Shiny NOVA&WショーカのNEOスーパー空想(妄想)タイム

主に特撮やSFロボット、TRPGの趣味と、「花粉症ガール(粉杉翔花&晶華)というオリジナルキャラ」の妄想創作を書いています。

小説感想(カブト編)

 で、オーズに続いて読んだカブトの感想に移ります。

カブト

小説 仮面ライダーカブト (講談社キャラクター文庫)
 正直言って、オーズの後に、これを読んだのは失敗だったと思います。
 というのも、構成が「過去編」「現代編」「未来編」と、オーズと同じ構成だったにも関わらず、内容が凡庸で、ほとんど何の感動も得られなかったから。
 別作品と割り切ればいいのですが、なまじ構成が同じであったがゆえに、読んでて比べざるを得ない、と。


 章構成は厳密には6章。
 1章めの「閃光」が、TVの物語の開始前、過去編に当たります。本小説で、自分が面白さを感じたのは、この章だけ。
 内容は、14才の天道がシブヤ隕石の落下に遭遇して、妹のひよりを助けるシーン。この章での天道は、テレビのように達観していない未熟な少年で、自分の両親を殺して擬態したワームへの復讐を誓っております。
 天道の心理に寄り添って、偶然街で見つけたワームをどうやってナイフで殺すかなどという、天道らしくない心の闇を丹念に描写。
 しかし、シブヤ隕石のせいで、天道が殺すまでもなく、ワームの両親は瀕死の重傷。天道は、復讐が達成できたことに喜びを覚えながらも、そこで助けを求めるひよりの姿に、初めて「人を守ることの大切さ」を実感する、と。
 カブト本編の補完として、この章だけは、自分が評価するところ。


 2章めの「選ばれし者」は、TV第1話に基づいたストーリー。ただし、カブトが初戦で、マスクドフォームからキャストオフしてライダーフォームになって、クロックアップまでする点が、第2話の戦闘シーンも混ぜ合わせた感じですが。
 また、視点は基本的に加賀美です。
 これはテレビでの描写もそうだったのですが、天道のキャラクターがほぼ完成されていて、ブレないために、本小説でも彼の心理描写はあまり描かれていないんですね。つまり、天道の内面に期待して読むと、第1章だけで肩透かしを食う、と。


 そして、3章めから5章めは「決戦!①〜③」で、まあカブトのTVの最終決戦をそのままノベライズ化したもの。
 まあ、TVの錯綜した展開を活字の形で整理して読めるという利点はあるものの、基本的にTVのストーリーをなぞっているだけで新規さがあまりない。基本的に加賀美視点で、いろいろと周りの状況に翻弄されながら、物語を進めていくのみ、と。
 あえて言えば、加賀美陸や、三島、そして根岸さんの内面が描写されている点が、TVでは味わえない読みどころになるかな。主人公の内面よりも、敵キャラの歪んだ内面にスポットが当たっていて、その割りに、彼らがあまり魅力的なキャラではない、という点で、本小説の限界を感じたわけで。
 これが、もっと天道視点で、「あのオレサマキャラの繊細な内面は、こうだったのか」とか、「ダークカブトに対して、こんな想いを描いていたのか」とか、そういうテレビでは分からなかった部分に踏み込んでいれば、面白かったろうに。
 結局のところ、TVで見た以上の中身がほとんどないのが、この小説だったわけで。


 ただ、ストーリーは同じでも、文章ならではの描写の仕方、映像とはまた違った戦闘の感覚なんかが味わえれば、小説としては読み応えがあるのですけど、
 基本は、セリフと擬音と最小限の状況説明で、映像脚本に毛が生えたものではあっても、小説として想像力を掻き立てられるものではないなあ、というのが自分の感想。


 一例として、カブト対ダークカブトの戦闘シーンを引用してみます。

「変身!」
 擬態天道がダークカブトに変身する。
「変身!」
 天道がカブトに変身する。
 マスクドフォームによる激しく重厚な肉弾戦が展開する。
 ガツ!
 ゴツ!
 ガツッ!
 パンチやキックの応酬では互角のカブトとダークカブト。
「キャストオフ!」
「キャストオフ!」
 カブトとダークカブトがライダーフォームにチェンジした。

 この後は、クロックアップとか、TV本編でも描かれた独白による駆け引きに展開していくわけですが、
 映像脚本にはなっていても、小説としては描写の部分が物足りなく思います。この点で、書き手の米村さんは脚本家ではあっても、小説家としてはどうなのかな? と感じた次第。


 まあ、あくまで小説家としてのオリジナリティよりも、映像での描写に忠実に文章化した、とフォローすることは可能でしょう。
 ただ、自分がカブトの小説化で期待したのは、「クロックアップした時の世界の見え方」とか、「ワームの不気味さ」とか、そういう物語世界の文章での描き方なんですが、
 どうも描写はあくまで物語を進める上での最低限に留め、淡々と書きつづっているだけの作品。だから、読み流して、後に残るものが少ない、と。


 そして、小説家としてのオリジナリティが一番試される最終章「祭りのあと」ですが、これはTV本編終了後、加賀美が一人旅に出る、という内容です。つまり、オーズで言うところの「映司の章」に近いんですが、
 どうも、このオリジナル部分が、カブトの物語の後日譚としては、つながらないんですね。
 戦いの後、重傷を負って入院していた加賀美が退院して出てくると、加賀美の周りには誰もいなくなっていた、というシュールな状況からスタートします。
 加賀美の知り合いだった人と全く連絡がつかず、ただ助けを求める携帯電話の声と、さらに「ひよりが病気で苦しんでいる」という外国からの手紙に誘われて、加賀美がひよりを助けるために、東南アジアに向かうという流れ。
 そこで、詐欺師に騙されたり、いろいろと困難なめにあったり、ムエタイチャンピオンと試合する天道(当然勝つ)と遭遇したりした挙句、自分探しの旅に出ていたひよりとついに遭遇。互いに元気を分け合うような話。


 あ、一応、仮面ライダーらしい部分としては、途中、岬女史に擬態したワームと遭遇して、死を求めているらしい彼女に戦いを挑まれて、ガタックの力で倒すという部分。
 物語のテーマとしては、「死と再生」とか「生きる目的の探求」とかなんですが、どうもカブトの物語の後日譚(つまり最終回で描かれた要素を受け継いだもの)ではなく、キャラクターだけ適当に使って、あしらってみました的な話。
 それが果たして、カブトの物語の最後を飾るものとして面白いか、と言われれば疑問です。


PS:で、気になって調べてみたら、DVDのおまけに書かれた連続小説『世界の果てで君と出会う』という作品があって、今回の最終章はそれの再録だそうな。
 ついでに、第1章も、元々は劇場版DVDのおまけ小説らしい。
 ちょっと手抜きを感じてしまったけど、まあ本職の脚本書きの方で忙しいのだから、小説に力を入れる余裕がなかったのだ、と解釈しておきましょう。
 たぶん、カブトの世界観とかあれこれ振り返って深めるよりも、プリキュアとかで忙しいのでしょう。