少々(かなり?)遅くなりました。
その間に、『必殺仕事人2009公式ガイドブック』が発売されたり、
木更津の方では、「からくり人・仕掛けの天平」が元締め、もとい知事さんになったりするなど、いろいろネタ多し。
でも、次の話(4月10日放送予定)まではまだ間がありますので、じっくり追憶したいと思っていたのですが、あまり待たせるのも問題だな、と。
そもそも、番組が「源太と大河原さんのピンチ」のまま3週間も引っ張って、やきもきしている自分の気分を考えるなら、
「NOVAの更新」をまだかまだか、とやきもきしている人の気持ちも察しろよ、という声も聞こえてくるわけで。
え? そんな声はないって?
ただの自意識過剰? 仕事疲れの妄想?
ま、妄想でも、記事書きの原動力になれば、OKってことで。
それにしても、次の展開はどうなるんでしょうね?
源太はともかく、大河原さんは確実に窮地でしょうに。
これが『必殺仕事人IV』辺りなら、ヒューンと石が飛んできて、ゴンッと大河原さんの頭に当たって気絶。目を覚ました後で、小五郎辺りが「夢でも見たのでしょう」と強引に納得させて解決するのもありかなあ、とか。
『必殺仕掛人』なら、梅安先生が「記憶喪失のツボ」を針でついて、万事解決とか。
『新必殺からくり人』なら、現作品のオープニングナレーションを担当している塩八師匠が催眠術をかけて、忘れさせるとか、
『ウルトラマンネクサス』や『ハリケンジャー』なら、MPとか、黒子ロボが記憶を失わせるとか、いろいろありなんでしょうけど。
とにかく、どんな解決が見られるのか期待しながら、大河原さんの無事を願いたい、と思います。
で、次回への引きはこれぐらいにして、当回の感想に移るとしましょう。
緊迫感に満ちたストーリー
もうね、最初の夕焼けからして、雰囲気が違うわけですよ。
夕日が落ちる中で、俳句が詠まれる。思わず「虎 漫筆」と付ければ、気分は何だか「寅の会」。
そして、日が暮れて、裏稼業の開始です。
覆面をかぶって暴れる謎の侍「黒頭巾」の登場。表は平凡でうだつの挙がらない30男が、裏では凄腕の剣士(?)……ではなく、単に無抵抗な庶民を虐殺する快楽殺人鬼。う〜ん、何となく「仕事人のアンチテーゼ」って感じですな。
今回の話はいろいろと「仕事人のアンチテーゼ」を描いているようです。
そして、黒頭巾は白昼にも堂々と出現。
危うく、如月ちゃんが命を落とすところでした。放送前に感じた「子供がピンチ?」の予感は、作太郎ではなく、如月ちゃんだったんですね。
幸い、涼次が如月を守って、得物の長針を振り回して大活劇。それが奉行所役人・大河原の目に留まって、事情聴取。番屋に居合わせた主水がフォローしたおかげで、役人の追及は免れますが、主水に注意された涼次は面白くありません。仕事のプロのようでいて、実は「情に甘い」ことを指摘されるのはナイス。
さらに、「大立ち回りをしたければ、仕事人なんてやめちまえ」とか。
そうですな。大立ち回りをしたければ、「剣劇人」に転職すべきです。涼次なら、「寄らば斬るぞ」「おととい来やがれ」「ムフフ、あ、ば〜か〜め〜」などと見得を切って、ガマを呼び出してもOKです。元・忍者だし。ええと、ガマは源太に作ってもらってもいいでしょう。
……ということで、4月10日から『必殺剣劇人2009』に番組タイトルを変更するのはどうでしょうか?
妄想はこれぐらいにして。
一方の源太。最近は、ワーカホリックというか、いつでも頭の中で「殺し道具のからくり仕掛け」を考えている自分を恐ろしく感じるようになっていて、それを小五郎に相談したら、「今さら善人ぶるな」と説教されます。今回、役人コンビは説教役担当ですな。
そして源太の不安定な心理状態を案じた小五郎は、「今のままだと、ヘマをする。その時は、オレがお前を始末する」と脅します。
それでも、後で、小五郎なりの優しさを示したりもするんですね。
殺しの段取りのシーンで、自分が乗り気になれない仕事を断り、源太にも「降りてもいいんだぞ」と声をかける優しさを。
ただ、涼次も源太も、ムキになって黒頭巾退治の仕事を引き受けてしまった。
そして、どちらもミスしてしまうんですね。
涼次は、黒頭巾を始末する途中で、頼み人でもある黒頭巾の母親に顔を見られてしまった。母親は、息子の悪行に絶望して、仕事の依頼をしたものの、やはり息子が殺されるのを見ていられなくなって、涼次に助命を嘆願します。 涼次は、嘆願を聞き入れずに黒頭巾を始末するものの、母親は放置して去ろうとします。
そこに現われた小五郎。心変わりした母親を残すことは、裏稼業にも支障が出ると判断し、母親を斬って息子の後を追わせます。
「頼み人だぞ!」と、そのやり方に異を唱える涼次に対して、仕事を下りていた小五郎は「オレは頼まれていねえ」とつぶやきます。この点、情に甘く母親を始末できない涼次と、あくまで冷酷に振る舞える小五郎が見事に対を為していますね。
さらに、致命的なミスを犯したのが源太。
からくり蛇での絞殺を試みたのですが、相手が予想以上にタフだったのか、それとも源太の力が入りきらなかったのか、殺しの的が息を吹き返してきます。現場を去ろうとした源太に襲い掛かる相手。
そこで窮地に陥った源太の新必殺技・炸裂! そばに落ちていた大石を持ち上げて、ボコっと撲殺。おお、今度から締め技から打撃技に転向? ついでに職業も、からくり屋から石屋になる? なんて小ネタはこれぐらいにして。
実際は、殺しの美学とかプロらしい段取りとは無縁の「生々しい苦し紛れの素人芸」。遠くから紐で締めるのは、兵士で言うなら、「ボタンをポチッと押して、上空で爆雷を投下するようなもの」で、直接白兵戦で相手としのぎを削った殺し合いをするのとは大いに感覚が異なるものでしょう。
血まみれの手を見て絶叫する源太。
そこに間の悪いことに、大河原登場。殺しの現場を見られて、ピンチの源太。
さらに、大河原の背後に、小五郎出現。今回の小五郎は、「新・仕置人」の死神のように、殺しの監視役を担う形に。「今のままだと、ヘマをする。その時は、オレがお前を始末する」という小五郎の先刻の脅しが、源太の脳裏に効果的にフラッシュバックし、果たしてどうなる?
以上が仕事人関連のドラマです。う〜ん、密度が濃い。
第1話との比較
さて、今回の話は、第1話の脚本家の作品です。
比べてみると、圧倒的に良くなっている。第1話でのNOVAの批判がことごとく克服されていることに感心しきりです。
そちらでの辛口批評から引用しながら振り返ってみると、
「ゲストたちのドラマ」としては成立しているんだけど、そこにレギュラーキャラがほとんど絡んでこず、「頼み人の恨み」に仕事人たちがほとんど共感せずに、淡々と仕事するという「仕事人としては、全く心の通わないエピソード」になってしまった、と。
今回も、実は「ゲストたちのドラマ」は、仕事人サイドのドラマとは独立していて、別々のストーリーを構成しています。
黒頭巾の母親が息子殺しを依頼する、ということでは、「夫殺し」の6話と重なる部分がありますが、それでも小五郎が母親と直接交流したような描写はなく、ゲストの黒頭巾(および被害者)側と仕事人側にはほとんどドラマ的接点が見られません。強いて言えば、如月&涼次が白昼、黒頭巾の襲撃を受けたぐらいか。
それでも、今回は仕事人サイドのドラマが、ゲストのドラマと距離をとりながらも平行に、濃密に描かれ、しかも一つのテーマとして絡み合っているのです。
それは……「表と裏の境界線の消失」と言えましょうか。
黒頭巾は「仕事人のアンチテーゼ」で、あくまで裏の人格と言うべきなのでしょうが、表では、うだつの上がらない30男が「黒頭巾でいる時だけ、自分が何かでいられる」というようなセリフもあり、満たされない現実を変えてくれる変身願望の権化と言うことができます。
そして、30男は最終的に、母親の願う表の自分を捨てて、裏の黒頭巾でいることを肯定するまでになるのです。
一方で、涼次は、白昼堂々と得物を持って戦うことで、仕事人としての裏の顔を表にさらけ出しそうな危機を迎えてしまいます。
また、源太も、殺し屋である裏の自分が、表に侵食しそうな心苦しさを感じています。
この「きちんと区分された表と裏の境界」があいまいになってしまうことが、今回のストーリーの緊迫感をかもし出す要因の一つと言えましょう。
確かに、プロとして裏稼業を続けるなら、いちいち情に流されていては、長生きできません。仕事人シリーズが、旧来の必殺マニアの批判を受ける理由の一つも、「情に流されすぎ」という点ですが、
ただ「情に流されない」というのと、「レギュラーキャラがドラマにまったく絡まない」というのは話が別ですし、
ドライさを描くなら、全員がドライに振る舞うよりも、「ドライなキャラ」と「情に流されやすいキャラ」を対立させて、「ドライなキャラ」の理屈が通る作劇手法を示すのが王道、というか従来の必殺シリーズでは、そうしてきたわけですな。
「新作は、プロフェッショナルを描く?」という小見出しで書いた文章ですが、第1話では、それが不十分だったという批評でした。
しかし、今回は本当に見事です。
ここで言う「ドライなキャラ」として描かれたのが、小五郎。
「一見、ドライのようでいながら、実は情に流されやすい」涼次や、「情を断ち切ろうともがいたものの、仕事そのものを失敗して窮地に陥った」源太との対比が見事。
しかも、ドライな小五郎も、ただの冷徹な機械ではなく、仕事人の掟を示しながらも源太を案じる優しさを示したり、涼次をフォローしながら、息子の死を悲しむ母親に息子の後を追わせる心配りを見せるなど、独自の人情を感じさせてくれました。
NOVAとしては、それ(ゲスト主体のミステリー風ドラマ)よりも「仕事人のドラマ」が見たいわけで。人情路線でも、プロフェッショナルでも、かまわない。
情にながされる源太と、クールな涼次の対決でも、
町人と役人の対立でも、
主水と小五郎のぶつかり合いでも、
とにかく、仕事人メンバーが主体となって、ストーリーを紡ぎあげてくれないと、面白くない。
今回は、「町人と役人の対立」になっていましたね。
ゲストのドラマを見せつつ、仕事人のドラマも成立して、緊迫感を維持したまま最終的にうまく絡んで、そのままつづく、と。
本当に、これだけ高まったテンションを、次回、どう切り回してくれるのか、空気が抜けてしまわないことを願うばかりです。
ただ、まあ、
もしかして、2時間スペシャルの分量感覚で、濃密なドラマを描こうと意気込んだら、1時間の枠内では描ききれなかった?
という批評のとおり、実は次回の話も加えて、1本のドラマという感覚で作られた話なのかもしれません。
その意味では、きっと「2時間ものが得意な脚本家」だから、後編で気が抜けるということはないかな、と期待。
黒頭巾・考察
さて、ゲストキャラについての感想。
今作は、割と「親子関係の問題」をテーマにした話が多い、と思います。
1話は、娘を心配する過保護な父親の想いが娘に通じず、
2話は、剣術道場のバカ息子と、それを庇うためにやむなく悪行に手を染める父親の話。
飛んで7話は、侍として死んだ父親を見下げ、商人としての成り上がりを追求する息子の話。
8話は、スリ親子の絆とすれ違いを描き、
9話は、怪物親の話ですな。
まあ、仕事人サイドでも、「源太と作太郎」は言うまでもなく、「涼次と如月」も男女関係というよりは保護者と被保護者の関係、そして「主水と小五郎」も現在は擬似親子とNOVAは見なしていますので、親子関係、あるいは新旧交代とか、伝統の継承と新機軸がテーマのようにも感じられます。
で、今回の黒頭巾は、母親の過剰な期待を受け止めきれず、軌道を踏み外して暴走した可哀想な息子の話。
しかも、唯一、彼の満たされない心を理解できた「知恵遅れの下男」まで、母親の企てで殺され、歯止めが利かなくなってしまう……パターン通りのただの悪党ではなく、もっと奥の深い人物設定ですな。
そして、パターン通りの話だと、仕事人チームと同様、悪人も一種の仲間としてパーティーを組んでいます。
曰く、悪徳役人と、豪商と、下働きのヤクザ連中と、その他、身分の高いお侍とか、番頭や手代、そして悪女といったオプションはいろいろ考えられるものの、基本的に仲違いすることなく、利用し合える仲として結託しております。
でも、今回の話は、仕事人たちの間で不協和音が鳴っているのと同様、殺しの的も一枚岩では決してありません。母親は息子の想いが理解できず、息子は母親の想いがうとましく、そして家臣は母親に従いながらも、下剋上に至る、と。仕事人が手を下さずとも、実質、崩壊している悪役陣というのも珍しい。
あと、特筆すべき演出として、死者の霊を弔う葬列一行。これが、何だか怪談みたいに怖い描写。
母親がこれに感化されて、息子殺しの仕事を依頼してしまうのも納得の演出ですが、
さらに、源太の神経にも突き刺さり、「自分の殺しへの罪悪感」を増幅。本当に何かの呪いのようでした。
本来、葬列とは「生と死の境界線を越えて、死者の霊をあの世に送る役割」があるのですが、それは同時に「表と裏の境界線の消失」にも通じるのでしょうか。
それを象徴するかのように、一度は殺した(と思っていた)悪党が息を吹き返して、源太に襲い掛かってくる……これは本当に怖いです。ほとんどゾンビみたいなものですから。
長い必殺史上では、たまに技が通じずに仕事人を窮地に陥らせる強敵が登場しますが、本作では初めてですね。
ともあれ、黒頭巾に殺された死者の霊がさらに道連れを呼ぶのか、源太と、それから役人・大河原伝七の命が、渡辺小五郎の手で断ち切られるのでしょうか? それとも、情に甘い涼次がフォローしてくれるのか?
仕事人チームが一時解散して、「剣劇人」となるのか?
それとも、死者の霊に突き動かされ、白昼堂々と殺す「うらごろし」と化すのか?
いろいろ妄想のタネは尽きませんが、今宵はこれまでにして、4月10日の放送を楽しみにしたいと思います。