娘のチョコレート
晶華「NOVAちゃん、これあげる」
NOVA「お、2週間早い誕生日プレゼントか。こいつは嬉しいな」
晶華「違うわよ。今日が何の日か分かってるくせに」
NOVA「ああ、必殺仕掛人・西村左内こと俳優の林与一さんの誕生日だな。さらに、同仕掛人の密偵役・岬の千蔵にして、仕置人や仕留人の密偵役・おひろめの半次、さらに助け人の密偵役にして元締め代行・油紙の利吉といった初期必殺の名バイプレイヤーであった津坂匡章さん改め秋野太作さんの誕生日だ。よく、そんなマニアックなことを知っていたな」
晶華「そんなの私が知るか。私はNOVAちゃんみたいに、『2月14日で何かネタがないかなあ。お、必殺ゆかりの俳優の誕生日を二つも発見。こいつをネタに使わない手はない。よっしゃラッキー』って喜び勇んでブログを書くような必殺マニアじゃないし」
NOVA「ん? 必殺と言えば、映画『必殺!5』で鍛冶屋の政が死ぬ遠因となったヒロインお浅を演じたノリピーこと酒井法子さんも2月14日生まれか。この人は俺と同じ年令なんだよな」
晶華「そんなことはどうでもいいし」
NOVA「すると、仕業人の出戻りの銀次役こと鶴田忍さんの誕生日か」
晶華「いい加減に必殺から離れて」
NOVA「何だよ。だったら、メフィラス星人声の故・加藤精三さんか、イラストレーターの故・小松崎茂さんか、作曲家の鈴木キサブローさんや田中公平さんの話でもしたいのか? 喜んで話に乗るぞ。他には、モスラ映画で小美人エアリスの片割れロラ役を演った山口紗弥加さんの名前も挙がるな。どれがいい?」
晶華「どれも良くない(涙目)。とにかく、袋の中身を開けてみてよ。そうしたら、分かるはずだから」
NOVA「ん? これはチョコレート! ということは、まさか……」
晶華「そう。その、まさかよ」
NOVA「なるほどな。お前もフルタンXに対抗して、チョコレートアイドルとして売り出そうと考えたわけだな」
晶華「何でやねん。NOVAちゃんの日頃の苦労に報いようと、せっかく愛情たっぷりのチョコを作った娘の心尽くしが、あんたには分からないのか!」
NOVA「ああ、バレンタインのチョコね。ふ〜ん、なるほどな」
晶華「反応薄ッ! もっとこう喜びのリアクションはないの? 『え、僕のためにわざわざ作ってくれたの? ありがとう♪ 君の気持ちは嬉しいよ。義理チョコでも、本命でも構わない。僕は君のことを好きなんだから』とか」
NOVA「今さら、それはないな。俺の今のリアルはこれだ」
女生徒「先生、これ」
塾講師「お、チョコレートか」
女生徒「お母さんが持ってけって」
塾講師「ああ。じゃあ、ホワイトデーにお返ししないとな。その御好意に応えて、こっちもしっかり頑張らんとあかんし。さあ、2月終わりの学年末テストに向けて、気合を入れて勉強するぞ」
女生徒「はあ……頑張ります」
晶華「何だ、つまらない。そこにロマンスのかけらはないわけ? 教師と生徒の禁断の関係とか、教師とお母さんの知られざる関係とか」
NOVA「そういうのは妄想だけにしておけ。リアルでそんなことがあって発覚すれば、俺は特撮ヒーローの追っかけも、TRPGの追っかけも、スパロボの追っかけもできなくなる。俺の愛はリアルじゃなくて、そっちに捧げているんだからな。愛の形は人それぞれって奴だ」
晶華「まあ、NOVAちゃんがリアルな男女の人間関係の落とし穴にハマったら、娘の私にとっても不都合なんだけどね。NOVAちゃんに言い寄る娘は全部敵だし」
NOVA「おいおい。ヤンデレめいた物騒なことを言うなよ。俺はバレンタインの時には、縁起を担いで毎年、このチョコを買っているんだ」
NOVA「そろそろ私学受験の結果が出て来る頃合いだから、キットカットできっと勝つってな。今のところ聞けたのは全員合格だが、明日推薦試験の学校もあるし、仕事ではそうそう浮かれていられないってことだ。ともあれ、俺みたいな大人にとってのバレンタインって、恋愛イベントというよりは、年賀状やお中元なんかと同じ社交行事の一環って感じだな。少なくとも、バレンタインはホワイトデーとセットで、チョコやキャンディーの形で親近感を演出し、贈り贈られ、アクションとリアクションの交流を結ぶ。こういうやり取りで日頃の付き合いを円滑にするわけだ」
晶華「とにかく、難しい話は後にして、私のチョコ食べてよ」
NOVA「ああ、分かった。ところで、念のために聞くけど、中に何が入っている? 魚介類は、俺あまり好きじゃないんだ。タコとかイカとかは苦手なんだ。だから、大阪名物のタコ焼きも食べない人だし」
晶華「どこの誰が、バレンタインのチョコにタコやイカを入れるのよ。私が入れたのは、愛情たっぷりのハチミツと花粉パウダーよ」
NOVA「花粉パウダー! それって、花粉症の人間が口にしても大丈夫なのか? アレルギー症状で、くしゃみ鼻水涙目モードになったりしないのか?」
晶華「さあ。来月になったら分かるんじゃない? 私たち花粉症ガールと一年付き合った結果、花粉症を克服しましたとなるか、さらに症状が悪化して遺伝子変異を起こして怪奇・花粉症男になってしまうかは乞うご期待ってことね」
NOVA「そんなの期待したくねえよ」
晶華「大丈夫。花粉症の精霊である私と一年間いっしょにいれば、耐性ぐらい付いているはずだから」
NOVA「そうであることを願っているぜ」
晶華「うん。だから耐性を高めるためにも、私の花粉チョコを食べてね❤️」
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