Shiny NOVA&WショーカのNEOスーパー空想(妄想)タイム

主に特撮やSFロボット、TRPGの趣味と、「花粉症ガール(粉杉翔花&晶華)というオリジナルキャラ」の妄想創作を書いています。

続・D&D多元宇宙のよもやま話

多元宇宙話が止まらない

 

NOVA「ええと、前回は人生ゲームから始まって、最後は俺のTRPG人生の思い出話に突入してしまったな」

晶華「NOVAちゃんの過去の栄光と称するものから、その後の転覆人生まで波乱万丈だったわね」

NOVA「勝手に人の人生を転覆させてるなよ。人生山あり、谷ありだし、人間万事塞翁が馬って言葉もあって、良かったり悪かったり、良いと思って喜んでたことが悪く転じて悲しんだり、その逆で逆境をバネに奮起して勝利の因になったりと様々だ。まあ、5年前に現ウルトロピカルとか、ここで書いたことを、何だか振り返ってるような形になっているが、例えばこういう記事なんかも懐かしい」

翔花「この翔花はわたしじゃない」

晶華「私ね。改名する前の翔花2号よ。まだ、お姉ちゃんとの設定の分化も行われる前のこと」

翔花「ああ、わたしが修行のためにコンパーニュに旅立った時期の話ね」

晶華「このタイミングでロードス復活を願っていたら、本当に復活して、NOVAちゃんの願望の一つが実現したのね」

NOVA「続巻も早く出て欲しいんだけど、まあ、ドラゴンランスとかFFゲームブックが復活したから、楽しむネタには事欠かないな。思い出話はあれこれループしたりもするけど、前回の話は俺がメインじゃない。D&Dの歴史と、日本のTRPG草創期にそれを紹介したグループSNEの昔話なんかが中心だった」

晶華「D&Dのドラゴンランスロードス島戦記に影響を与え、フォーゴトン・レルムソード・ワールドに影響を与えたって話ね」

NOVA「同じフォーセリアで、ロードス、ソード・ワールドクリスタニアの3つのゲームに分かれた背景事情は、当時の角川分裂状況と深い関わりがあったんだが、それはD&Dとはまた別の話なので割愛して、フォーゴトン・レルムの誕生事情はゲイリー下ろしの後のD&D主要世界構築の必要性からだった、という話をした」

翔花「だけど、日本でのフォーゴトン・レルムの展開は小説やコンピューターゲーム中心で、大元のTRPGの展開はアドバンストD&Dの導入の失敗で、うまくつながらなかったのね」

NOVA「英語ユーザーではない日本語D&Dファンが、フォーゴトン・レルムのプレイができる環境が成立するのは、それから10年、世紀が明けて3版の時代になってからだった」

晶華「日本語クラシックD&Dの時代が85年から90年ぐらいまで続いて、91年からアドバンストD&Dの時代キターと思ったら、2年で終わり、94年からクラシックD&Dの時代ふたたび、でミスタラと名付けられた背景世界が再始動したと思ったら、まさかのTSR倒産というサプライズ展開。それに巻き込まれて、第2次クラシックD&Dの時代も97年には終了してしまった……って歴史で合ってる?」

NOVA「このTSR倒産のニュースは、安田社長にとっても寝耳に水のサプライズだったからな。日本から見る限りは、表向きそんな印象はちっとも感じなかったんだ。と言うのも、本国では89年に出たAD&D2版の商品展開が順調に見えて、フォーゴトン・レルムやミスタラの他にも、次から次へと背景世界を乱発して、活況を呈しているように映っていたんだ」

 

・87年:フォーゴトン・レルム

・88年:スペルジャマー

・89年:AD&D2版

・90年:ホラー世界のレイブンロフト

・91年:ダーク・サン

・92年:アル・カーディム

・94年:プレーンスケープ、カウンシル・オブ・ウィルムズ

・95年:バースライト

 

NOVA「ほぼ毎年のように、アドバンストD&Dは新しい背景世界サプリを出して行くんだな。D&Dの背景世界がいっぱいあるのも、この時期の乱発の影響が大きい。まあ、日本語ではフォーゴトン・レルムとレイブンロフトしか知られていないんだが(主にゲームブックや小説で)。ここで特筆すべきは、スペルジャマーだな」

晶華「どうして?」

NOVA「多元宇宙の話に深いつながりがあるから。多元宇宙ものを成立させるには、複数の異なる世界観を行き来できるという設定が必要だ。D&Dの物質世界の周りには、広大なアストラルの海があって、その多元宇宙の海を魔法の宇宙船に乗って航海する設定がスペルジャマー。これによって、例えばフォーゴトン・レルムドラゴンランスとグレイホークとをつなげた、多元世界を股にかけた大冒険をやることもできるよって構想だ」

翔花「D&D多元宇宙構想の始まりがスペルジャマーなのね」

NOVA「多元宇宙の定義にもいろいろあるがな。例えば、クラシックD&Dのコンパニオンルールでの定義は、我々の住む物質世界(プライムプレーン)の外側に、エーテルの海があって、幽霊などの非実体の存在が認められて、さらに外側に地水火風のエレメンタルの世界(精霊界)が存在する。神や悪魔の世界(いわゆる天界や冥府、地獄界)はクラシックD&Dのイモータルルールの範疇になるからか、黒箱マスタールールでも明言されておらず匂わせる程度だったが、まあ、物質世界の不可思議な現象や存在を説明するには必要な概念だな」

晶華「宇宙とか、古代文明とか、未来の超技術とか、魔法の世界とか、神さまとか、悪魔とか、今ある世界を超越した超パワーの源って、冒険ファンタジーでは欲しくなるもんね」

NOVA「要するに一つの世界を説明するのに必要な外部の諸力の源だな。しかし、それとは別に、違う物語世界をつなげるという意味での多元世界をスペルジャマーが提唱し、そのエッセンスはプレーンスケープに発展的に受け継がれた。アストラルの海を監視する次元観測所とか、そこから複数世界に通じる転移門(ポータル)の設定は、プレーンスケープだ」

翔花「ええと、スペルジャマーがアストラルの海を船で航海するSF風味で、プレーンスケープがワープゲートでPONPON飛べちゃうSF風味ってこと?」

NOVA「それだけ聞くと、プレーンスケープの方が手軽に異世界冒険を楽しめる形だな。じっさい、スペルジャマーは異世界に行ってから何をするか、ではなくて、異世界に行く途中の航海に力点が置かれている。そして、転移門は剣と魔法のファンタジーで許容できるが、宇宙船での航海はあまりにファンタジーの雰囲気を崩すだろう、という意見からなのか、そっちの設定はD&Dからなくなった……はずだった」

晶華「はずだった……ってことは?」

NOVA「去年の夏に復刻したんだ」

 

次元を超越した旅の話

 

晶華「多元世界冒険もののスペルジャマーは88年に出たけど、94年にプレーンスケープに置き換えられて消滅したはずだった。だけど、2022年に、時を超えて復活したってこと?」

翔花「だったら、プレーンスケープさんはどうなったの?」

NOVA「プレーンスケープの概要設定は、普通に5版のDMガイドに書かれてあるぞ。30年前には斬新な設定だった多元宇宙構想は、10年前にはD&Dの標準設定の中で普通に取り入れられている。5版は過去のD&Dの遺産を復刻して、その伝統を武器にパスファインダーに奪われたシェアを取り戻そうって思惑からスタートしたわけだ。だから、最初から過去の世界設定を自在に流用できるように、DMガイドに次元移動の概要が示唆されている。

「もっとも、開始直後の2014年からはしばらくフォーゴトン・レルムを中心に、『昔、展開してきた多元宇宙構想を匂わせる程度』だったが、5年経った2019年に文字どおりの地獄キャンペーン・シナリオ『アヴェルヌス』を出すとともに同年、エベロンを復刻(日本では2020年に翻訳)。そこから本国ではレルム以外の異世界サプリの展開に突入していたんだが、日本ではホビージャパンの版権切れ問題で展開が止まっていたんだな」

晶華「D&Dの日本展開が止まっていた期間は、2021年から2022年末までね」

NOVA「そう。そして昨年末の再始動のあと、何が出るかなあと密かに期待していたら、妖精境冒険譚の『ウィッチライト』と来たもんだ。本国では2021年の9月に出た作品で、その間に出たサプリメント(ターシャ本とか、レイブンロフト関連とか)をすっ飛ばした形だが、俺としてはドラゴンランスを飛ばされなければ、それでいいって立場だ。ともあれ、今のD&Dのサプリの流れが多元宇宙のマルチバース異世界冒険推しなのは間違いないって状況認識なわけで、改めて多元宇宙話を展開している次第」

翔花「つまり、プレーンスケープさんは消えたわけじゃなくて、そのエッセンスが5版に受け継がれているってことね」

NOVA「元のプレーンスケープの資料がないから確定はできんが、プレーンスケープ→3版や4版の次元界の書→5版DMガイドに通じているのではないだろうか」

晶華「D&Dは90年代に、スペルジャマーに端を発するマルチバース構想に基づき、異世界ワールドガイドを乱発したけど、時代の流れに抗しきれず、当時の構想は失敗に終わった……って理解でいい?」

NOVA「TSRという会社にとってはな。だが、D&Dという作品シリーズにとっては、その時期に蒔いた種が3版で実ったわけだし、5版でも再度の復刻を遂げて、多元宇宙構想ふたたびって時節に来ていると思う。あとは、この流れを来年登場予定の新版が引き継ぐのか、それとも潰してしまうのかが気掛かりだが、こればかりは冷静に状況を見守りながら、俺なりに観察追跡を続けたいと思う次第だ」

 

TRPG多世界氾濫の経緯

 

NOVA「さて、スペルジャマーと90年代の多世界構想から、現在のD&Dがそれを受け継いでいるって話に流れたが、当時のTSRが多世界展開を推し進めた理由はいくつか考えられる」

晶華「冒険できる世界の数を増やせば、それだけ売れるって考えた?」

NOVA「TRPGの歴史に、ゲームシステム志向だった第1世代から、背景世界志向だった第2世代、物語とキャラクター志向だった第3世代に移り変わったってのが80年代のTRPG世代論なんだが、一つのゲームシステムを土台に複数の背景世界を乗せて、別ゲームとして展開する手法は、1978年にケイオシアム社が『ルーンクエスト』のシステムを根幹に、ベーシック・ロールプレイング(BRP)を発表したときから始まった」

晶華「10年前に時代が遡った?」

NOVA「BRPは1981年に『ストームブリンガー』と、それから今も日本で覇権の一角とされている『クトゥルフの呼び声(CoC)』につながっている。世界ではD&Dが強いが、日本ではD&Dよりも、クトゥルフに代表されるBRPと、ファンタジーの定番ソード・ワールドが二強だとされているのが、TRPG界のガラパゴス事情だな」

翔花「BRPというのもD&Dのライバルなのね?」

NOVA「う〜ん、D&Dのライバルとして『ルーンクエスト』が考えられていた時代はあったんだがな。D&Dが第1世代RPGの代表で、ルーンクエストやSFのトラベラーが第2世代RPGの代表。そしてダンジョン探索中心ゲームだったD&Dが、ルーンクエストに感化されて、世界観の実装を意図するようになったのが80年代半ばで……しかし、クトゥルフが思わぬ伏兵として21世紀に台頭するようになってる未来は、旧世紀のTRPGファンには全く思いもかけない展開だったわけで」

晶華「オールドマニアが考えるTRPG業界3大サプライズは、『D&DのTSR倒産』『21世紀日本でクトゥルフ台頭』と、あと一つは何?」

NOVA「そうだなあ。それらのサプライズに匹敵する出来事としては……思いつかん。『トラベラーの凋落』も業界に影響を与えるほどの事件とは言えないし、個人的には『日本の業界2強の1つと言われたFEAR社が10年代の後半に落ち込んでいること』が残念と言えるが、SNE以上にゼロ年代の業界を支えた功績は大いに称えたいんだよな」

晶華「買い支えはしないの?」

NOVA「アリアンロッドと、アルシャードなどのSRS、トーキョーN◎VAダブルクロスなどは買い支えたつもりなんだがな。今は……食指が動かないのは書店での露出が減ったからかな。ソード・ワールドとAFF、D&Dに投資すると、FEARに回す余裕がない感じだ」

翔花「アルシャードって、今度ガイア・グランプリの優勝でプレイする予定の作品よね」

NOVA「多元宇宙ネタを話し続けると、アルシャードのSRS(スタンダードRPGシステム)や、セブンフォートレスの主八界、それからカオスフレアを語りたい誘惑にも駆られるが、それを語らないと日本RPG史の重要な系譜を取りこぼすことになるんだが、今はD&Dが話の中心だ」

晶華「その割には、BRPとかクトゥルフに寄り道しているけど?」

NOVA「いや、俺が語りたいのは、その後のGURPS(86年)なんだ。90年代のD&Dが背景世界を乱発し、多元宇宙構想に突入した直接の原因がGURPSにあると考えられているし、90年代からゼロ年代の日本のTRPG界に与えた影響も大きい作品群だから」

晶華「ああ、NOVAちゃんの本棚で見たことがある」

NOVA「GURPSの趣旨は、BRPをさらに発展させたもので、『一つの根幹システムに、多数の背景世界サプリメントをつぎはぎして、ファンタジーからSF、オカルト、ホラー、スーパーヒーロー、古代の恐竜時代から未来の超科学などなど、ありとあらゆる物語を再現できるようにしよう』ってことだ」

晶華「そんな夢みたいなことができるの?」

NOVA「海外ではできた。日本では……SF関連のサプリメントは十分翻訳されなかったが、ファンタジーのルナル、妖怪ヒーローの妖魔夜行を始め、格闘もののマーシャルアーツ、超能力のサイオニクス、近未来SFのサイバーパンクなど、多くのサプリメントが展開されて、いろいろ混ぜて遊ぶこともできる。足りないものがあるとすれば、宇宙SFと、時間旅行SFと、数多くの歴史時代背景サプリとかかな。例えば、日本のGURPSではスターウォーズスタートレックは無理(宇宙船ルールがない)。

「しかし、おそらく、海外のGURPSサプリで再現できないストーリーはないのではないかってぐらい、大量の、そしてマニアックなサプリメントがいっぱい用意されている。もう、GURPSさえあれば、他のゲームがいらないんじゃないかな? って思わせるぐらいだ」

翔花「そんなにあるの? だったら『GURPSドンブラザーズ』って作れる?」

NOVA「とりあえず、スーパーヒーロー物ってことで『GURPS Supers』を土台にするが、日本ではそのエッセンスを妖魔夜行と続編の百鬼夜翔に取り入れているな。宇宙ネタがないので、宇宙刑事ギャバンウルトラシリーズが日本では難しいし、乗り物や巨大ロボのデータがないので、神輿やオニタイジンなんかが無理だが、海外サプリだったら普通にあるので、何とかなるだろう。桃太郎などの和のテイストは未訳サプリの『GURPS JAPAN』が流用できるかも。

「一番の問題は、脳人の故郷である上位世界イデオンとか、あの世界の根幹設定の謎がTV本編でも今だに解明されていないことだが、世界設定ではなく、キャラクター設定なら、桃井タロウの『嘘をつくと死んでしまう』という弱点でCP(キャラクターポイント)を何点稼げるかとか、雉野の『ミホちゃんが絡むと暴走してヒトツ鬼になる』とかをどう扱うかなどだが。世界の再現や物語の再現はゲームシステムがどうこうよりも、GMがどれだけ真のドンブラ脳に肉薄しているか、プレイヤーがその狂気にどこまで付いて行けるかが問題だと感じるものの、キャラクターの再現に話を絞るなら、まあ何とか遊べるんじゃないだろうか」

翔花「う〜ん、『GURPSドンブラザーズ』だったら、プレイしたいなあ」

NOVA「20年ぐらい前で、友野詳さんがGURPSを担当していた頃だったら、頼めばウワッハッハッハーと桃井タロウに匹敵する高笑いを上げながら、喜んで作ってくれたかもしれないけどなあ、趣味で『GURPSドンブラザーズ』を」

翔花「そうなの?」

NOVA「そういう人だし、今でも忍者おじさんのコスプレイベント(LARP)に出てる」

翔花「ヒトツ鬼になりそう」

NOVA「失礼なことを言うな。あの人がドンブラの世界に行ったら、怪人じゃなくて怪人を操る幹部もしくは首領をやってるはず」

翔花「ドンブラの首領って?」

NOVA「さあ。とにかく、友野さんと言えば、GURPSルナルその他の代表作で一世風靡して、今は前線を退いているように見えるが、実は……何ていうか、編集長?」

翔花「ソノザさんか〜」

NOVA「まあ、俺が今ブログで、バカな蘊蓄垂れ流し芸をしているのも、この人の影響も大きいと思うぐらいの先輩枠なんだが、こんな本を今も大事にとってるぐらいの御仁だ」

NOVA「ともあれ、日本のGURPSを語ろうと思えば、この人を置いては語れないほどで、1992年から2007年ぐらいまで15年近くサポートが続いた傑作RPGの牽引者だ」

晶華「何でGURPSは終わったの?」

NOVA「出版社の富士見書房ソード・ワールド2.0に力を注ぐようになったから。まあ、90年代からゼロ年代GURPSの日本RPGに与えた影響はさておき、ここでは88年にGURPSアメリカのRPG界で話題となり、それにD&Dがいろいろと触発されて多元世界の方向性を模索したという話を挙げておきたい」

晶華「D&Dのライバルは、GURPSさんになるわけ?」

NOVA「いや、D&Dには時代ごとにライバルがいろいろいると言うか、他のゲーム会社が王者のD&Dに対抗して、いろいろと独自色を探って新規展開を狙ったら、それを叩き潰すべくD&Dが動くというか……」

晶華「で、どっちが勝ったの?」

NOVA「会社という意味では、生き残ったスティーブ・ジャクソン・ゲームズの勝ちで、TSRの負けって話になるが、そもそもD&DとGURPSは同じRPGでも構造が全然違うからなあ」

晶華「どういう意味?」

NOVA「GURPSは、何でもできるけど、そのためにはGMが世界観を構築するところから始めないといけないレゴブロックのような構造。自由度は非常に高いんだけど、扱うのに熟練がいる。一方のD&Dはプラモデルのような構造で、実のところ自由度はそれほど高くなかった。システムとして元々、GURPSに対抗するには複雑すぎる反面、硬直していたんだな。まあ、D&Dのシステムそのものが70年代に生まれたもので古かったし、大きな問題として、D&Dはレベル1からの成長を志向するゲームで、GURPSはレベルのないスキル制のシステム。システムの自由度はGURPSの方がはるかに上で、シンプルに洗練されていたと言っていい」

晶華「すると?」

NOVA「GURPSには、多彩な世界観と組み合わせることのできる自由度があった。しかし、D&Dには元来、そういうものがなかったので、複数の世界を用意されても、どこか歪にならざるを得ない。目指すところは良くても、ユーザーのプレイアビリティーを無視した展開だったんだ」

晶華「GURPSと同じ土俵で戦うべきじゃなかったってこと?」

NOVA「あと、GURPSには自社だけでなく、他社の作品と提携したり、フリーのデザイナーを登用して、柔軟な製作展開を見せていた。他社のゲーム(トラベラーとか)をGURPSに取り入れたり、原作付き作品のGURPS版(蛮人コナンとか、レンズマンとか、ウィッチワールドとか、ロビンフッドとか)を展開したり、歴史サプリ(ケルト神話、西部劇、第2次世界大戦、三銃士の時代、ナポレオンの時代などなど)やジャンルサプリ(50年代SFのアトミック・ホラー、恐竜、バイキング、アーサー王時代のキャメロット)など多彩な物語の資料となり得るものを幅広く提供。GURPSというゲームで使わなくても、読んでるだけで楽しいカタログ知識集となっている」

翔花「好きな素材を組み合わせて、自分の好みの料理を作れる楽しさがありそうね」

NOVA「さすがに日本のユーザーにいきなりそれをやれと言われても、敷居が高すぎるから、実際に組み合わせて作った世界観の例として、ルナルや妖魔夜行の加工済み食品を用意して、トッピングするための関連素材を提供したのが、友野さんたちの方針だったが、やはりSFメカロボ方面が手落ちだったのは、当時に別部署で展開していたメガトラベラーとかバトルテックとの兼ね合いがあったり、単純に需要がなかったからだろうな。もちろん、単純に手が回らなかったという理由もあるだろうし」

 

マルチバースからの侵略者

 

NOVA「そして、90年代のマルチバースRPGとして忘れていけないのが、一昨年に新版が邦訳されたこの作品だ」

翔花「どういう作品かは、聞いたことがあるような気がする」

NOVA「あれ? お前に話したことがあったか?」

翔花「う〜ん、ちょっと待って。記憶をたどってみるから」

NOVA「へえ、ケイPが教えていたのか。だったら、詳細を俺が語るまでもないな。とにかく、いろいろな異世界から、この地球(コアアース)に侵略者ハイロードが一斉に侵攻を開始した。そのせいで地球は、各異世界の法則に飲み込まれて大混乱だ。そこで、魔法使いとか、アメコミスーパーヒーローとか、サイボーグとか、地球の軍人とか、日本の元サラリーマンとかが力を合わせて戦うマルチジャンルRPGだ」

晶華「日本のサラリーマンがどうやって戦うのよ?」

NOVA「雉野を見ろよ。立派にドンブラザーズの一員として、1年間戦い続けて来たじゃないか」

晶華「ヒトツ鬼に3回もなったけどね」

NOVA「あれは、TORGの世界ではリンク切れと解釈していいのかな。とりあえず、サラリーマンの主要技能は〈魅了〉だ。優れた営業交渉能力で情報収集したり、相手を巧みに騙したりするのが得意な話術系キャラとして設定されている。スパイみたいにトリッキーな動きで相手をかく乱するのも得意だ。直接戦闘力はさほどでもないが、ビジネス技能で経済の動きを予想して、敵組織の計画を探ったりできるゲームはあまりなかったぞ」

翔花「アイテム調達ができるなら、『喫茶どんぶらにない物はないよ』って言って、何でも用意してくれるマスターにだってなれそうね。元サラリーマンで、今は喫茶店の経営者、その正体はトゥルーヒーローってキャラもできそう」

NOVA「だけど、新版になってニッポンテックはなくなったんだ。中国と朝鮮を含めた東アジアのパン・パシフィカに範囲が拡張した。日本が中国を飲み込んだというよりは、逆なんだろうな。ともあれ、異世界からの侵略者を多彩な能力を持ったヒーローたちが迎え討つゲームが90年代に生まれて、当時はいかにマルチバースって言葉がゲーム業界を賑わせていたかよく分かる」

晶華「D&Dだけが変なことをしていた訳ではなかったのね」

NOVA「TSRの失敗は、『D&Dは王者だから、他の同業各社を敵に回しても十分に渡り合える』と過信し、十分なサポート体制も持たないままに世界の乱立に踏み切ったこと。実際には、マルチバース展開に必要なのは多くの協力者との連携であって、自社以外にも仕事を分け与えるサードパーティの育成で、そういう方針を謳ったウィザーズが次の10年の勝利者となったわけだ」

晶華「TSR社が商品を乱発したのに売れずに、96年に一気に経営難となって、97年に倒産の危機でD&D版権をウィザーズ社に売り払ったことで新しい時代が来た、と」

(当記事 完)