WショーカとShiny NOVAのNEOスーパー空想(妄想)タイム

主に特撮やSFロボット、TRPGの趣味と、「花粉症ガール(粉杉翔花&晶華)というオリジナルキャラ」の妄想創作を書いています。

『暗黒の三つの顔』アナザーエンディング後日譚2(分岐編)

前置きふたたび

 

009「そろそろ話を終わらせたいのだけど、いろいろ想像妄想が膨らんでしまったので、ラストはゲームブックらしく、分岐小説の形をとることにした」

シロ「マルチエンディングですか?」

009「それも3種類だな。主人公が肉体を取り戻すハッピーエンド、ヴァンデミアが勝利するバッドエンド、主人公がアムに成り変わるヒロインエンドという形になるか」

晶華「3つもエンディングを考えるなんて、わざわざ余計な苦労をしているような気がする」

009「そういう想像が浮かび上がったんだから、仕方ない。ともあれ、今回は3種のエンディングに向けた分岐編にして、あとはエンディングごとに1つの記事にして、リンクで飛べるようにする。ただ、バッドエンドが下手すると悪堕ち要素が入って、筆が滑ると18禁になりかねないが、エロ要素は描写しない方向で」

翔花「FFゲームブックは、本来、児童書向きのレーベルだもんね。18禁は目指さない、と」

009「しかし、昔の妄想になかった要素として、獣人モードになったアムさんが突然、出て来たからなあ。元々は、肉体を取り戻せるか、アムの体に入ったままなのか、結果は読み手の想像にお任せします的な中途半端な結末で終わるイメージだったんだけど、今回はそこに悪堕ちバッドエンドを加える形で、きちんと締めくくる予定」

晶華「うまく完結するかどうかは、書き上げてからのお楽しみね」

 

獣人令嬢と剣士の馴れ初め(ショートアクション)

 

「さて、もう一度、確認しておきたいが、本気で《魂交換》の術を使うつもりなのかね?」

 鳥の頭部を持った賢人種族のハマカイさんは、ボクの覚悟を問いかけた。

「ええ」ボクはこっくりとうなずいた。「アムさんのこの肉体を本人に返してあげたいし、この体ではヴァンデミアと戦えない」

「ヴァンデミアは石化したまま、封印されたと言っていたろう。それを起こすのは危険ではないか?」

「……今の状態でも、十分危険です。ヴァンデミアは、このボクの……いいえ、アムさんの肉体に執着していますから。今でも遠くの地から、ボクに思念の攻撃を夜な夜な仕掛けています」

「そんな……」本物のアムさんが、怯えた声を発した。悪魔犬からより人に近い獣人形態に変身する術を習得した彼女だけど、見た目ほどは気丈ではないように思えた。

 無理もない。

 元々は、冒険と無縁の一般人の娘さんだ。

 倒されたと思った悪魔がまだ健在と知って、平静でいられるはずがない。

「おいおい。俺もそんな話は聞いてないぞ」ザックが、どうして、もっと早く打ち明けなかったんだ、と抗議した。

「最初は、ただの悪夢に過ぎないと思っていた……」ゆっくりと、噛みしめるように説明する。

「ただの気のせいだとか、取り越し苦労に過ぎないと思っていたけれど、何度も続くうちに確信に変わった。ヴァンデミアは石に封じられても意識はしっかりしていて、夢を通じてボクに影響力を与えようとしているって。もしも、この状態でアムさんに体を返したら、どうなるだろうか?」

「……あの妖魔が、あたしにも干渉してくるかもしれない」アムさんは、心配そうな表情を浮かべながらも、拳を握りしめて戦意を示した。「でも、今のこの体なら、変なことをされる前に、叩きつぶしてやれるかも」

 そんな物騒なことを言うのは、怯えを隠すための虚勢か。

 本来のアムさんは、人を拳で殴るような人じゃないはずだけど。

「……やっぱり、魂は体に引っ張られるものなの?」そう尋ねてみると、

「あら。私としたことが、思わずはしたない言葉遣いを……。気になさらないでください」慌てて取りつくろう元・商家のご令嬢。

 ワイルドな彼女も決して嫌いじゃない……けど、いろいろ複雑な気分だ。

「頼もしい姐ちゃんだな……」そう言いながら、ザックは獣人アムさんとの距離感を探ろうとする。「戦えるのか?」

「おそらくは」アムさんはうなずいた。「戦ったことはありませんが、戦い方は体が覚えているような気がします。ただ、じっさいに体を動かしてみないと、どこまで実戦で通用するかは想像できませんけど」

「俺と試してみるか?」軽く言い放つザック。おいおい、相手はお嬢さまなのに?

「お手合わせ願えますか?」それでも思ったより、前向きに応じるお嬢さま。

 自分の中のアムの記憶とは、イメージにギャップがあり過ぎる。

 もしかして、ボク以上に心が体に引きずられている? 

 できるだけ早く、元の体に返してあげないと、取り返しが付かなくなるんじゃないか?

 

 だけど、ザックとアムさんが外で体を動かそうということで、《魂交換》の話は後回しになった。

 ザックがアムさんを怪我させたりしないか、と気がかりなので、ボクはハマカイさんから治癒に使える薬を購入して(父からもらったので資金は潤沢だ)、いつでも止めに入れるよう見守ることにした。

 ボクの華奢な肉体で、どうやって止めたらいいのか、までは考えていなかったけど。

 

 とは言え、結果的に、ボクの心配は杞憂に終わった。

 悪魔犬が化身したアムさんの今の肉体は想像以上に頑丈で、動きも機敏。軽く放ったザックの剣が当たらないほどで、武器を持たないというハンデを覆して、低い体勢からの回し蹴りであっさり彼を転倒させたほどだった。

 八幡国には、素手戦闘の得意な武闘家と呼ばれる拳法使いがいると聞くけど、素人のはずのアムさんが獣拳とも言うべき手練の技で、一流剣士のザックを軽くあしらう様子には驚かされた。

「チッ。油断したか」ザックが立ち上がると、今度は慎重に構えをとって、アムさんの動きを見極めようとする。

 そして攻撃に移った瞬間、アムさんの方が先に懐に飛び込んできた。

 驚いて、剣の勢いを止めようと躊躇するザックの腕をつかんで、その勢いで投げ飛ばす。

 2度も地面に転がされて、ザックは「畜生」と叫ぶやいなや、「降参だ」と、あっさり白旗を上げる。

 相棒剣士の呆気ない敗北宣言に、見ているこっちが拍子抜けする。

「これ以上やると、俺も加減が利かない。本気で斬りつけてしまう」体についた砂を払いながら、そう言い訳めいたセリフを口にするザック。

「手加減なしで良かったのに」アムさんは物足りないように不満を漏らす。

素手の相手に、本気でやる真似はできねえよ。本格的に訓練するなら、練習用の木剣ぐらいは用意しないとな。だけど、試しだけでも分かったが、あんたは十分強い。度胸だって備わっている。怪我を顧みずに飛び込んでくるところは素人っぽいが、少なくとも、今のマシロンよりは立派に戦力になるだろう」

 はっきり言ってくれる。

 たとえ事実はそうでも、言い方ってものがあるだろう?

 ザックのパートナーは自分だ、と考えていたのに、戦力として頼れないと言われたような気がして、割とショックだ。

 ボクの気持ちを知る由もなく、ザックはなおもアムさんに誘いをかける。

「どっちにしても、冒険に出るなら装備が必要だな。武闘家だったら、相手の得物を受け流せる手甲と、拳に装着できる爪がいいか」

「あたしが冒険なんて考えたこともなかったけど、ザックさんがエスコートしてくれるなら、悪くないかもしれないですね」

「ちょ、ちょっと待ってよ。本気で言ってるの?」

「ヴァンデミアがあたしたちを狙っているのなら、人任せにできないですし。戦う力があるのなら、あたしも手助けしたいと思います。むしろ、マシロンさんの方が危なっかしいので、留守番をしていた方がよろしいのでは?」

(この女、私からザックさんを奪おうとしている?)

 そんな嫉妬心が不意に湧き上がってきて、頑張ってマシロンの思考を呼び起こす。

 ザックとアムさんが仲良くなるのは、別に悪いことじゃない。アムさんがこの肉体に戻るなら、ザックとの関係性も良好にしておかないと、話がまたややこしくなる。

 商家の令嬢と、それを守る護衛剣士の関係が、今の私とザックの間柄だけど、そこに本物のアムさんが戦士の相方として急浮上して来るとは思わなかった。

 ザックもどうも、まんざらではないらしい。

 私のようなお嬢さまがタイプだと思っていたけど、守備範囲は結構広いようだ。

(負けられない)

 アムさんに対して、ライバル意識みたいな感情がむくむくと湧き上がってきた。

 これって、自分に嫉妬しているようなものなのか?

 冷静に考えようとすると、話がややこしくて目眩がする。

 この気持ち、誰に相談したらいい?

 

女の関係(2人のアムのバスタイム

 

 一汗流したので、入浴することになった。

 私は体を動かしていないけど、ジトジトした気持ちを洗い流したいのはいっしょだ。

 幸い、ハマカイさんの塔の地下1階が入浴施設になっている。

 空間が歪めてあるので、地上18階、地下2階の思ったより壮大な建造物は、各種の設備が充実していて、無限階段の仕組みを理解すれば、生活の場としても、冒険の活動拠点としても大変便利な場所だった。

 

 アムさんは、いっしょの水浴を勧めてくれて、女同士ということもあって、私は応じようとして……、

 ん? 女同士?

 マシロンの自我が慌てて制止をかける。

 ボクの心は女じゃないけど、いいのか、これ?

「あたしの体が今どうなっているのか、気になるし……」

 あ、そう言われると、誘いを断りにくい。

 そうだね。私の体は元々、彼女のものなのだから、恥ずかしがっても仕方ない。

 男の自我を引っ込めて、女性のアムになりきって、もう一人のアムに向き合うことにした。

 

「何だか不思議な気分だね」

 アムさんは遠慮なく、私の全身をジロジロ見回す。

「自分の体をこういうふうに見るというのは……。ヴァンデミア様に奪われていたときは、気持ちの余裕がなかったから、じっくり観察できなかったし……」

「ヴァンデミア……様?」こちらが言葉尻を聞きとがめると、

「あっ、ゴメンなさい。様付けする相手じゃないはずなんだけど……そのように呼べ、と脅されていたものだから、つい癖になってしまって……」

 ヴァンデミアは、私たちの共通の敵だ。

 私の体を奪い、闇に染め上げようとした。

 私はそれを拒んで、女神さまの加護のおかげで自分を保ったはずだけど……何らかの影響は残っているみたい。

 ましてや、もう1人のアムの肉体は、ヴァンデミアの飼い犬同然なので、本能的に忠誠心を抱かされていたのかもしれない。

 あるいは恐怖をもって、従うように強要されていたか。

 そんな彼女に不憫さを感じて、自分よりも背の高い、野生の魅力ある体を慈しむように抱きしめていた。

 他意はない。

 ただ、強大な暗黒に怯える少女の内心を察して、慰め、なだめて、落ち着かせるために、アムの記憶に備わった優しさが、自然とそういう動きになって現れただけ。

 そう、マシロンじゃない、アムの心だ。

 マシロンだったら気恥ずかしくて、遠慮も先立って、そんな振る舞いはできないだろう。自分好みの獣っぽい、豊かな肢体の美女に抱きつくなんて、破廉恥にも程がある。

 

「マシロンさん?」戸惑うようなアムさんの反応に、私は……ボクはハッと我に返り、慌てて身を引き離す。

「ご、ごめん。つい……」

「つい?」

「い、いや、アムさんがあの妖魔のことを思い出して怖がっていると思って、慰めたくなったから……」

「慰めてくれるんだ」今度はアムさんがボクに手を伸ばして、ぎゅっと抱きしめた。「クンクン、いい匂い。お気に入りの香水を使ってくれているのね」

「あ、ああ。体が覚えていたから、習慣で。悪かった?」

「問題ないわ。あなたはあたしなんだから、あたしのものは好きに使っていい」

 好きにって、そんな誘うようなことを言われると……心臓の鼓動が早くなる。

 呼吸が乱れて、身じろぎするけど、力じゃ今のアムさんにはかなわない。

「フフ。自分の体がこんなに美味しそうだとは思わなかったわ。このまま食べちゃいたいくらい」

 ワイルドな獣人の嗜好に憑き動かされているのか、過激な言葉づかいに、こっちは本能的な恐怖を感じた。慰めるつもりが逆効果だったのか?

「ダメ。それ以上は……。お願い、自分を取り戻して。あなたはアム。アシュカイオスの商家の娘で、礼儀正しく育てられた。こんなはしたないマネは、私じゃない。体の衝動に飲み込まれたら帰って来れなくなってしまう。こんなの、アムは望んじゃいない!」

 必死に紡ぎあげた言葉が功を結んだのか、アムさんは正気を取り戻したように、体を離してくれた。

 

「お互い、大変みたいね」

 穢れを浄めるように広い浴槽に浸かりながら、アムさんは告白する。

「この体、衝動を抑えるのに苦労して。街に帰ったら、人を襲ってしまうかも」

 そりゃあ、元は凶暴なモンスターだからね。

 人に近い姿に変身しているとはいえ、よくよく理性を失わずにいるものだ。

 たぶん、天性の霊力があればこそ、自分を保てていられるのだろう。

「そっちはどう?」

 アムさんの問いかけに、私も街での日常生活や自分の中の衝動も正直に、赤裸々に告白した。男のときに比べて、女の子の体が感じやすいとか、そういうことまで顔を赤らめたりしながら。

「……やっぱり苦労してるみたいだけど、あたしよりは馴染んでそうね」

「そりゃあ、同じ人間の体なんだから、性別の違いを除けば、衝動を抑えるのは難しくない。そっちの苦労に比べれば……」

「ややこしい人間関係に比べたら、獣の習性は単純だから、その点は楽なんだけど」

 確かにそうだろうね、とうなずいた。獣使いのボクには分かりやすい。

「ハマカイ様には、よくしてもらっているわ」と、アムさんはここでの日常を語ってくれた。

人間性を維持するために、お喋りにも付き合ってくれるし。獣の習性を研究するのは興味深いって言い訳しているけど、親切なお方よね」

 見た目はハゲタカ頭の老人で、いかにも気難しそうだけど、隠者然とした雰囲気は師匠にも似ている。人間じゃない魔物めいた姿だから、人里にはめったに出て来ないけど、だからこそ獣に魂を封じ込められたアムさんも、忌避することなく受け入れてくれたのだろう。

「ここでは本を読んだり、魔法の呪文を教えてもらえたり……慣れたら悪くはないと思う。その代わり、炊事や洗濯、掃除などの雑用を仰せつかっているけど、花嫁修行にはなるかもね」

 思いの外に、アムさんは順応性が高かったようだ。

 社交上のお喋りや上品な踊り以外は何もできない良家の令嬢と違って、見知らぬ世界にも前向きに馴染もうとしている。

 だから、冒険者という世界にも興味を示してくれた。

「ここに来て、自分がいかに狭い世界で生きてきたか分かったよ。神さまとか妖魔とか、自分の人生に本当に関わって来るって考えてもいなかったし。このまま、アムの人生はあなたに譲り渡して、あたしは賢人の弟子として修行しながら、第二の人生を過ごしてもいいのかも」

 それは……マシロンの来た道だ。

 2人の人生を入れ替えて、それぞれの幸せを追求するのも、選択肢の一つになるのかな。

 私はアムとして、ザックさんと結ばれる。女神さまの神殿を経営する手伝いをしながら、平和に一生過ごすのもいいだろう。

 本当のアムさんは、マシロンの代わりに獣使いの技や魔法を習得してから、本人が望むのなら世界を旅して回ることもできる。

 だけど……ヴァンデミアのことを考えると、そんな互いの人生を交換しつつも、平和なハッピーエンドは難しいと思う。

 封印された妖魔の件を解決しないと、ボクは師匠に与えられた任務を全うできないし、アムさんも心の自由を縛られたまま、闇に怯え続けなければいけない。

 私たちが自分の人生を取り戻すにしても、生まれ変わった気持ちで再出発するにしても、諸悪の根源ともいうべき魔界の妖魔はきちんと倒しておかないといけない。

 そのことで、私と彼女、2人のアムの想いは一致した。

 

 あとはザックさんの件だけ、わだかまりを解消するために、話し合う必要がある。

 だけど、結論はシンプルだった。

 ザックさんはアムのもの。

 どちらのアムかは、ヴァンデミアとの決着をつけた後で、改めて考えて話し合う。

「マシロンさんは、ザックさんのことが好きなのね」恋愛話をしたがる女子特有のワクワクだか、ニヤニヤだか、喜悦した表情を浮かべるアムさんと、もじもじと顔を赤らめるボク。

 その点は、初心な田舎者のマシロンよりも、箱入り娘とはいっても都会で結婚を夢見て人生設計をイメージしてきた少女の方が、たやすく上手をとってくる。

 ボクは駆け引きもできずに、自分の想いのままを訴えることしかできない。

「好きといっても、戦友としてのザックが頼れる相方として、尊敬できるってことだから!」そう、マシロンとしてはそれが正直な気持ち。

「頼れる相方かあ。そこにはラブって要素はないの? お姉さんはそういう話が聞きたいんだけどなあ」

 いつの間にか、アムさんが年上お姉さんを演じている。ボクより、2才下のはずなのに。

「あたしは、ザックさんを見て、一目惚れしたみたい。この人は強いって本能的に確信した。だから、あなたの中のあたし、アム成分だって、きっと彼に恋するはず。そういう運命なんだから、正直に打ち明けてごらんなさいよ」

 アム成分とやらを巧みに引きずり出されて、ボクは……いや、私は初めて自分の感情を強く意識した。

「アムは……私はザックさんに心惹かれて、恋をしているのだと思います」

「はい、よく言えました」濡れた髪の毛を撫で撫でされる。妹になった気分って、こんなものか? 兄弟も姉妹もいない自分にはよく分からない。

「ご褒美に、ザックさんはあなたに譲るわ」

 まるで自分の持ち物のように言う。

 だけど、私は嬉しくて、思わずニヘラと男の自分がこれまでしたことのないような笑みを浮かべて、念押しに問いかけた。

「本当に?」

「彼と付き合いが長いのは、あなただからね。抜け駆けするつもりはないから安心して。あたしは……戦友としての彼に興味があるだけ」

「それで満足できるの? 獣の本能にさいなまれたりは……?」

「大丈夫。その時は、ザックさんよりも食べやすいあなたを襲っているから」

 はい?

 ペロリと舌なめずりをして、獰猛な笑みを浮かべる獣人アムさんに、背筋がゾクっとする。

「ヒッ……」思わず上ずった悲鳴を漏らして、涙を浮かべたボクに、

「冗談よ」と、クスクス笑うアム姐さん。そこにルビーKと同種の魔性を感じる。

 

 そう言えば、ルビーKは何をしてる?

 黙って見ているだけなのか?

(だって、お風呂は嫌いだもん。ゴシゴシ毛をこすられて、痛いったらありゃしない。それに火属性が水を苦手にしていることぐらい分かるでしょう?)

 そうですか。

「あら、指輪をしているのね」アムさんが目ざとく見つけた。「そんな目立つアクセサリーなのに、どうして気づかなかったのかしら」

 たぶん、幻術で透明になっていたからだと思う。

 使い魔を呼び出す魔法の指輪だ、と説明すると、アムさんは興味深々だ。

 一方、ルビーKはアムさんの前に姿を見せることを渋った。

(メインヒロインはわたしなんだから。それに獣が変身する女の子ってキャラがかぶってるし)

 何を言ってるんだ、君は。

(それに、その女、何だかうさん臭い。暗黒の気配がするから、あまり気を許しちゃダメよ)

 そりゃあ、悪魔犬の体なんだから、そういう臭いだってするだろう?

 それを言うなら、ルビーKだって元・暗黒の魔女だったじゃないか。人のことをどうこう言えないと思う。

(わたしの暗黒は、きれいな暗黒だからいいのよ)

 何だか、言ってることがよく分からない。

「マシロンさん、ボーッとして、どうしたんですか?」

 使い魔の言葉に戸惑っていると、アムさんが耳元で話しかけてきた。

 今さらながら距離の近さに驚いて、ヒャッと悲鳴を上げると、ボクは慌てて、その場を退散することにした。

「頭が痛くなって来たので、もう出るね。長風呂の習慣はないし」

 

 こんなに疲れた入浴タイムは、チャリスの街で、グレムリン3体の襲撃を受けて以来だった。

 

危険な秘術(運命の選択肢)

 

「ずいぶん長い風呂だったな」ハマカイさんの部屋に戻ると、開口一番、ザックはそう言った。

「私も、アムさんも、女の子だからね」

「ツッコミ入れていいか?」

「心は男だろう……ってのは、なしね。聞き飽きたから」クンクンと匂いを嗅いで、

「やっぱり、君も風呂に入った方がいいと思う。濡れたタオルで汗を拭いただけじゃ臭いから」

「気にし過ぎだろう。今まで、そういうことを言ったことがないじゃないか?」

「そりゃあ、男だからね。だけど、アムさんは気にするんじゃないかなあ。彼女は匂いに敏感だし。犬の獣人だからさ」

「そんなに臭うか?」腕を上げて、脇の下を鼻で嗅いでみるザック。

「冒険生活の中だと仕方ないけど、風呂に入れるときには、入っておいた方がいいと思う」

「う〜ん、女の子のすぐ後に風呂に入るのは、いろいろと気まずいんだけどなあ」

「男湯は別に設けてあるぞ」と、ハマカイさん。

「何であるんだよ!? ここは、そんなに客が来る場所じゃないだろうが」と、ツッコむザックさん。

「昔、人間や他の種族の入浴の慣習や歴史に興味を持った時期があってのう。その時に手洗い場とともに造っておいたのじゃ。この日が来るのを予見しておったからな」

「にわかには信じがたいが、良い予見だったと思うぜ。今から、さっそく使わせてもらうわ」

「地下1階の浴室まで540段あるから、しっかり数えて降りるんじゃぞ。下手すると、無限階段に閉じ込められるのでな」

「直通エレベーターぐらい用意しておけよ。急なトイレのときはどうするんだ!?」

「わしは転移の術が使えるから、必要ないのじゃ」

 ザックとハマカイさんのやり取りは、息の合った芸人みたいで面白い。

 私たちが入浴しているあいだに、いろいろ話し合って打ち解けたように思う。

 

 ザックは去り、アムさんが戻って来た。

「あら、ザックさんは?」

「臭いを気にして、自分も風呂に向かったよ。途中ですれ違わなかった?」

「あたしは短距離転移の術を習得しましたから」

 アムさんの呪文の覚えは、大したものらしい。この短期間のうちに、いくつの呪文を覚えたんだろう?

 もしかすると、《魂交換》の術はボクが覚えるよりも、アムさんが覚える方が早いかもしれない。

 

「それで、先ほどの《魂交換》の話じゃが……」

 ザックが帰って来る前に、ハマカイさんは話を始めた。呪文の細かい話は、ザックが聞いても退屈なだけだろうし、当事者はボクとアムさんの2人だ。

「以前にも簡単に話したように、この術は禁呪とも呼ばれる邪悪な術じゃ。使用した者は魂に深刻な呪いを受け、暗黒に取り込まれる危険がある」

「そのために、呪いを解呪できるよう、リーブラ様の神殿をアシュカイオスの街に復興させました。あとは、加護を祈れる高位の神官を招聘できればいいのですが」

「ヴァンデミアの暗黒が晴れておれば、神官でない平信徒の声も届けやすくなろうが、いずれにせよ、ヴァンデミアを倒すためには、リーブラ神官の力が必要と考えられる」

「どうしてですか?」アムさんが尋ねた。「呪いを除去するだけなら、シンドラ様でも問題ないのでは?」

 アムさんが街の主神と言うべきシンドラびいきなのは分かる。だけど、ボクは旧世界でじっさいに聖地巡礼したり、加護を受けたりしたリーブラ様の方を推すけどね。

「例のゴーレムが守っていたというケイベシュの神殿じゃがのう。古文書によると、リーブラ神殿だったとのこと。つまり、救世主どのが入手し損ねたという〈銀のサークレット〉もリーブラの祭具だと考えられる」

 そうだ。

 あそこでゴーレムに妨害されず、サークレットを入手できていれば、ボクたちはヴァンデミア討伐を成し遂げていたかもしれない。だけど、ゴーレムの守りをボクは突破できず、サークレットなしで妖魔に挑んだ結果、肉体を奪われる羽目となったのだ。

「サークレットは、リーブラの祭具。考えてみれば、当然のことと言えような。敵からの呪いを受け付けず、ヴァンデミアの《魂交換》というまやかしの技には、真実を司るリーブラ様の恩恵が効果的じゃと」

 

「だったら、わたしの出番ってことよね」PONとルビーKが指輪から飛び出した。

「あら。可愛いアライグマ」

「誰がアライグマよ。タヌキとアライグマの区別もつかないの?」

「タヌキ? 何よそれ?」

「タヌキも知らないなんて、おバカな犬娘だこと。グロいあなたの姿を、可愛いピンクの象にしたのは他ならない、わたしなのに」

「あれって、マシロンさんの力じゃなかったの?」

「いや。ボクには幻術なんて使えない。あれはルビーKの仕業だ」

「だから、あんなダサい生き物に変えられたのね。ピンクなんて、幼稚な色合いよ」

「ピンクは至高のヒロインカラーに決まってるでしょ。女の子の憧れなんだから」

「白か、黄色か、金色って選択肢はないわけ?」

「白は汚れが目立つ。黄色はまだマシだけど、金色は成り金趣味って感じだし、パワーアップ後の装飾には向いているけど、脇役キャラのメインカラーには向かない」

「使い魔だって、おまけでしょ。何を一人前にメインぶっているのやら」

 2人だけなのに喧々囂々(けんけんごうごう)の口論が止まらない。

 

「なあ、救世主どの。そろそろ、そのうるさい生き物を引っ込めてはくれぬか」ハマカイさんが、心底疲れたように言う。

「そうですね。ルビーK、戻れ。話が進められない」

「仕方ないわね。これ以上、キャンキャンうるさい犬娘と同じ空気は吸いたくないわ」捨てゼリフだけ残して、PONと妖精タヌキは消えた。ふう。

「マシロンさんには悪いですけど、その使い魔のことは決して好きになれそうにありません」

 そうみたいだね。

「で、女神リーブラと、あの使い魔の間にどういう関係が?」ハマカイさんが話を元の軌道に引き戻してくれた。

「話は長くなりますけど、旧世界の聖地で女神さまと接触して、本人が言うには『女神の声が聞こえる、選ばれた使徒』だそうです。ただ、神官として公式に認められたかどうかは曖昧で、一応、旧世界での肩書きは『救世主一行の聖女』なんですけど、その実は幻術を使う妖精タヌキです」

「真実を司るリーブラと幻術使いは、相性が悪いと思うがな」ハマカイさんが当然のツッコミを入れてくる。「とにかく属性が多すぎて、よく分からん生き物じゃが、じっくり研究してみる価値はあるかもしれん。わしに譲ってはくれんか?」

「あたしは反対です。何だか、暗黒の臭いがプンプンしますし、どうにもうさん臭いです」

 ルビーKと同じようなことを言ってる。

 もしかして近親憎悪になるのかな。

 一度、意気投合すれば、抜群のコンビになると思うんだけどな。

「とにかく、そのゴーレムの妨害を切り抜ける鍵は、リーブラの聖印じゃ。それと敬虔な信仰心を持つ者の祈りで、〈銀のサークレット〉は入手できるはず」

 なるほど。それなら、次はヴァンデミアの能力を封じれるかも。

「サークレットを入手後は、ここに持ち帰るとよい」

「と言いますと?」

「サークレットを研究すれば、その仕組みを解明して、似たような品を複数用意できるかもしれん。サークレットが1つでは、ヴァンデミアを倒すのに1対1の戦いを強要されるじゃろう? あの剣士ならともかく、今のお前さんがヴァンデミアと1対1でやり合えるとは思えん」

 確かにそうだ。

 ボクがアムさんと肉体を交換すれば、ザックと協力して、ヴァンデミアを確実に倒せそうだ。その場合、元の肉体に戻ったアムさんは留守番になるが、一番確実な手段だと思う。

 ボクが今のままなら、ザック1人しか戦力にならないので(ボクにできるのは後方支援ぐらいだ)、アムさんの助けがある方が心強い。この場合、ボクとアムさんは、もう少し実戦訓練で技と体を鍛える必要があるだろうけど。

 

「《魂変換》の術を身につけるには、どれぐらいの時間が掛かりますかね?」

「いろいろ考えはしたが、やはり、その秘術をお主たちに教えるわけにはいかん」

「どうしてですか?」ボクは、ハマカイさんに詰め寄った。

「言ったじゃろう。禁呪や邪術の類は、使う際のリスクが大きい。ヴァンデミアがそれを何度も使うのは、奴が混沌に属する妖魔だからじゃ。善なる生き物や、中立の人間がそのような邪術を使えば、魂が堕落し、暗黒の下僕になる可能性が大きい。ましてや、ヴァンデミアが心に干渉している現状ではな」

「今なら、まだ間に合います。手遅れにならないうちに、少しでも早く……」

「じゃろうな。ならば、なおさら悠長に禁呪を学んでいる時間はなかろう」

「だったら、どうしたらいいと言うんです?」

 そのとき、ハゲタカ頭の賢者がいたずらっぽい笑みを浮かべた。ハゲタカがそんな器用な表情を見せたことに驚きながら、ボクはその言葉を受けとった。

「だから、こういうものを用意した。一度だけ使える、禁呪の巻物じゃ。書き記しただけでは呪われんが、貴重な材料をいくつも消費した。儀式の手順も記してある。使い方を誤るなよ」

「これがあれば、《魂交換》ができる、と?」

「本来は、魂を別の器に移して、本人の肉体は不死身になるという呪文の応用じゃ。かの有名な〈火吹山の魔法使い〉や多くの邪術師が用いたとされる、いわく付きの代物じゃよ。それを使えば最後、魂が奈落や魔界に縁するか、発狂するか。あるいは強い聖なる力に守られるならば、その限りではないが、救世主どのはそれでも使いたいと申すか?」

 

 ボクはどうしようか?

 

①迷っていると、アムさんが「あたしが使うよ。マシロンさんは、ヴァンデミアを倒して」と進み出る。彼女の勇気に感謝しながら、ボクは決戦の覚悟を決める。(エンディング1へ

 

②迷っている暇はない。救世主である自分を信じて、自らの手で勝利をつかんで見せる。(エンディング2へ

 

③魂を危険にさらす選択はなしだ。慎重に準備を重ねて、ボクとアムさん、ザックの3人で確実にヴァンデミアを迎え討つ。(エンディング3へ

 

(当記事 完)