再放送で追っかけて
NOVA「さて、83年に『仕事人III』の途中から必殺シリーズを見始めて、『渡し人』を経てから『仕事人Ⅳ』に至った俺。その後、時系列順に『仕切人』以降も喜んで追いかけたファンだったが、それとは別に、『シリーズがあるなら、旧作も何とかチェックしたい』というマニアの入り口に入るわけだ」
晶華「全作品網羅なんて考えるのが、ただのファンとマニアの違いらしいわね」
NOVA「受け身に与えられた、もしくは目についた作品をただ消費するだけの一過性なただの好きがファンで、それが積極的に追いかけて、シリーズコンプリートとか、レアアイテム見っけとか、作品論を語り始めるとか、愛好家の話を喜んで拝聴するとか、自分で喜んで小道具を作ったり映像編集したり、まあ道はそれぞれだが、とにかく過剰な心意気で作品を追いかけて、一家言ぶてるほどの執着を持つに至った愛好家がマニアだもんな」
翔花「NOVAちゃんの中でのファンとマニアの違いね」
NOVA「まあ、マニアにもいろいろなレベルがあるが、1983年だとまだレンタルビデオ業界も発展しておらず、そもそも必殺シリーズのビデオ商品なんて物も、その段階では存在しなかったはずだし、俺がビデオで必殺シリーズを追いかけるようになったのは、平成に入って大学生になってからの話だ。よって、それまでの必殺旧作追っかけの手段はTVの再放送に限られる。俺の記憶では、初めて見た必殺旧作は日曜の昼に地元ローカルのサンテレビの再放送でやっていた『必殺商売人』となる」
NOVA「で、商売人については、まだ必殺初心者の頃に再放送で見たわけだが、その内容をよく理解しておらず、後年(2009年)に再び再放送で見た話がここからになる」
NOVA「2009年の過去記事読んで、ついでに仕事人2009の昔書いた過去記事なんかを読むのも一興だなあ、なんて思ってるわけだけど、実は必殺シリーズの歴史懐古は昔、いろいろ書いているんだよね」
翔花「わたしたちが2018年に誕生して、ここのブログがNOVAちゃんと花粉症ガールのお喋りモードになる前から、NOVAちゃんは必殺追っかけを続けていた、と」
NOVA「だから、去年が俺の必殺追っかけ歴40周年だってことだよ。で、必殺シリーズの歴史を時系列順に語っても、今さら芸がないと考えているわけだから、テーマ別に記事書きして、今回は『女の仕事人ほかの裏稼業』で語り尽くそうとしているわけだな。棗さん登場記念でもあるし、小五郎の引退ということで、シリーズ継続が危ぶまれている中での総括とか、俺視点での必殺追っかけ史みたいなものも混ぜている次第だ」
晶華「時系列順なら、『うらごろし』→『仕事人』→『仕舞人』に続くところを、『渡し人』に行っちゃったのは、NOVAちゃん視点ってことね」
NOVA「そうだな。そして、サンテレビの再放送で『商売人』→『からくり人 富嶽百景殺し旅』→『暗闇仕留人』→『仕置屋稼業』ぐらいまでを追っかけつつ、『激闘編』時期の朝日放送の再放送で、『仕掛人』→『仕置人』→無印の『仕事人』などに続きつつ、87年にサンテレビで『うらごろし』も見たりしながら、少しずつ知識の穴を埋めて行ったわけだが」
翔花「再放送での追っかけは、地方ごとの放送タイミングに左右されるから、いつにどの番組をどの順番で見たかの感覚が、個々人ごとにズレて来るのね」
NOVA「同じ番組でも、中学時代に見たか、大人になってから見たかで感想が変わって来るものもありだからな。若いときに理解できなかったものが、10年後に味わいが分かるようになったり、誰か先達の感想に接して、そういう観点で見れば楽しめるのかあ、と開眼したりすることもあるから、作品に対して安易に駄作のレッテルは貼りたくないわけだよ。『自分にとっての傑作』は主張するけど、『自分にとっての駄作』を主張しても単に物を見る目がない(育っていない)だけ、というケースもあって、それは作品の罪ではなくて、自分が未熟なだけ(あるいはその作品を味わう素養の欠如)だからな」
晶華「でも、良い物と悪い物を峻別する目は必要よ」
NOVA「だから、評論家は良い物と悪い物の例を示しながら、良い物を教えてくれるのであれば建設的に学べるし、良い物の良さをろくに示すことなく、主観的な悪口をあたかも一般論のようにバラまくしか能のない輩は、話を聞くに値しないと俺は認識している。まあ、俺はせっかく作品を見るなら、楽しんで見たいわけだし、楽しめる要素を見出すことに喜びを感じる人間だからな」
翔花「だけど、楽しめない作品もあるでしょ?」
NOVA「まあ、好きなジャンルとか、作風とかもあるからなあ。それに、本当に美味しいものを食べた後だと、その味を繰り返し楽しみたいのに、他の同種の作品が見劣りするように思えて、その物足りなさの正体が何なのか探りたくもなる。そして、いろいろ追っかけているうちに自分の趣向を知って……別ジャンルにその要素を見出してセレンディピティを感じたり、自分が気付かなかった味わいを舌が肥えたから気付かされたり、逆に昔は好物だった濃い味付けがドギツく感じられて淡白な方向に好みが移ったり、作品論を語るにしても、料理を語るにしても、語り手の視点や感覚の変遷があったりする」
晶華「何だか難しいことを言ってるわね」
NOVA「簡単に言うと、夏の暑いときに食べるアイスクリームは美味しいが、冬の寒空の下で食べるアイスは美味しくいただけない。だけど、部屋の暖房がきいた場所で食べるなら、冬のアイスが季節外れなのに美味しく味わえたりもする。それを、単純に『冬にアイスを食べるなんてバカか?』と斬って捨てる人間に、アイス好きの人間は『冬アイスの美味しさが分からないなんて、可哀想な人間だ』なんて思ったりするわけだよ」
翔花「NOVAちゃんは冬アイス派?」
NOVA「いや、俺は夏冬関係なく、『食べたいときにアイスを食べる派』だ。アイスマニアじゃないので、自分から積極的にアイスを求める人間じゃないけど、アイス好きな人間を否定しないし、他人がアイスを美味しく食べているのにバカにするような輩は無粋だと思っている。ただ、世の中には自分が好まないことに対して、どうしようもなく攻撃的でバカにする人種がいるってことだ。こんなものが流行するなんて世も末だ。世の中を良くするために、私が間違った風潮を正さねば……と強烈な使命感に駆られがちな人とかな」
晶華「もはや、必殺話じゃないわね」
NOVA「おっと、『エセ評論家を斬る』みたいな話の流れになってしまったな。とにかく、軌道修正すると、中学時代に分からなかった商売人の良さは、大人になって多くのマニアな先輩諸兄の言論を土台に、少しは自分でも感じられるようになった。ただ、それには仕事屋稼業でのおせいさんの話の前提が必要だったし、夫婦の殺し屋という人情の機微が読みとれるほどの人生経験が必要だし、男女の仲のハッピーエンドで終わらないほろ苦さを受容する出会いと別離の人生経験も必要かもしれないし、作品を受け止められるタイミングがあると思うんだ」
晶華「だから、NOVAちゃん個人は、傑作・駄作の見極めはマニアほど慎重に、ってことね」
NOVA「時代が変われば、かつては駄作呼ばわりされたものが再評価されることもあるからな。ともあれ、前回、語っていた『渡し人』だけど、『商売人』がテーマとして掲げた夫婦というものを発展させて、殺し屋夫婦は幸せになれないという路線を見せたのがベテラン惣太で、被害者としての洗礼を経て殺し屋の世界に足を踏み入れた大吉夫妻は、新たに幸せになれる80年代の方向性を示したとも言える」
翔花「ああ、夫婦をテーマに『商売人』→『渡し人』につながるわけね」
NOVA「間にいろいろな作品を挟んだから気づくのに時間がかかったけど、自分にとっては、『渡し人』と再放送の『商売人』が同タイミングで視聴していたわけだよ。でも、今までこの両作は、自分の中ではつながっていなかった。ここに来て初めて、夫婦裏稼業の末路ってテーマで考えたときにつながったってことだ。両作を最初に見てから40年を経て、ようやくな」
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