仕事人チームは誰も死ななかった代わりに、思わぬ殉職者が。
面を取ると、「実は大河原さんでした」とか「実は坂本さまでした」とか「実は目黒祐樹でした」とかだったりすると……拍手していいのか、どうか。
仕事人にはなれなかった「影同心」大河原伝七の死に様に、拍手はできないけど、哀悼の意を表します。
彼が「偽仕事人」になる決意をしたのは、やはり同心として、惚れた女を守ることができなかった20話でしょうか(脚本家は違いますが)。
大河原さん、本当に良い人で、娘の身を案じつつ、娘に対して強気に出られません。いわゆる草食系男性に相当。
まあ、仕事人のドラマで、普通の人があまり積極的に動くと、悪人に殺されるのがオチですからね。おまけに、役人の立場ですから、「惚れた女の仇討ちを仕事人に依頼」なんて展開にもしにくいし、同僚の小五郎が大河原さんの気持ちを慮って、自ら頼み料を出すなんて展開も無理がある。
大河原さんとしては、視聴者に「やっぱいい人だな」と思わせただけで、OKではないでしょうか。
う〜ん、「草食系男性」だった大河原さんが、「惚れた女の仇討ちを仕事人に依頼」するどころか、それを一歩踏み越えて、「自ら仕事人を装う」なんて、連続ドラマとして見るなら、もう一度、「大河原さん視点」で振り返りたい気もしますな。
視聴者としては、「やっぱいい人だな」から、「実は(心根は単純だけど)深い人だったんだな」と再認識。
大河原さんを振り返る
ええと、さすがに第1話から再視聴する時間はないので、自分の書いた記事から振り返りましょう。
自分が、大河原さんに最初に注目したのは、3話において。初期の小五郎の不甲斐なさに嘆息して、大河原さんに期待していた節がある。
「殺しの下手人は明らかに侍で、ヤクザ者の仕業と見なす奉行所の裁定はおかしい」と不満を表明するのも大河原の方
同僚・大河原も合わせて考えるなら、若き日の主水が持っていて、くすぶり続けた理想主義な情熱家の面は大河原に受け継がれ
でも、これだけ捜査には鋭くて、理想主義かつ情熱家の大河原さんも、「小五郎が仕事人という事実」には、死ぬ寸前まで気付かなかったんですね。殺しの現場で会った当の仕事人・小五郎に対して、「私を捕まえに来たんですか」「私は、渡辺さんみたいに呑気に暮らしていたくなかった」とぶちまけるぐらいですから。*1
似たような理想主義かつ情熱家のキャラとして、新春スペシャル版の「権堂伊左衛門」が挙げられるけど、脚本家の寺田さんは、こういうキャラが屈折していくドラマが好きなんだろうか。
寺田さんといえば、大河原さんピンチでつづく、となった10話。そこでの「黒頭巾」も、ある意味、「仕事人のアンチテーゼ」でしたな。表の顔ではうだつの上がらないダメ男が、裏では自分の満たされない欲望をぶちまける快楽殺人鬼に。そこに「正義」の名がつけば大河原さんや権堂さんに、「大義名分」がないのが黒頭巾に、そして「あくまで晴らせぬ恨みを晴らす職業」としての重みが加われば仕事人に、という分かれ道だったりして。
そんな深い人物だった大河原さんが、一部の視聴者に心ない批判を被った11話。
前話のラストで、源太の殺しの場に運悪く姿を現し、「果たして大河原伝七の運命は?」とドキドキさせたのが、たったの3ヶ月前でありながら、ずいぶん懐かしく感じられます。
結果は、
伝七の注意を「涼次」が引き付け、「源太は怪しい者じゃない」と主水が取り成すことで何とか解決。伝七は、主水の見た「怪しい男」を追って、源太を解放しました。
それから、伝七は源太の店に顔を見せます。
「まだ疑われているのか?」と警戒する源太でしたが、さにあらず。
伝七は「からくり屋の源太の母親」を名乗る女を連れてきたのでした。
せっかくのサスペンスが、あっさり解消され、「事件の核心ギリギリまで近づきながら、それ以上は立ち入れず、無難に命拾いするキャラ」としての本領発揮……のはずだったのですが。
ここで、「実は源太が仕事人であることに、大河原さんは気づいていたものの、確信を得るまで見逃していた」という仮定も考えてみるものの、「だったら、小五郎にも気づくはずだったのでは?」という反論も吟味すると、その仮定は成り立たないかな、と。
もちろん、「表面には出さないけど、源太が仕事人という疑念は相変わらず抱いていた。でも、その回で源太が散ってしまったので、仕事人への興味は続いていたものの、手がかりがなく悶々としていた」と考えるなら、大河原さんがそれなりには優秀という証明にはなりますね。あくまで「それなりには」ですけど。
ともかく、「仕事人にはなれずに、影同心止まりだった大河原さん」ですが、彼の凄いところは、同じような志を持つ侍たちを集めて「偽仕事人チーム」を結成していたこと。
でも、あれだけの人数ですから、大河原さん一人で采配できたとは思えないのですが、実はまだ判明していないだけで、陰で「坂本さま」とか「目黒祐樹」とかが手を引いている?(まさかね)。
たった一人の大老殺し
偽仕事人に扮しながらも、小五郎の前でむなしく散って行った大河原さん。
一方で、本物の仕事人・渡辺小五郎の強さと来たら……まさにワンマンアーミーそのものの大活躍ですね。加納屋敷に斬り込んで行った後、加納の政敵である大老まで、お供の侍共々、ズバズバズバッと手に掛けます。
何だか、必殺じゃなくて、「暴れん坊同心」とか「桃太郎同心」とか「小五郎江戸日記」とか、たった一人の侍でチャンバラする時代劇に作風が変わってしまったような気が……。
何だかんだ言って、必殺って「チーム殺陣」が見どころであって、メンバーの強さや格に差があるのは当然としても、一人の戦闘力がずば抜けて強いってのは、どうもねえ。
でも、まあ、最終回祭りだから許します。うらごろしの「先生」も最終回はワンマンアーミーだったし。
初期の強いんだか、弱いんだかよく分からない姑息な小五郎よりは、「実は無茶苦茶強かった小五郎」の方が、時代劇としても楽しめる。
それにしても、大老も「一番怒らせてはいけない男」を怒らせてしまったのが、運のツキでしたね。
前回の話の後では、仕事人IVの1話みたいに、「政敵同士が和解して、邪魔になった仕事人を消すこと」を目論むのかなあ、と思っていたら、政敵は政敵のまま。よって、小五郎の恩師・雨宮の奥方をわざわざ大老が殺させなければ、殺しの的になることなんてなかったのに……。
老中殺し
そして、前回のラスボスで、涼次が仕留め損なった老中・加納は、主水さんが仕留めます。
至近距離まで油断させて近づいて、相手の刀を抜く手をそつなく押さえ込んで、脇差でブスリ。
もう、この不意討ち芸は、主水さんの真骨頂ですな。やはりギラギラと冷たい殺気を隠せない小五郎と違って、主水さんの場合は、ギリギリまで人畜無害そうな老同心にしか見えないもん。まるで、うらごろしの「おばさん」です(何だか、今回、うらごろしの例えが多いなあ^^;)。
瓦版屋殺し
老中・加納と手を組んで、「仕事人狩り」をネタにして、仕事人をおびき出すと共に一儲けしようと企む瓦版屋。
彼の殺しは、レンの担当。何だかんだ言って、レン、一番安全な的を狙った形ですな。仕事前の「小鳥を逃がした優しさ」が、無用の心配だったような。
まあ、「小鳥逃がし」と「瓦版屋との確執」と「涼次救出へのこだわり」と、ドラマはきちんと充実していたので、不満はないですが、まさか江戸に残留するとは思いませんでした。だったら、3ヶ月後に彼をスピンオフさせた1クール作品『必殺仕立屋稼業』なんてのも見たいような気が*2。
火野正平殺し
あ、いや、役者を殺してはいけません(爆)。
ええと、拷問人の名前は「仏の巳ノ助」。う〜ん、「念仏の鉄」と「巳代松」にオマージュを捧げたような名前ですね。まさに、「新・仕置人」テイスト満開だ。NOVAとしては、この点だけでも満足です。
そして、彼の犠牲になるのが、涼次。まさに巳代松状態で、そのまま再起不能に追い込まれるか、とドキドキでした。
で、涼次に口を割らせるため、如月までいじめる火野正平……あ、いやいや、ええと「仏の巳ノ助」。彼の如月イジメがどこまでエスカレートするか、それもまたドキドキでした。
その中で、展開される涼次と如月の信愛ドラマもいい感じ。
その後、小五郎による涼次の救出。
拷問のために、ほとんど動きの取れない涼次に殺し道具を渡してやり、
とどめを刺さずに半殺しにしていた火野、いや巳ノ助の始末を、「お前の仕事だ」と委ねます。
殺しの現場を、如月には見えないように配慮してやり、涼次の「仕事人としての本懐」を遂げさせてやる小五郎の優しさがいい感じ。
もう再起不能寸前までいった涼次の最後の仕事は、巳代松よりも、むしろ焼けた右手で骨を外す鉄のオマージュでしたね。レントゲンという共通点もありますし。
でも、これで涼次の最期になるかと思いきや、エンディングで、ちゃっかり回復しているじゃありませんか。如月の引っ張る大八車で運ばれながらも、旅路についた涼次。まあ、「巳代松&おてい」へのオマージュは分かりますし、ハッピーエンドで納得はするのですが、必ずしも、しっくりとは来ない微妙な気持ち。
もしも大河原さんの死がなければ、本作ラストは「新・仕置人」の気の抜けた劣化コピーという印象を持つところですが、大河原さんと火野正平ゲスト出演に免じて、十分許容範囲と考えましょう。最後に、中村りつさんも出ていましたし、源太の回想シーンなど、最終回らしい気遣いも見られましたので、悪くはなかった、むしろ良かったということで。
不満点
前回、スポットが当たった「お菊の過去」が本話では、きれいに流されたこと、ですね。
まあ、小五郎との会話で、「日頃は仲の悪い小五郎が、涼次に一目置いていたこと」を指摘するとか、
如月と旅立つ涼次を見送るシーンとか、
源太の墓参りとか、
他のキャラを盛り上げるための助演役は十分こなしていましたし、本来はそれが彼女の仕事なのですが、
最終回で涼次救出のためにアクションをこなす、いつもと違うお菊も見たかったなあ。
終わりにコントをどうぞ
小五郎「経師屋。まさか、お前が生き残るとはな」
故・源太の霊「せっかく、三途の川で待っていたのに、残念です」
涼次「ええい。悪霊は引っ込んでいろってんだ」
お菊「……まあまあ、みんな無事で何よりじゃないか。それに源太さん。あんたも、きちんと、墓参りはしてやったろ?」
故・伝七の霊「私の墓参りは誰もしてくれないのですかね」
小五郎「うわ、伝七。お前まで」
故・伝七の霊「まさか、昼行灯の渡辺さんが仕事人だなんて、思いも寄りませんでしたよ。そこのからくり屋さんから、いろいろ説明されて驚いているところです」
レン「何だか、オレの知らないところで、いろいろと亡霊が増えていやがるなあ」
如月「亡霊って、失礼なこと、言わんといてよ。そん中には、うちのお姉ちゃんも入ってるんだから」
故・玉櫛の霊「……もう、如月。人のことを呼ばないでくれる? せっかく成仏しかけていたのに」
涼次「うわ。ぐっし、お前まで。フグを供えてやるから、たたらないでくれ。せっかく拾った命なんだからよ」
主水「この稼業はな、生き延びたら、それだけ死んでいった奴の想いを引きずることになるんだ。心しておけよ」
お菊「でも、このまま死んでいった人を放ってはおけないよ」
小五郎「……仕立て屋。お前、その頭だろう、経の一つぐらい唱えられないのか?」
レン「いや、無理。オレ、坊主頭だけど、坊主の修行したことないし」
主水「仕方ねえな。ここは俺が一つ。『一太刀浴びせて一供養。二太刀浴びせて二供養。合点承知の必殺供養』ってことで、どうでえ?」
最後まで、うらごろしネタですかい。
ともあれ、久しぶりの必殺レギュラー放送の縁で、より親密になった人とか、新たにお知り合いになった人もいたわけで、それが何よりの喜びですね。
番組が終わってしまったことで、当ブログのネタなんかも見直さないといけませんが、とりあえず『必殺仕立屋稼業』でも『必殺仕事人2010』でも『経師屋涼次旅日記』でも何でもいいので、シリーズの火は絶やさないでもらいたいな、と希望。