久しぶりの書籍ネタ。
講談社の平成ライダー小説は、2012年の年末頃に、「オーズ、カブト、W」の3作が出て、こちらも、その時期に感想を書いてたわけですが、
その後、積ん読状態になって、読んでも感想書かなかったり、ブログ記事としては続かなかった、と。
でも、まあ、今回、久々に「フォーゼ」小説が出たので、感想書く気になったということで。
フォーゼ
タイトルが、「天・校・卒・業」ということで、フォーゼこと弦ちゃんたちの卒業式にまつわる事件を描いた話で、純粋にテレビの後日譚になってます。
講談社のライダー小説を軽く総括すると、「テレビの設定を踏襲したもの」は素直に読めるのですが、中には「テレビのキャラを使いながらも、設定を改編・再構成したパラレル物」があったりします(とりわけ井上敏樹絡みがそう)。
後者の場合、そのアレンジ具合を楽しめるならいいのですが、テレビシリーズのファンであればあるほど、改編部分が許せなかったりもして、評価が難しくもなります。
で、フォーゼの場合は、どうかと言うと、テレビ及び劇場版の設定を完全に踏まえて、「ファンなら買い」と。
テレビシリーズは、放送時期(2011年9月〜翌年8月)の都合もあって、美羽先輩と大文字先輩の卒業は描かれたものの、主人公の弦太朗たちの卒業は、最終回で「理事長に対して卒業キック授与」という形で、擬似的に描かれたものの、それ以降は、年末のMOVIE大戦で、「5年後に教師をしている弦太朗」という話になったので、その間が空白になっていた、と。
本書は、その最終回と年末映画の間の空白を、見事に埋めてくれたな、と。
そして、具体的な内容は、「スコーピオン・ゾディアーツこと園田先生のその後」「キャンサー・ゾディアーツこと鬼島のその後」「なでしこの素体となった昴星高校の美咲撫子と、弦太朗の出会いと絡み」などがポイントかな。
他には、「ライダー部の新人の黒木蘭&草尾ハルの掘り下げ」とか、「新しくライダー部の部長になった野座間友子の心情」とかが楽しめた。
テレビで描けなかった心残りを、プロデューサーの塚田さんが、うまく補完してくれた作品と。
とりわけ、メインは園ちゃんですね。
彼女は、ヒロインのユウキと同じように「我望理事長に憧れて、宇宙飛行士志望の夢を持って天高に入った」けれど、その後、道を踏み外して、というか、彼女としては「念願かなって、我望さまの夢をお手伝いするために、人類を進化させる目的」でゾディアーツになった、と。
彼女が教師になったのも、「教え子をゾディアーツに導くため」という動機だったため、最終回以降、弦太朗によって解放された後も、「我望さまを殺したフォーゼが許せない」という気持ちが拭い去れなかった、と。
そんな彼女が、弦太朗と和解して、新たな人生を見出すまでの話が大筋。
ツンモードの園ちゃんが葛藤して、最後は弦太朗にデレるまでの段取りが丁寧に構築されており、
さらに、ゾディアーツ4体との戦いとか、オリジナルライダー・仮面ライダーイカロス(なでしこの悪の分身みたいな出自)とか、仮面ライダーらしい戦闘シーンも充実。
結論として、フォーゼを楽しんだファンががっかりするような内容ではない、ということで。
おまけ
他の作品(読了済みのもの)についても、簡単に総括。
クウガ
ツイッターでの自分の感想引用
クウガ小説読了。成長した夏目実加が活躍する話。そして、生きていたバラのタトゥーの女とか、封印されたグロンギの遺跡は一つじゃなかったとか、新たなクウガの物語に感動。思いがけず、2号ライダー登場とか、クウガ本編ではなかったライダーバトルとか、楽しいネタ多し。
小説としての完成度は、Wに匹敵するぐらい高かったと思う。満足度も高く、五代の登場シーンがあまりにも少ないことを除けば、文句なし。まあ、一条視点の物語で、五代を戦わせたくないという彼の気持ちに共感できるので、作品としての欠点にはならないけど。
テレビの本編を踏まえた上での、後日譚。
クウガファンは満足できるか、と。
アギト
真魚ちゃんを主な視点キャラにしながら、津上翔一、氷川誠、芦原涼の3人にほのかな恋心的な感情を抱きながら、本編のストーリーを整理。
原作とほぼ同じ設定はG3氷川。
ギルス亮は原作の女性関係をなくして真魚ちゃんのワイルドな恋人候補に。
そして、キャラの性格は原作を踏襲するものの、背景設定が大きく異なるのが翔一。
まず、あかつき号ではなく、「あかつき村」。
そして、テレビではあかつき号の生き残りの一人が翔一だったわけですが、小説では、真魚ちゃんの方が、「集団虐殺事件のあった、あかつき村出身の生き残り」となっています。
で、虐殺の犯人が「アギト」なんですが、ここでのアギトはアンノウン(ロード)に敵対する新人類ではなく、新人類を滅ぼそうとする高位のアンノウンと劇的に改編されています。
だけど、たまたま村にやって来た翔一がアギトに襲われたところ、翔一の超能力(相手を自分の体内に封印する)が発動し、「翔一=アギト」と一体化する、という設定。
これで、封印の副作用で翔一は記憶を失ったのですが、「アギトによる虐殺の記憶」がフラッシュバックして、「自分は殺人犯では?」という疑惑にさいなまれることにもなるのですが。
まあ、テレビのアギトを題材に、整理・構成し直したミステリー風味な別話ですな。
テレビの設定にこだわらなければ、楽しく読めたな、と。
龍騎
城戸真二と、劇場版のヒロイン、ファムこと霧島美穂の関係に焦点が当たってます。
仮面ライダー同士のバトルロイヤルという根幹設定は保ちながらも、参加者の性格が、よりダークで格好悪い方向に改編されてます。
ゾルダこと北岡さんは若年性痴呆症(記憶障害)で、優秀な弁護士だったのが、どんどんダメになっていくのを改善するために、ライダーになった。だから、北岡視点で、物事が次第に認識できなくなり、それをフォローする吾郎ちゃんの姿が、あまりに悲しく映る。
王蛇こと浅倉は、殺人鬼という設定は同じだけど、その理由が、「母親に、便所で生み捨てられ、糞まみれの状態から保護施設で養われるようになった」という設定。浅倉視点の描写では、「彼は人間に対して、時おり糞のような臭気を覚えるようになり、赤ん坊のときのトラウマを刺激するために、その臭気から逃れるために殺人に及ぶ」という形。テレビの浅倉にピカレスクロマンのような格好良さを感じていたファンは、糞まみれにされたことにイライラさせられること受け合い。
それに比べると、真面目な刑事の息子だったけど、悲劇的な最期を迎えた父の姿を見て、持ち前の正義感が信じられなくなって鬱屈してしまった秋山蓮は、まともな扱いだな、と。
ともあれ、井上敏樹氏のダークでダーティーなキャラ改編を受け入れられる人向け。あとは、劇場版以上にしっかり描写された霧島美穂のけなげさ、はかなさの描写は好ましいです。