お盆休みで第3部開始
シロ「いよいよ、最終部を始めることにする」
晶華「今回は、遅ればせながらとはならなかったみたいね」
翔花「今回の舞台は、暗黒大陸クールってところだけど、ナイン君、説明して」
009「ああ。ゲームブックのFFシリーズの中心世界タイタンには、大きく3つの大陸がある。1つはアランシア、2つは旧世界、そして3つめがクールだ」

翔花「何だか、地名が英語だらけでよく読めないんだけど」
009「だったら、『タイタン』所収の完訳バージョンだ」

翔花「完訳バージョンがあるんだったら、先にそちらを出せばいいのに」
009「いや、今回の『暗黒の三つの顔』版では、アリオン、アシュカイオス、ケイベッシュ以外の地名は出て来ないからな。それらが大きく表記されているバージョンの方が見やすいだろう、という配慮だ」
シロ「アランシアは、FF第1作の『火吹山の魔法使い』(1982)からの伝統的世界ですね」
009「だから1982年から84年にかけて基本が構築された形だ。主に、イアン・リビングストンが『運命の森』『盗賊都市』(ここまで1983)『死の罠の地下迷宮』『トカゲ王の島』そして『雪の魔女の洞窟』(ここまで1984)にかけて、都市や地形の位置関係をつなげて行き、アランシアという名称が初めて登場したのは、FF14巻『恐怖の神殿』(1985)においての話だ。その前に雑誌で地図が公開されたのが初出らしいがな。とりあえず84年から85年に、一つの地図として世界ができ上がったことになる」
晶華「アランシアには、スティーブ・ジャクソンの書いた『バルサスの要塞』やサラモニス周辺地域も含まれるのよね」
009「『バルサスの要塞』は83年だが、その後、ジャクソンは宇宙とか、80年代の現代イギリスや、スーパーヒーローのタイタンシティなどを舞台にした多ジャンル作品を作って、再びアランシアを舞台にしたのは86年の24巻『モンスター誕生』まで間が空く。一応、火吹山、サラモニス周辺、トロール牙峠などの地域はジャクソンの領域だけど、ポート・ブラックサンドを中心にしたアランシア北西部はもっぱらリビングストンの冒険の舞台ということになる」
シロ「そして、第2の大陸が『ソーサリー』で紹介された旧世界だと」
009「『ソーサリー』の1作め『シャムタンティ丘陵』(旧題『魔法使いの丘』)は83年で、舞台となるカーカバードが地図付きで発表されたのは、アランシアよりも早い。だから世界の名称としては、アナランドとカーカバードの方が先で、アランシアの発表が後になるわけだな」
翔花「とりあえず、アランシアがリビングストンさん中心の世界で、カーカバードから広がった旧世界がジャクソンさん中心の世界という理解でいい?」
009「起源はそれでいい。ただ、クールの方は、誰の世界という決めつけがしにくい。とりあえず、クールという地名が最初に登場したのは86年で、初クールのゲームブックはこれになる」

和風の八幡国と、クールを舞台にした作品
翔花「分かった。クールは日本の時代劇みたいな世界ってことね。東洋風なんだ」
009「いや、それがクールの全てじゃない。クールの大陸南東部にある八幡国周辺にそういう文化があるってことだ」
シロ「そして、『暗黒の三つの顔』第3部には、八幡国出身の侍キャラクターが敵として登場するんだな」
晶華「だから、FFゲームブックに忍者が出て来ても、世界観的にOKということね」
009「最初に忍者を登場させたのは、リビングストンだけどな」
シロ「良いセンスをしているじゃないか」
009「FF6巻で忍者を出したり、FF7巻で恐竜を出したり、アランシアも結構、荒唐無稽なところがあるが、クールはもっと多様性にあふれている。とりあえず、リビングストンやジャクソン以外の作家のFF作品は、まとめてクールということにしようって決まって、後付けでクールを舞台にした作品が2つある。
「1つは、アメリカのスティーブ・ジャクソンが書いたFF8巻『サソリ沼の迷路』。その舞台であるフェンマージ周辺地域は、クール大陸の北西部に位置づけられた」

翔花「これがクールかあ。いかにも混沌って感じのモンスターね」
009「続いて、このFF16巻『海賊船バンシー号』がクールだな。八幡国のすぐ西に広がる内海を舞台にしている」

晶華「あら、アンドリュー・チャップマンさんの作品じゃない? 『王子の対決』の作者さんの」
009「本人の了解なく、勝手にタイタン世界に組み込まれたらしく、後にチャップマンさんは自分のオリジナル世界に内海を組み込んでいる。つまり、『海賊船バンシー号』の物語はタイタンを舞台にしているだけでなく、別の世界にも通じていることになる」
シロ「その辺の版権問題はややこしそうだな。『宇宙戦艦ヤマト』の世界と、『キャプテン・ハーロック』の世界がつながっているのかどうか、みたいなものか」
晶華「ところで、『王子の対決』の舞台のガンドバッド王国も、クール大陸にあるのよね」
009「その地図がこれなんだが、現在の解釈ではクール大陸の北東部に組み込まれている。カラムダー市がカラガール市に名前を変えたり、ガンドバッドの跡地がアリオン近くの古戦場になったり、一応、『王子の対決』の物語は、クール大陸の過去を舞台にしているようだ」

翔花「え? ガンドバッドって結局、滅びちゃったの?」
009「おそらくは魔法大戦の前後ぐらいじゃないかなあ。だから、『王子の対決』の物語は、アリオン市で語られる昔話、伝承の類だと見なすのが妥当だろう。もちろん、作者のチャップマンが了承してるかは不明だけど」
晶華「本当に、設定が混沌としているのがクールなのね」
009「ややこしい地域はクールに組み込もうと考えたのは、おそらく『タイタン』編集者のマーク・ガスコイン。だから、クールを作った人ではないけれど、クールの設定をまとめた人という認識だな。『モンスター事典』『タイタン』および『アドバンストFF』の1版を編集し、FFゲームブック31巻『最後の戦士』の作者でもある。ただし、この話の舞台はクールではなくて、南アランシアだけど」

翔花「つまり、クールって大陸は、一言で説明できないほど多様性に満ちた世界ってことね」
アリオン市と、クールの歴史
009「現在のクールを一言で言うなら、『大陸の内陸部が、魔法大戦の余波で完全に文明が崩壊した〈混沌の荒れ地〉と化し、海沿いの大都市だけで、かつての文明の名残りを維持している未開大陸』ということになるか。そのうちの代表都市がFF23巻『仮面の破壊者』の舞台であるアリオン市だ」

009「アリオン市は、現在のTRPG『アドバンストFF』2版を展開している会社の名前であり(アリオン・ゲームズ)、ゲームブックを出版しているスカラスティック社と並んで、同社がFFに関するゲーム資料をいっぱい出している」
シロ「ブラックサンドに続いて出した都市ガイドが、アリオン市なんですね」
009「だから、『仮面の破壊者』はクール大陸を語るうえで、最重要になる作品なんだ。内容は、邪悪な魔女モルガーナが仮面魔術の奥義を駆使して、恐ろしい12体のゴーレムを復活させて、世界を破壊しようとしているので、それを止めようという話だ」
翔花「それって、わたしたちが第1部でプレイした冒険とそっくりじゃない?」
晶華「もしかして、大筋をパクった?」
009「『仮面の破壊者』が87年に邦訳されているから、山本さんが第1部の執筆の際に意識したのはまちがいないと思う。魔女、仮面、ゴーレムという3つのキーワードだけ見れば、敵キャラの設定はそっくりだ。もちろん、主人公の獣使い設定はオリジナルだし、途中のストーリー進行もずいぶん違うので、一部要素を引き写しただけだがな。それに舞台がアランシアで、敵の使う魔法がソーサリーの妖術で、さらに元ネタがクールの『仮面の破壊者』ということで、第1部はそれだけでFFシリーズの3大陸集大成みたいなところがある」
シロ「すると、第3部をどういう話にするか、ネタ出しに困ったでしょうね」
009「だから、第3部は正統派の王道ストーリーで勝負するのを避けて、パズル中心のトリッキーな作品になったんだ。敵ボスのヴァンデミアの能力が力技で対処できないので、知恵と工夫が問われる。第2部同様の憑依型の精神生命体で、それもマンネリじみた設定だけど、第1部の要素(敵ボスが少女の姿で騙してくる)と、第2部の要素(敵に体を乗っ取られるバッドエンドがある)を巧みに混ぜて、統一感を持たせながら、途中展開に変化をつけて飽きさせないようにしている」
晶華「いきなりネタバレしてるんじゃないわよ」
009「おっと。それにしても、表紙絵を見ると、いきなりネタバレされているのも確かだからな。山本さんのストーリーだと、悪女NPCが定番じゃないか?」

翔花「『モンスターの逆襲』はそうでもなかったと思うけど」
晶華「主人公が本来は悪役のモンスターで、イラストでもゴブリンが進化して、モンスター娘(メデューサとかハーピーとか)になったりもするけどね」
翔花「ニャンティコアとか」
晶華「それは、このブログでのオリジナル」
翔花「とにかく、女性キャラが出て来たら、疑ってかかれ、と言うことね。このわたしからヒロインの座を奪おうとするキャラは許せないので、ルビーKビームで焼き滅ぼします」
晶華「悪いのは、取り憑いた中身だから体は傷つけないで」
翔花「う〜ん、憑依型の敵って、倒すのが面倒そうなのよね」
シロ「まったくだ。昔、そこのアッキーに憑依されたことがあってな。自分の肉体を他人に乗っ取られるのはいい気がしない」
翔花「え? アキちゃんが、シロちゃんの体を乗っ取った? どういうこと?」
晶華「そ、それは……まだ私が翔花2号だった頃、コンパーニュと敵対関係にあって、お姉ちゃんを拉致監禁したと勘違いして、潜入工作のために仕方なく……」
翔花「ふ〜ん、シロちゃんの体に取り憑いて、やりたい放題したんだ〜(ジロッ)」
晶華「やりたい放題なんてしてないし。もう、時効よ、時効」
参考までに、そのエピソードはこちら。
本記事のゲームブックとは何の関係もないので、寄り道に興味なければスルーしてかまいません。
晶華「昔話を蒸し返すと、今の人間関係がややこしくなるので、これぐらいにして、とにかく憑依技を使う敵は恐ろしくて面倒だってことね。この経験は、ヴァンデミアと対峙する際に活かしてください」
シロ「体を乗っ取られないように対処しろってことだな」
翔花「大丈夫。シロちゃんの体は奪わせない」
009「いや、シロ君じゃなくて、マシロンだろう? プレイヤーとキャラクターを混同しちゃダメだ」
晶華「改めて、アリオン市の話に戻りましょう。ナイン君、お願い」
009「ええと、現在のアリオン領主は、『仮面の破壊者』の主人公なんだな。つまり、英雄王だ。正義を愛する立派な人物だが、領内のごたごたで忙しいそうで、マシロン一行の旅には同行できないが、しっかり励まして、使命の成功を祈ってくれる」
晶華「いきなり、パラグラフ401番からスタートしたわね。その前に、アリオン市の観光ガイドをお願いしたかったんだけど?」
009「ああ。宮廷魔術師のアイフォー・ティーニンという男がいてな。なぜか名前の一部が太字表記なんだわ。その謎を解くのが攻略の鍵ということで」
シロ「フォーティー? 40ってことは、40周年ってことになるのか?」
009「来年が『仮面の破壊者』40周年ってことで復刻を期待しているんだが、それはさておき。攻略の鍵はあくまで『仮面の破壊者』の話。今のゲームには関係ないな。とりあえず、アリオン市は暗黒大陸の風評にも関わらず、古の文明の残滓をしっかり継承した活気あふれる港湾都市だ。魔法大戦以前は、大陸中央のケイベシュが北方王国の首都として栄えたんだが、それ以前にもっと栄えていたのがサソリ沼周辺の西方王国。クールの文化圏を大きく分けると、ケイベシュを中心にアリオンも含む北東地域と、八幡国中心の南東地域、そして西方王国はシェイキスタ王朝と呼ばれ、〈王の道〉を築いて交易で栄える一方、大陸南方は小国乱立の状態だった。魔法大戦までは」
晶華「魔法大戦の原因が、クールにあるのね」
009「とある冒険者の一団が、南の未開地で〈死せる都〉の遺跡を発見した。そして、封印された〈名もなき混沌の落とし子〉を開放してしまったんだな。〈落とし子〉は目覚めた後、密かに移動しながらトロールやオーク、その他の不定形な混沌の生き物(デーモンの類と見られる)を率いて、軍団を結成するに至る。そして、南方の小国を蹂躙した後、その勢力は東と西の2つに分かれる」
翔花「止めることはできなかったの?」
009「ケイベシュは繁栄を謳歌しすぎて、平和ボケになっていたようで、対策を整える間もなく崩壊した。そして、アリオン市が最後の砦みたいな反攻の中心になって行った。一方、西のシェイキスタの方は、多くの都市を破壊され、首都シェイキスタでの籠城戦を余儀なくされるほどの惨状だった。その危機を救ったのが、アリオン軍を率いた伝説の英雄ブレンダン・ブラッドアックスだった。籠城を良しとせず、果敢に討って出る勇猛さと、敵軍を待ち伏せて挟み撃ちにするなどの機動戦術を駆使して、古戦場を突破した彼の軍はその勢いで、籠城している西方シェイキスタを支援に駆けつけ、かろうじて人の文明を救ったわけだ」
シロ「つまり、ブレンダン・ブラッドアックスこそが救世主だと?」
009「その子孫が現在のアリオン領主で、英雄王の武勲を誇りに、今も武芸を磨いているんだな。それから250年ほどが過ぎたのが現在。暦は魔法大戦後にAC(アフターケイオス)と制定され、『タイタン』執筆時がAC248年という設定だ」
翔花「アリオン市は英雄王の街で、旧世界のフェンフリィに相当する?」
009「フェンフリィよりもさらに武闘派の国で、港湾都市ということもあって、フェンフリィとブラックサンドを足して2で割って、もっと正義寄りにした国だな。少なくとも、領主が〈夜の王〉と密かに結託していたり、海賊だったりすることはない」
シロ「シェイキスタは?」
009「首都は再建不能となって捨てられた結果、新たな王都ジモーランが築かれたが、魔法大戦後60年で王朝が子孫を残さずに途絶え、以降は周辺都市の代表7人による合議制で、交易連合体としての営みが続けられている。つまり、東は戦士が領主となっている武闘国家で、西は商人中心の交易都市群というのが現在のクールだな。ただし、大陸中央部の〈混沌の荒れ野〉を開拓もしくは再建する余力は全くないのが現状だ」
翔花「東は戦士が200年以上を治め、西は商人文化が栄えるって、まるで日本の江戸時代みたいね」
009「! 言われてみれば、そんな感じか。八幡国だけに限らず、クール大陸の関東アリオン市は将軍のお膝元で、サソリ沼周辺は関西風の天下の台所に相当するのかも」
晶華「では、船の上で、暗黒大陸クールの歴史を学んだあと、マシロン君一行は無事にアリオン市に到着しました。ここから、プレイを開始しましょう」
パラグラフ401番
シロ→マシロン「暗黒大陸という評判だから、どれだけ物騒かと思っていたけど、アリオン市が予想よりも文明的で驚いている」
009→ザック「噂によると、ブラックサンドの領主アズール卿がこの街の出身だそうだ」
翔花→ルビーK「それがどうしてアランシアに?」
晶華「高貴な貴族の出身だったんだけど、反抗期の若者だった時期に邪神(嵐の神ククラック)の洗礼を受けて、入信することになってしまったのね。ククラックの入信者は、嵐のルーンを焼き印で押され、それを隠すためにフードで身を包んでいるとか。邪神のカルトに入ったことが分かると、両親に何と叱責されるかと恐れて、アズール少年はアリオン市から逃走。そのまま海賊となって成り上がり、海を渡った向こうの大陸のブラックサンドを軍隊で占拠。老体の男爵から統治権を奪って、支配者の地位を獲得したらしいわ」
ルビーK「元貴族の家出少年が海賊となって、別大陸の領主になるなんて、波乱万丈の人生ね」
ザック「ブラックサンドを統治するようになって、30年以上。海賊少年から海賊王になって、今も馬車を暴走させながら、暗殺者を送り込んだり、闇のカルトとつるんだり、やりたい放題だな」
マシロン「ザックとルビーKは、ブラックサンドのことは割と詳しいみたいだけど、ボクは実のところ、よく分かっていない。アズール卿と聞いても、ふ〜ん、そうなんだあ、としか思えない。それより、アリオンの領主には会えるのかな?」
晶華「街では不穏な噂が流れています。クール中央の〈混沌の荒れ野〉に、数ヶ月前から怪物の軍団が出没して、周辺地域が侵略を受けているそうです」
ザック「そっちに最後の暗黒がいるのかもな」
晶華「マシロン君は思い出します。ケマンダー師匠から聞いた、勇猛果敢なアリオン領主の話を。師匠の名前を出せば、領主との面会が叶うかもしれません」
マシロン「フェンフリィの領主もそうだったけど、師匠って結構、有名人なんだな」
ザック「ああ。大陸を越えて、名が知られているなんて、凄すぎる。だけど、俺たちの名前だって、同じように知られたりすることもあるだろうさ。ゴーレム退治とか、〈闇の精〉退治とか、いっぱい頑張って来たんだしな」
ルビーK「それにリーブラ様の使徒なんだし、正義の救世主として皆から敬われるに違いないわ」
晶華「あっ、それなんですけど、このクール大陸では、リーブラ様の声は届きません」
ルビーK「どうしてよ?」
晶華「旧世界でも、大魔王の邪念の強いマンパンでは、リーブラの声が聞こえなかったりします。混沌の魔力の強すぎる土地では、正義の神さまの加護が働かないという前例だってあるのです」
ルビーK「つまり、このクール大陸は混沌の魔力が強すぎるから、リーブラ様の声が届かない、と」
晶華「もちろん、高位の神官が儀式などで土地を浄める処置を施せばよろしいのですが、残念ながらアリオン市周辺では今のところ、リーブラの信仰を高めるような神殿は設立されていません。勇気の神テラクの神殿はあったりするのですが」
ルビーK「リーブラ様の力が働かない……ってことは、嘘をついても頭が痛くならないってこと?」
晶華「……そういう理屈になりますね」
ルビーK「つまり、ここだと嘘のつき放題ってことね。さすがは暗黒大陸。暗黒の魔女にとっては、もしかして天国みたいな場所かも」
マシロン「いやいや。リーブラの声が聞こえなくても、ボクとの契約関係は有効だ。必要もないのに、嘘をつくな。話がややこしくなる」
ルビーK「確かにそうね。別に、わたしは虚言癖ってわけじゃないし、嘘をつかないと死ぬ病気じゃないから、意味もなく嘘をついたりはしません。嘘をついたら得をする場合に限ります」
ザック「それはそれで、どうかと思うぞ。信仰ってのは、たとえ損だと分かっていても、戒律として守るものだろう? 別に俺は特定の神の信者ってわけじゃないが、俺の正義は自分が不利な場面でも貫き通したいと思っているぜ」
マシロン「ところで、グァンドゥムの声はここでも聞こえるのだろうか?」
晶華「それは、ルール上のことではありませんので、プレイヤーが自由に演出していいですよ」
マシロン「だったら、グァンドゥムに聞いてみよう。王さまに会うにはどうすればいい?」
晶華「すると、こんな声が聞こえてきます。臆せず行動せよ、救世主」
マシロン「分かった。じゃあ、王さまの宮殿へ行って、大魔法使いケマンダーの弟子マシロンと名乗り、世界をむしばむ暗黒について話したいことがある、と門番に訴えるぞ」
晶華「そんなことを言われた門番さんは、困惑した表情を浮かべますが、一応、取り次いでくれます。やがて、宮廷魔術師アイフォー・ティーニンさんがあなた達に面談してくれますよ」
ザック「アイフォー・ティーニンかよ。すると、『仮面の破壊者』の事件はまだ起こっていないんだな」
晶華「ウルトロピカルでも、まだ攻略記事を書いていないようですから、今のところは健在ですよ。王さまに会う前に、彼が先に話を聞いてくれることになりました。宮殿の簡素な客間で応対してもらえます。ケマンダーのことは彼も知っているようで、事情を聞いてお悔やみの言葉を述べてくれました。そのうえで、彼の関心はアランシアで『魔女が起動させた鋼鉄ゴーレムの話』にあるようです。あなた達から根掘り葉掘り尋ねて、詳細を聞き出そうとします」
ザック「ずいぶん、熱心ですね。鋼鉄ゴーレムはもう倒したんだから、今さらどうでもいいでしょ。それより、こっちの大陸の暗黒ですよ。心当たりは?」
晶華「アイフォーさんは、『おっと済まない。こっちの大陸にも、封印されたゴーレムがあれば大変だと考えたものだから、つい……』と言いながら、現在の問題を以下のように語ってくれます」
- 怪物の軍団は、〈混沌の荒れ野〉のはずれにある廃墟の都ケイベシュを拠点としているようだ。
- ケマンダーはその昔、妖魔ヴァンデミアをケイベシュの地下深くに封印したそうだが、直接対決したわけではなく、地上に通じる出入り口を封印したに過ぎない。したがって、ヴァンデミアがどんな姿をしていて、どんな能力を持っているかは、アリオンでの記録にも残されていない。
- ケマンダーの封印が解けたと聞いて、どうして敵の活動がにわかに活性化したのかの理由も判明した。後は、ヴァンデミアの正体を突き止め、どのように撃退すればいいのかを探れればいいのだが……。
ルビーK「わたしの聞いた情報によると、ヴァンデミアは女の子の姿をしているそうよ」
晶華「それはネタバレのプレイヤー情報であって、本編ではまだ判明していません。ところで、獣モードのルビーKを興味深げに見ながら、アイフォーさんは、ふむ、とうなずきますよ」
ルビーK「な、何よ?」
晶華「『失礼。獣型の使い魔は、魔術師にとっては珍しくもないが、このような形態の生き物は風変わりで面白いと思いましてね。最初はアライグマ? と思いましたが、よくよく見ると、もしかして八幡国で見られるという幻の霊獣タヌキですか?』と、アイフォーさんはニッコリ微笑みます。『目の縁が黒いのが一般的なタヌキですが、白いタヌキも珍しい。しかし、なかなか良いセンスをしてらっしゃる』」

ルビーK「この人、わたしをタヌキと言い当てるなんて、なかなかやるわね。センスの良さをほめてもらえて、信用度が急上昇です」
ザック「そうか? 俺は、何だかうさん臭いと思うがな」
晶華「ワールドガイドの『アリオン旅行記』では、普通に有能な宮廷魔術師として紹介されていますから、今回はそういうキャラとして顔見せ登場です。ともあれ、あなた方がアイフォーさんと話をしていると、部屋の扉がノックされました。そして、未来の主人公になる予定の領主さまが現れます」
マシロン「相手の身についた気品からそうだと察して、恭しく礼を尽くします」
ザック「未来の主人公ってことは、チャランナ王と違って、まだ若いんだよな。俺と同じくらい?」
晶華「そうですね。20歳前後で、王さまというより王子さまって感じですね。ただし、精悍な顔つきで、世間知らずなボンボンというよりも、鍛えられた武人の相を持っています。ザックさんから見て、剣で対等に戦えそうな風情です」
ルビーK「『王子の対決』のクローヴィス王子みたいな感じ?」
晶華「そうですね。とにかく、クール史に残る伝説の英雄の末裔の名に恥じない王子です。サマルトリアじゃなくて、ローレシアの王子にも例えられそう」
ザック「それは凄いな。アリオンの王さまは」
晶華「『かしこまらなくていい』と若き領主は気さくに話しかけます。『それにしてもタイミングが悪いよなあ。父王が急逝しなければ、オレもまだ自由な身で、お前たちと冒険の旅に出られたんだが、バタバタ領主の座を継ぐことになっちまった』そう言うと、『陛下。オレではなく、余と言うようにお教えしたはずですが』とアイフォーが説教します」
ザック「すると、『堅苦しいこと言うなよ。冒険者同士の会話は、これぐらいがいいんだよ』と領主は言うんだな。俺はたちどころに、この若い王が好きになる。こいつは将来、世界を救うことになるぞ、と確信する」
晶華「パラグラフ401番に少し登場して、アイフォーさんの代わりに情報を教えてくれる人ですが、『正義を愛する立派な人物』と地の文で褒めているんですね。なぜかと言えば、別のゲームブックの主人公として、プレイヤーキャラになるから」
ザック「そっちでも、『公正で立派な領主』『領民たちの生活は豊かで領地は繁栄している』とあって、相当に褒めてくれている」
マシロン「先代さまは最近、亡くなられたのですか?」
晶華「『ああ、ありゃ酒の飲み過ぎだな。厳しくオレに武芸を仕込んでくれたが、まさかあんなに急に逝っちゃうとは……。おかげで、オレはこの若さでご領主さまだ。武器の扱いならともかく、国の扱いなんて、これっぽちも知らないのによ』と愚痴ると、アイフォーさんが『陛下。そのようなことは領民の前では決して口になさらないよう』とツッコミ入れます」
ザック「『分かってるよ。こいつらは旅の冒険者だ。うちの領民ってわけじゃねえ』と反論するんだな」
ルビーK「面白い主従関係ね」
マシロン「ボクもこの領主のことが気に入った。最近、父親を亡くしたところが、自分の境遇にもかぶって見えるし。そのことを告げたあと、こう言います。『陛下、お互い先代から託された使命は大変でしょうが、自分を支えてくれる仲間の絆を大事にすれば、未熟な身でも必ず乗り越えて行けるでしょう』と」
晶華「『ああ。オレもその仲間になりたかったが、運命がお前たちを選んだんだから、オレとしてはヴァンデミア退治の任務をお前たちに託し、成功するのを祈るのみだな。頑張れよ』と、朗らかに言うと、多少は威厳を取り繕います。『アリオン領主として、余は命ずる。必ずや、混沌の魔物を倒してくるのだ。さあ行け、若き勇者たちよ』」
マシロン「分かりました、王さま。では、こちらも一つ、精霊のお告げを。『あなたにも近いうちに冒険の運命が訪れ、磨いた武芸を試される日が来るはず。そのときは……体力点がつきませぬように』」
こうして、今のヒーローと、未来のヒーローの邂逅が成った。
いつか『仮面の破壊者』をプレイするための伏線ってことで。
いつになるかは知らないけど、来年の楽しみにできたらいいなあ。
(当記事 完)
