訃報続きに気が滅入る
NOVA「前回までは、予定外に宙明さんを5記事に渡って偲んでいたわけだが、その後、映画監督の中野昭慶さんや、安倍元総理の射殺など、日本を揺るがす大事件が次から次へと発生して、いろいろと気が滅入るこの頃だ」
翔花「中野昭慶さんって、あの円谷英二特撮監督の下で監督助手を務めてきて、円谷さん亡き後のゴジラ映画を支え続けて来た人ね」
NOVA「ああ。特技監督としては円谷英二→有川貞昌→中野昭慶→川北紘一と続くんだが、有川さんは2005年に逝去、川北さんは2014年に亡くなっているからなあ。これで昭和のゴジラ映画に関わった大物特撮監督が全員鬼籍に入ったことになる。
「あと、中野監督はゴジラ以外でも、ヤマトタケルの『日本誕生』(1959)で監督助手を務め、1973年の『日本沈没』で監督を務め、TVシリーズの『流星人間ゾーン』でもゴジラ登場回を中心に9本の回を担当した」
晶華「安倍元総理の逝去については、奥さんが私と同じ愛称アッキーなので、大変悲しいと思うわ」
NOVA「ここは基本的にフィクション中心のブログなので、政治的意見は差し控えるが、1993年に父親の安倍晋太郎氏の後を継いで衆議院議員となって、10回当選してきた平成を代表する政治家の一人となるな。2006年秋に小泉内閣の後を継いで第90代内閣総理大臣になるが、体調不良を理由に翌年退陣。その後、2012年に民主党の野田内閣の選挙大敗を受けて、自公連立の第2次安倍内閣が発足。以降、2020年まで総理大臣を務め、歴代最長記録を達成した。戦後生まれ初の総理大臣であり、戦後初の総理大臣暗殺事件にもなってしまった」
翔花「令和になって、時代が100年前にタイムスリップしたような事件が続いているわね」
NOVA「ロシアの戦争とか、元総理大臣暗殺とか、そのまま歴史の教科書に載りそうな事件ばかりだな。疫病蔓延は言うに及ばず。総理大臣経験者が他殺されたのは1936年の2・26事件以来(高橋是清、斉藤実)86年ぶり、現職国会議員が他殺されたのは2002年の石井紘基(民主党所属)以来で20年ぶりの事件らしい」
晶華「他に、『遊戯王』の作者が亡くなったとか」
NOVA「高橋和希さんか。ジャンプでTRPGネタも題材に取り入れた回があったな。その後、TCG路線にシフトしていったが、原作は96年から2004年まで続いていたんだな。途中から読まなくなっていたや」
晶華「2004年以降は、外伝のRその他がVジャンプで連載されていて、高橋さんは原案・監修者の立ち位置で2019年まで連載が続いていたみたいね」
NOVA「マーベルとの絡みで、こういう作品も発表していたんだな」
NOVA「他には、3月に亡くなっていた村石宏實監督や、俳優の宝田明さん、作家の西村京太郎さん、そして4月に亡くなった声優の松島みのりさん、2月に亡くなっていた俳優の西郷輝彦さんなど、うちのブログで言及していないけど、個人的に大切な方々の逝去の報も拾い上げつつ、改めてお悔やみを申し上げたい気分になった」
晶華「今回も訃報記事が中心なの?」
NOVA「いや、予定していた『ダークタワー』の最終感想なんだが、これも結局は愛する者の死と新生がテーマになるし、ちょうど鑑賞した『ソー:ラブ&サンダー』も愛する者の死と、遺された者の惜別と復讐の念の浄化、そして未来への継承がテーマとなる」
晶華「ソーの映画を見たんだ」
NOVA「ああ。選挙に行ったついでにな」
晶華「私たちを置いて、一人で行くなんて!」
NOVA「仕方ないだろう。花粉症ガールは未成年だし、そもそも日本の戸籍を持たないから選挙権を持たないんだし、選挙会場に連れて行くわけにはいかん」
翔花「で、どうだったの?」
NOVA「ああ、この人に入れて来たぞ」
NOVA「別に俺は赤松氏のマンガの読者でも、アニメの視聴者でもなく、作品はネギまの実写ドラマを見ただけの縁だが、一度、TRPGリプレイの主役プレイヤーをやって、その王道主役プレイぶりとサービス精神に感じ入ったまでだ」
翔花「サービス精神かあ」
NOVA「うん、創作者にとっても政治家にとっても、大事だろう。読者への感謝と、有権者への感謝は同質のもの。そして自分を応援してくれる読者を喜ばせるために、作品を描いたり、政策提言する。少なくとも、マンガ界初の代表政治家になったわけだし、TRPGにも触れたことがある人だから、業界にとってプラスになることをしてくれるという期待感はある。うん、ただの勉強不足なタレント候補でもないしな」
晶華「ここでは政治的意見は差し控えるんじゃなかった?」
NOVA「フィクション中心のブログだからな。そして、創作界隈のクリエイターがフィクションを守るために政治家になって見事に当選したことまでスルーするつもりはない。とりあえず、訃報続きで気が滅入る夏だが、赤松氏当選については割とハッピーなニュースだったと思うぞ」
ダークタワー最終巻の第4部の感想
NOVA「さて、リアルっぽい訃報と政治絡みの話はさておき、本題のダークタワー最終巻の話だ。こう言っては何だが、この第4部が一番、時間が掛かった。200ページ強の内容だが、第2部で仲間のエディを、第3部で仲間のジェイクを失い、残されたローランドとスザンナ、そしてオイの2人と1匹の旅は非常に気が滅入る暗くて重い展開だったと言える」
晶華「暗い話は好きじゃない?」
NOVA「暗さを吹き飛ばすような熱い英雄譚が好みだな。この第4部の印象は、『指輪物語(ロード・オブ・ザ・リング)』におけるフロドとサムのモルドールの地の2人旅になぞらえられる。あれは指輪所持者のフロドが心身ボロボロなのを、従者のサムが忠義心と陽性の性格で希望の火を灯しながら励まし続けたから、感情移入して読めたんだが、暗い物語の中で良質のムードメーカーがいると癒される」
翔花「ダークタワーにはムードメーカーはいない?」
NOVA「エディとジェイクが割と陽性のキャラで、ローランドとスザンナが陰性寄りだな。そして、スザンナは伴侶のエディを失って、まだ悲しみの最中だし、旅の舞台もキャラの性格や心情もひたすら陰鬱で暗いのがこの第4部。おまけにスザンナは歩くことのできない不具者で、これまでは車椅子だったり、ローランドやエディに背負われたりしながらの旅路だったけど、今はエディがいない中でローランド一人に負担がのし掛かる状況。視点キャラがスザンナなので、読者は彼女の陰鬱さに付き合いながら、ローランドの逆境に負けない不屈さを眺めることになる」
晶華「むしろ、ローランドさんだけの一人旅の方が楽だったんじゃないの?」
NOVA「物理的には足手まといにしかなってないが、スザンナの役割はローランドが気づかない観察力にあるな。現実主義だけど想像力が貧困、目に見えない脅威に対しては鈍感ながら、殺気とか物理的な危険に対しては機敏に反応するのがローランド。一方で、スザンナは視点キャラとして有能で、感受性が武器なんだな。とにかく、目に見えるもの、見えないものなど、自分の周囲の現象を過敏に感じ取ることができる。神経質なまでに心配性で、その割に物理的に無力なのはホラーの怯えるヒロインとしては優秀な気質かもしれない」
翔花「スザンナさんは無力なの?」
NOVA「匍匐前進して、物陰から射撃したり、皿ブーメランを投げるなどの奇襲的戦闘力は備えているから、バトルでは貢献できるんだけどな。別人格のデッタ・ウォーカーの苛烈な気性もあって爆発力は凄いんだが、長旅の行軍とかだと歩けないのが決定的なハンデだし、そもそも野外活動の知識を持たないので、荒野の旅なんかもできない。その点は、ひたすらローランドに任せきりのまま、ダンジョン(ディスコーディア城の地下迷宮)を抜けて、〈悪地〉と呼ばれる荒野を突っ切り、主人のいないクリムゾン・キングの城にて手下の大臣の罠を切り抜け、雪原の〈白い大地〉を渡り、ようやくオッズ・レーンという廃村の小屋でジョー・コリンズという老人の歓待を受けるまでがとにかく暗い150ページほどの旅だ」
晶華「ダンジョン、荒野、敵の城、雪原って場所だけ聞けば、実にファンタジーRPGしていて、楽しそうなんだけど?」
NOVA「数多くのファンタジー小説だと、雄大かつ壮麗な世界描写が魅力で、背景描写のメリハリがあったりすると飽きさせないんだけど、スティーヴン・キングの世界描写って何を描いても陰鬱な景色になるので、悪く言えば単調なんだな。苛酷なだけでワクワクしない旅の舞台の描写で、これがエディやジェイクがいれば、雄大な景色に感嘆の声を上げたりもするんだろうけど、ローランドもスザンナもそういう性格じゃない。結局、視点キャラが旅の景色に感じ入れる性格や心境じゃなければ、世界の魅力も伝わりにくいってことかな」
翔花「敵の城が道中にあるのね」
NOVA「主人のクリムゾン・キングは、ダークタワーに向かって、その階半ばで囚われの身になっていることが、不思議な絵で察せられる。このクリムゾン・キングにしても、その息子である運命の子モルドレッドにしても、最終盤において間抜けさを露呈して、ローランドの旅を妨害する脅威として描かれていたのが、実に威厳のない最期を遂げることになる。中ボスや大ボスにしては、ずいぶんと呆気ないというか、尻すぼみに終わった感があるな。
「キングの城にしても、主人がいないので荒れ果てており、三つ子の大臣が禅問答でローランドを翻弄して毒攻撃しようとするも、それを見抜いたローランドにあっさり無力化され、ローランドの後を追っているモルドレッド(立ち位置的には、指輪のゴクリ=ゴラムに相当するような描写)の餌にされる始末。まあ、視点がスザンナなので、大臣の口八丁に翻弄されてしまうんだけど、スザンナはローランドの冷徹さを鑑賞するだけのキャラになってるな」
晶華「モルドレッドが後を追ってくるんだ」
NOVA「まあ、途中で出会う妨害者が間抜けに見えても、モルドレッドという脅威が追ってくる点で緊迫感はあるんだけどな。ローランドたちの旅を描く一方で、それを背後から観察追跡しながら怨念を募らせるクモ男のモルドレッドのシーンがインサートされる。スザンナはモルドレッドの追跡を感じて、重い気分になるという場面の繰り返しだな」
翔花「モルドレッドは、スザンナさんと妖魔の子どもになるのね」
NOVA「途中で、スザンナの中に生まれた別人格のミーアが自身の肉体を得て、スザンナから分裂したおかげで、モルドレッドはミーアの子になったから、スザンナ自身の子とは言えないんだけどな。この辺の設定がややこしくて、モルドレッドはローランドと女妖魔の性交(ダークタワー1巻)で奪われた精が妖魔を通じてスザンナに注がれたからローランドの子でもあり、同時にクリムゾン・キングの精髄を宿した悪の王子でもある。実に因縁たっぷりの設定だが、衝動的な幼子でもあり、狡猾な悪の化身でもある。実に多面的でややこしいキャラと言えよう」
晶華「宿命のライバル?」
NOVA「悪の王子という属性からはそう思えたんだが、あまり品はなくて姑息だ。スザンナが同行している一番のメリットは、夜営時の見張り役の存在だな。一人旅だと、どうしても夜中に見張り続けることができない。モルドレッドはローランドとスザンナの2人が相手だと勝てないことが分かっているので、何とか隙を見つけて襲撃するチャンスを窺っているわけだ。スザンナがいなければ、モルドレッドの襲撃はもっと早まっていたろう」
翔花「ローランドさんとスザンナさんと、マスコットキャラのオイの苛酷な道中を、後から宿敵のモルドレッドが追跡してくるのが第4部、と」
NOVA「そして、キングの恐るべき刺客のジョー・コリンズとの邂逅が第4部のクライマックスになるんだな」
ジョー・コリンズと少年パトリック
NOVA「雪原を踏破したローランドとスザンナたちが一息つける場所が、オッズ・レーンの寂れた小屋に一人住む老人(に見せかけた)ジョー・コリンズで、この男は親切な振りをして、ローランドたちにこの先のダークタワーまでの行き道を教えてくれる。もう、旅のゴールは近いという感じで、ローランドたちは油断してしまうんだな」
晶華「そして、運だめしに失敗して、ゲームオーバー。君の冒険は終わった、となるわけね」
NOVA「ローランドの冒険はFFゲームブックじゃねえ」
翔花「とにかく、ジョー・コリンズさんは暗殺者なのね。どんな技を持っているの?」
NOVA「こいつはアメリカ出身のコメディアンだった前歴があると自称して、相手を笑わせて呼吸困難にして、殺害するという笑わせ術の達人だ」
晶華「お笑い芸人の刺客って、マッスル太郎さんじゃない?」
NOVA「まあ、感情操作の才能を持つ超能力の応用らしいんだが、親切でお喋り好きの老人の仮面をかぶった刺客に、笑いの耐性のないローランドが見事に乗せられてしまい、あわや笑い死ぬという間抜けな死に方を示しそうになるんだ」
晶華「笑いキノコで死ぬという話は聞いたことがあるけど?」
NOVA「毒キノコの一種で、幻覚作用のあるシロシビンという化学物質を含むらしいな。まあ、キノコの話はさておき、精神攻撃の前に無力化されたローランドのピンチをスザンナが救う流れになるわけだ」
翔花「スザンナさんは精神攻撃に強いわけ?」
NOVA「元々、多重人格で精神的に不安定な彼女だからこそ、異常に気付けたというのも大きいし、相手のターゲットがローランドだったから免れたというのもあるのかもしれない。そして、作者スティーブン・キングのアドバイス(ジェイクに命を救われたことの恩返し的なメッセージ付き)もあって、ジョー・コリンズを撃退して、瀕死のローランドを救うわけだ」
晶華「恐るべし、ジョー・コリンズってことね」
NOVA「もしも、この話をゲームブックにして、笑い死ぬというバッドエンドを迎えたら、俺は作者に呪いの言葉を浴びせたくなるぞ、ふざけるなって」
翔花「陰鬱な雰囲気の旅に、いきなりコミカルキャラを差し挟んだら、そいつは思いがけず敵だったってこと?」
NOVA「第4部の中だけの話なら、起承転結の転に当たるのがジョー・コリンズのキャラ性だな。これまでローランドが出会ったことのないようなキャラで、キング自身が描いたことのなさそうな敵キャラかもしれない。普通の気のいい人物だと思っていれば、突然、思いがけないやり方で牙を剥いてきて……というのは、ジョジョのスタンド使いをもイメージした。まあ、日常の中に潜む闇や狂気は、キングの作風でもあるんだけど、『笑わせ殺す』というギミックがギャグとシリアスのギリギリのところを突いているというか。実はキング自身、『相手を怖がらせるのは簡単だが、笑わせるのは難しい』的なことを書いていて、事実、ジョー・コリンズの笑わせ芸の何が面白いのか、俺にはちっとも分からん」
晶華「キングさんにはギャグセンスがあまりない?」
NOVA「キングさんのギャグは、どちらかと言えば自虐芸なんだな。自分の作風を茶化したり、自分の情けない部分を強調して茶化したり、努力しても報われない若き日の苦労を茶化したり、まあ、大エンタメ作家なのに驕り高ぶらないようなポーズを上手く演出している。自身の内なる狂気は自覚していて、何が怖いかはじわじわ丹念に描写できるんだけど、本質的にコメディアンの気質じゃない。俺的には、ギャグと言えば『ボケとツッコミのパートナー』が機能しての会話劇が好みだが、ジョー・コリンズの話芸は一人寸劇なパフォーマンスなんだな。そして何が面白いのか分からないのに、何故か笑えてしまう系のギャグだと解釈した。
「ジョー・コリンズ本人は『売れないコメディアン』だと言いながら、堂々と話芸を披露している。読者の俺は、その芸の何が面白いのかは分からない。だけど、ローランドにはウケている。この辺の読んでいて不条理に感じる部分が、実は敵の特殊能力だという仕掛けなのかな、とも思うんだが、実のところ『面白くないものでも面白そうに雰囲気作りしてパフォーマンスする技術』いわゆる『ノリ作り』もコメディアンには必要で、『文章で書いてもつまらないものが映像演出では面白い』ということは結構あるし、逆もまた然り」
翔花「映像化作品では面白くても、文章ではつまらないってこと?」
NOVA「逆に、つまらない映像作品でも、ノベライズが面白いというケースもある。まあ、映像のストーリー描写の欠点を、文章で『このシーンにはこういう裏情報が隠されていて』と補完して見せることで、合理的かつ論理的に納得させるノベライズが結構あって、同じストーリーでも何をどう補完するか、あるいはオリジナル要素の付加で、作品が化ける可能性もある。それはさておき、『つまらないギャグで笑い死にそうになる、まるで不破さんみたいなローランド』で俺は笑った。何を面白いと感じるかは、その人の人生経験や作品鑑賞経験でも変わって来るな」
晶華「つまらないギャグで爆笑する、くそマジメなハードシリアスな硬派キャラ……っていう属性だけで、違うキャラを連想して可笑しくなるってこと?」
NOVA「まあ、俺は花粉症ガールと会話している日常だから、フィクションで『花粉症』という言葉が出て来るだけで、ツボに入ってしまうわけだしな。同じものを見て、何を連想して楽しめて、その連想を他人と共有できるかが作品談義を深く楽しむコツかもしれん」
翔花「とにかく、笑わせ師のジョー・コリンズをスザンナさんの活躍で撃退したってことね。その後は?」
NOVA「地下牢に閉じ込められていた絵描きの少年パトリック・ダンヴィル君を救出して、第4部が終結する。このパトリックの絵の魔力が最終的にラスボスのクリムゾン・キングを撃退する決定打になるわけだが」
晶華「え? ラスボスがポッと出のキャラに撃退されるわけ?」
NOVA「そうなんだ。パトリックは舌を抜かれて喋れない上、知恵遅れというか、自分の考えや感情を絵でしか表現できない可哀想な少年。しかし、その絵は無から有を生み出したり、描いた物を消しゴムで消すことで、存在を消失させることができる」
翔花「ひらめキングの能力も凄いけど、存在消失の能力も持っているなんて凄いわね」
NOVA「まあ、消滅させる前に、相手の姿を絵に描かないといけないんだけどな。そのために時間が掛かるので、即効性の技とは言えない。TRPG的にデータ化するなら、絵を描くのに1分から3分ぐらい(6〜18ラウンド)を費やして、その後で必殺の消失効果が発動するんじゃないかな」
晶華「普通は18ラウンドも戦闘は続かないものね」
NOVA「ゲームによっては、絵師の能力を持ったキャラ(ピクトマンサー)を作れるけど、大抵は絵に描いたものを実体化させて戦わせる召喚魔法の一種だからな。相手の存在を消しゴムで消して消滅させるというのは、かなり強力なものだが、それで倒されるラスボスというのは非常に興醒めというかまあ、第5部のボス戦はラストにしてはつまらないと言っていいだろうな。盛り上がるバトルを期待すると、がっかりさせられる」
翔花「パトリック・ダンヴィル君の特殊能力で、ラスボスを倒した。その間、ローランドさんは?」
NOVA「パトリックが絵を描いている間の時間稼ぎで、クリムゾン・キングの射出する飛び道具(スニーチ=ハリー・ポッターのスニッチがモデル)を凌いでいた。まあ、そのバトルは後に回して、このパトリックという新キャラの能力の実態をスザンナが突き止めることが、彼女の旅の役割の最後となる」
晶華「え? スザンナさんも死んじゃうの?」
NOVA「いや、第5部の最初の章で、自分の役割は終わったと悟り、パトリックの創り出した次元の扉を通って、去って行くわけだ。エディとジェイクの夢で見た幻に導かれるがままにな」
翔花「死んだ人たちに導かれて、物語から退場する……ってことは死ぬってことじゃないの?」
NOVA「もしかすると、その後のモルドレッド戦でスザンナを殺す可能性があったのかもしれないな。だけど、作者が書いているうちに初期の構想を切り替えて、スザンナを殺さずに別世界でエディとジェイクの『兄弟』と再会させて、違う未来を与えたのかもしれない。とにかく、ローランドはダークタワーに到達し、スザンナはローランドと別れて、別世界での仲間と再会する道を選んだ。その終盤のストーリーに貢献したのが絵師のパトリック・ダンヴィルということだ」
モルドレッドとの対決
NOVA「さて、ローランドとスザンナの両方に因縁を持つ宿敵のモルドレッドだが、おそらくスザンナの運命が切り替わったことで、それまで積み上げた伏線が台無しになり、つまらない最期を迎えることとなった」
晶華「NOVAちゃんはモルドレッドの扱いを納得していないってこと?」
NOVA「まず、こいつは正面から戦うと弱いキャラだということが、終盤に来て強調される。第3部までは恐怖の象徴みたいに描かれたのが、第4部から第5部にかけて悲哀のキャラに格下げになる」
翔花「悲哀のキャラって?」
NOVA「急成長したけど、元々こいつは生まれたての幼児みたいなキャラだ。両親から見捨てられ、暗き怨念を募らせたまま、クリムゾン・キングの後継者である魔王子としての自分に誇りを抱いて、ローランドたちの殺害を目論むんだが、ローランドの苛酷な旅を追っかけているうちに、自分自身もボロボロになる。飢えで苦しみ、孤独に苛まれ、それでも機を見てローランドの殺害を目論んで追跡しているうちに、変なものを喰って食当たりで死にそうになる」
晶華「何よそれ!? 宿命のライバルと思われた魔王子が食当たりで死にかける?」
NOVA「ジョー・コリンズの飼っていたミュータント馬を餌食にしたら、その肉が毒だったということで、いきなり死にかけてしまうモルドレッド。で、死にかけのモルドレッドが、スザンナと別れたローランドが寝入るのを待って夜襲を仕掛けたところ、ローランドを守るべくオイが盾になって殺されてしまった。オイの仇をローランドが撃ってモルドレッドが呆気なく死亡するという流れだ」
翔花「オイって、マスコット・キャラよね」
NOVA「ジェイクに可愛がられていたんだが、ジェイクの死後は黙々としながらも、ローランドの旅に付いて行き、己の役割を心得て全うしたんだな。スザンナが自分に付いて来ないかと誘ったんだけど、オイは拒んで、ローランドを助けるために崇高な自己犠牲を遂げる。その姿は悲しいが、散々じわじわと恐怖感を盛り立てて強敵感を醸し出しながら、あっさり倒されてしまうモルドレッドはもっと悲しい。毒の肉を食って衰弱したから、呆気ない末路でも仕方ない、とキングさんは考えたのかもしれないけど(本来なら、もっと強いはず)、むしろ弱らせずにローランドとガチ対決の死闘で敗れた形にして欲しかった」
晶華「オイの死を悲しむより、モルドレッドさんの終盤での扱いの悪さの方を悲しむってことね」
NOVA「ほとんど、ダークタワー到達前の消化試合って感じだな。この章はわずか40ページで感慨も何もありゃしない」
クリムゾン・キングとの決着
NOVA「そして、いよいよ最終決戦だが、先ほど書いたように、クリムゾン・キングの末路も何だかなあ、と思うもの。ここはローランドとクリムゾン・キングの一騎討ちを見たかったんだが、クリムゾン・キングの放つ飛び道具の連続攻撃に、ローランドは防戦一方でタワーに近づけない。まあ、相手の方が射程距離が長いので、飛んでくるファンネルみたいなスニーチを撃ち払うことしかできない。そこで起死回生の手段として、パトリックの存在消失パワーが覚醒するわけだな」
晶華「パトリック君は、クリムゾン・キングを倒すためだけに登場したわけ?」
NOVA「パトリックは自分の能力に無自覚で、好きに絵を描いているだけなんだな。その能力の可能性に気づいたのはスザンナで、ローランドはパトリックの世話をスザンナに任せきりだった。スザンナはオイと同じく、パトリックにも自分と来ないか、と誘いかけたんだが、パトリックも拒んだ。だから、ローランドはパトリックとのコミュニケーションに戸惑いながらも、共に旅するわけだな。同じ少年キャラでも、ジェイクとは違う距離を感じながら」
翔花「パトリック君はその後、どうなったの?」
NOVA「クリムゾン・キングという妨害者を存在消滅に追いやって撃退した後、ローランドがダークタワーに向かい、一人取り残されたパトリックは荒野の旅人になる。その後の運命は(作者にすら)定かではない、という記述だが、一応、『不眠症』にも登場しているらしい。ただし、そちらは前日譚なので、パトリックのその後は描かれていないようだ」
そしてエピローグ
NOVA「最後の締め方として、ローランドと別れて異世界のニューヨークに転移したスザンナが、その世界のエディと、その弟になっていたジェイクと再会し、新たな生活を始める流れは、まあ悪くはないんだよな。一つの世界が終わっても他の世界があるから……という多元世界らしいエンディングだと思う。問題はローランドの方だ」
晶華「確か、ゲームでリセットボタンを押して、最初からスタートしたようなエンディングだっけ?」
NOVA「シリーズの完結編で、これまでの出来事を走馬灯のように振り返るという演出は、納得できる。作り手も感慨深いだろうし、受け手も感慨深いのだろう。ゴジラの平成VSシリーズのラストとか、こういうのだしな。シリーズを追っかけてきたファンなら、いろいろ感じ入れる演出描写なわけだ」
NOVA「そして、ローランドは塔に登りながら、自分の過去を振り返り、そして最上階にたどり着くと……ローランドの意思に関わらず、運命の強制力によって記憶を失ったまま、第1巻の荒野の旅から再スタートさせられるというラスト。これで、作者にとっての1970年から2004年までのシリーズの環(サイクル)が完結したという形。これで、いわゆる永遠の戦士(エターナル・チャンピオン)的な永劫輪廻の物語になったわけだな」
晶華「死んでも転生して、戦い続けるってこと?」
NOVA「死んで転生ならいいんだけど、死なずに同じ物語の繰り返しってのがなあ。旅はまだ続くけど、これまでの旅の経験から何かを残して、次に受け継がれるって展開なら良かった。まあ、かろうじて次は別の展開がある可能性も示唆しつつ、旅が1から再スタートって形だな。賛否両論で、次の旅こそゴールに行き着けるのか分からないまま、別バージョンの物語が繰り返されるのかもしれない。いわゆるリブート版ダークタワーがな。その一つが劇場版とも、コミック版とも解釈できるだろうしな」
NOVA「何にせよ、当ブログの『ダークタワー』感想記事はこれで完結ってことで。ソーの映画の感想記事はまた後日の予定」
翔花&晶華「おつかれさま」
(当記事 完)