今回の話も、完成度が高かったです。
脚本家「森下直」さんは、第6話も考え合わせると、本シリーズでストーリー期待度の一番高いお方と言えましょう。
割と変化球気味だった6話に比べて、今回は比較的ストレートな人情物。それでも、単純なパターン話ではなく、「スリという裏世界に生きる男たちの生き様」と「すれちがった親子の関係」が共に描かれた傑作。
本シリーズでスリ、というと「如月」の名前も出てくるのですが、彼女は「組織に所属しない流しのスリ(よそ者)」で、今回の話に登場すれば、命の危険さえ伴ううえ、ストーリーの雰囲気を損ないかねないので、登場しなくて正解。
仕事人キャラですが、主水さんの主役編で、小五郎も、涼次も双方の人間関係で、しっかりと絡んでいます。
小五郎の場合、「下手に関わって、大事に巻き込まれるのを面倒くさい」と断ずる腐れ役人ぶりは相変わらずですが、それでも「事件の流れに目を光らせる」だけの才覚は示しており、ただの無能ではない今回の描かれ方はOKです。つまり、「面倒くさいから全くタッチしない。よって何も知らない、知ろうとしない」というのと、「一応、情報収集はして状況は把握しつつ、必要以上には手を出さない」というのとでは、裏稼業に生きる者としてのスタンスが全く異なるわけで。
涼次に対して、「お前のネタと、俺のネタ、合わせてみる気はねえかい?」と、情報交換を持ち掛けるセリフも、いかにも対等のプロって感じでグッド。
涼次は、相変わらず便利キャラ。たまたま事件を目撃したり、天井裏に潜んだり、大活躍。本シリーズでのチーム内情報収集能力の半分近くは、彼が握っています*1。
で、今回、事件には全く関わらなかった源太ですが、物語のテーマ、すなわち「親子関係」には絡んでいて、
「実の親子なのに、すれちがったスリ父子」と、「義理の親子なのに、絆で結ばれた親子」の描かれ方は、対比的にうまいなあ、と。
スリの技術を継承したものの、それを不服とする息子。
一方で、源太のからくり技術を尊敬する一方で、自分の料理の技術を伝授する作太郎。
前者の「不器用な父親の愛情」と、後者の「双方向の交流」は、一つのテーマで見ると、味わい深いです。
昔っぽいサブタイトルを勝手に付けるなら、「あんた、この親子をどう思う?」*2とでも付けたくなるのですが、そんなことをしなくても、今回のサブタイトル『一発勝負』は十分昔っぽかったりします*3。
涼次の殺し
「俺の弁天さまを泣かせやがって」
もう、この一言だけで、事件に関わる動機としては十分。
でも、殺しの場面では、完全に前座ですな。
屋根から飛び降り、ザコのスリをこっそり始末。
源太の殺し
今回の秘密道具は、自動花枝運搬機。英語名は、「オートコントロール・フラワーキャリアー(ACFC)」。相変わらずのオーパーツです。どこかに「サイコミュ」とか「脳量子波による遠隔コントロール端末」でも仕込まれているのではないか、というぐらい、好都合に動いてくれます。
で、的がおびき寄せられると、ポンッとクラッカーのように、花吹雪を撒き散らして相手の目をくらまし、源太の殺しをサポート。前回に比べ、地味なのか派手なのか、評価は微妙ですが、前回の花火よりも季節感には満ちているので十分楽しめた、と。
ちなみに、NOVAが的になっているなら、「花粉をばらまかれたら大層効果的」です。くしゃみ鼻水連発で、全く無抵抗に成り果てます。いや、まあ、同じ効果なら「こしょうばらまき機」の方が、汎用性が高いでしょうが。
小五郎の殺し
相変わらず、ドラマ性には関係なくトリを飾ってくれますが、ここでは主水さんに座を譲ってもらいます。
一応、桜の木の下で、悪徳商人を待ち構えて、斬り捨てるというきれいな画面描写。
さらに、即斬り捨て、ではなく、一度、首筋に刃を当て、脅し文句を口にした後でバッサリ、という気の利いた演出。
ところで、脚本の意図にあったかどうかは不明ですが、ストーリーテーマである「親子関係」。
小五郎を「婿殿」と呼ぶ主水の口調からは、主水が親、小五郎が息子、という解釈も成り立たなくはない? まあ、藤田さんには『剣客商売』という親子剣士物の傑作ドラマもございますが、改めてそういうイメージを付与してみる?
主水のドラマ
いやあ、本シリーズで、主水はただの宣伝効果以上の役割を期待していなかったのですが、改めて主役回が描かれると、いいなあ、と感じた次第。
長門さん演じる老スリとの「年寄り同士の因縁」が非常にいいドラマになっています。老スリが、主水の裏稼業に気付いていたのかは、はっきり示されませんでしたが、それでも十分にそうだと臭わせる演出。
スリと仕事人、老練同士の奇妙な絆と、互いの領域に必要以上に踏み込まないまでも、散っていった相手の思いや仕事を引き継ぐ主水の粋ざま。実に良く描かれていました。
さらには、「後のことは八丁堀に任せろ」と言い遺した老スリの恨みを、ゲストヒロインの嫁が主水に訴える場面。仕置人オープニングのBGMがいい感じに流れていましたが、その場では仕事を引き受けず、かたくなに拒み通す主水の姿が泣かせます。つまり、あくまで役人の顔を崩さず、人情に負けて金を受け取ることをしない、プロの仕事人のあり方が示されたわけですから。
それをフォローすべく、「仕事の正式な頼み方」を陰から示唆するお菊。そう、物語の流れでなし崩しに段取りを省略するのではなく、きちんと依頼システムを見せる方がプロって感じですな。
殺しの場面は、老スリの遺した「敵の刀」を、主水が「元の鞘」に戻すことで決着。
本当は、小五郎でなく、今回ぐらい主水で最後を飾って欲しかった。
藤田さん関係、オープニング&主題歌うんちく
ええと、今回、主水の主役回ってことで何を語るか、困ってしまいました。
中村主水の殺しのバラードは、すでに語っていますからね。
でも、今回の「仕事屋稼業」風のサブタイトルで思いついた次第。
どうせあの世も地獄と決めた
いや、このサブタイトルは、オープニングではなく、第1話のエンディングなんですが。
必殺シリーズ第5弾『必殺必中仕事屋稼業』は、中村主水シリーズではないのですが、ナレーションに藤田さんを採用。
『金に生きるは下品に過ぎる。恋に生きるはせつなすぎ。出世に生きるはくたびれる。
とかくこの世は一天地六、命ぎりぎり勝負にかける。
仕事はよろず引き受けましょう。
大小遠近男女は問わず、委細面談・仕事屋稼業』
サイコロ振って、ギャンブル感覚で裏稼業に臨むってのは、テーブルトークRPGやボードゲームのファンとしては、非常に感情移入できる設定のシリーズです。
そしてエンディング・ナレーション。
『どうせあの世も地獄と決めた。
命がっさい勝負にかけて、
燃えてみようか仕事屋稼業。
よござんすね、よござんすね、勝負!』
ある意味、今回の長門さんのキャラをイメージしても通用しそうな文言です。「仕事屋」の部分を「スリ」に変えたりすれば、完璧。
合点承知の必殺供養
仕事屋の次は、素直に「一筆啓上」で始まる『仕置屋』のナレーションを語りたくもあるのですが*4、今回は藤田さんスペシャルですので、ナレーションを担当した第14弾『翔べ! 必殺うらごろし』まで飛ぶわけですな。
『二つの眼を閉じてはならぬ。
この世のものとも思われぬ、この世の出来事見るがいい。
神の怒りか仏の慈悲か、恨みが呼んだか摩訶不思議。
泣き声見捨てておかりょうか。
一太刀浴びせて一供養、二太刀浴びせて二供養、
合点承知の必殺供養』
まあ、一応、今回のストーリーでは二太刀浴びせていますがね。
主水で一太刀。
小五郎で二太刀。
それで今日は何処のどいつをやってくれとおっしゃるんで
そして、第15弾、元祖の『必殺仕事人』です。基本は芥川隆之氏で、最後の主水のセリフだけが藤田さんですな。
『一掛け、二掛け、三掛けて、
仕掛けて、殺して、日が暮れて、
橋の欄干腰おろし、遥か向こうをながむれば、
この世は辛いことばかり。
片手に線香、花を持ち、おっさん、おっさん、何処行くの?
私は必殺仕事人・中村主水と申します。
それで今日は何処のどいつをやってくれとおっしゃるんで』
このフレーズ、NOVAが初めて聞いたのは、映画『THE必殺』の劇中にて。
仕事人の壊滅をもくろむ強大な闇の組織・六文銭一味に対して、命懸けの戦いに赴く覚悟をした主水が、出陣の際、「この世は辛いことばかり」の部分まで、歌にして口ずさむわけで。
このころは、必殺シリーズ視聴がまだ二年目の中学生で、その長い歴史に足を踏み入れたばかりの時期。映画のパンフレットを買って、そこに紹介された過去作品の殺し屋たちのリストを見ながら、どんな作品だろう? と想像を深めていました*5。
さよならさざんか
ここから主題歌に、話が移ります。
第23弾『仕事人V』および、続く24弾『橋掛人』の主題歌を歌ったのは、藤田さんの娘さんの絵美子嬢(当時、中2)。殺しのテーマにもアレンジされ、印象的な曲の一つでした。
この曲に乗って、村上弘明が花の枝で首筋を刺し、京本政樹が鈴付きの組紐で悪人を吊り下げる姿は、今でもまぶたに浮かびます。
主水さんのバラードも、この曲のアレンジバージョンでした。
さらに、萬田久子が斉藤清六を目掛けて瓦を投げ(若干語弊あり)、『ゴジラ1984』で印象的だった宅麻伸が吹き矢を射ち、橋掛人って飛び道具率が高いなあ、と思っていたのも今となっては懐かしい。
月が笑ってらぁ
そして御大・藤田まこと氏の歌う30弾『激突!』主題歌です。
20代の時にカラオケで歌ってみたけど、どうも若すぎて、似合わなかったよなあ。
でも、あれから年月を重ねて、自分もこの歌が違和感なく歌える年になったかも。
この歌の最大の心残りは、せっかくの藤田さんの歌なのに、殺しのテーマとしてアレンジされなかったこと。せめて、主水の殺しのバラードにアレンジされていれば、新たなイメージを付与できただろうに。
さらにアップテンポにすれば、アクション曲としても格好いいはず。
どうも、その作品の専用曲が作られないと、製作スタッフのやる気のなさを感じて仕方ないんですね。本気で、2009以降の続編を期待する者としては、『鏡花水月』BGMをしつこく、この場でリクエストしてみる次第。