」
イースタ「これは……エントって奴ね」
晶華「その名前はトールキン財団の著作権に抵触して、商業作品で使えないのでD&Dではトレントになってます。ただ、80年代のD&D(TSR社)も著作権には厳しく、本作では樹人ツリーマンという表記になってます。ツリーマンは邪悪なモンスターを警戒するので、あなたがガーゴイル、メデューサ、ヘルハウンド、サラマンダー、ハーピイ、ミノタウロスのいずれかなら……」
イースタ「え? ヘルハウンドとか、サラマンダーやらハーピイなんて知らないんですけど? どうやら、黒いヒスイを取り逃したようね」
晶華「そうね。このまま狼人間で話を進めても、攻略不能になるわ」
イースタ「時間を巻き戻していい?」
晶華「特別に許可します」
イースタ「とりあえず、廃墟に近づかないで他を探すことにする」
晶華「すると、背後から声を掛けられます。『お前さん、探しものをしているのかね』と」
イースタ「誰?」
晶華「驚いて振り向くと、樹木の影の中から黒いローブを羽織った人間が進み出て来ました。頭からすっぽりフードをかぶっているので顔は見えませんが、声の調子からすると老人らしいですね」
謎の老人『お前さんが噂に聞いた月光の魔女。かつてはタヌキじゃったらしいが、今は狼人間として各地を荒らし回っているそうじゃな』
イースタ「そこまで知っているとは、よほどの命知らずのようね。死んでもらうわ」
謎の老人『いやいや、そう何も慌てるでない。お前さんが月光の魔女なら、このわしは宵闇の魔法使い。全ての謎を解きたい好奇心に満ちた老人じゃよ。お前さんの力になってやりたいんじゃが、その物騒な爪と牙を収めて、話を聞く気はないかね』
イースタ「話がしたいなら、さっさとなさい。ドライアドの行方を知ってるの?」
魔法使い『ドライアドなんかはどうでもいい。それよりも、お前さんが探しているのは黒いヒスイじゃろう? 差し上げようと思うのじゃが?』
イースタ「どこでそれを?」
魔法使い『ちょっとした縁でな。話をすると長くなる。そんなことよりも、黒いヒスイが欲しくはないか?』
イースタ「……欲しいけど、話が美味すぎる」
魔法使い『ならば、謎解き好きの爺を楽しませるために、お前さんになぞなぞを一つ出してやろう。その数字のパラグラフに行けば、ほうびに黒いヒスイをやるということで』
イースタ「どんな謎? 分数とか小数とか難しいのは、お断りよ」
晶華「う〜ん、お姉ちゃんにこの謎は解けるかなあ。原作では、詩の形をとっているんだけど、要点だけをまとめるね」
バジリスクには脚が8本あります。
コカトリスには脚が2本あります。
この二頭が花嫁花婿として結婚することになりました。
二頭は結婚式に親戚を集めて披露宴を行いました。参加者は花嫁花婿を入れて、全部で62頭です。
新婦の親戚の頭の数は、新郎側のちょうど倍。
新郎の親戚の脚の数は、新婦側のちょうど倍。
さて、脚の数は全部で何本?
イースタ「ええと、バジリスクの方が脚が多いので、新郎側ね。だからコカトリスが新婦側。そこまではいい。新郎側の親戚をXと置いて、新婦側の親戚をYと置いて、方程式を作ってXとYを求める。ここまでは分かった」
晶華「すごい、お姉ちゃん。連立方程式が分かるなんて」
イースタ「そこまでは数字が出て来ないからね。問題は8と2とXとYをどう組み合わせたらいいのか、なの。連立方程式って言葉は分かるけど、肝心の式が作れなくて、計算ができない。だから、途中をショートカットして、パラグラフ250番に行くわ」
晶華「何で、いきなり正解を当てられるのよ」
イースタ「だって、さっき、アキちゃんが言ってたじゃない? 『パラグラフ250番の進化』って」
晶華「ああ、そういうことか。計算じゃなくて、相手の発言からの推理ってことね。知識はないけど、知恵はあるってのはそういうことか。ええと、連立方程式にするなら、こんな式になるわね」
●X+Y+2=62
●2X=Y
晶花「これを解くと、Xのバジリスクが20頭、Yのコカトリスが40頭になる。後はバジリスクの脚が8×20で160本になって、コカトリスの脚が2×40で80本、足して240本になるんだけど、それに新郎新婦の脚の合計10を足して、250が正解、と」
イースタ「????? 訳が分からん。このドンブラ脳をもってしても理解不能よ」
晶華「『やはり、モンスターは脳の容量が小さいようじゃ』と老人はバカにしたような口ぶりで言います」
イースタ「だって、脳人じゃないもの」
晶華「とにかく、老人はイースタに約束どおり、黒いヒスイを放り投げます。『さあ、これで変身するがいい』と、かろうじて見える口元が笑みを浮かべます」
新たな変身
イースタ「狼人間からの進化は、NOVAちゃんが鉛筆で記載してくれているのね。ヘルハウンドかジャイアント。これがなければクリア不能だったわ」
晶華「中古本で買った稀有なプレイヤーさんは、狼人間から進むときは、ヘルハウンドかジャイアントへ進むようにね」
イースタ「中古本が8000円もするのかあ」
晶華「80年代の文庫ゲームブックは、それぐらいが相場らしいわね。で、ヘルハウンドとジャイアントのどちらを選ぶ?」
イースタ「能力はどうなってるの?」
●ヘルハウンド:殺傷力4、防御力9、耐久力18
(特殊能力:地獄の炎。3ラウンドに1回、ふつうの攻撃の代わりに、口から炎を吐くことができる。ダメージは2D点)
●ジャイアント:殺傷力8、防御力9、耐久力40
イースタ「狼寄りの進化がヘルハウンドで、人間寄りの進化がジャイアントかあ。能力面では明らかにジャイアントの方が強いけど、物語の流れからはヘルハウンドって感じなのよね」
晶華「じゃあ、ヘルハウンドにする? 攻略不可に陥るけど?」
イースタ「そんなことを言われたら、ジャイアントの一択しかないじゃない?」
晶華「進撃の女巨人ってことよね」
ポンポコポン。
イースタの体はぐんぐん巨大化してゆく。顔形や体つきは人間にそっくりだが、身長は倍以上、体重は10倍以上あるだろう。巨大なこぶしの一撃で、たいていの人間はペシャンコになってしまうはずだ。イースタは強力(ビッグボディ)を誇る、凶暴なジャイアントになったのだ!
晶華「ええと、女巨人の服はどう表現したらいいのかな、と思いますが、物理法則は無視して、服も一緒に巨大化するのが無難だということで」
イースタ「あっ、その辺はエアリアルの魂の力でMS少女みたいなアーマーパーツが装着されたって演出で」
晶華「だったら、エリアルね。飛行ユニットは装備してないけど」
イースタ「これもいいなあ」
晶華「なお、本作は黒いヒスイを使ったモンスター進化の説明文が、想像力をかき立ててくれるのよね。念のため、ヘルハウンドに進化していたら、こんな文章になってました」
ポンポコポン。
イースタは全身に熱い血がたぎってくるのを感じた。四つん這いになって牙をむきだし、口から地獄の炎を吹き出して、森中の木々が震えるようなすさまじい声で吠える。イースタは闇のように真っ黒な毛皮に包まれた地獄の番犬ヘルハウンドになったのだ!
イースタ「巨人よりも、地獄の番犬の方がお気に入りなんだけど、攻略不可能だったら仕方ないよね。でも、どうして攻略できないの?」
晶華「空が飛べないからよ」
イースタ「巨人だって飛べないわ」
晶華「巨人はゴーレムを倒すことで、次の進化の機会が得られる。だけど、ヘルハウンドの力ではゴーレムを倒せず、進化しないまま船に乗って海に出たブリンケンの後を追って、水に飛び込んで溺れ死ぬの。空が飛べないか、泳げないモンスターは淘汰されてしまう。もちろん、狼人間のままでもアウトね」
イースタ「飛行能力かあ。やっぱり、飛べるエアリアルになることが必要なのね」
晶華「なお、他の種族の進化は次の通りよ」
★ガーゴイルからの進化→ハーピイ、ヘルハウンド
★コカトリスからの進化→ヒポグリフ、バジリスク、サラマンダー、フロスト・サラマンダー
●ハーピイ:殺傷力3、防御力8、耐久力14
(特殊能力:歌声による魅了。戦闘前に歌を歌い、1Dを振る。3〜6なら相手は魅了されて戦闘は終了する)
●ゴルゴン:殺傷力7、防御力10、耐久力36
(特殊能力:有毒の蒸気。ふつうの攻撃の代わりに、石化作用のある蒸気を鼻から噴射することができる。1Dを振って、3〜6なら相手は石になって死ぬ)
●ユニコーン:殺傷力5、防御力10、耐久力22
(特殊能力:角による突進攻撃。攻撃が命中すると、通常の2倍のダメージを与えることができる。ただし、森の中では助走距離が短いので使えない)
●ヒポグリフ:殺傷力5、防御力9、耐久力16
●ヒドラ:殺傷力5、防御力9、耐久力24
(特殊能力:1ラウンドに5回攻撃。ただし耐久力を8点失うと、首が一つ死んで4回攻撃に減少。16点失うと、さらに一つ死んで3回攻撃になる。失った首は耐久力が回復すると、また生えてくる)
●バジリスク:殺傷力6、防御力9、耐久力28
(特殊能力:視線による石化。戦闘の開始時にに1Dを振り、3〜6の目が出れば、相手は即座に石になって死ぬ。1か2なら通常の戦闘を続けるが、相手は目をそらしながら戦わないといけないので、相手の殺傷力を2点減らす)
●サラマンダー:殺傷力5、防御力10、耐久力36
(特殊能力:高熱放射。戦っているあいだ、相手は激しい高熱によって毎ラウンド4点ずつ、自動的に耐久力が減ってゆく)
●フロスト・サラマンダー:殺傷力8、防御力9、耐久力54
(特殊能力:冷気放射。戦っているあいだ、相手は凄まじい冷気によって毎ラウンド4点ずつ、自動的に耐久力が減ってゆく)
イースタ「この段階での最強モンスターは、フロスト・サラマンダーになるのかしら」
晶華「能力的にはね。でも、ヒドラの5回攻撃も強力だし、石化能力も結構強力。ただし、石化能力はゴーレム相手には通じないし、船のブリンケンを追うことができないから脱落する。この中で脱落確定なのは、ヘルハウンドの他に、ゴルゴン、ユニコーン、バジリスク、サラマンダーの4体なので、選ばないことを勧めるわ」
イースタ「一番弱そうなハーピイさんは生き残れるの?」
晶華「上手く進化できればね。念のため、ゴルゴンは神話伝承のメデューサの一族ではなく、D&Dバージョンの石化ガスを吐く牛。あと、ヒドラはクラシックD&Dだと首の本数が5本〜12本のヴァリエーションがあるけど、本作では5本ってことで」
イースタ「いろいろ進化できて楽しいゲームだけど、各モンスターにつき、正解と外れが同数ずつ用意されている、と」
晶華「当たりだけを選ぶなら、こうなるわ」
・ガーゴイル→ハーピイ
・ケンタウロス→ヒポグリフ
・コカトリス→ヒポグリフ、フロスト・サラマンダー
イースタ「正しく進化しないと、環境に対応できずにゲームオーバーを迎えてしまうのは、リアルの生物の進化にもなぞらえられる、と」
謎の魔法使い『なるほど、見事な変身じゃな。呪文はポンポコポンか。結構結構。それでは、さらば』
イースタ「ちょっと待って。他に、黒いヒスイの心当たりはないかしら」
謎の魔法使い『うむ。わしの聞いた噂では、この先の神殿に不思議な黒い石があるという。興味があるなら、探してみると良かろう』
晶華「そう言い残して、老人は闇に溶け込むように消え失せました」
イースタ「神殿ね。ツリーマンが守ってる廃墟のことかしら。試しに行ってみるわ」
謎の老人の助力で、狼人間から巨人への進化を果たした元タヌキ少女のイースタ。
果たして、さらなる進化を経て、仇のブリンケンを倒すことができるだろうか。
そして、謎の老人の目的は一体?
イースタの進撃の旅はなおも続く。
(当記事 完。続きはこちら)