感想はつづく
NOVA「6巻って話は比較的短いのに、何で感想はこんなに長くなったんだろうな」
晶華「寄り道脱線回路のせい……ばかりではなさそうね」
NOVA「半分ぐらいは、それが理由だろうけど、感想を書いていて思うのは、6巻が時空トリップ物であり、作者の懐古が盛り込まれているから、こちらの懐古癖が刺激されたんだと思う」
翔花「懐古って言っても、1977年と1999年だけじゃない?」
NOVA「エディは80年代キャラだし、スザンナは60年代キャラだからな。つまり、この作品の中で、60年代、70年代、80年代、90年代、そして2004年のキング自身のイメージが交錯しているんだ」
晶華「80年代キャラから見た70年代、60年代キャラから見た90年代の話ってこと?」
NOVA「もっとも、ただのタイムスリップじゃなくて、異世界を間に挟んだり、多重人格の内面世界が絡み合ったりするから、その面白さがストレートには読みとれない。そもそも、アメリカの習俗について、俺の知ってる知識は断片的だから、感覚的につかめていない部分もあって、例えばエディの出身地であるコープシティのネタがどういうことか、この感想記事を書くまでピンと来ていなかった」
晶華「コープシティがブロンクスにあるのか、ブルックリンにあるのかってこと?」
NOVA「現実はブロンクスなんだが、エディは何故かブルックリンだと思い込んでいた。その謎を確認するため、キングさんにも質問するんだ。コープシティはどこにあるかって。するとキングさんは、ブルックリンだろって答えた。この意味が分かるか?」
晶華「作者が間違えていたってこと?」
NOVA「2巻でエディの物語を書く際に、勘違いしていたみたいだな。おそらく、読者からも指摘する声があったんじゃないかなあ。そういう作者のミスも話のネタにしたとか、そんな感じで、いろいろと自己ツッコミの要素に溢れている。巻末の日記も面白くて、80年に『ペット・セマタリー』の原稿を完成させて、何て陰鬱な話だ、これを出版すれば読者の袋叩きに合いそうだから、お蔵入りにしよう……なんてことを書いてある」
翔花「でも、結局、出版されて、映画化までされているわね」
NOVA「出版されたのは83年だな。『作者が、あまりの恐怖のために発表をしたがらなかった』という売り文句付きで。で、その後、89年に映画化されたんだけど、邦題についてもネタがある」
晶華「ペット・セメタリー? ペット・セマタリー? どっちが正解?」
NOVA「正しい英語は、cemetery(共同墓地)が正解なんだが、劇中の看板では『つづりミスでSEMATARYになっている』という設定なんだな。だから、作品タイトルとしては、つづりミスの方が正解ということになるんだけど、映画の邦題は正しい英語に合わせた。だから、セマタリーというのが小説ファンで、セメタリーというのが映画ファンという見分けも付けられる」
翔花「原作小説と映画タイトルが違うわけね」
NOVA「『指輪物語』と『ロード・オブ・ザ・リング』、『ゲームウォーズ』と『レディ・プレイヤー1』と同じようなややこしさだな。まあ、それはともかくキングの予想に反して、『ペット・セメタリー』の映画は売れて、ターミネーター2のジョン・コナー少年を演じたエドワード・ファーロング主演の続編映画も92年に作られたけど、そちらはキングのお気に召さなかった内容らしい。そして、2019年にリメイク映画も作られたみたいだな。見てないから批評はできないけど」
晶華「埋葬した動物や人が蘇ってくる呪術墓場をテーマに、家族愛がもたらす恐怖とせつない悲劇の物語ね」
NOVA「要は、ゾンビになった家族を愛せますかって話なんだけど、生命の倫理観とかいろいろあってややこしい。個人的には、真っ当なコミュニケーションが取れるなら、生きてようが死んでようが気にしないが、腐敗して臭いのは嫌だな。むしろ、肉体を持たない幽霊の方が好みです。そして、たとえ生きてようがコミュニケーションの困難な相手よりは、アンデッドの方がいいかな。まあ、俺のライフスタイルを脅かさない範囲で」
晶華「吸血鬼になるのを拒んだぐらいだしね」
NOVA「ニチアサがリアルタイムで見られなくなるからな」
晶華「でも、スーパーヒーロータイムが深夜放送になったら?」
NOVA「最近、思うんだ。50年後の仮面ライダー100周年を見るために、不老不死の吸血鬼になることを勧められたら、どうするだろうかって」
翔花「結論は?」
NOVA「吸血鬼になったら、仮面ライダーへの興味とか情熱とかが消えて、また別の価値観、倫理観で行動すると思うんだ。仮面ライダー? 吸血鬼となった我に、そのような卑小なヒーローなど何の価値もないわ。人間だった自分が今となってはバカみたいに思えてくる。そう、世界で一番尊いのは、我がマスターよ。大首領さま万歳……って言ってる俺は、果たして俺なんだろうか?」
晶華「悪の組織に洗脳されて、コウモリ怪人になったNOVAちゃんか。だったら、私も使い魔として喜んでお供するわ」
NOVA「いや、できれば洗脳を解いて欲しいんだが。俺のアイデンティティの一つであるスーパーヒーロー愛を失ってまで、長生きしたいとは思わないが、たぶん、それも同好の士がいてこそ支えられている面もあると思えるし、この辺は『世界の全てを敵に回しても、俺は仮面ライダーを愛し抜く』と言い切れるかどうか」
翔花「一人になっても愛し抜く強さは持ってないの?」
NOVA「だから、何でわざわざ一人で孤立する選択をするんだよ。そうなる前に、自分の好きなものを宣揚して、同好の士を募るのがファンとしての王道じゃないか。まあ、年を重ねて、みんないなくなって、自分一人だけが昔のヒーローにしがみついているのも寂しく思うだろうから、次代のファンへの継承も望むところだな。独りじゃなくて、受け継がれる想いが大事。想いを託せる相手がいることが幸せだと思える今日この頃」
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