トゥルーエンドを終わらせて
晶華「ヴァンデミア討伐おめでとう」
翔花「ヴァンデミアとしては、もっと粘った戦いがしたかったわ。最後がちょっと呆気なさすぎる」
シロ「いや、あれはできるだけ主人公が有利になるよう、上手く立ち回った結果だからね。そこまでたどり着くのに、だいぶ苦労したんだし」
009「そもそも、ダイスを振って戦う前に、いろいろとバッドエンドの危険を乗り越えて、とうとう力押しで倒せる状況に追い込んだわけで。数あるFFゲームブックでも、ヴァンデミアぐらい狡猾で、イヤらしい敵も珍しいだろう。後で、バッドエンドを調べると分かるはず」
翔花「本当にイヤらしい敵ね。女の子の体を乗っ取って、何をする気だったのかしら」
009「ヴァンデミアの性別も、男なのか女なのか、実ははっきりしないという。ミアちゃんという愛称なら、実は女の子だったの、と解釈することも可能だ」
晶華「ところで、ナイン君のザックさんも、最後に原作ゲームブックと違う、『アムと結婚して旅をやめるエンド』を希望していたよね。どうしてかしら?」
009「ぼくもいい年だからな。冒険をやめて引退するのに、ちょうどいいかと思ったんだよ」
シロ「つまり、プレイヤーが若者ザックと違って、おじさんだから世帯持ちを希望した、と?」
009「それだけじゃない。原作にはルビーKがいないだろう? すると、ザックが主人公の唯一の冒険パートナーになるんだよ。だったら、相棒を置いて、自分だけさっさと冒険を引退するわけにもいかない。しかし、当記事では、マシロンにルビーKが相方として付いていることを考えると、ザックがマシロンの保護者をする必要もないわけだ。ならば、ザック自身の身の振り方を考えると、クール大陸に残留して、アリオン市やアシュカイオスを拠点に冒険するという生き方もいいかな、と」
シロ「だけど、原作ではザックといっしょに冒険を続ける未来が選択肢の一つだったのに、ザックの方が残留を決めるなんて想定外でした」
009「昭和の冒険物語の王道って、囚われのヒロインを悪の手から救い出した主人公が、可愛いヒロインと結ばれてハッピーエンドだからな。仮にクール大陸が平和な世界なら、ザックがアシュカイオスに残る意味合いが薄れるが、地勢的に物騒な世界観だから、街の平和を守るために腕の立つ戦士が残って、守護役になる必然性も出てくるわけだ」
シロ「ザックが旅を続けないなら、マシロンはどうするかを考えた場合、そもそも彼は師匠離れができていないんですよね。師匠の遺言に従って、三つの暗黒を退治した。その後、冒険を続ける動機に欠ける。だからと言って、クールに残留したいかと言われれば、一度、故郷に戻って、そこで改めて自分の望みを考え直す時間が必要だ、と。ザックと違って、冒険への憧れじゃなくて、師匠との関係性だけで人生を組み立てて、使命に基づいて生きて来たから、それが果たされると燃え尽き症候群になったというか、そこで新たに人生の目的とかやりたいこととか考え直す必要が出てくる」
翔花「グァンドゥムは導いてくれないわけ?」
シロ「大地を脅かす存在が現れたら、多分お告げをくれると思う。でも、日々の営みの中で、どう生きるべきかといった哲学的な問いには、答えをくれないんじゃないかな。ともあれ、魔術などの修練で、より深く獣や精霊との交信の仕方を教えてくれる当てがあればいいんだけどね」
晶華「そういう当てを探す旅ってことね。いずれは、ヤズトロモさんのところにたどり着いて、何かの手伝いをさせられそう」
バッドエンドの話
009「では、アナザーエンドの前に、バッドエンドを見ておくか」
・430:少女アムのいる大広間でヴァンデミアと戦ったため、体を滅ぼされた妖魔がふたたびアムの肉体に乗り移り、不意討ちで主人公を殺害する。
・442:少女アムがヴァンデミアに乗り移られていることを知らず、不意討ちで殺害される。
・451:地底世界の酒場で飲んだ酒の魔力で、首が体から抜き取られる。
・472:巨大なガマガエルに一飲みにされて、消化される。
・497:少女の華奢な肉体で(奇跡的に)自分の体に宿ったヴァンデミアに致命傷を与えた。しかし、その瞬間にふたたび体を入れ替えられて、死に行く自分の体に戻される。少女の笑い声を聞きながら、意識が遠のいていった。
・513:動く壁の罠にハマって押しつぶされそうになる。運だめしを2回連続で成功させないと、壁にはさまれて死亡。
・520:無限階段に囚われて、脱出不能になる。
・521:ザックとともに悪魔犬を倒すが、ヴァンデミアに乗り移られたザックから不意討ちされて死亡。
・523:神殿からサークレットを持って外に出ようとした瞬間に、番人のゴーレムからのビームが直撃して死亡。
・525:ムジナの指輪をヴァンデミアに示すと、コマンドワードのフォー・セブンを唱えられて、石化する。
・560:キノコ人間の胞子に感染して、自分もキノコ人間になる。
・566:召喚獣を倒したカボチャ怪人が、踊り続ける主人公に大鎌で首を切り落とす。
・572:アリオンの酒場でならず者を殺害したため、重罪で刑務所に入れられる。
・579:ヴァンデミアに、少女の体に入れられて、自分の体を奪われる。降伏して奴隷化エンド。
・593:ヴァンデミアを石化させて、最後の暗黒は封じたものの、少女の体にされた主人公。バッドではないものの、衝撃的なTSアナザーエンド。
009「……ということで、アナザーを含むバッドエンドは15個。第1部で8個、第2部で11個だったから、この第3部が最高のバッドエンド数で7.5%ということになる」
シロ「総数を数えると、600パラグラフ中34で、平均バッドエンド率5.6%ぐらいですか。それでも、話が進むほど攻略が難しくなる感じですね」
009「第1部は、ザックとケイの2人に遭遇するルートを通って、進行フラグを立てることと、ラスボスの鋼鉄ゴーレムの4つの攻撃に対して、召喚獣をどういう順番で呼んで攻略するかが鍵となる。
「第2部は、『炎の書』の入手と、〈闇の精〉を出現させる前に、ラガート(ゴンチョン)、シャスールの2人の将軍をどう攻略するかが鍵となる。
「しかし、第3部は立てないといけないフラグが多すぎて、普通にプレイすれば、どうしても593番に到達してしまうと思われ」
シロ「真のエンディング(600番)に到達するために立てないといけないフラグをまとめると、以下の通りですね」
- アリオンの酒場で、老人から〈ハマカイの塔〉の地図を購入(最低で金貨3枚必要)。
- 〈ハマカイの塔〉で各種の謎を解き、〈透明薬〉もしくは〈縮小薬〉を入手。
- ケイベシュ目前の吊り橋を、川に落ちずに渡る。
- ケイベシュの神殿で、〈透明薬〉もしくは〈縮小薬〉でゴーレムの妨害をすり抜け(その際、それまでに入手した全ての持ち物を残していくことに)、〈銀のサークレット〉を入手。そのまま地下へ。
- 地下の7つの施設巡りで、改めて装備を整えて自己強化を図る。強化が不十分だと、ヴァンデミアを倒せない。また、酒場でバーテンからヴァンデミアの秘密を聞くのは、必須フラグ。
- 美術館でムジナを倒して、ザックを救出。そこから地下道を抜けて、ヴァンデミアの居城に突入。入り口の大広間の悪魔犬は倒さず、奥へ進む。
- 玉座の間で出会った少女アムの正体(ヴァンデミア)を見抜き、押さえ込もうとする。そこで〈銀のサークレット〉の有無がトゥルーエンドか、アナザーエンドの分岐点。
- 〈銀のサークレット〉でヴァンデミアの能力に抵抗できた場合、アムは大広間に逃げて、悪魔犬に乗り替わる。
- 悪魔犬をもう一度、玉座の間に誘い込んで、そこで戦う。直接戦ってもよし、召喚獣と戦わせて乗り替わった相手を倒すのもよし。ドラゴンスレイヤーを入手しているなら、悪魔犬を相手にするよりも、黒龍を相手にする方が、技術点2点分有利に戦える。黒龍の方が悪魔犬よりも2点強いが、ドラゴンスレイヤーは龍特効+4なので、差し引き2点のお得となる。もちろん、それ以前に主人公の技術点が10以下なら、厳しい戦いになるだろうけど。
009「『第2部』と違って、最後は各種アイテムで強化された主人公が、召喚獣を駆使したりもしつつ、自分の直接武器戦闘でとどめを刺せる王道爽快ラスボス戦と言える。それまでの話では強大な敵に対して、知恵と工夫で立ち向かうけど、力では勝てない主人公だったわけだが、最後の最後で、勇者とか救世主の名に恥じない戦闘力を発揮する」
晶華「『モンスターの逆襲』の時もそうだったけど、最後にドラゴンが登場するのが、ファンタジーでも王道って気がするわ」
009「その辺の王道はしっかり守りながら、他の選択肢も用意してくれているのが、山本弘さんのゲームブックだったと思う。そして、その他の選択肢というのが、作家ならではの個性というか、色物めいたところなんだな」
シロ「それが今作のアナザーエンドなんですね」
アナザーエンドの話
晶華「アナザーエンドへの分岐パラグラフは、422番です。〈銀のサークレット〉を入手しなかった場合、パラグラフ558番で、主人公と少女アム(ヴァンデミア)の肉体が交換されてしまいます」
翔花「つまり、マシロン様がアムさんに?」
シロ「主人公の体がヴァンデミアに乗っ取られるんだな。第2部の〈闇の精〉との違いは、憑依されるだけでなく、魂が別の肉体に追い出されるわけだ。男性主人公がこうして女性化してしまう」
晶華「アムさんの能力値は、技術点5、体力点5、運点9で、装備も持たないし、肉体が変わったことで魔法も使えなくなっている。正直に言って、詰んだ状態ね」
009「ヴァンデミアは、おとなしく降伏するように命じて、579番の奴隷化バッドエンドを余儀なくされてしまう。それでも、起死回生の手段が、ムジナの石化の指輪(水晶の指輪)だ。一応、万が一の勝利を信じて、アムの攻撃で主人公を倒すことも絶対不可能じゃないが……」
翔花「技術点5のアムさんで、技術点13のマシロン君をどうやって倒すというのよ?」
009「それまでにマシロンがわざと体力点を回復せずに、一撃二撃で死ぬようにしておく。そして、アムの出目が12なら、マシロンが2か3を出せば、攻撃が命中するが……ものすごい低い可能性だな」
シロ「そんな瀕死の状態で、ラスボスの前に出るプレイはあり得ない自殺行為ですからね」
009「たとえ、勝ってもバッドエンドの497番だ。第1部でも、殺人鬼と化したザックを倒すことが必要な131番や、岩妖怪のラッキーヒットで鋼鉄ゴーレムのルビーを砕いてしまう183番など、ほぼ到達不能なバッドエンドがあったが、それに匹敵するぐらい実プレイではまず見ないバッドエンドだろうな」
晶華「とにかく、一度、ヴァンデミアに肉体を奪われると、もはや取り戻すことはできないわけね」
009「だから、最後の希望がムジナの指輪で、555番からフォー・セブンのコマンドワードを10倍した470番に進むことで、自分の元の体を石化させる。これでヴァンデミアは石の体に封じ込められて、任務は達成した形だな」
翔花「でも、マシロン様が美少女アムとして、第2の人生を送ることになるのね」
シロ「後から駆けつけてきたザックが、石化した主人公を見て激怒したり(自分の体に未練を残して玉座の間に留まった場合)、その前にアムと対面してニコニコ声をかけたり(あきらめて大広間から帰ろうとした場合)、2つのパターンがありますが、結果的にザックに事情を話して、守ってもらうエンディングが593番だ、と」
●怒りのザック(パラグラフ490より抜粋)
彼は君の姿をした石像を見て顔色を変え、君に詰め寄った。
「てめえ、俺の親友に何をした!?」
彼には少女の姿をした今の君が見分けられないのだ。593へ進む。
●女好きのザック(パラグラフ573より抜粋)
彼は君の姿を認めると、とたんににこやかな表情になった。
「やあ、可愛いお嬢さん、こんなところで何をしているんですか?」
彼には少女の姿をした今の君が見分けられないのだ。593へ進む。
●アナザーTSエンド(パラグラフ593)
君はザックに事情を説明し、もう元の体に戻ることはできないのだと言った。ザックはようやく納得してくれた。
「それは災難だったなあ。だがまあ、ヴァンデミアを倒したんだから、よしとしなくちゃな。なあに、心配することはない。これからは俺が守ってやるよ」
そう言ってザックは、君のか細い体を力強く抱きしめた。しかし、君を見つめる彼の視線が妙に熱っぽいのに、君は不安を抱いた。今の君の姿は、あまりにもザックの好みにぴったりなのだ。
君は大きな試練を乗り越えて3体の強大な敵を倒し、世界を破滅から救った。だが、これからの人生では、べつの意味での大きな試練が待ち受けているのだ……。
翔花「つまり、マシロン君が正式にヒロインになって、ザックさんと結ばれるエンディングね。おめでとう♪」
シロ「いやいや。それだと、ルビーKはどうなるんだ?」
翔花「う〜ん、わたしとしては、元のマシロン様の肉体の守護者として、地下世界に残るかも。だって、誰かがヴァンデミアの封印を解いたりしたら大変だし、ケイの指輪は、マシロン様の手にはまっているのだから、遠くに行くことはできないと思うのよ」
009「いや、これについては昔、NOVAが後日譚を勝手に妄想したことがあってな。真のエンディングはありきたりの王道エンドだから、特に想像力は働かなかったんだが、アナザーエンドはいろいろ創作意欲を刺激してくれたんだよ。だから、この機に、その昔日の妄想を土台に、アナザーエンドの後日譚を文章起こしして、本記事のトリを飾ろうと思いついた」
晶華「ってことは、最後のIFエンドで、この攻略解析録を終える、と?」
009「その前に、本作の難易度な」
難易度の話
①ラスボスが強い(◎)
本作のヴァンデミアは絡め手ボスの類で、直接戦闘能力は悪魔犬の「技術点12、体力点20」。これは「技16、体25」の鋼鉄ゴーレムや、「技13、体25」の〈闇の精〉と比べても、それほど強いとは言えない。
しかし、このヴァンデミア(悪魔犬)の能力は、『ソーサリー』1巻のラスボス、マンティコア「技12、体18」を越えているし、鋼鉄ゴーレムや〈闇の精〉のように代理戦闘で倒すことができない(倒しても、その倒した召喚獣が乗っ取られて敵になる)ために、最後は主人公自身が決着をつけなければいけない。
そのための強化手段がたっぷり用意されているのが、後半の地下世界の面白さである。
つまり、これまでは主人公がまともに太刀打ちできない強力性能のボスを、いかに絡め手で倒すかの手段を求められるのに対し、この最終部は、それまでの物理戦闘では弱い魔法使いタイプの主人公を、最強の魔法戦士として鍛え上げた末のガチ対決で、勝負を決する形である。
逆を言えば、鍛えてない(十分なアイテムを拾い集めていない)主人公では、ガチ勝負で倒せないので、イベントのショートカットが1部、2部に比べて行いにくいという意味で、アドベンチャーゲーム風だったこれまでに比べて、正当派の主人公育成RPG色が高まっていると思う。
なお、3つの暗黒が、もしも一堂に会して暗黒ナンバーワン対決を行った場合、能力値最強は鋼鉄ゴーレムで、制御不能でなければ、魔法大戦において人類の希望である決戦兵器として運用されるはずだったのは伊達じゃない。
ヴァンデミアが非生物に憑依できないのであれば、鋼鉄ゴーレムを倒す手段は乏しいだろうし、鋼鉄ゴーレムの放つ冷凍光線は、ヴァンデミアの宿る肉体をたちまち氷漬けにしてしまうだろう。
仮に、ヴァンデミアや〈闇の精〉が非生物に憑依できるなら、制御を奪われた鋼鉄ゴーレムが脅威になるだろうが、ゲームブックの描写では、ヴァンデミアの能力は魂の交換なので、魂を持たないゴーレムには無効化されるだろう。〈闇の精〉は人間にしか憑依していないようなので、やはりゴーレムには無力と考えられる。
結局、主人公はゴーレムそのものを破壊できていない(動力源のルビーを抜き取っただけである)ので、ゴーレム最強と考えてよさそうだ。
残り2つの暗黒で、憑依タイプのどちらが強いかだが、瞬時に憑依できるヴァンデミアの方が厄介。ただ、ヴァンデミアの戦闘能力は憑依した肉体の性能に依存するので、〈闇の精〉の本体に傷をつけることができるかどうかに掛かっている。ゴーレムも火炎攻撃を持たない点で、〈闇の精〉を傷つけられるのかという問題はあるが、冷凍光線や電撃が通用しないという記述もないので、火炎ほどではなくても対処できる可能性は十分にある。一方のヴァンデミアは、本当にどんな肉体に憑依するか次第。
いずれにせよ、こいつらが一堂に会したところで、ゴーレムのルビーに攻撃を当てて自爆させれば、おそらく暗黒を全滅させられるんじゃないかなあ。鋼鉄ゴーレムは軍勢を率いるのではなく、自爆特攻兵器として運用すると、戦果を挙げられたような気がする。まあ、魔法のルビーが高価すぎて、自爆戦術はコストに合わないのかもな。
なお、三つの暗黒といっても、単に「ケマンダー師匠が封印した(倒せなかった)3体」なだけで、こいつらが協力し合っていたわけでも、互いを認知していたわけでもない、と。
②全体的に罠が多くて、死にやすい(◎)
たいへん死にやすいゲームです。
最も厳しいのは、すべての装備を奪われた神殿の直後。第2部までで愛用武器を入手していれば、それだけショックも大きい。
バッドエンド総数も多いですが、地下世界の個性的な混沌生物が実にヴァリエーション豊かな特殊能力を持っていて、初見殺しの仕掛けが多いし、召喚獣で対処する局面も結構あって、図書館イベントを早くクリアして、召喚コストを1にしておかないと、体力消耗が激しすぎる。酒場、劇場、神殿では召喚獣が必須になりますし、第2部であまり有効活用できなかった憂さを晴らすべく、コウモリ大活躍がいいなあ。
また、ヴァンデミアの特殊能力による死も、5ヶ所もあって、その狡猾ぶりが印象深いです。
③パズル構造が複雑(◎)
ハマカイの塔絡みのイベントが、パズルの宝庫ですが、
地下世界の攻略順、ヴァンデミアの正体を見抜くパラグラフ・ジャンプや、大広間と玉座の間の移動によるストーリーの変化など、非常に多彩な仕掛けがゲームとして面白い。
これも第2部で物足りなかった部分を、第3部でしっかり取り戻せた形です。
なお、パズル性の不足を第2部の欠点と、当ブログでは扱っていますが、全体を通して考えるなら、パズルだらけだとマンネリかと思われかねないので、第2部という変化球があればこそ、第3部のパズルの多さが引き立つのだとも考えます。
第2部の魅力は、旧世界の諸国めぐりと、国家間の関係や戦争を背景とした陰謀劇で、それらの戦記物っぽい要素は第3部にはありませんからね。
それぞれの部には、それぞれの良さがあって、どれが良いかは個人の受け止め方の問題。自分が一番好きなのは、ザックのヒーロー性が引き立つ第1部で、主人公よりもザックに感情移入してました。だから、第3部の「ザックにとってのハッピーエンド」が、めでたしめでたしだと思います。トゥルーエンドでも、アナザーエンドでも。
④ゲームシステムが難しい(◯)
獣使いの能力が、たっぷり使われていて、それなしだとクリアできないほどです。
システムとしては、難解というほどではありませんが、物語とうまく噛み合ったことで、そのゲームブックの魅力を引き立たせる役割を果たしました。
あと、パズル性に含まれますが、ハマカイの塔とか、ヴァンデミアの正体あばきとか、パラグラフジャンプが多用されていて、第2部のゴンチョンの正体あばきよりも、システマチックな処理が施されて、ゲーム的に好印象。
情報を聞いて、それをきちんと活用すれば、正解のストーリーが浮かび上がって来るのは、ストーリーとゲームがうまく融合していると思います。
⑤フラグ管理がややこしい(◯)
キーアイテムは、〈銀のサークレット〉と〈水晶の指輪〉の2つだけだと考えますが、地下世界に入った際に、装備品が失われているのか、それとも神殿を経由せずに来たのか、で、大きく異なるストーリー。
あと、序盤で地図を入手できなくて、ハマカイに会えなかった場合は、そのまま進めて酒場でも情報を得られなければ、本当に訳の分からないままアムに殺されるという末路。
それを考えると、アリオンでも、ケイベシュ地下でも、酒場でうまく情報を仕入れることが攻略の重要な鍵だとも言えます。
考えてみれば、第1部でも〈ダルミナートの酒場〉が重要なフラグを伴いますし、「情報収集は酒場」というファンタジーRPGの基本に忠実なゲームでしたな。
ところで、この時代、まだ「冒険者の店」とか「冒険者ギルド」というシステムはなくて、ただリアルタイムですと、東京創元社のゲームブックに付属していた「アドベンチャラーズ・イン」という折り込みペーパーが貴重な情報源だったなあ、と酒場&宿屋つながりで思い出されます。あと、富士見の「ドラゴン通信」も思い出深い。
これらも今、保存していれば良かったなあ、と処分してしまったことを、つくづく残念に感じたり。
社会思想社には、そういうオマケがなかったけど、それに代わるのがウォーロック誌だったのだろう、と今にして思う。
って、フラグの話から、酒場つながりで、情報源たる小冊子の話に展開するとは不思議です。これらの小冊子も、現在結構な値段で売れるのだなあ、と貴重な歴史資料みたいに感じてみる。


閑話休題。
ここまでの難易度をまとめると、◎3つ(2点)と◯2つ(1点)で合計8点と出た。
ん? 8点といえば、自分がここまで一番難しいと考えていた『火吹山の魔法使いふたたび』や『モンスター誕生』と同じじゃないか。
そこまで難しい作品とは思わない。
しかし、これは200パラグラフというボリュームの差ですな。もしも、この難易度で400パラグラフに引き伸ばされたなら……難解だったかもしれない。
(主人公を育成しなければ)ボスは強いし、何よりも仕掛けが混みいって、しかも想像力旺盛なプレイヤーには、真のエンディングのために素っ裸になるという羞恥心との戦いが待っている。
『モンスター誕生』のモンスターが裸なのかは記述がないから何とも言えないが、少なくとも『火吹山ふたたび』で羞恥心が敵になることはなかった。
とにかく、第3部単独だと、ボリュームの問題で、難易度8という印象はないが、第1部(難易度6)や第2部(難易度4)と組み合わせると、総計600パラグラフで、平均難易度6。まあ、これぐらいが妥当かもしれない。
攻略を終えたばかりで、ヴァンデミアの強さを過剰に高く考えているのかもしれないし(◯が妥当かも)、最適解が分かっても解くのが厳しいと考える『火吹山ふたたび』は、回復アイテムの欠如こそが難しい最大の要因だもんなあ。
一方、数字パズルの難解さは、小学生だとまず解けないレベルの山本作品の方が明らかに上で、ゲームとしての質感も大きく異なる印象。
まあ、『暗黒の三つの顔』の難易度は、第3部を7に改めて(主人公を強化できる分、ラスボスの強さの相対評価は下がる)、平均をとれば6認定するぐらいが妥当か。
おまけ:ザックの能力値について
本作では、鋼鉄ゴーレムの洗脳音波で殺人鬼と化したザックや、ヴァンデミアに憑依されたザックと対決する展開があります。
その戦いでは勝っても負けてもバッドエンド確定なんですが、その際のザックの能力値が技術点12で、ルールどおりに作ったFF主人公の最大の強さに匹敵する、と。
第1部では、体力点20もあるザックは、ヴァンデミアの悪魔犬並みの強さで、まだ未熟な主人公で倒すのは非常に難しい。
一方で、第3部の主人公は、成長の恩恵もありますし、ザックの体力点が10に下がっているので、十分倒せる相手。ザックの体力が半減した理由は、その前に〈悪魔の群れ〉多数と斬り合っていたからでしょうな。無数の混沌怪物と孤軍奮闘で応戦して、体力半減で片付けたのだから、やはり剣士としては大した力量です。同行する味方としては、FF最強NPC剣士と言っていいでしょう。
そんなザックさんとの関係性が長く続くといいのになあ、と考える人向けのIFエンディングを、ここから書いてみます。
アナザーエンディング後日譚(序章)
その夜の夢も、混沌に満ちた悪夢だった。
私はおぞましい異形の軍勢を率いて、人間を滅ぼそうとしていた。
私の体は暗黒の妖魔ヴァンデミアに奪われて、いつしか自分自身が妖魔の心と同一に感じるほど、侵食されていた。
私はむしろ清々しい気分で、世界を滅ぼす先導役を務めたが、その前に救世主が立ちはだかった。
かつての師、ケマンダー。暗黒に蝕まれた私を正気に戻すべく、死んだはずの彼が光を放つ。
私の闇と、師の光が激しくぶつかり合ったところで……朝の光が私を覚醒させる。
悪夢の時間は終わった。
目覚めたばかりの薄ぼんやりした頭で、自分が誰かを思い出そうとする。
私はアム……と自然に思いかけて、慌てて、かぶりを振る。私は……いや、ボクはマシロン。ケマンダー師匠の弟子で、世界を破壊しようとする三つの暗黒を退治した救世主。
だけど……人の記憶は魂だけでなく、肉体の脳にも引きずられる。この肉体の本来の持ち主、アムの記憶は、マシロンのものと入り混じり、ボクを、私を混乱させる。
あきらめて運命を受け入れたらいいのに……と、自分の中でささやく声がする。
だけど、2つの理由で、ボクは自分を保たなければいけなかった。
1つは、この体を本来の持ち主、アムさんに返さないといけないから。アムさんは、まだ生きている。おぞましい悪魔犬の中に閉じ込められて。それでも、健気にボクの魔法修行を待ちながら、《魂交換》の秘術を習得できる希望を抱いている。
そんな彼女の人生を、ボクが奪うわけにはいかないじゃないか。
だから、ボクは彼女の代役を務めて、彼女の帰って来る場所を保ちながら、今も修練を重ねているわけだ。
もう1つは、ヴァンデミアがまだ滅びていないという事実だ。
ケイベシュの地下王国の城で、ヴァンデミアはボクの本来の肉体に封じられたままでいる。
しかし、何もできなくなったわけではない。
ヴァンデミアは、かつて己の依代に使った少女の肉体に思念を送り、夜な夜な遠くから操ろうとして来る。つまり、ボクの悪夢はヴァンデミアがもたらすもの。あるいは、ボクの肉体にヴァンデミアが在る以上は、ボク自身とヴァンデミアの間に霊的つながりが生じているのかもしれない。
このまま何もせずに、アムとして平和に生きていたとしても、いずれはボクがヴァンデミアの従僕として、暗黒に屈服してしまうかもしれない。
それを防いでいるのが、ボク自身の自我と、それから師匠の遺した盾に宿る霊力だ。ケマンダー師匠の盾は、今でもボクの(アムさんの)寝台(ベッド)の枕元に置かれ、妖魔の悪夢にボクが(私が)取り込まれるのを防いでくれている。
師匠の想いがなければ、自分はとっくにヴァンデミア様の……いや、妖魔ヴァンデミアのものになっていたかもしれない。
つまり、少女アムの肉体には、マシロンの魂と、アムの記憶と、妖魔の思念の残滓が入り混じって、非常に不安定な内面となっているのだ。
マシロンであることを放棄してしまったなら、アムさんのみならず、ヴァンデミアの意識がボクを飲み込んでしまうだろう。
そして、この肉体の記憶を得たことで、どうしてヴァンデミアがアムさんの体を依代に選んだのかも判明した。彼女は、このアシュカイオスでも類稀なる霊力の資質を秘めていたのである。
街でもそこそこ裕福な交易商人の娘として何不自由なく暮らしていた私、アムは、自分の中の可能性を知らずに、いずれは両親の望みどおり、どこかの良家の花嫁として幸せに結婚する未来を信じていた。
まさか、悪魔の使いにさらわれて、魔界の花嫁として、魔女として、そして愛玩動物として望まれるとは、考えてもいなかった。ヴァンデミアは私の肉体を己の魔力で染め上げ、人間の世界を侵略するための助力者に仕立て上げようとした。
私は激しく拒んだ。
女神シンドラ様に救いを求めた。
私の中には、魔女の、あるいは聖女の資質が眠っていたらしく、ヴァンデミアは私の魂を簡単に汚染することはできなかった。
(それでこそ、我が花嫁にふさわしい)と妖魔はほくそ笑み、逆らう私の心を折るべく、おぞましい企てを実行した。異形の悪魔犬の肉体にアムの魂を封じ込めて、愛玩動物として恥辱を与えたのだ。
アムの心と体の両方を暗黒に染め上げようと計画していたところに、マシロン……ボクたちが駆けつけたらしい。
その結果、ヴァンデミアは喜悦と苦渋の両方を味わった。心身ともに、より可能性に満ちたボクの肉体を得たが、小細工を受けて石化させられることになったのだ。
ボクたちはギリギリのところで、アムさんの肉体と、悪魔犬に封じ込められた「未来の聖女になるかもしれないアムさんの魂」を暗黒の穢れから救い出すことができた。
悪魔犬の中に封じ込められた状態で、アムさんが正気を保っていること自体が奇跡と言えた。だから、ボクにはアムさんの肉体を必ず彼女に返す責任があると考える。
アムさんに体を返し、ボクが悪魔犬になる。
その後で、ヴァンデミアからボクの体を奪い返してから、恐ろしい妖魔にトドメを刺す。
したいことを言葉にすれば、それだけのことだ。
そのために必要なのは、ボクが《魂交換》の術と、できれば《獣から人への変身》の術を習得すること。
為すべきことは見えている。
ヴァンデミアとの完全決着をつけるために、ボクはもっと強くならないといけない。
窓から差し込む明け方の光の中で、ボクは心を整理して、アムとしての日常の営みを開始した。
(当記事 完。「アナザーエンディング」後日譚・本章は、次記事につづく)