今回は、何一つ、不満がない素晴らしい回でした。
不満がなさすぎて、ここで何を書いていいのか困ってしまう(オイ)。
まあ、「安定した佳作」というところで、あまりツッコミどころがない。だからと言って、「こいつは無茶苦茶おもしろい」という大傑作でもないわけで。
野球のボールで言うなら、普通に投げて、普通にストライクが入ったというか。球威もコントロールも問題なく、「ああ、いい球投げたね。この調子で、次も頼むよ」という具合。
いや、連続ドラマとしては、こういう安定路線が大事なのですが、いわゆる「一話見逃すと、状況が大きく変わってしまって付いて行くのが大変なジェットコースター」的トレンディードラマとは違って、センセーショナルな記事にはなりにくい。
ぜいたくな悩みって奴ですな。
仮に、今回の話をセンセーショナルに盛り上げようと思えば、「頼み人が作太郎」とか、「作太郎、仕事人になる」とか、どうしても作太郎を裏稼業に巻き込まないといけない。でも、ここは「作太郎の友人のゲスト子役」に、頼み人の役割を負わせることで、レギュラーの作太郎は安全圏に置かないといけない*1。
前回の話で、熱血同心・大河原の代わりに、被害者になるゲスト・安川を設定したようなものですな。
さすがに「玉櫛の死」みたいなサプライズを毎回、期待しているわけでもないので、今回の話で十分納得です。
ともあれ、初恋のお姉ちゃんが亡くなったときの、作太郎の悲しみをきちんと描いただけで、今回の話は十分に心の琴線をかき鳴らします。その点では、子役を使って盛り上げるのは、反則にも近いほど効果的ですね。
後は、全てのキャラクターを、きちんとドラマに絡めて、しかも味のある「殺しのシーン」にまで持ち込んだことで、NOVAとしては大いに納得しています。
不満点は、前回出た「如月」が今回は出なかったことぐらい。早く、『メイちゃんの執事』から戻ってこ〜い*2。
それでは、次にキャラ別に見ていくとしましょう。
主水、メザシの恨みを晴らす
今回、主水さんは「商い税のために値上がりしたメザシ」の買い物で、愚痴をこぼしています。
庶民のささやかな楽しみを、悪徳商人の陰謀のために奪われる、そういった恨みを、きちんと仕事の場で晴らしてくれました。
もちろん、作太郎の気持ちとか、そういった恨みも受け取っているのですが、それよりも「メザシの恨みだ!」というストレートで分かりやすい庶民派な一言が、クスリと笑わせつつ、共感を呼びました。
しかし、「メザシの恨み」で殺された悪徳商人も、「何で?」と言いたかったことでしょうな。
涼次、フグの毒に当たる
主水がメザシで愚痴るのを小馬鹿にしていた涼次。自分は、大仏殿建立のための障子張り仕事で、にわか景気を満喫しています。経師屋って、割と景気の波が大きな仕事みたいですな*3。
で、調子に乗って、好物のフグを堪能するのですが、主水や小五郎の恨みを買ったからか、毒に当たって苦しむことに。そして、殺しの的である僧侶に「修行中の身でも、彼岸に達するのは難しいので、羨ましい」と何だか、からかわれたというか、ネタにされたというか。
そういう恨み(?)もあって、「僧侶の悪事」を天井裏で聞き込み、「因果応報の説法中」の僧侶に文字どおり、因果応報、彼岸に旅立たせてやります。
まあ、殺しのシーンで、「確かに因果応報だな」とか「喜べ。彼岸に行き着けるぜ」などと一言があっても、とは思いましたが、そこは分かりきっているので、しつこくならなくて正解だったと思います。特に涼次の主役編というわけでもないですしね。
源太、殺し道具を工夫する
主役編以外では、いまいち影が薄くなりがちな源太ですが、今回は作太郎に美味しいところを持って行かれたために、画面上での登場シーンが多いにもかかわらず、やはり影が薄いです。
似たような立ち位置のキャラだと、若いときの「かんざしの秀」がいるのですが、秀の場合、ゲスト女性との交流が多い、という強みがありました。
でも、源太って「2007」で想い人を失い、その子の作太郎と、小料理屋を引き継いでいるというキャラ設定のため、「女性との交流」話が作りにくそう。そうなると、必然的に「男友達」とか「お得意客」としか絡めなくなりがちで、人情系のキャラとしては動きにくい地味な役どころ。
今回は、「女性との交流」話を作太郎に奪われたこともあって、今後は浮いた話のない「子供相手専門」になるか、それとも2話みたいな話で「マダムキラー」になっていくか、注目したいところ。
キーキャラクターとしては、出れば一番動いて事件に巻き込まれ属性の高い「如月」が、彼の料理屋の常連客になれば、いろいろ話に絡めると思っていますが、果てさて。あとは、グルメの涼次が常連になってもいいのだろうけど、どうも涼次って自炊を楽しんでいますので、外食しには来てくれないですね。
彼の今後はさておき、今回の殺しのシーン。
おお、何だか技の描写が進化しております。「からくり屋」にしては割と地味な描写が気にはなっていたのですが、今回は「操作の紐部分に糸を付けて、微妙な操作と効果音で、三味線屋みたいな演出」を加えた上、「蛇のアクションがより鮮明になり、首に巻きついた後、舌を伸ばして突き刺す」ようになっています。
さらに、相手をおびき寄せるために、自動制御のからくり甲虫を操るなど、芸が面白くなっています。
今後の方向性としては、順之助みたいなエンジニア系のスキルを高めていけば、より活躍場面が増えていくのでは、と思いますが、果たして。
お菊、子供に営業する
今回も、お菊は動き回って、連絡役の任をきちんと果たしています。
家族の恨みを晴らして欲しい子供にまで、接触して、仕事の段取りを付けるのはさすが。
最初、そのシーンを見たときは「不幸な子供の想いに付け込んで……」と感じたのですが、子供の持っている香典代100両のうち、「5両」のみ仕事料として受け取ったことで納得。まあ、たったの5%なら、ちょうど「商い税」の話でもあるわけだし。
他にも、芸者に扮して、悪人の裏のつながりを調べるなど、密偵キャラの役割も果たしていますが、その場面は顔見せて終わり程度だったので、おおかた編集でカットされたんだろうなあ、と推察。
小五郎、仏像フィギュアに囲まれる
さて、本ブログで、一番、動向があやぶまれていた小五郎ですが、今回は文句なしです。
まず、不承不承ながらも、表の仕事はきちんと行っております。地上げ屋に苦しめられている庶民を助けようとしたり、大河原さんと共に調査活動をしたり……その挙句、「寺社奉行の管轄なので町方は手が出せない」という事情をはっきり示されたため、「小五郎のサボリが、事件の解決を遅らせた」という悪印象を与えないような作劇。
とりあえず、小五郎としては、「お菊に情報を伝える」シーンを描けば、「サボっているわけではない」ことの表明になると思いました。主水とダベッているだけでは、情報が回っているように見えません。
ところで、今回、小五郎は、作太郎が自身番に訴えているシーンで、主水の「メザシ」をちゃっかり頂いていました。いつか刺されないか、心配です(笑)。
小五郎「中村さん、まさか……」
主水「メザシの恨みだ」
それはともかく、今回、殺しのシーンでも、小五郎は大活躍。
メインの殺しの前に、無抵抗な地上げ屋の若衆たちを、辻斬りのようにメッタ斬り。さすが、弱い奴には強い……と思いきや、その後、寺社の役人が、障子の影に切りつけてきたのを素早く避けて一閃。相手の攻撃をかわしてからの攻撃ですので、不意討ちとは異なり侍の戦法としては好印象。
そしてラスト。
役者絵の購入事件から、「実は二次元オタ?」の風評を欲しいがままにしている小五郎に対して、嫁姑の側からの反撃。「子宝仏像のフィギュアを100体購入して、小五郎の寝所に配置する」という暴挙に出ました。
渡辺家で今後、どのようなオタク戦争が繰り広げられるか、本編とは無関係に楽しみたい、と思います。
必殺シリーズ・侍キャラの系譜2
さて、前回は、小五郎は「正々堂々キャラであるべきか」「不意討ちキャラであるべきか」というテーマについて、自分の批評アイデンティティーを見失った状態で、終わってしまいました。
で、考えたこと。
「2007」の段階では、小五郎は主水の後継者であり、主水のシリーズ続投を個人的に想定していなかったため、「後期の主水らしい不意討ち」を受け継いで欲しいと考えていたわけですが、
「2009」に至って、主水との共存が行われる以上、「主水と同じことをしても仕方ない」「今の主水にできない、強い剣術使いとしての個性の追求」に期待しているわけですな。
よって、現段階では、小五郎に「あまりに姑息に振る舞われてもなあ」と感じるようになった次第。
まあ、今回の小五郎なら、十分、安心して見ていられるってことで。
問題が解決したので、侍キャラ回顧のつづきです。
前回の仕掛人・西村左内に続く侍キャラは、仕置人・中村主水になるのですが、ここで今さら主水さんを語っても仕方ないので、飛ばしていきます。
すると、次は、シリーズ3作目の助け人になるわけですな。
中山文十郎
「助け人」は殺しを主体としない割に強力なチームで、文十郎さんの他に、相方の坊主頭・辻平内も一応、元侍という設定です。侍出身である以上、多少の武芸の心得は持ち合わせていることは前提ですな。それに、役者の格としても「風車の弥七」だったりするわけですから、弱いキャラであるはずがない。
さらに言うなら、後に加入する「島帰りの龍」は、特撮ヒーロー役者、アクション俳優として名高い宮内洋ですから、このチームを弱いと主張する者がいれば、「ウルトラブルーチェリー」や「V3反転キック」や「ビッグボンバー」や「チッチッチッ、貴様の技は日本で2番めだ攻撃」を受けてしまうわけですな*4。
それはともかく、文十郎さんです。
演じる役者は、田村高廣。田村正和や田村亮の兄者で、2006年に亡くなっています。今回、調べるまで分からなかった。謹んで合掌。
この文十郎さん、前身は仕掛人21話や30話に登場した田村氏演じる「神谷兵十郎」なんですが、作品カラーに合わせて、より陽性なキャラになっています。
愛用の刀は、刃を落とした鉄の棒「鉄心の太刀」で、基本的に峰打ち中心の大立ち回りを行います。
そして、悪事の主犯格に対しては、刃の付いた短刀「兜割り」を使用。すなわち大小2本の刀を使いこなす、凄腕の剣術使いなんですな。
どれくらい凄いかというなら、「助け人12話」において、ゲスト出演した中村主水と対決して引き分けるぐらい。う〜ん、「中村主水と引き分ける」という表現は、それだけで「達人」の証明になるわけですな。
「渡辺小五郎と引き分ける」と書いても、凄いのかどうか良く分からないのが実情。
ともあれ、小五郎さんも先人を見習って、「強さの基準」になるぐらいの風格を示してほしいもの。