童山改めカルタの力の登場。
そして、中村主水こと藤田さんへの哀悼。
昨夜、語ったこの2点を除けば、「仕事人2010」は、これまでの「仕事人2009」のプロットを焼き直した作品と言えます。つまり、新しい要素はほとんどなくて、今までの物語を総括しただけの作品。
もちろん、これは藤田さんの逝去もあるので、全く新しい物を見せても、「継承」というテーマは果たせないという理由もあります。
また、レギュラー放送なら、いちいち総括しなくても、キャラらしさは物語の進展に応じて描かれていくものだけど(これがうまく描かれない作品は、単純に作り手が下手なだけ)、
不定期なスペシャル放送なら、その折ごとにキャラの再確認とか総括の必要はあると思う。
今回の2010は、そういう事情もあって、改めて、小五郎、涼次、そして匳について、これまでの2009の文脈に乗っ取って描き直した作品と、自分は定義します。そういう観点から、キャラ別考察を。
渡辺小五郎
今回は、女房の妊娠騒動など、商売人の主水と同じような悩みを抱えた彼。もっとも、結果的に、ラストで妊娠は間違いと判明し、まあ、そういう部分は小ネタに過ぎなかったとしておきます。
じゃあ、小五郎パートのメインテーマは何か? となると、
「過激な理想主義の正義漢の侍に共感を覚えながらも、転向して悪事を行った彼を、仕事人として叩き斬る」に尽きます。
これって、実は、「2009の新春スペシャル」を、ほぼ踏襲しているわけですね。
どうも、小五郎の旧友とか、知人は、亡き大河原さんも含めて「過激な理想主義の正義漢」が集まって来やすいようで。これは、主水さんとはちょっと違ったキャラ設定。どちらかというと、小五郎には、糸井貢と同じ「インテリな知性派キャラ」の匂いを感じます。
中村主水プラス糸井貢を足して、蘭学を引いたりして2で割ったら、渡辺小五郎になるわけですか。
で、小五郎自身は、自分の正義心を封印して、表はチャランポラン、裏では怒りの剣を叩き込む凄腕剣客となっているわけですが、
たぶん、他人の理想主義には、距離を置いて見守りつつも、気になるわけですな。現実では、理想がうまく実を結ばない、と理解しつつも、そのために邁進している危なっかしい連中の行く末に、冷笑は向けられない。もしかすると、自分の捨てた理想をかなえてくれるのでは? という気持ちを抱きながら、道を踏み外した相手を自分の影法師のように斬って供養する。
こんなところでしょうか。
風間右京乃助
ということで、今回、小五郎のダークサイド的な立場のラスボスについて。
基本的には、真面目な堅物で「痛みをともなう改革」を強引に推し進める理想主義者。ただし、自分の政策のために職を失った下々の者に同情して、身分と名前を偽り、援助活動を行ったりもします。
それが何の因果か、周囲の人々に次々と裏切られ、逆ギレした挙句、「自分の理想の政治を実現するには、邪魔者を粛清し、悪事に手を染めても権力を手に入れることが必要」と道を踏み外すことに。
彼が道を踏み外した要因は以下に。
- 後ろ盾の老中の「事なかれ主義」に憤る。
- 関係を持った町人の娘の懐妊に動揺する。
- 自分の理想(侍と町人の身分差の解消)を聞いてくれた友人が、話を曲解して侍殺しに手を染めていたことを知る。
ドミノ崩しのように、自分の理想が一気に崩壊したことで、精神が一気にダークサイドに。
信頼していた上司も、友人も、自分の意に反した人物であることを実感して、感情を抑えることができなくなった。それには、まあ、彼の立場として同情できなくもない。
でも、娘の懐妊に動転するって何よ? やることをきちんとやっちゃったから、その結果が当然できちゃったわけでしょ? 理想主義の政治家が、ついつい出来心で身分違いの娘に手を出してしまったら……という自制心のなさには共感できません。
あ、たぶん、「悪役を演じることに疲れて、つい娘の優しさにつられてしまい……」という心理を脳内補完すれば、まあ、理解できなくはないか。でも、やっぱ理想を貫くには自制心がなかったんだな。あと、自分の理想で頭がいっぱいで、周囲の反応には無頓着というか、典型的な「頭で考えるけど、人の気持ちの分からない人」になるのかな。
でも、小五郎に対して、綺麗事は言ったりする。
ま、こんな彼の転向ぶりが理解できるかどうかが、本作の評価につながるかな。ともあれ、「真面目な理想主義の侍が、うまく噛み合わない現実に絶望して、悪事に手を染める話」ってのは、2009では時々見られたしね。黒頭巾の話なんかも見方を変えればそう取れるし。
涼次と如月
この2人は、当然セットで。
2009の最終話で、火野正平の拷問を乗り越えて、互いに理解し合った2人。全身ズタボロの涼次を如月が台車で運んで、仲良く旅に出た2人。
で、その後、当然、2人は男女の仲に、あるいは仲睦まじい兄妹として、共に登場する……と思っていたら、あら?
元気になった涼次は、何だか無宿人っぽい出で立ちで、貧村を舞台に食料泥棒やってます。如月の姿はどこにもない。
結局、涼次は、うざったらしく付きまとう如月から、逃げた感じですな。
で、そんな貧村で、子供の願いを聞いて、殺しの仕事を引き受けた涼次。
江戸に戻って、服を調えるために仕立て屋さんに行ったところ、留守だったり、紆余曲折あって、小五郎たちと合流。
まあ、涼次は相変わらず涼次で、一方の如月も相変わらず如月。
そうと知らずに、事件の被害者(予定)の周りでチョロチョロして、好意でしたことがことごとく裏目に。
もし、彼女が懐妊話を右京乃助に打ち明けるきっかけを作らなければ、彼の暴走も防げたのでは? と思ったりしますが。
ただ、如月としては、自分より年上の娘を見ると、死んだ姉のことを思い出して、ついつい同情してしまうという背景もあるので、責める気にはなれない。ただただ、間が悪いとしか言いようがないわけですな。
ともかく、何も変わってない涼次と如月の関係……と思いきや、
仕事の依頼をする如月のシーンで、彼女の心情吐露。
「涼次が如月を守っていた」ように、如月も「人を守ってあげたかった」。でも、自分にはその力がなかったので、「もう涼次には関わらないようにする。その代わり、恨みを晴らして」と。
そんなわけで、ラストも、涼次に見送られ、旅立つ如月で、この2人の関係はエンド(?)。いや、自分としては、今度はカルタの力のところに世話になっている如月なんてものを、期待したくもあるのですが(笑)。
というか、如月はもういいから、玉櫛相当のアクションできる女仕事人を希望したりも。
仕立て屋の匳(れん)
ええと、彼をカタカナで「レン」と書いてしまうと、ウイングナイトと混同しそうなので、コピペで漢字表記。
匳については、髪が伸びたことを除いても、キャラ変わったね、と。
当初の彼は、「一匹狼でふてぶてしい」印象でしたが、今回は完全にチームになじんだからか、より軽薄になった感じ。ちょっと精神年齢下がったようにも。
殺しの現場を見られて、動揺して、小五郎に叱られるのは、何だか亡き源太のキャラをも引き継いだようにも思えました。明るく軽い源太? 思わず、寿司を注文したくなります……って、それは別の作品だ。
主水さんとの付き合いが短いからか、彼を偲ぶネタも特になく、今回、一番割りを食ったキャラかなあ、と思います。
まあ、踊っているだけで、結構、目立ってはいたんですけどね。
お菊
最後に、この人。
ええと、主水さんのいない自身番屋にたむろしたり、相変わらずの元締めぶりを発揮したりしています。今回は、童山こと力に連絡を付ける役どころも担当しましたが、自分自身はドラマにはあまりタッチせず。
何だかんだ言って、本作で過去とかが一番謎な彼女。それを知ってそうな主水さんも、西方へ旅立ったからねえ。
今後、彼女の過去編が語られるのを期待したいと思います。それと、扇子で舞い殺す姿も見たいな、と。
PS:ま、今回の放送については、こんなところで。次作「2011」を期待しつつ。