さて、厄払いも気分的に終わったので、本編。
先にあらすじを書いておくと、「新次と正八は、田舎から出てきた純情そうな美人娘さちと出会った。彼女は、風切の矢造という殺し屋に狙われていた。しかし、矢造の正体は……不思議仙人バーザだった」って、ん?
このブログを好んで見ている読者の多くには、役者ネタ(多々良純さん)と分かって欲しいところですが、まあ、宇宙刑事ギャバンを雇っていた牧場主の「藤豪介」よりは分かりやすいかな。そして、その実体は、ズール星人だったと言うのも、新マンファンのたしなみかと。
で、あらすじが途中で変な方向にそれてしまいましたが、「矢造の正体は、さちの父親だった」が本来のストーリーですね。
さちが実は盗賊・猫目の銀次の情婦で、悪女と化していた。押し込み強盗の手引きを行う彼女を止めるため、矢造は銀次を殺そうとしていたのが、銀次に惚れ込んださちは、父親をそうとは知らず、罠にはめようとする。この事件に、商売人が巻き込まれて、結局、矢造の頼みを聞いて、銀次とさちを始末する、と。
最初は、娘を守ろうとしていた商売人が、本当の経緯を知って、状況が一転。老殺し屋の最後の頼みを引き受けるという流れは、まあ、どんでん返しが比較的当たり前の商売人では、まあ普通の話。
特筆すべきは、ドラマには直接絡まない主水さんが、仕置人ではしばしば見せた知恵袋ぶりを発揮。「奉行所への密告」という銀次側の罠を逆に利用して、相手の居場所を探るのに成功。「オレの役目はこれで終わりだな」と頼み料を受け取ろうとしたところ、正八が「相手のところには浪人が2人いる」と報告。「チッ、よけいな仕事が増えやがった」とつぶやき、殺しに向かうシーンがちょっと格好いい。
そして、浪人2人相手の剣撃。一撃では終わらず、二度、三度とザックザック斬り付けるアクションが、正統派剣士としての最強時代を堪能させてくれます。
後は、銀次を新次が仕留める際、わざわざ一発殴ってから、首をブスッというのも痛快ですが、この回の新次のアクションは、さちに騙されて矢造と対決するシーンがポイントでしょう。
それ以前、矢造は短刀投げで浪人者2人をあっというまに倒す強さを見せており、新次も何とか物陰に身を隠すことで、短刀をかわす緊迫感。そこで、帯を素早く放って、矢造を絡めとるところが新次の強さ。矢造は宙返りまでする機敏な動きと、飛び道具が特長なのですが、接近戦に持ち込まれて、しかも相手が的とは別人と悟り、戦意喪失。
おせいと新次に事情を打ち明ける形になるわけですね。
ラストで、おせいは、殺された銀次の仇を撃とうと斬りかかってくるさちを、「どうしてこんな男のために」と哀れに想いながら仕留めることに。その前のシーンで、銀次はさちを見捨てて逃げようとしており、尽くし甲斐のない姿を露呈しているのですが、それでも惚れた女の哀しさなんでしょうか。
おせいには、それがよく分かるのでしょうね。
最終話で「おせいを守るために命を落とす新次」と、本話の銀次を比べるなら、おせいがいい男に惚れたこともよく分かりますが、同時に身内殺しを依頼して、自らも入水自殺を選ぶ老殺し屋の姿を通して、殺し屋の哀しい宿命の伏線にもなっているという、ある意味、商売人のテーマを感じさせてくれる回かな、とも。
必殺シリーズで、「年老いた同業者の末路を描いた話」はいろいろありますが(こんなことを書くと、都の人がまたまとめてくれそうだなあ^^;)、別格なのは、虎の元締めと、『仕事人大集合』の鹿蔵父ちゃん。後はメジャーなところをあげると、無印仕事人の「壬生蔵人(丹波哲郎)」と、仕掛人の「カニの七兵衛(藤原釜足)」、新仕置人の「さそりの弥八(花沢徳衛)」、仕事人Vの「浦島亀吉(有島一郎)」。最後のネーミングが、いかにも必殺がバラエティー化している時代を象徴していますが、役者さんの演技力もあってかドラマ内容的には悪くないかな、と。この時代、ゲストキャラは大抵死ぬのが高齢化、じゃなくて恒例化してますが、亀吉じいさんは孫娘ともども生き残ることができて、老仕事人としては幸せな生涯を送れたんじゃないかな、と。なお、亀吉じいさん、設定では、あのおりく(山田五十鈴)さんの師匠ということで、さすがは「吉宗公の初代爺」とか、「キングコングを日本に連れて来た宣伝部長」とか、いろいろつなげられる方。まさに「亀の甲より年の功」って諺を連想。
あ、最近だと、「加賀まり子さんのお助け人・アヤメ婆さん」も印象深いキャラでした。「長門さん演じる、一発勝負の老スリ」もいい味出していましたが。やっぱ、自分が年を重ねると、老俳優の熟成された演技に魅力を感じるようになって来るんだなあ、とも*1。