当ブログも、少しずつ日常に戻ることを模索してます。
まあ、震災以前と以後で、変わったこともあるわけですが。
たとえば、本話の感想。
震災前は、あんまり書くことのない話だなあ、と思っていたんですよ。
でも、震災後は、書く意味が発生した、と。
そういう心境の変化についても触れる感想ってことで。
震災前の感想
舞台は、中山道・奈良井宿、そこから伊那まで伸びる権兵衛峠に道をつなげようとする男(前田吟)の物語。
伊那ってどこだよ? って無知のNOVAは、早速検索してみて、「長野県南部」で静岡や山梨にも隣接した交通の要所と確認する。
で、道を作るための夢に燃える男の話にしぼったら、自分的には当たりの回なんだけど、物語の中心スポットは、その娘(佐藤藍子)に当てられる。
娘に惚れ込んだのは、無謀で図々しい若者と、老獪な商人の二人。
若者は、娘の父親の道作りを力仕事で支援し、強引に婚約の許しを得る。
一方、商人は、娘の父親に資金援助して、その見返りに娘との結婚を強引に迫る。
結局、娘は若者の素朴な求愛を受け入れることになるんだけど、視聴者視点からは、二人の求婚者の是非はどっちもどっちなんだよね。娘の気持ちを考慮しない強引さはどっちもどっちで、しかも傍目には、商人の方がきちんと段取りを踏んだ求婚を行なっており、その上、将来性も十分ありそうだ。
こういう状況に、しゃしゃり出てきたのが黄門さま。
さて、この話。明確に悪い奴ってのが描かれない。
若者も商人も、強引さは同じで、惚れた女のためにいろいろできることをする。さらに、商人は自分が醜男であることを気にしていたり、道を作る支援をすることで流通を良くして、自分の商業活動を盛んにしつつ、周囲の産業を発展させようという夢も持っている。つまり、目の前しか見えない若者と違って、大局的視点を持ち合わせている。
ただ、それだと、ご老公が立ち入るドラマ的根拠が成立しないので、商人が道を踏み外している設定が付与される。
娘との結婚を急ぐため、荒くれ者を雇って、奈良井に送るはずの米を買い占めさせて、さらに奈良井の在庫の米をも略奪させる。そして、米不足に陥った奈良井を助けるため、と称して、「自分の在庫の米を提供」するという策に走るのだ。
この辺りのストーリー展開が、自分にはどうも取って付けたような感じがした。若い娘に惚れた商人を、強引に悪い奴に仕立て上げたように見えるのだ。しかも、商人はそんなことをしなくても、父親の道作りの資金援助を何年も前からしているので、じっくり構えれば良かったのだ。何で、事を急いで、強引な略奪の黒幕になる必要があったんだ?
真っ当な商業活動の末に、娘を担保に資金援助をする。父親は借金のかたに娘を売り渡す。まあ、今の目だとひどい話に映るが、人権が保証されていない江戸時代の契約ってものを考えるなら、それを悪いことだとは言えない。
仮に、これが現代劇なら、娘と若者の恋愛の様子を描いて、そこに感情移入させてから、それを邪魔する大金持ちを悪役として登場させる作劇手法はある。
でも、本話では、この娘と若者の恋愛ってのが、十分描かれていない。若者は強引なだけで、娘はそんな彼を慕うよりも、「やんちゃな困った弟分」程度の目でしか見ていない。黄門さまと、女心に敏感な助さんは、「いや、娘は若者に惚れていますな」と見抜くけど、格さんに言わせれば「そんなバカな。娘は若者に嫌いと言ってましたぞ」と。
「お前に女心は分からん」と助さん。
ちなみに、NOVAはこの場合、格さんに賛成。いや、NOVA自身、女心は分かるとは申しませんが、本話の作劇では、どう見ても、女が若者に惚れているようには見えない。
ともあれ、女の心情にも、若者にも、そして道作りの主人公である親父殿にも感情移入できないまま、あろうことかNOVAは「自分の外見にコンプレックスを持っており、それでも、いろいろと手の込んだやり方で願望を満たそうとする商人」に感情移入してしまったのだ。
で、事を急ぐ余り、荒くれ者と手を組んだことで、黄門さまに介入の理由付けを与え、そしてラストは、大した大立ち回りにもならずに、「商人が金儲けを志すのは悪いことではありませんが、少々やり過ぎたようですな」とお叱りを受ける幕。
結局は、娘の恋愛三角関係も微妙な描き方で、父親の道作りの夢も背景情報でしかなく、悪党の描き方も何だかセコくて、どこが面白いか分からなかった、というのが視聴直後の印象だったり。
震災後は?
物流という言葉に、突然、重みを感じてしまいました(^^;)。
この物語に、被災地のイメージをちょっとかぶせるだけで、この商人の悪行がにわかにクローズアップされます。
ええと、物資の届かない地域に、物資を届けるために、道を切り開こうとする男。単純に格好いいですね。
その男に資金援助しようと持ち掛けて、男の大切なものを取り上げようとしている、己の利益重視の商人。まあ、悪い奴だ。
しかも、送り届ける物資(食料の米)を、裏から手を回して略奪。何て悪い奴だ。
……って感じで、完全な脳内補完なんですが、要するに、「道を作ること、物資を輸送すること」に別の意味合いが付けられてしまい、「それを邪魔することが、とんでもない悪行」に感じてしまった、と。
たぶん、震災後にこの話を見たら、商人に感情移入することは決してなかっただろうと思いますが、
逆に言えば、「震災以前と以後」で自分という人間の視点が大きく変わってしまったこと、同じ物語を分析する際にも、そのタイミングによって評価が大きく変わりかねない事を実感した次第。
ただ、まあ、そのように視点が変わっても、本話がアクション要素に乏しく、また恋愛話が何だかしっくり来ない邪魔なエピソードに見えてしまうのは、変わらないってことで。
後者の何が問題かと言えば、娘を演じた佐藤藍子さんが、好きな人と引き離されて悲恋にむせびなく可哀相な娘に演出されておらず、もっと自立した強い女として描かれているため、黄門さまの介入がなくても、自分の意思で強く生きていけるんじゃないだろうか、と感じてしまう点。
どうも、今風の強い女性設定で、時代劇を描くと、恋愛話などがしっくり来ないなあ、と感じるのは、自分だけかな、とも思いつつ。
PS:あと、いつもは「権力を笠に着た悪代官」が商人と結託して……というパターンですが、本話の代官は、単に事なかれ主義の小者で、商人の悪事に気付かない無能さを露呈するだけで、最終的に成敗される役どころではなかった点も、物足りなさの一つ。
番狂わせではあるけれど、その番狂わせが意外な面白さにならなかった点が、残念とも。
PS:被災地に、物資が滞りなく送り届けられますように。