今回の必殺もそこそこ佳作
NOVA「とりあえず、『エモいこと』と題した薀蓄哲学教養話は先送りして、必殺話をするぞ」
晶華「うん。面倒くさい古典とか哲学かぶれな話はエモくないので、パスね」
NOVA「お前、ホイジンガは遊び心の大切さを主張した文化史家・哲学者だぞ。エモ話の4つめはホイジンガの話をするつもりだったんだ」
晶華「ホイデンガン?」
NOVA「ホイジンガだよ」
晶華「ガンガンジー?」
World Collectable Figure がんがんじい
NOVA「それを言うなら、ひらがな表記で『がんがんじい』が正解な。ボツネームは『ゴリガン』で、ある意味、不破さんの先輩格とも言えるな。令和の時代に復活しないかなあ、がんがんじい。まあ、人間が鎧をまとって怪人相手に戦うも、毎回ピンチになるという意味では、G3の先輩格でもあるんだが」
晶華「……って、必殺話のはずなのに、どうしてロボコンとかゴリガンの話になってるのよ?」
NOVA「お前が、ホイジンガと聞いて、変なリアクションをするからだろうが。ホイジンガは真面目な研究者なのによ」
NOVA「まあ、最近読み始めた『ホモ・ルーデンス』をまだ読み終わってないので、この話はまた後日な。それより今は『必殺のリュウ、ハサミジャガーになる』の回だ✂️」
晶華「また、変なことを言い出した」
NOVA「いやあ、地味な短刀殺しは変えて欲しいと主張したら、リクエストに答えてくれた『植木職人』のリュウ君が、植木バサミを二つに分けて、新武器を作ったんだよ。リュウと言えば、初代の龍が宮内洋さんで、言わずと知れた仮面ライダーV3。そこからネタを引っ張ってきて、ハサミジャガーの武器を採用するなんて、特撮者としては感服するじゃないか」
晶華「って、作り手の人は絶対にそんなこと考えてないし。それとも『リュウさんがハサミを武器にするようにしたのはハサミジャガーのオマージュです』なんて、スタッフインタビュー的な証拠でもあるわけ?」
NOVA「いや、証拠はないが、妄想に証拠など必要ない(断言)。あるいは仮説段階で、検証はこれからだと主張するぞ。それはともかく、今回はリュウのハサミの最初の犠牲者が仮面ライダーハートの役者というのも笑えるわけだ。ハートのモチーフはロボコンでもあるし、今回の必殺は仕事人にどんどん仮面ライダー関係の役者が倒されていった話でもあるんだな、これが。アナザークウガとか、仮面ライダーアギトとか、ディケイド版レンゲルとか、『仕事人VSグレ者ライダー軍団』とサブタイトルを付けてもいいぐらいだぞ」
晶華「へえ。ちっとも気付かなかった」
NOVA「俺も放送中は気付かなかったよ。エンディングで賀集利樹の名前を見たり、蕨野友也の名前を見たり、地味にいろいろ出てたんだなあ、と他の人のブログで教えてもらった次第」
晶華「でも、できれば、仮面ライダー役者が仕事人になってくれると、NOVAちゃんは嬉しいんじゃない?」
NOVA「それはシリーズ全体を見ても、島帰りの龍か、花屋や鍛冶屋の政だけのレアケースだぞ。それに今のシリーズでは、仕事人って基本、小五郎たちのチームしかいないんだよな。たまにゲストで出てくるのは『流しの仕事人』とか言われて、どうも今の江戸の仕事人はお菊姉さんの独占企業みたいになってる。俺としては、もっと仕事人同士の抗争劇ってのも見たいわけだが」
晶華「毎週TV放送しての人気の上で作られた映画と、年1作だけのTVスペシャルを比べても仕方ないわよ。予算も作品の勢いも全然違うんだから」
NOVA「まあな。80年代の最盛期と比べても仕方ないのは分かっているんだが、2009当時の熱気と比べても、今の作品が惰性で作られているように思えてな。何しろ、OPの市原悦子さんのナレーションも、EDの鏡花水月もそのままだし、令和初なんだから、その辺は少しぐらいイメチェンして欲しかったな」
晶華「あれ? 脚本家さんは変わってなかった?」
NOVA「西田征史さんだな。そこはOK。今回は初の担当作品だからか、これまでの基本に忠実に作っていて、そこそこ手堅い作品だったと思う。十分及第点だな。だから、傑作じゃないけど、佳作という評価。悪くはない。だけど、ワクワクはしない『つまらない普通の2000年代必殺』だったわけで。これが日常だというならまだいいんだけど、『一年に一つのスペシャルと銘打ってるのに、つまらない普通』だったら何だかなあ、という」
晶華「マニアの贅沢な文句って奴ね」
NOVA「細かく見ていけば、良いところもいっぱいあるんだけど、大雑把に見ればパッとしない、可もなく不可もない地味な内容。令和初がこれじゃ、祭りとは言えないだろうという。まあ、コロナという状況では作品ができただけマシだし、悪くはないんだよ」
テーマは親子の情と、世代間の衝突
NOVA「2020の殊勲賞は、何よりも子役の演技だな。嬉しいときは本当に楽しそうだし、哀しみを我慢しているときの表情とか、母親を思い出して抑えきれずに泣く姿とか、もうストレートに、ダイレクトに心を打つ描写で、ここだけは本当に感じ入る。理屈じゃなくて、情感をメインに批評するとしたら、今回は大当たりとも言える」
晶華「へえ、NOVAちゃんは子ども好きなんだ」
NOVA「当然、好きに決まっているだろう。俺のハートの半分は子どもでできているんだからな」
晶華「大の大人がそれを言っちゃうと、『自分は成熟してません』って打ち明けているようなものじゃない?」
NOVA「いや、だから、その半分の子ども部分を、お前やシロ君やリウ君に割り当ててるんじゃないか。創作家としては、自分の中の子ども部分を客観的に見つめて、それを再構成できるって時点で、十分大人だと思ってるけどな。本当に子どもなら、自分の内面を客観視して切り取る芸当なんて、まず出来ないと思うし」
晶華「それって、詭弁ですよね」
NOVA「こらこら、劇中で使われたセリフを意味もよく分からずに使ってるなよ。詭弁ってのは、『道理に合わない自己正当化の強引な弁舌』を言うんだ。子どもは自己客観視がなかなかできないのは事実だし、自分を客観的に見つめることは、少なくとも青年期から成人期にかけての必須な知的訓練だと考える。文章を書くというのもそういうトレーニングになるし、自分を知らず、他者を知らずでは、ろくに批評なんかもできないだろうさ」
晶華「新生塾の先生ってのは、NOVAちゃんと違う?」
NOVA「あのキャラは、少し底が浅すぎたな。今回の2020のキャラは、前作までの寺田敏雄脚本と違って、中身が軽いというか、いかにもドラマのためのキャラって感じだ。その分、ストレートなキャラはいいんだけど、屈折したキャラはどことなくドラマに動かされているような感じで、途端に言動が頭悪くなってしまうんだ」
晶華「たとえば?」
NOVA「それまで隙を見せなかった奉行が、相手が腹を切るのを見た途端、自分も腹を割って(視聴者向きに)悪事をベラベラ喋ったり、新生塾の教師にしても、『付け焼き刃な身分撤廃論』を唱えていたかと思いきや、だったら、それに代わる道徳価値や倫理観を塾生に示し得ていたかと言うと、そこが空虚なんだよな。『身分に囚われない、新しい生き方』を説くにしても、本当は江戸時代の背景を考えると、危険思想として罰せられるはずなんだが、そこは置いておくとして。
「この先生のそういう思想の根底が西洋蘭学なのか、それとも日本古来の国学なのかも、劇中描写からは読めないし、いかにも描かれ方が今風かつ子ども騙し。まあ、劇中でも騙されているのが世間知らずのニートなので、物語としては問題ないか。字の読めない母親もそうだけど、少しばかり学のあるズル賢い人間が本当に学のない、人の良い人間を騙すだけの物語。でも、塾の先生が思想の土台を持たない完全自己流手前勝手な伝統破壊者なのは、脚本家が時代もののリアルを書く素養がない感じで、現代感覚が強すぎるかな、と」
晶華「ええと、塾の先生のキャラがらしくないってこと?」
NOVA「その通り。ただ、それは脚本家の人も自覚的で、だからリュウに殺される前のシーンで『説法の練習をしているシーンを付与している』んだ。つまり、このキャラは本職の塾講師ではなく、『塾講師に成り済ましたグレ者上がりの役者』なんだ。教育者でもなく、信念も持たないんだけど、成り済まし演技のできる役者にして詐欺師という設定。それに世間知らずのニート君が心酔して騙されたんだけど、リュウの言葉で疑念が生じると、相手の言葉が詭弁だと気づくことができた、と」
晶華「ニート君は詭弁という言葉を知る程度には頭が良いってことよね」
NOVA「勉強はできたんだろうさ。だけど、イジメか何かで自尊感情が折られてしまい、挫折して、そこからアップダウンの激しすぎる人格、それでいて思いつめたら周囲が見えない視野狭窄に陥るようになって、そこは父親も同じような性格で、人情ドラマとしては理にかなっているんだよ」
晶華「ええと、NOVAちゃんは今度の脚本家さんを褒めてるの? 貶してるの?」
NOVA「西田さんは時代劇方面は素人だけど、必殺の設定はきちんと勉強しているので(涼次が伊賀の出身で、鍼にも興味があるとかマニアックな設定を拾い上げてる)、ドラマの素人ではない。物語は軽妙で、寺田さんみたいな70年代へのこだわりが薄く、むしろ80年代必殺の方向で話作りをしているのは、世代差だと思われ。実際、75年生まれで俺より少し年下で、90年代に売れないお笑い芸人をやって挫折し、2000年代から舞台の脚本作りを手がけるようになって、10年近く頑張ってブレイクした御仁だな」
晶華「つまり?」
NOVA「時代劇のライターとしてはツッコミどころが多いけど、元々現代の趣向を取り入れがちな必殺シリーズでは、そこを気にしなくてもいいかも。ただし、キャラの掘り下げよりも、ドラマとして動かすことを優先して考えるので、割とステロタイプな描き方で軽い。でも、既存のキャラ設定は大事にしてくれる感じで、むしろ手抜かりなく分かりやすい感じの作風だな。そして、今回の話を見る限り、寺田さんとの決定的な違いが3点ばかりある」
晶華「それは何?」
NOVA「一つは、さっきも言ったように、70年代前期必殺マンセーの寺田さんと80年代必殺風味の西田さんということになるかな。二つめは、事件の被害者に対して非情じゃないところ」
晶華「ええと、いろいろ殺されているんですけど?」
NOVA「寺田脚本だと、女の子のその後なんて描かれていなかったろうさ。この世は人情紙風船的な作風だからな。源太が死んだ後の作太郎がどうなったか、寺田さんはちっとも触れなかったわけだし。だけど、西田さんはその辺の人情とか情愛の持って行き場をうまく計算して、いい落とし所にはめて見せた。親を失った娘と、夫と息子を失うことになる母親を段取りよく巡り合わせることでな。
「まあ、寺田さんも去年の2019では、弥生ちゃん(飯豊まりえさん)のキャラをうまく生還させて、希望の未来を与えて、おや? 作風変わった? と思わせたけど、2019から2020の構成は前半が定番仕事人ストーリーで、後半がどんでん返しという作劇で同じだし、今回はうまくバトンタッチできたとは思う」
晶華「寺田さんは2018年の作品である程度描ききって、2019で丸くなって、2020で後を託したってのがNOVAちゃんの分析よね」
NOVA「まあ、来年の2021で寺田さんがまた帰ってくる可能性もあるわけだが、俺としては脚本家の世代交代というか、ヴァリエーションを出してくれるのが大歓迎だな」
晶華「とにかく、西田さんは80年代の作風で、陽性コミカルな方向性で、人情ドラマを重視するってことでいいの?」
NOVA「今作を見た感じではな。そして、3点めの違いが後半のどんでん返しなんだけど、寺田さんは『善人の悪堕ち』を濃密に描いて、主人公たちよりも悪者の方がインパクト大になりがちだった。一方、西田さんは『善意のすれ違いによって生じた悲劇と、それを煽る悪役』という構図を今回、見せてくれたんだ」
晶華「ああ、奉行の描写がそうね」
NOVA「今回、奉行は途中で悪堕ちしたのではなく、すでに悪堕ち済みなのを正体隠していたわけだ。そして、息子は善意で父親に悪事を告白しようとしたものの、言葉足らずで伝えきれずに誤解から殺され、父親の方も息子が道を踏み外したとの思い込みで、武士の誇りを守るために殺害した後で、奉行の悪意によって真相を明かされ、無念の死を遂げる形。まあ、これは昨年ニュースになった『無職の息子(44歳)を元官僚の父親(76歳)が殺害したリアルの悲劇』をモチーフにした話なんだろうけど、いろいろと現代風刺ネタがオブラートに包むことなく、ストレート過ぎるよな」
晶華「善人が悪堕ちするよりも、善人が善意のままに息子殺しをしてしまう方が、描写がキツくない?」
NOVA「無茶苦茶、皮肉だよな。グレ者たちはともかく、塾講師も奉行も人を騙しているだけで、殺しには手を染めていないんだよ。だから、ある意味、『騙される方が悪い。俺は直接、手を出していないし』の言い分はその通りだし、奉行がベラベラ悪事を喋ったのも『冥土の土産に教えてやろう』のお約束な作劇パターンだけでなく、『腹心の部下に対するささやかな自己顕示欲、愚かな善意が悲劇を生んだことを突きつけての鬱憤晴らし、悪人にとっての晴れの場』でもあるわけだ。
「舞台演出としては、隠された仕掛けがドーンと公開されるクライマックスの見せ場と言ってもいい。そう、心情的には、策謀家ほど自分の仕掛けが上手く行ったら、いろいろ種明かしをしてみたくなるわけだよ。ずっと隠しっぱなしというのもストレスが溜まるわけで、これで相手の最期だと思えば、感極まってあれこれ喋りたくなる気持ちは非常によく分かる」
晶華「つまり、西田さんの描き方は、理にかなっているということ?」
NOVA「うん。すごく計算高く話し作りをしているんだな。寺田さんが悪党の情念を濃密に描いている脚本家で、西田さんはより被害者の心情に寄り添ったストーリー。一方で悪人については、割とステロタイプに近く、その分、舞台演出的な定番で分かりやすい。一応、その定番演出に理由づけはしているけどな。塾講師が教育者ではなく詐欺師だとか、奉行が善人面した愚か者を内面で見下していてマウント取りたい性格とか、きちんと細部をチェックすれば手抜かりなく描いているんだよ」
晶華「ああ、分かりやすいお約束に見せて、そういうツッコミどころに前もって理由付けを与えている、と」
NOVA「うん、脚本家の仕事としては、一見、粗のように見える部分が、しっかり補強されているんだ。だから、下手なツッコミを入れると、『いや、実はこういうことだから。きちんと劇中描写されているでしょ?』と反論できるほど完成度が高い。そして何よりも、80年代の人情ドラマ必殺のオマージュとして機能しているんだよ。これにアクションの面白さが加われば、80年代帰ってきた〜と拍手喝采なんだけど、それは脚本家の仕事じゃないからなあ」
晶華「まどろっこしいけど、NOVAちゃんは西田征史さんを高く評価しているという結論ね」
NOVA「時代劇的なリアリティを分かっていないという欠点はあるけれど、それは80年代必殺の特徴でもあるからな。あとは必殺らしさと、チームの描き方と、視聴者が素直に感情移入できるかどうか。今回は掟とか情とか、そういうキーワードがしっかり出ていたし、キャラの絡みも濃厚で、遊んでいるキャラがほぼいない。
「『ステロタイプすぎる、悪人の頭が悪そうだ、だけど善人の頭はもっと悪い』という欠点も指摘できるが、そういうツッコミ部分も意図的に仕込まれている気がする。何しろ、視聴者は作品のキャラに対してマウント取りたくなるものだし、分かりやすいツッコミポイントを示すのは、劇作家の手法でもあるわけで」
晶華「確かに、ツッコミポイントが皆無のパーフェクトな物語が面白いとは限らないわね」
NOVA「俺としては、新しい脚本家さんが寺田さんと異なる資質を読めたから、批評するのが楽しい、という結論になる。そして、この脚本家さんの代表作が『TIGER & BUNNY』だろう? この作品は『世代の異なるヒーロー、熱血親父とクールな若者のバディ物』なわけで、そういう世代差の衝突、価値観の違い、ジェネレーションギャップをドラマに落とし込む手法というのが、単に『足手まといの若者に対する冷淡さ』を見せた寺田さんよりも、今後の必殺を描くのには求められているわけだよ。今の若者向けにブラッシュアップした必殺に、新しい風を、というのが俺の主張だからーーもちろん原点を破壊するのではなくて、継承しながら新機軸を模索して欲しいという意味だがーー今作がそういう契機になって欲しいと考える」
晶華「ヒーロー群像劇を描いた西田さんだったら、もしかするとNOVAちゃんの見たい『仕事人大集合』的な派手な活劇を見せてくれるかもしれない、と期待するわけね」
NOVA「ああ、別に仕事人対決じゃなくてもいいんだが、仕事人チームVS強大な悪役チームの丁々発止のバトルスペシャルが見たいんだ」
必殺仕事人Ⅴ BGM 「冥土の鈴か、地獄花」 ~殺しのテーマ~
NOVA「とにかく、新しい脚本家さんにいろいろ期待して、第一回の感想は終了。あとは、主役陣のキャラ演出感想を書く予定」
(当記事 完)