番組開始前に、「哀悼の意を表明」のお知らせ。
本作は別に追悼番組じゃないんだけど、結果的にそうなってしまったわけで。
もう、涙は出ないけど、たった一週間前の出来事だったんだな、と実感したり。
改めて、前回の記事を読み返して、「過去の必殺と絡まる要素」をいっぱい感じたのは、何かの虫の知らせだったのか。その時から、もう、この一週の間に、いろいろ過去を振り返らせてもらいました。まだ、全部は終わっていないので、もう少し振り返るつもりだけど。
で、この話も、そういう過去の主水をいろいろ堪能できる話になっていれば、収まりがいいんだけど、残念ながらそうじゃなかった。
むしろ、ドラマ的には、主水や商売人レギュラーがほとんど絡まずに外野にいるような話。
普通なら、ちょっと否定論調に傾きそうな話だけど、このタイミングで、そういうのを書くのもKYな気もするので、何とかフォローしようと思いつつ。
感想
一言で言えば、「男女の心中物」。
で、自分はそういう話が嫌いです。まだ、駆け落ちだったら許せる。でも、「男女仲良く、あの世で添い遂げる」なんて話は、たとえ江戸時代の風潮だと分かっていても、性には合わない。
ましてや、「心中物」に何で、商売人が仇討ちしないといけないんだ? もちろん、心中の原因を作った悪党への恨み晴らし、という理由はつく。でも、悪党だって、殺すところまで追い込んだわけじゃない。むしろ、男を陰謀で追い出して、女を自分の物にしようとしただけで、死んだのは男女の勝手、ということになる。
なお、この悪党というのが大店の主で、男は養子の跡継ぎ、女は養女の嫁。この嫁に主が横恋慕して、養子を罠にはめて追い出すに至った。養子は元侍の家柄で、手にした刀で養父を殺そうと一瞬思ったものの、「やはり父親殺しはできない」として、嫁を連れて心中と。
やるせない話なのは分かるけど、商売人が恨みを晴らそうとする筋の話ではないと思った。
主水も、「男女の色恋のもつれに踏み入るのは筋が通らないが、こうやって銭を受け取っちまったからな」と言い訳がましいセリフを口にする。
この仕置きに、積極的に乗り出したのは、情の深いおせい。一応、被害者の顔見知りなんだけど、劇中、あまり交流が描かれておらず、後期仕事人以降の人情ドラマ路線に比べて、淡白な話。いつものように同情心むき出しの正八と、おせいのためなら命も掛ける新次は、筋の通らない話に情だけで仕置きを敢行しようとする。
はっきり言えば、チーム内で、主水以外冷静に考えているキャラがいない。当初は大人のクールかつプロフェッショナルな殺し屋チームでスタートした商売人だけど、いつしか人情に引きずられてズルズルの泥沼に。
理で動くべき殺し屋チームが、情に溺れすぎたために崩壊近し、と感じさせる話。
この話、仮に本物の心中ではなく、駆け落ちの途中で、男女が悪人に見つかって殺害され、心中に見せかけられる、という話なら、商売人が動くのも自分は納得できる。
悪人が、作為的に被害者の命を奪っているからだ。
でも、本話の悪人は非常に小物で、目的も女の体、とみみっちい。しかも結局、本懐を遂げる前に、心中されたので、悪事としては未遂ということになる。やったことは、男の方を罠にはめて追い出そうとしただけ。
ちょっと現代風に考えるなら、サラリーマンとOLがいい仲で、上司がOLに横恋慕した。そして、上司はサラリーマンを追い出すため、いろいろ罠にはめてリストラに持ち込んだ。リストラされたサラリーマンはOLといっしょに自殺。さて、果たして、この恨みはどうやって晴らすのがいいかな?
殺して始末をつけるよりは、むしろハングマンのように悪事を世間にさらして、社会的に抹殺という形の方が筋が通る、と自分は考える。必殺で言うなら、仕置人・初期のような感じ。
まあ、この話、絵になるところは、「心中に向かう男女」だし、物語のアイデアもそこから考えたのではないか。
というのも、それを成立させるために、いろいろと不自然な設定を構築しているからだ。まず、大店の養子と養女ってのが不自然。さらに、養子が元侍ってのも不自然。養子を追い出すために、いろいろ細かい罠を張る主も不自然だし、やっていることが非常に遠回り。
普通に必殺らしく話を組み立てるなら、旅に出ていた養子を殺し屋に依頼して始末する形だろう。そして、嫁が事の真相を知って養父を問い詰めたら、養父に逆に襲われて……となれば、何て酷い悪党なんだろう、ということで、商売人が動き出すのが必然だ。
そういう話にしなかったのは、やはり「心中に向かう男女」が最初にありき、だったのだろう。それを成立させるのに特別な設定を構築したものの、そこに商売人レギュラーの関わる余地まで入れられなかっただと思う。
結局、この話では、商売人たちは、形だけ金を受け取って、一部はドラマの描かれ方では理不尽な情に突き動かされながら、仕置を敢行する。結果は、悪党の主と、陰謀に加担したその情婦を、やはり心中に見せかけて殺害。
ラストで、親子二代のダブル心中のことを、面白おかしく脚色こめて書いている瓦版を評して、主水曰く、
「さすがは商売だ。うまいこと、でっち上げやがる」
でも、本話の物語は、もう少しうまくでっち上げてほしかった。
別の可能性
「商売人」は、割とトリッキーな話が多い。でも、本作はまったくもって、サブタイトルどおりのストレートな話。ひねりも何もない。心中という絵のイメージと、心情だけでつづったような話。よって、そこに感情移入できなければ、見るところが皆無ということになる。
ただ、せっかくの設定なので、別の可能性を思いついた。
元侍の養子。この設定は、実は主水に通じるものがある。やはり、彼と主水の絡みがなかったのが、問題ではないか。結局、この養子はおせいとすれ違っただけで、ほとんどレギュラーとは絡まない。罠にはめられるところを主水が遠巻きに目撃したぐらいだ。
そして、元侍という設定で、自分がすぐに思いつくキャラは3人。「助け人」の辻平内と、「仕業人」の赤井剣之介と、「仕事人」の畷左門(おでん屋転職後)だ。ここで、一番、つながってくるのは、赤井剣之介だろう。平内は主水シリーズのキャラではないし、左門が登場するのは先の話だ。
主水は、養子と話しながら、剣之介のことを思い出す。そして、駆け落ちして逃げようとする男女が、無惨に斬り殺されて、となれば、主水が動かないはずはないだろうね。
ここまで脳内補完したら、NOVAはようやく、この話を肯定的に受け止めることができるようになった。まあ、ファンだったら、これぐらいはしないとね、と自己満足。
PS:ちなみに、この話を見て、あまりすっきりとはしなかったので、先日購入した『仕置屋』の1話と2話を口直し的に見た。う〜ん、やはり、どちらも傑作。
市松の殺人マシーンぶりをさんざん強調しながら、盲目の少女を殺さないシーンや、
津川さん相手に初披露した折鶴殺しのビジュアルインパクトは、珠玉の出来。さらに、2話の津川さん、(影武者が)屋根から落とされた瞬間、主水の刀で文字どおり、一刀両断にされる絵は、久々に見て、改めてビックリ。