一立て、二立て、三立てて、仕立てて殺して日が暮れて……って、今回登場の新仕事人「仕立て屋の匳(れん)」が小五郎と邂逅したときのBGMが、元祖「仕事人」のオープニングでして、ずいぶんツボにハマリました。
このBGM、アレンジテーマは「被害者の日常生活」でよく聞くのですが、「元祖仕事人のテーマ」とも言うべきこのボレロ調の音楽*1は、以降の作品では使用頻度が少なく、ここでの使用は、「あ、BGM的には、新仕事人から元祖仕事人に原点回帰する方向だな」と感じました。
それが証拠に、「匳の殺しのテーマ」は、「元祖仕事人の後期」に使われた殺しのテーマ*2。ともあれ、BGM的には、非常にNOVAのツボをついた匳くん初登場回であります。
脚本家の腕
今回の脚本は、森下直。
6話の「夫殺し」、8話の「一発勝負」と、今まで外れがない人です。
これまでの2009の脚本家を挙げるなら、メインは寺田敏雄。2007、2009新春スペシャル、「1話」、「10話」、「11話」の人ですな。NOVAの視点では、とんでもない変化球投手という認識。必殺のパターンにとらわれない物語を構築し、安心して見ていられない人ですな。
それだけに、「10話」「11話」の源太の悲壮な末路とか、ドラマの大きな転機を描くにはいいのですが、レギュラーとして脚本を量産されると、ツライな、とも思ったり。
何しろ、「玉櫛」「源太」の2人をあっさり殺してますから、「レギュラー殺し」の称号を進呈したい、と思います。次にこの人の脚本があるのは最終回ぐらい?
2009の平均的な脚本としては、「2話」「4話」「7話」の岡本さとると、「3話」「5話」の前川洋一ってところでしょうか。
岡本さんは、割と無難な話を書いてくる人で、基本的には「おちゃらけすぎない後期必殺の人情路線」ですね。連続ドラマとして安定した話を求める向きには、いい人だと思います。ピッチャーとして見るなら、「着実に安定した球を投げる職人さんだけど、球威も球種もそれほどでない」ってところですか。作風としては、レギュラーが積極的に動かず、被害者の方から事件が飛び込んでくる方向性。
それに比べると、前川さんのは「もう少しアクティブな後期必殺で、若干センセーショナルな仕掛けを施してくる」という感じ。レギュラーがいろいろ動き回るんだけど、割と空回りしている感じ(特に小五郎)。基本的には、小五郎が事件解決のために動くことは動くのだけど、どうも無能っぷりを発揮して、解決できず。その影で、涼次が調査活動で、おいしいところを持っていく印象。ピッチャーとしては、「すっぽ抜けのボール球の多い、微妙な変化球投手」。
「2009」の初期で、小五郎が何だかパッとしなかった要因は、この2人の脚本家のせい、とも言えますね。
あとは9話の後藤法子さんですが、「怪物親」はいただけなかった。時代劇の脚本家としては、あまりに時代背景が飛びすぎています。スタイルとしては、安定性の欠けた岡本さん、というところですが、まだ1本しか作品を見ていないので、断定はしないでおきます。
12話の瀧本智行さんは、脚本内容的に悪くはなかったと思うのですが、「源太の死の後始末」で割を食った感じですね。推測ですが、書いた人の感触としては、「自分の書いたストーリーに、思いがけないイベント話を付与されてしまって、う〜ん」ってところでしょうか。経歴を見ると、自分で監督した映画もあるようで、割と多彩な人って感じもするのですが、真価は次の機会に、ということで。
で、改めて森下直さんです。
自分的には、パッとしない小五郎さんを一気に「すごい人かもしれない」と思わせてくれた『夫殺し』で、期待の脚本家さんとなりました。そして、8話の『一発勝負』は、主水さんのエピソード。それまでは割とお飾り的だった主水さんが、このエピソードで精彩を取り戻したと思います。
割と、それまで目立たないキャラに思いきり光を当てて、本領発揮させるのが森下さん、という感じですね。一方で、光から一気に闇に突き落とすのが寺田さん?
その意味で、森下さんに登場脚本を書いてもらえた「匳」は幸せと言えるでしょう。寺田さんだったら、自分が生み出したキャラを簡単に殺してしまうでしょうが、森下さんは「匳」を大切にしてくれると思う、きっと。
仕立て屋の匳
ともあれ、匳です。
名前が普通に変換できないので、コピペしまくりです(笑)。
めんどくさかったら、そのうち「レン」と表記するかもしれませんし、「仕立て屋」「坊主頭」「チンピラ小僧」と書くかもしれません。でも、キャラとしてあまり悪い印象はもっていないので、あしからず。
源太の代わりに入ってきたこの新人がどのように描かれるか、それがポイントですが、少なくとも仕事人としては動かしやすいキャラと思いました。
キャラタイプとしては、「火野正平の正八」や「山本陽一の日増(スキゾー)」みたいにチャラチャラ動いて、人情発揮しまくりの若者成分を持った「未熟な念仏の鉄」ってところでしょうか。ええと、「念仏の鉄や、藤枝梅安みたいな伝説の大御所めざして格好をつけたがるけど、力量がともなっておらず、また、どうしてもそこまで達観できていない」ってキャラ。
ここで注目すべきは、「チャラチャラ動く」というところです。2009チームではいなかったですからね、そういうの。一番の新人の源太が真面目すぎて、感情的に叫ぶことはあっても、日常的に走り回ることはしない。まあ、周囲の大人の大店抗議運動に付き合うぐらい。遊びもできず、情報収集もできず、できることと言えば、「作太郎の付き添い」と「からくり細工」だけ。どちらかと言うと、殺しよりも殺しのサポートに回す方が無難な「平成の西順之助」でした。
で、その源太の動かしにくいところが、レンでは改善されています。彼なら、「何でも屋の加代」さんや、「捨三」さんや、「正八」さんや、その他の情報収集役同様に江戸の街中、走り回って、ネタをいろいろ集めてくれることでしょう。これまで、落ち着いたメンバーばかりで、インドアキャラばかりと言われた2009チームに、アウトドアの風が吹き込んだ、と言えるでしょう。
現に、今まではもっぱら「涼次が屋根裏に忍び込んで盗み聞き」というパターンだけだったのに、今回は「レンが床下に潜り込んで盗み聞き」という新パターンが生まれました。源太の場合は、せいぜい「追跡相手が門の中に入った」ところまでで追跡断念していましたからね*3。
今後、レンが「下調べに走り回る活躍」を期待したい、と思います。
次に、殺し技ですが、「糸による絞め技」という点で源太を踏襲しつつ、「接近戦」であり、しかも「針の付いた糸」を相手に絡めて、堀に引きずり下ろすなどの小技も駆使したアクティブな殺陣を披露。
接近戦での絞め技の系譜だと、レギュラー技として元祖は仕業人の「赤井剣之介」。相手の髪の毛で首を絞めるという、坊主相手には無効な技だったりしますが、まあ、それはさておき。
あとは、橋掛人の「柳次」くらいですか。
一応、組紐屋の竜も、組紐を投げずに、接近戦で絞殺したこともありますが。
まあ、そんなわけで、NOVAは新仕事人のレンを、これまでの2009チームに欠けた要素を補う新人として、評価しているのですが、小五郎や涼次との対立関係もこれまで以上に面白くなりそう。今までは、涼次が「クソ役人」と罵って、それに小五郎が怒りを表明するだけでしたが、これからは「レンVS涼次」「小五郎VSレン」など対立軸が錯綜する代わりに、その回ごとに「町人同士の縁で涼次がレンとつるんだ」り、「先輩同士の縁で小五郎が涼次と結託した」り、いろいろ対立関係にもバリエーションが出るはず。でも、小五郎とレンが仲良くする構図は目下、想像できませんな。
*1:元はダンス音楽に起源を発するみたいですが、「タッタタタ、タッタタタ、タッタタタ、タタタタ」という単調なリズムを基調とする音楽。あの『水戸黄門』の主題歌もこのリズムですし、必殺シリーズでは『仕置人』のオープニングもこんな感じ。出陣テーマとしては、後年の曲に比べてスローテンポながら、悲壮さと決然さを融合させたテンポとメロディーが好み。
*2:元は『新仕置人』の出陣テーマですが、NOVAは先に元祖『仕事人』を視聴したため、秀のかんざし殺しや左門の腰骨外しの印象が強い。
*3:これが現代のスパイアクション物であれば、「からくり細工に盗聴器を仕掛けて、傍聴任務を果たす」展開もありでしょうが、まがりなりにも時代劇である必殺では、「からくり」は万能ではない、ということで。