月も変わったので、追悼気分も切り替えて、懐古の気持ちで振り返ってみたい、と思います。
DVDマガジンの発売にも、後押しされながら。
原点回帰編
前回は、「仕置屋」まで書きました。
で、この後が再放送がしばらく続かなかったせいで、続編の「仕業人」を見るのが、後年になりましたね。
ま、これはこれで良かったのかな。たぶん、まだガキだった自分には、あの雰囲気の良さが分からなかったと思う。不況とか、実感するのも、大人になってからだし。
基本的に、仕事人になるまでの主水シリーズは、「陽性の作風」と「ハードな作風」を代わりばんこに流していた感じですね。
最初の「仕置人」は明るい作風で、つづく「仕留人」は暗い展開。
「仕置屋」が明るく、「仕業人」が虚無の風、吹きまくり。
「新・仕置人」は明るくなって、「商売人」は大人感覚。
もちろん、回ごとの違いはあるのですが、作品全体の印象は、こんな感じですね。
で、自分は、後期の明るい必殺から入った未熟な人間なので、ある程度、年を経てから見るまで、「仕留人」や「仕業人」の味が十分、堪能できなかったろう、と思います。というか、自分が「仕事」をするまで、中村主水の悲哀は実感を伴わない、と思います。
で、今は分かるのか、と言えば……少なくとも、「仕置人・主水」の年齢には追いついたかな? と。
仕置人
で、自分が原点である「仕掛人」ついで「仕置人」を見たのは、「激闘編」と大体、同じ時期と記憶しています。
この時期に、テレビ朝日が夕方の再放送に力を入れてくれたから。
この作品を見るまでは、「昔の必殺は、殺しのテーマもバラード調で、湿っぽい」と思ってましたが(それでも格好いい)、「仕置人」は軽快で、「仕事人」にも通じるものを感じました。
キャラ的にも、かぶるよね。
錠は、秀や政の真面目な職人のプロトタイプだし、
鉄は、勇次の遊び人要素の原点に位置する。まあ、勇次は、市松の華麗さも引き継いでいるけど。
おきんは、何でも屋加代に相当するし、
半次は……順之助とはかなり違うか(苦笑)。ええと、この時点で、半公に相当する密偵キャラは、NOVAの中では、役割がよく分かっていなかったりします。おきんは「スリ」という技能があって分かりやすかったけど、半公の「かわら版売り」という技能が何のためにあるのか……まあ、後に「情報収集&操作」って、めちゃ大事じゃない? と理解するようになるんですがね。
むしろ、牢名主の「天神の小六」が、妙に格好いいと思ってました。何せ、裏の情報にめちゃ詳しい。これも、仕事人にはいないキャラだけど、役割的には、「おりくさん」に相当? あるいは、元締めに近い立ち位置でしたな。
ともあれ、キャラ配置的にも、実は過不足なく揃っている仕置人チームです。
その中で、主水の立ち位置は、メンバーの知恵袋。主役の鉄と錠を、バックアップする役どころです。
殺しのテーマも、軽快なアクション曲と、バラード調の主題歌アレンジの両方を殺しのシーンで採用し、実は後期の「仕事人」的な演出も、この時期から為されていたわけで。
回によっては、大勢の雑魚キャラと派手な活劇を展開した後、ラスボス退治の際に、バラードに切り替わる。まあ、バラードで殺すのが主水とは限らないというのが、後期との違いですが。
ということで、後期を擁護する立場としては、「仕置人」のエッセンスを十分、「仕事人」は取り入れている、と主張しておきます。まあ、「仕事人」は他に、「からくり人」の人情ドラマや、現代感覚たっぷりの軽妙さのエッセンスなども取り込んじゃったから、ああなったと思うのですがね。
仕事人・激闘編
で、再放送でシリーズを回顧しながら、本放送で、「仕事人6」と言うべき激闘編を視聴していたりします。
この作品は、5まででバラエティ路線の流れに傾きすぎていた必殺を、かつてのハード路線に戻そうとした原点回帰作になります。
そして、自分の感じていた5の弱点ですが、キャラ配置的には、「遊郭で情報収集のできる遊び人キャラが皆無」という点。政も、竜も、そして、もちろん順之助も、そういうことが一切できないわけで。
すると、物語のパターンも、「メンバーの知り合いが事件に巻き込まれて……」とワンパターン化するしかないのですな。4以前で、三味線屋がいる頃なら、大人の女性担当の勇さんと、素朴な女性担当の秀さんと、いろいろ役割分担できたわけですが、政と竜って担当範囲がほぼかぶっちゃっていたんですな。
そんな不完全なメンバー構成を補うべく登場したのが、「はぐれ仕事人」の壱弐参。とりわけ、柴俊夫演じる壱が、鉄の後継者のような設定、すなわち「遊び人」と「腕の力で相手の首の骨を砕く技」で、チームに大きく貢献します。
他のメンツは……梅沢富美男演じる弐は、竜とキャラがかぶってますな。
笑福亭鶴瓶演じる参は、順之助が抜けた分、コミカル担当になるのかな。ただ、ハードな世界観には、あまりそぐわなかったような。
この壱弐参は、結局、壱以外の登場回数が少ないこともあって、完璧に機能したとは言い難かったのですが、まあ、最大6人の殺し屋による連続必殺絵巻は、殺しのテーマの長さもあって、非常に派手。主水も、久々にバラード以外のテーマに乗って、アクティブに突き刺すし(斬り裂くじゃないのが、この時期の限界)、視聴時は結構、楽しめました。
それと、今、「はぐれ仕事人」だけを取り出してみると、これはこれでバランスが取れているんですな。いわゆるゲッターチーム構成? 熱血な主役格に、クールな美形に、コミカル人情キャラ。
う〜ん、そう見ると、この3人を束ねていたものの第1話で処刑された元締め・丁字屋半右衛門さんが、早乙女博士みたい。ええと、みちるさんや元気くんに相当する娘さんや、男の子はいなかったのですかね。
壱弐参はこれぐらいにして、政と竜。
実は、この2人が激闘編では割を食った感じですね。要するに、2人が未熟で頼りないから、「はぐれ仕事人」の手を借りないといけない、という話を連発しちゃったもんで、何だか立つ瀬がないというか、前座キャラに成り下がった感強し。まあ、政の方は、その後の作品にも登場し続けて汚名返上するのですが、竜に至っては、劇場版で殺害されちゃったせいで、最後は情けなく終わった感じなのが、残念。
それでも、テレビ版では、政も花屋から鍛冶屋に転職し、仕置人・棺桶の錠を引き継いだ手槍に得物を変更。
竜も、鈴の付いた赤い組紐を、錐の付いた青い組紐に変更。
それぞれ華やかさが売りだった5の技を、地味な感じにマイナーチェンジ。ええと、これもハード路線への移行という意味合いがあったのでしょうが、だったら弐の扮装や、参のポッペン技ももっと地味にしないと、割に合いませんよね。
キャラのバランスという意味を考えると、激闘編には首をかしげる向きもあるのですが、まあ、仕方ないですか。
先輩格の登場というテコ入れで、それまで活躍していた主人公格が地味に見えるようになったのは、スカイライダーの宿命ですし、
地味な中でも、突然、大きく扱われ、それまでの設定を崩壊させたのは、シルバー仮面の宿命ですし。
仕事人
で、実際の視聴では、その後、劇場版3からの秀復活を受けた「まっしぐら」、順之助の最期(?)を描いた「旋風編」、南京玉すだれが印象的な「風雲竜虎編」、チャンバラ劇が爽快な「剣劇人」を経て、シリーズは一度、完結。
そして、NOVAは大学生になって、「必殺シリーズは、高校時代の良き思い出」という位置づけになるわけですな。まあ、その後も、スペシャル編で、時たま視聴できたわけですが、むしろ、それよりも夕方の再放送の追っ駆けというのが、NOVAの大学ライフを充実させていた次第。
むしろ、大学時代だから良かったわけで。高校だと、夕方には帰宅できなかったわけですから、いちいち録画しないといけません。でも、大学の1、2回の頃だと、授業をうまく調整すれば、結構、夕方の放送に間に合うように帰れたんですな。
そんなわけで、シリーズ最長編の無印「仕事人」も、さすがに全てとは言わないまでも、要所要所の回を視聴できた次第。
で、この作品のポイントとしては、中村主水よりも、かんざしの秀の成長に焦点が当たるわけですな。主水は、もう熟練の仕事人として、自身の成長よりも、むしろ後進の育成に当たるのです。
その教育方針は、基本、スパルタ教育。後年の順之助も何度か殴られていますが、そんな物、生ぬるい。秀なんて、殴られまくりですよ。でも、過保護にされた順之助や、政なんかは、最期を迎えるものの、秀は生き残った。中村主水の鉄拳制裁あればこそ、だと思ってます(笑)。
こういう厳しさを乗り越えたからこそ、「江戸の二つの闇組織、どちらが勝つかサバイバル。まず、かんざしの秀を消せ。暗闇指令の飛ぶ中」を、無事に生き延びて、好きな娘の手を引っ張って、幸せゲットできたのでは、ないでしょうかね。まあ、その後、若紫がどうなったかは、お民ちゃん同様、不明なんですが。
ともあれ、仕事人・中村主水の原点回帰編。
バラード殺しも、この作品から、というわけですが、結局、キャラとしては安定路線に入っちゃうので、どうしても、左門さんや、秀さんに注目しちゃうんですね。
左門さんが、刀を捨てておでん屋さんになってからが、いかにも仕事人らしいと思うんですが、それまではドラマ性を高く評価されていますね。つまりは、左門さんの転職が、前期と後期を分ける境界線になるのかな。まあ、これはいろいろな意見があって、後期は「新・仕事人」からという人もいれば、「いや、秀が死なずに、順之助が入った時」からだろう、とか、『仕事人大集合』はまだ良かった、という人などなど。
ちなみに、自分は、最近、DVDで『仕事人III』を再視聴して、順之助に裏の世界の道理を正す主水に感情移入しまくりでした。
「この世の中は、イヤなことが多すぎる。だから、将軍様を殺して、世の中を変えるんです」という過激なことを平気でのたまう順之助。いやあ、いくら受験でストレスがたまってるからって、言うことがすごいよなあ(笑)。
で、それを聞いた主水さん。「分かった。で、仕事料は誰が払うんだ?」
「ヘッ? お金を取るんですか?」
「当たり前だ。オレたちは、銭をもらって、人様の命を奪うのが仕事なんだ」
「そうかあ、お金かあ。やっぱり、世の中、厳しいんですね〜」
いや、まあ、ギャグとして笑えないこともないですが。
で、仕事にはお金が必要、と分かって、お金を払ってくれる人を探して、うろちょろする順之助、と加代(笑)。
でも、仕事人の話をしていて、岡っ引きに見つかって、大ピンチ。
そんな経緯やら、いろいろあった後で、おりくさんが加代に説教するんですね。
「あたしたちの仕事は金を求めて動き回る類のもんじゃないんだよ」 おりくさんのセリフだから説得力がある。商売人時代の主水さんを見てると、とても、そんなことは言えませんからね。
で、順之助相手には、主水さんが。
「オレたちが、どうして金を取るか分かるか? 金を取らないで人を殺しちゃ、思い上がって神様になってしまうだろう? そうしたら、そのうち殺しに歯止めが利かなくなっちまう」
この部分のセリフだけを抜き出して、中村主水の殺しの哲学が変質した、という批判も読んだことがあるのですが、これはあくまで順之助を諭すための方便と、自分は考えますね。
要するに、順之助が「仕事人は、世の中の理不尽を一掃できる神様のような力を持った存在」と錯覚していたからこそ、「仕事人は、あくまで人間なんだ」という趣旨の説教。
でも、それを聞いた順之助。「分かりました」 いや、そんな簡単に分からないっての(苦笑)。「でも、あいつらだけは許せません」と涙を流す始末。この時点では、やはり「許せぬ悪を消すことの重み」を理解していないわけで。どちらかと言うと、仕事人よりは、「からくり人」の涙と手を組む思想の方が似合っていたり。
そんな順之助が、過保護に扱われながらも、次第に殺しの世界の苦さを肌で理解していく流れが「仕事人III」の初期編。
そう考えると、教育話として、仕事人時代の主水を論じることもできそうだなあ、と思いつつ。
PS:「特撮は教育番組だ」と言った役者はいたけど、「必殺も教育番組だ」という主張も成り立つ、という結論(笑)。いや、自分的には、十分そうだったり。
PS2:無印「仕事人」の話をするつもりが、「仕事人III」の話にシフトしてしまった気が。まあ、「原点回帰編」という今回のタイトルにはかなっているよなあ。何だかんだ言って、それが自分にとっての必殺探求の原点だから。でも、無印「仕事人」の話は、次にもう少し展開したいです。