連載再開されたので
NOVA「さて、昨日は俺が仕事に行っている間に、お前たちが面白い話をしていたみたいだが」
晶華「上手くまとまったとは思えないけど」
翔花「リアルと非リアルの境界線が、わたしたちにとっては曖昧なものになって来ている、という感覚は示せたと思う」
NOVA「仮想世界のリアリティというものを、どれだけ成立させるかをクリエイターの皆さんが腐心してアイデアをいろいろ考えた賜物だな。例えば、映像技術で言えば、実写特撮はリアル寄りで、アニメの絵は非リアルという認識が俺にはある。だから、実写の方が上というつもりはないし、アニメの中でも写実的な描き方と、デフォルメされた描き方とか絵のリアリティ・レベルに違いがいろいろあって、それぞれの世界観は別物だ。それがジャンル分けというもので、そういうのを無視してアニメという括りで大雑把に語っても仕方ないという議論もある」
晶華「NOVAちゃんは、アニメよりも特撮推しの人なのよね」
NOVA「どちらかしか選べないとなったら、特撮を優先するな。ただ、それは優先順位であって、別にアニメを見下しているわけじゃないが、それぞれの特性や持ち味を活かしながら発展して行って欲しいって気持ちに偽りはない。そして、アニメの方が幅広いジャンルを内包しているというのは確かにその通りで、特撮は時代劇や刑事ドラマ、その他の実写ドラマ全般の中の一ジャンルに過ぎないという認識だ」
翔花「だから、仮に対立軸として考えるなら、特撮VSアニメじゃなくて、実写VSアニメで論じるべきで、NOVAちゃんが好きなのは、実写ドラマの一ジャンルとしての特撮と、アニメの一ジャンルとしてのSFメカロボが主流なのね」
NOVA「美少女萌えアニメなんて、ゼロ年代まではアウト・オブ眼中だったのにな。萌えなんて言葉は、創作企画(ラーリオス)を書く上で、必要性から後付けで取り入れた異物だったんだが、アニメファン=美少女ファン=いつも女の子に欲情しているキモいオタク、というレッテル貼りには、閉口していたわけだよ」
晶華「それが目的で見ているわけじゃないって?」
NOVA「そう。で、例えば、硬派マンガ家を自称している車田正美さんの作品では、女性キャラはほとんど登場していない。少年たちが守るべき象徴の女神と、師匠的ポジションの魔鈴さんと、敵だったのが主人公へのツンデレ的な愛に目覚めて健気キャラになったシャイナさんの3人ぐらい。あとは冥王側の指揮役にして従者のパンドラとか、海王側の従者であるテティスとか、目立つポジションに女性を配置しているけど、星矢に萌えを期待して読む読者は少数派だと思う。
「本題は、少年や漢たちのバトルアクション、格好良い生き様とか友情とか師弟愛(主役は姉弟愛にもなっているが、後から本当の姉じゃないと分かったし)とかが鑑賞ポイントで、色恋は二の次という作風。そういうメインテーマを語らずして、ラブコメ感覚で星矢を語るのは……切り口としては独創的だけど、王道は外しているよな」
翔花「でも、女性読者にとっては、格好いい少年たちの耽美な世界にも映るのね」
晶華「美形のメガネ男子がいないから、私のツボには刺さらないんだけどね。それより、リンかけのヘルガ君よ。スコルピオン様への忠誠と、何だか凄そうな科学理論(でも根性論には勝てない)は私のハートを撃ち抜いたわ。必殺ブローを持たないので、マネしにくいのが残念だけど」
翔花「わたしは、スペシャル・ローリング・サンダーの支那虎おじさんね。息子の伊織くんの愚直な美形ぶりもいいけど、同年齢の仲間から旦那呼ばわりされる大人顔は憧れる」
NOVA「翔花はそっちが好みか。意外な事実を知った。俺はリンかけだと、石松か影道総帥だったな。息子の影道嵐の『一宿一飯の恩義』ってセリフも古風で気に入ったし」
星矢の仲間論
NOVA「で、車田マンガの魅力は、主人公ではなく、主人公の仲間との関係性にあると思っているんだが、基本的に主人公が没個性的というか、活躍が薄いマンガなんだよな」
翔花「え、そうなの?」
NOVA「だって、冥王神話って主役の星矢がずっと眠っているんだぜ。ここまで仕事をしない主役ってのも珍しいというか、もしかして星矢が目覚めたら世界が終わってしまうようなラスボス格じゃないのか? と誤解しそうになるぐらいだ」
晶華「覚醒したら世界滅亡って、まるでイデオンみたいね」
NOVA「しかも、未来から女神が時空を超えてやって来たら、過去の世界が天変地異に見舞われるって状況だしな。まるでディケイドみたいな世界の破壊者だ、城戸沙織。しかも、相変わらず、ずっと寝てるし」
晶華「確かに、主役も寝ていて、メインヒロインも寝ていて、どっちも活躍シーンが少ない作品よね」
NOVA「で、誰が主役なのか分からないというのが現状の群像劇なんだが、一応は過去のペガサスの天馬が星矢の生き写し(過去世の同一魂の持ち主と見ることも可能)で、主役代行としてコミックは始まった」
翔花「つまり、天馬くんの物語として始まったわけね」
NOVA「ただ、天馬と幼馴染の女神少女サーシャ、そして敵の冥王ハーデスの依代として選ばれたアローンの物語は、外伝のロスト・キャンバスで完結した。つまり、ロスト・キャンバス(LC)と車田御大のNEXT DIMENSION(略称ND)がパラレルワールドを形成しているのが、星矢ファンの常識ということだな」
晶華「聖闘士星矢のシリーズは、そのブランドだけでマルチバース展開をしているわけね」
NOVA「原作者の車田さんだけでなく、いろいろなマンガ家さんがそのブランドを広げるために外伝作品をいっぱい描いているからな」
NOVA「硬派の聖闘士星矢が、美少女たちの萌え路線に走った『聖闘少女(セインティア)翔』は当初、どう受け止めていいのやら困惑したが、ネタとして使うには美味しいことにも気づいたわけだし、作風が合うかどうかは人それぞれながら、多様性が担保されていれば、そこに食いつく層もいるわけで、当たり外れは受け手次第。粗製濫造になってファンから見捨てられるようなことにならなければ、広がりつながることは良いことだ、という認識でいたいと思う。まあ、全部追っかけるほどの星矢マニアとは言えないが、自分の性に合うものを選びとりつつ、関連作の存在ぐらいは認知しておくのがファンの流儀かな、と」
晶華「作品がいっぱいできたら、その中に当たり外れがあったりして幻滅することもあるわけね」
NOVA「そりゃあ、自分でブログ記事書きしていて、いっぱい書けば当たり外れも出てくるわけだし、それでも書きたい願望はあるわけだよ。プロ作家が作品を世に出すためには、個人がブログを書く以上の段取りとかアイデアの熟成とか手間暇が掛かっているわけで、それを続けていること自体に尊敬の念を示せるわけだし、作品ごとの感想や批評はあって然るべきだけど、自分も作り手意識があるなら、自分に合わないという理由だけで安易に駄作認定はしたくないかな、と」
翔花「人間の知り合いにも、良い人や悪い人がいるように、作品にも当たり外れがあるってことね」
NOVA「まあ、人間に対して当たり外れって目では見たくないけど、ツボを突いてくれる良い友人関係と、最初は面白いと思って見ていたら何だか悪い面ばかりがやたらと頻発して幻滅してしまうケースもあるし、つまらない物を読めと押しつけられるとますますイヤになることは、人でも作品でもあるかな、と」
晶華「つまらない作品と、つまらない人間ってのは似たようなもの?」
NOVA「クリエイターの場合は、つながって来るな。ただ、人間としては面白いのに書くものにそれが反映されていないというケースもあるし、逆に人間としてはクズなのに書くものは面白いというケースもあって、作品ファンだから作者のことをより知ろうと思って調べると幻滅するケースもなくはない」
晶華「解像度が上がることで、粗が見えて来たってこと?」
NOVA「しょせん、自分に見えているもので人は判断するしかないからな。そして、自分がつまらないと思っているものでも、それを評価している人間がいるってことは、鑑賞者の目が曇っていると批判するよりも、鑑賞者は自分と違う視点から違う光景を見ていると解釈するのが多様性と思うんだが、そういう理想論は感情の前には容易く吹っ飛ぶのも事実だ」
翔花「視点が変われば、見えているものが変わるってのが、多様性の理解には必要ね」
NOVA「今の小学生の国語の教科書では、しょっちゅう言われているな。他者の視点の受け止め方がテーマになった読み物もある。それはともかく、冥王神話NDに話を戻そう」
主役の脇役化
NOVA「LCで天馬主役の物語を展開して、NDは同じ過去の時代を描きながら、異なる物語を描いてきた。その理由に、未来の女神が過去に来たことで、いろいろと世界線が天地崩壊レベルで乱れているという理由づけが為されたが、黄金聖闘士のキャラまで牡羊座と天秤座以外が別キャラになっているのは、女神のせいだけでは説明できまい。同じ素材の別料理を振る舞われたような気分だ」
晶華「同じハンバーガーでも、店によって味が違うって感じ?」
NOVA「いや、同じブランドの公式商品なのに、中身の違うトレーディングカードみたいなものか。さすがにチキンバーガーを注文したのに、フィレオフィッシュが出て来るのは金返せレベルだが、チキンバーガーの味つけが照り焼きソースか、タルタルソースかの差になるかな」
翔花「両方食べて、味比べするのが通だけど、片方だけでも美味しく味わえる、と」
NOVA「トレーディングカードなら、全部コレクションしたくなる人もいれば、自分のゲットしたものだけで満足しても構わない。料理なら、メインの具材(肉)は同じだけど、その他の惣菜がキャベツかレタスか店によって多少の違いがある程度。まあ、料理人ごとの差を語れるのが一流の評論家で、自分の舌に合わないものをろくに食べずに酷評するようなのは批評の名に値しない、と」
晶華「まあ、本当に不味いものは、一口食べただけで吐きそうになるけどね」
NOVA「見た目はマズいけど、食べたら美味しかったというケースもあるが、コミックの場合は、見た目のビジュアル面も大事だからな。で、NDはLCのパラレルワールドで、当初は過去の聖闘士の歴史に、現代(1990年代)の女神と聖闘士が介入する一方で、当時構想された天界編の要素も混ぜられた壮大な車田星矢ワールドの集大成を構築するはずだった」
晶華「だけど、天界編要素は企画そのものがポシャったのか、何だか本筋からフェードアウトしていったよね」
NOVA「NDはややこしい複層構造の物語だったけど、作者がまとめきれないと判断したのか、上手く着地点を模索して、決着を見せようとしているのが今だな。そして、この終盤に来て、ようやく主人公代行の天馬にスポットが当たり、本来の過去の時代の女神サーシャが登場し、そしてアローンとの関係性にも何らかの決着がつけられようとしている」
翔花「物語を締めくくるためには誰を倒せばいいの?」
NOVA「タイトルに準じるなら、ラスボスはやはり冥王ハーデスであるべきだろうな。アローンを依代に復活したハーデスを倒して、アローンを解放するのが王道ハッピーエンドだし、それがLCでも描かれた正しい時間軸だ。まあ、今だにハーデスは眠っているんだが」
晶華「みんな寝てばかりね」
NOVA「連載は2006年からで18年に達するんだが、物語内では1日もしくは3日足らずの出来事とされている*1。3日ぐらいなら寝てても問題なかろう」
翔花「とにかく、眠り続けている主人公と、メインヒロインと、ライバルラスボスの話なわけね」
NOVA「そんな不思議な話で、主人公格として活躍するのは、未来(現代)から来た星矢の仲間の青銅聖闘士たち。まだ聖闘士に成り立てで弱々の天馬を、百戦錬磨の青銅たちがサポートして、レベルを上げるのかと思いきや、実は天馬の師匠の水鏡が前半のドラマの中心として、冥王軍の先鋒として、黄金十二宮を上って行こうという話になった。師匠の後を追う天馬と、サポート役のアンドロメダ瞬とのコンビで、二つの視点を並行させて描きながら、後からさらに青銅仲間が未来から来て、話が錯綜していく」
晶華「そこに天闘士(エンジェル)の斗馬さんも絡んで来るかと思ったら、放置されている、と」
NOVA「彼は彼で、魔鈴さんの本当の弟という設定で、星矢の新たなライバルとして構築された記憶喪失キャラなんだが、肝心の星矢が寝ているものだから、役割が果たせないままになってしまった。てっきり過去に氷河や紫龍を追って来るのかと思ったら、そこまで錯綜させるつもりはなかったらしい。とりあえず、彼の物語の続きは、冥王神話の決着がついてから御大の新作になるか、あるいは別のマンガ家に引き継いでもらうかだと期待する。ND登場は、今後の展開のための伏線とか、種まきというか、結果として前倒しし過ぎた先行顔見せ程度に思っておこう」
翔花「で、いろいろ行き当たりばったりに迷走しているわけですが」
NOVA「まさに迷走神話だな。でも、その中でセルフオマージュだったり、変化球だったりする過去黄金の種々様々な顔ぶれを描きつつ、一番笑ったのが射手座だな。非常に格好いいアイオロスさんの先代がどうなるかと思ったら、ただの馬フェチのゲシュタルトさんで、しかも天馬とは一切、絡みがなかったのに、射手座の聖衣だけは天馬びいきで彼を助けに飛んできたという」
晶華「その辺は、本家を引き継いだ様式美ってことね。冥王神話だけだと、射手座聖衣が天馬くんを助ける理由は何も描かれていないのに」
NOVA「まあ、ここで天馬を助けに飛んで来たのが、蟹座とかだったらサプライズだけどウケたろうし、牡牛座でも絡みはあった。様式美にケチをつけるつもりはないけど、できれば天馬には今後、師匠譲りの杯座(クラテリス)か、ガルーダの冥衣をまとってもらいたい」
翔花「って、闇堕ちさせたいの?」
NOVA「いや、ハーデス城に乗り込むためのカモフラージュとして、師匠の水鏡の霊が協力してくれたとかさ。そして、ガルーダの冥衣を脱ぐと、杯座(クラテリス)の白銀聖衣をまとった天馬がいて、敵が一瞬、水鏡と誤認するといいなあ、とか」
晶華「ああ、師弟のドラマの結実を描くわけね」
NOVA「で、水鏡先生は十二宮攻略の途中の天秤宮で力尽きるんだけど、その辺りで水鏡の真意を明かすための新キャラとして、蛇遣い座の医士オデッセウス(略称オデさん)が登場して、もう一度、十二宮回診行が始まるわけだな。主役がほとんどオデさんになって、無双プレイが始まる」
翔花「え、天馬くんは?」
NOVA「蛇遣い座の特殊能力で、みんな寝てる」
晶華「キャラがよく寝るマンガね」
NOVA「全くだ。ハーデスの側近のヒュプノスのオマージュかな、という意見もあったが、とにかくND後半の主要キャラとして登場したオデさんは、敵役に見えて実は良い人だった。悪いのは、その身に憑依したアスクレピオス(略称クレピー)だ」
翔花「オデさんはともかく、クレピーって略称は何? アスクレさんとか、いろいろ切りようがあるでしょ?」
NOVA「いや、俺がNDの感想コメントを書きに行ってるブログ主さんとの相談で決まった略称だ。何だか性格的に小物だったので、さん付けするのもどうかな、と言って、ブログ主さんはアスピーと仮決めしたんだが、LCの双子座アスプロスさんとかぶるのは風評被害みたいでどうかって話になって、名前の真ん中をとってクレピーという提案が通った次第。決してクレヨンしんちゃんは関係ない」
晶華「とにかく、そのクレピーさんがラスボス候補の一人ね」
NOVA「どうだろうな。強いのは強いんだが、どうにも性格的に小物臭が強くて、こいつを倒して終わりとは思えないんだよなあ。方向性としては、双子座のサガの裏人格のオマージュに見えるが、オデさんが立派な人すぎて、クレピーがオデさんを乗っ取った小悪党に見えて仕方ない。やはり、ラスボスはハーデスであって欲しいんだよ。ちょっと出てきて、あっさり封印される程度でいいからさ」
晶華「オデさんとクレピーの双子座オマージュ芸と対決するのが、未来の青銅4人組と」
翔花「天馬くんは?」
NOVA「ギリシャの聖域と、イタリアのフィランツォの間を行ったり来たりしながら、急成長して、自分の女神サーシャを守るために奮闘していたら、射手座の聖衣が聖域から飛んできて、お礼に射手座の矢を聖域に向かって放ったところで続いたな。その矢がどこに刺さるかが楽しみなのが明日だ」
晶華「クレピーに刺さって、あっさり消滅ってなったら面白いわね」
NOVA「その可能性を、俺とブログ主さんは期待している。まあ、ラスボスとしては、言動がどうにも役者不足に思えて来たからな。小物ボスは、リンかけ2の2代目ゼウスで勘弁して欲しい。先代の名前を汚したわけで」
翔花「とにかく、NOVAちゃんとしては、天馬くんに活躍して欲しいわけね」
NOVA「曲がりなりにも主人公だからな。未来聖闘士の活躍は応援するが、天馬が最後まで活躍できないと、上手く風呂敷を畳めたとは思えないわけだし、幸い物語の流れは天馬の覚醒と彼の物語の決着に向けて動き出している。これで古文書エンドというつまらないオチはないはずだ」
古文書エンドとは?
NOVA「わざわざ紹介してやる必要はないんだが、批判のための叩き台として触れておこう。ずいぶん昔に、射手座辺りのエピソードが続いていた頃合いに、例のストーカー氏が唐突に『冥王神話のラスト予想』を思いつき披露したわけだ。その内容は、『天馬の物語は決着をつけずに、未来聖闘士と女神(沙織さん)の星矢救出だけ決着をつけて、天馬の話は歴史として古文書で語られるのみで、どうでしょうか?』ってものだった」
晶華「その時のNOVAちゃんの反応は?」
NOVA「どうでしょうか? と問いかけられても、『そんなオチじゃつまらん。そもそも、今の連載の感想を話しているときに終わる話をされても興醒めだ』って返し方だったと記憶する。こう言っちゃ何だが、彼の考える予想とか創作アイデアは、せっかくの素材をつまらなくする方向にばかり流しがちなので、小ネタとして一笑に付すジョークにはなっても、真剣に応じるにはボツとしか言いようがないんだよな」
翔花「創作センスの問題ね」
NOVA「目の付けどころは悪くないときもあるが、アイデアを熟成して磨くとか、整合性ってことに無頓着なので、思いつきがブツ切れにしかならないんだよな。どこかから材料を取ってきて、上手くつなげるのは創作あるあるなので、それをパクリ云々と批判するつもりはないが、つながらない物をつなげた際の接合部の粗を上手く削ったり、パテで補強もしくは覆い隠すとか、そういう工夫ができていない……というか、自分で継ぎ目の違和感に気づかなかったりする。不整合に自分で気付かないのは、自分の作品の読み手としての欠陥だ」
晶華「推敲能力の欠如ってことね」
NOVA「推敲能力って、自分の作品の粗探しだから、非常に面倒な作業なんだよな。そこに神経を使いすぎると、自尊感情を自分で傷つけてしまうけど、それに耐えないと良い作品は完成しない。書くときは自分のテンションを高めて高揚させながら書いて、その後は過去の自分の欠陥を削りながら修復して、作品の完成度を高めていく。初稿よりも二稿、三稿とどんどん作品の完成度が高まって行くのが、推敲能力の高さってことだ。まあ、そういう作家の磨き上げ作業に付き合う編集さんもお疲れ、なんだけど」
翔花「プロは身を削りながら作品を書いているってことね」
NOVA「これは、ゲームデザイナーだとテストプレイとか、デジタル系だとバグ取りとかになる。それが十分為されていない商品は欠陥品だな。作品が面白いかどうかは、受け手のセンスにもよるが、完成度の面で問題があるのは作り手の責任だ。まあ、完成度に多少の粗はあっても、作者のセンスや書きたいものの方向性が受け手の琴線に響けば、楽しく鑑賞できるけど、それと商品としての完成度は別の話だな。選考者にセンスが受け入れられて可能性を感じさせれば、ある程度の完成度で賞はとれる。センスが噛み合わなければ、完成度とは関係なく、つまらない。そして、センスだけあっても、向上心とか学習能力とかでプロとしての仕事ができるかが決まる」
晶華「学習能力って、大事よね」
NOVA「この場合の学習能力は、記憶力とかも大事だが、編集さんの要望を十分に咀嚼して、より良い物を返せる力だな。教師の言葉が伝わらない生徒と同様、編集さんの要望を理解できない作家は仕事のパートナーとして話にならない。人と仕事をするとか、人から仕事を頼まれる、あるいは人に仕事を頼む(作家にとっては編集さんにお願いすることもある)には、いずれも滞りない意思疎通が望ましいわけで、そこで作家自身も『自分に何が書けて、何が書けないか。あるいは書いたことはないけど、試しに原稿用紙10枚ぐらいで書いてみるとか、実例あげて自分の能力と伸び代を示す』ことぐらいしないと、編集さんもその作家に何を期待していいのか分からず、クリエイティブなセンスを感じさせない人にクリエイター業は務まらないと思う次第だ」
翔花「クリエイティブなセンスかあ。NOVAちゃんにはある?」
NOVA「なければ、お前たちは生まれていないと思うが、俺に欠けているのは絵心と、デジタル先進性だな。今の時代や未来を生きるセンスに関しては、若者には及ばんし、足りないところはまだまだいっぱいあるけど、持続可能な根気や持久性が武器かな。ただし、もっとムダを削るとか、取捨選択のセンスは欠けるかも。あと、売れ線に即座に対応するフットワークの軽さにはあまり自信がない。せめて、アーリーアダプター程度の立ち位置にはいたいんだが、良くてアーリーマジョリティってところだな」
晶華「ええと、イノベーター理論ね。イノベーターは発明家とかでクリエイターの最先端。アーリーアダプターは先行採用者で、イノベーターの新規性に気がついて、それを興味深く情報発信する人。社会や業界のオピニオンリーダーになれるタイプ」
翔花「NOVAちゃんは、アーリーアダプター志望のアーリーマジョリティ?」
NOVA「アーリーマジョリティは、流行に気づくのが早い大衆層で、初期追随者とも言われるな。ただ、フットワークが遅いのはレイトマジョリティで、流行に少し遅れてから追いかける。たぶん、俺は平均的にこの辺で、もちろん、これは趣味興味のジャンルにもよるんだが、流行に即、飛びつくよりは様子見してから……ってなるし、俺の性格はスタートダッシュが遅れて、そこから追い上げるか、ずっと走り続けるこだわりの強さと、溜め込む容量の大きさにある、と自認している」
晶華「一番遅いのはラガード(遅滞者)ね。流行には我関さずで、自分のこだわりをひたすら貫き通すと言えば、聞こえはいいんだけど、流行の波には乗れずに空気が全く読めない時代錯誤な少数派」
NOVA「ラガードだと、情報発信者としては本当に無能だな。もちろん、これは流行物に対する感受性とか受容力の強さの話だから、ラガードでも専門分野をひたすら突き詰めた研究者タイプは尊敬に値するんだが、世間の流行には鈍感でも、ラガードの研究分野に注目が当たる時流が来た場合は、瞬間的なイノベーターに変わることもある」
翔花「ラガードで何も生み出せない人と、専門分野をしっかり持っていて、決してブレないラガードの両方がいるわけね」
NOVA「流行の発信役はイノベーターではなくて、アーリーアダプターだって話だ。で、話はズレたが、18年も作品をこだわって追い続けるのは、アーリーアダプターじゃないよなって思う。そういう物を本当に目指すなら、広く浅く面白そうなものに飛びついては、すぐに飽きて次々と乗り換える気移りを要しそうだし、何かにこだわって足を留めていては、イノベーションを見逃す」
晶華「軽佻浮薄ってこと?」
NOVA「流行り物に敏感なJKを重厚と思うか? 面白そう、キャーと飛びついて、うん、これ最高。あ、でもこっちは不味い。ゲロゲロ〜。あっちはどうかな〜って、いろいろ試してインスタに投稿したりするのが、今の時代のアーリーアダプターだな。ゲームジャンルではそういうポジションにいたかったんだが、さすがにそれをするのは財力がいる。せいぜい、流行が一周回って、再ブームの気配を感じた時に、アーリーアダプターっぽいことを発信してみるのが関の山かと」
翔花「で、イノベーター理論は置いておいて、古文書エンドの話はどうなったの?」
NOVA「ああ。去年の2月ごろに、例の悪縁ストーカー氏からメールが来て、『星矢がそろそろ終わる。私の古文書エンドの予想が当たりそうです(ドヤ)』みたいな妄言を吐いて、こいつはバカか、ああ、バカだったなと思わせたんだ。だから、こんな記事を書いたわけだ」
NOVA「で、今年は星矢最終章の後編で、いよいよ最後が近づいて来たってタイミングで、またメールが来たんだが、その時は故人への暴言に俺の怒りが沸騰していたから、もう2度とメールするな! 一生許さないモードだったんだ。その怒りは、そいつが死ぬまで忘れないし、人間として見下げ果てた奴と認識しているのは変わらないが、それ以前に書いた約定はなかったことにするつもりはない」
晶華「その辺は律儀な性格よね」
NOVA「自分の約束だからな。星矢好きとして、それを違えるのは漢が廃ると考えるわけだよ。で、かなり呆れたのは、このストーリーの流れで、彼は『自分の勝ちを疑っていないこと』なんだ。いやまあ、黄金聖闘士を前に、自分の勝ちを信じる青銅聖闘士みたいな物と思えば、それはそれで漢なのかもしれないが、そのメールの最後で故人への暴言を吐いたので、そういう評価が雲散霧消したわけだな」
翔花「少なくとも、聖闘士星矢の話で、死んだキャラを罵るような言動を口にするのは悪役よね」
NOVA「すると、逆の構図が成り立つわけだ。『自分の勝ちを疑っていないのは、クレピーレベルの慢心だ』って。クレピーはオデさんと違って、人の死を何とも思わない冷血漢として描かれている。まあ、悪縁氏はクレピーほど強敵には思えないんだが、俺から見ると、『このストーカーは何を根拠に勝ち誇っているんだろう???』って不思議なんだな。だって、どう考えても、車田さんは天馬を急成長させて、冥王神話の決着を天馬主人公の物語として綺麗に完結させようとしているじゃないか」
晶華「そこのところを読み取れていないってこと?」
NOVA「まあ、彼の読解力の欠如ぶりは今さら言うまでもないが、同じ星矢を見ていても、ここまで受け止め方が違うのは、目に鱗が何枚貼り付いているんだろうなあって気になった」
翔花「クレピーだからでしょ」
NOVA「いや、マンガのキャラの言動に影響されることは、たまにあるが、よりによってクレピーに影響されるか? いや、クレピーはクレピーで、調子に乗った奢りっぷりが面白おかしいレベルに達しているんだが、早く天罰に見舞われないかなあ、とワクワクしてる。マンガのキャラだったら、悪役ムーブをかましているんだから、そう願っても罰は当たるまい」
晶華「でも、クレピーのファンの人だっているかもしれないでしょ? 『神に昇りつめようという向上心が気に入った。悪役だったら、ここまで調子に乗らないと。この強さに惚れたので、クレピーの役割演技で世を見下して生きようと思います』って考えている悪霊かもしれないし」
NOVA「まあ、悪霊だったら、そう考えても不思議ではないか。納得した。このクレピーって、実はサガの裏人格の原型なんじゃね? と最近思うようになった。だったら、アテナの大楯の光で浄化されるのもありだな、とか」
翔花「とにかく、クレピーの運命は、明日に決まるのかもしれないのね」
NOVA「サジタリウスの矢がクレピーに刺さって、きれいに浄化される展開が見たいなあ。やはりオデさんが沙織さんを治療して、女神復活。そのままフィランツォで天馬と合流して、あと沙織さんとサーシャのふたりはプリキュアアテナになると、俺は楽しいと思うが、とりあえず悪霊クレピーがあっさり消滅してくれたら、スッとするな、と思う次第」
晶華「古文書エンドは?」
NOVA「だから、元々根拠の薄い思いつきアイデアなんだから、そんな物にいつまでも固執しても、誰も尊敬してくれないし、膨らまないアイデアはつまらないと見切りをつけるといいんだがな。バカなネタの例として弄るぐらいしか使い道がないし、不毛だよ。歴史好きとして、古文書から過去を推測するのはありだけど、バトル漫画で戦いの決着を削って、そういう終わり方はつまらないと分からないと、面白い物語は作れないと思うな」
翔花「古文書というギミックは悪くない、と思っているわけね」
NOVA「その古文書で何を描くか、だな。過去で事件は解決したけど、主要キャラが行方不明になってビターエンドでした。でも、未来に帰って、歴史書を見ると、行方不明で死んだと思われたキャラが実は生きていて、良かったねって後日譚的な幕引きはいいかも、と思う(時々、見かけるのでオリジナリティには欠けるけど)。
「彼のアイデアがダメなのは、『尺が足りないからという理由で、主役キャラの物語の決着を描かずに、打ち切り同然のダイジェストでおざなりに扱う終わり方』をドヤ顔して崩さない点で、古文書というギミックを面白く盛り立てる方向に頭を働かさないことだな」
晶華「思いついたアイデアを思いつきっぱなしで、どういう風に使えば、面白く描写できるか、という使い方まで考えが及ばないってことね」
NOVA「過去の話は過去できちんとケリを付けた上で、後日譚に『歴史ものとしての格調を示すためのギミック』としての古文書を付与するのだったら、ワンポイントアイデアとして活かせるかもしれない。でも、それは決してメインの物語を台無しにするオチの付け方じゃダメだって話だ。メインをおざなりにして、意外なオチってのは、もしかするとショートショートなら有効かもしれないけど、18年も続けた大作の末路が主人公の物語をおざなりにするってのじゃ、車田ファンとして嘆き悲しむオチだろうし、そんなオチでお茶を濁す作家じゃないはずだよ、車田さんはって俺は信じる」
翔花「ダメなのは、クレピーみたいな人の創作センスであって、車田さんの作風をつかめていない読解力の欠如ってことね」
NOVA「もう少し、柔軟に多面的に物事を見ることができたら、とは思うんだが、俺も頑迷なときはあるから、他山の石ぐらいにはしていよう。ダメなアイデアをどう使えるように改善できるかの思考トレーニングになったと思えば、悪くない」
(当記事 完)