WショーカとShiny NOVAのNEOスーパー空想(妄想)タイム

主に特撮やSFロボット、TRPGの趣味と、「花粉症ガール(粉杉翔花&晶華)というオリジナルキャラ」の妄想創作を書いています。

『王子の対決』完全解析1

改めて背景確認

 

NOVA「さて、ゲームブックの『王子の対決』も、『王女の対決』と称して2人プレイを何とか終わらせたわけだが」

晶華「これでNOVAちゃんのFFゲームブックの攻略も、80年代に邦訳されていたものは全てクリアしたわけね」

NOVA「ああ。33巻『天空要塞アーロック』、32巻『奈落の帝王』に引き続き、積年の課題だった『王子の対決』も、これで一応、ゴールまで楽しんだことになる。これも、お前たちがいてくれたおかげだ」

翔花「NOVAちゃん1人で、2人用ゲームブックをプレイすることはできないもんね」

NOVA「本来、ゲームブックは本がゲームマスターの代わりになって、プレイヤーが1人で楽しむソロプレイシナリオの発展型なんだが、そこに2人対戦用のシステムを導入したのが本作だ。しかし、FFでは後に続く作品がなくて、進化の袋小路に陥った作品でもある」

晶華「どうして?」

NOVA「まず、ゲームブックって1人遊びに特化して、じっくり文章を読みながら謎解きしたり、マップを描いたり、キャラが死んだら作り直して解き直したり、チート技で死んだのをなかったことにしたり、1人で自由に楽しみ遊ぶものだ。それを2人でやると、どうなると思う?」

翔花「2人で相談しながら謎解きしたり、いっしょに地図を描いて共同作業を楽しめるわね」

NOVA「協力プレイって奴だな。これはTRPGでも、プレイヤーがパーティーを組む理由になる。TRPGの推奨人数は作品にもよるが、最低でもGM1人とプレイヤー1人の2人プレイを前提とする。まあ、GMがいなくてもプレイできるソロシナリオ形式もあるが、それが発展したのがゲームブック。しかし、プレイヤー2人で楽しむスタイルというのが、ゲームブックでは珍しいんだよ」

晶華「ないわけじゃないのよね。ただ、その場合、1対1で対決するシステムになりがち」

NOVA「そう。2人用ゲームブックって、基本的には2人が敵同士で、D&Dの『One on One』シリーズとか、クイーンズブレイドの原作の『ロストワールド』シリーズとか、いくつかの作品が80年代から出ていたんだが、2人協力プレイができる作品はほぼ当作品ぐらいだった」

翔花「『王子の対決』と言っても、別に直接対決するわけじゃなくて、宝石獲得競争だもんね」

NOVA「一応、ロタールがこっそり兄のクローヴィスを罠にはめるイベントが何度か用意されていて、正直者の兄と策謀家の弟というキャラ付けはされているが、実際のプレイでそういう選択をロタールが選ぶと、2人のプレイヤーがリアルバトルになる危険性がある」

晶華「私のプレイでは、選ばなかったけどね。と言うか、それを選べるルートを通らなかったわけだし」

NOVA「双子の戦士と魔法使いのコンビというキャラ付けは、当時、TRPG界で大流行したAD&D小説のドラゴンランス*1の兄キャラモンと弟レイストリンのオマージュだろうが、魔法使いの弟が自らの野心のために、兄の善意を小馬鹿にする性格ながら、自分と同じ弱者への憐憫の心を合わせ持ち、魔法という力を求めて克己しながら努力を積み重ねる美徳も備えていて、ファンも多いキャラだった」

翔花「戦士の脳筋陽キャラぶりと、魔法使いの腹黒陰キャラぶりが好対照を為しているわけね」

NOVA「レイストリンが人気な理由はいろいろと分析できるが、彼は結局、いじめられっ子の復讐劇に基づくキャラで、パーティーを追放されたコミュ障オタクがチート技に覚醒してザマアするパターンの物語にも親和性が高い感じで、ファンタジー小説好きのナード読者のツボを突く設定というのも大きい」

晶華「でも、レイストリンさんって、お兄さんに庇われているのよね」

NOVA「同じ双子なのに、強くて気立てが良くて、女の子にも割とモテるキャラモンに対して、愛憎入り混じった感情を抱きつつ、頭は良くないからと手綱を引っ張る軍師キャラを自認するレイストリン。そして、得意な魔法を極めれば、キャラモンなんかは目じゃないと内面の誇りを抱く描写は、まさにD&Dの魔法使いのロールプレイに即していて、納得できるわけだ……とドラゴンランスへの寄り道はここまでにして」

翔花「とにかく、本作の主人公2人のキャラ付けは、ドラゴンランスのオマージュってことね」

 

独自性あるシステム

 

NOVA「キャラ付けの背景はそれぐらいにして、FFシリーズのシステムとしての本作の意義を確認してみよう」

晶華「原書の発売は86年で、翌87年に邦訳されたそうね。それはどういう時期だっけ?」

NOVA「作者のアンドリュー・チャップマンが、前年の85年にFF12巻『宇宙の暗殺者』、15巻『宇宙の連邦捜査官』、16巻『海賊船バンシー号』を立て続けに出した翌年だ。そして、チャップマンにとっては、これが最後のFFとなる」

翔花「もう1人の作者のマーティン・アレンさんは、33巻の『天空要塞アーロック』の人ね」

NOVA「そっちは88年だな。本作が2本ということになるから、チャップマンは5冊、アレンは3冊のFFシリーズを書いたことになる。もしも、5巻セットのFFコレクションを出すなら、アンドリュー・チャップマンBOXができる計算になるが、さすがに作者のネームバリュー的に実現は困難だろうな。次はSFに力を入れます、と称して、以下の5冊でセットにする可能性はゼロではないが」

 

  • 12巻『宇宙の暗殺者』(チャップマン)
  • 13巻『フリーウェイの戦士』(リビングストン)
  • 15巻『宇宙の連邦捜査官』(チャップマン)
  • 18巻『電脳破壊作戦』(ロビン・ウォーターフィールド)
  • 22巻『ロボット・コマンドゥ』(米ジャクソン)

 

晶華「さすがに新刊が1冊も入ってないような復刻だけのラインナップは、よほどのマニアしか買わないと思うの」

NOVA「確かにな。ともあれ、アンドリュー・チャップマンは、英ジャクソンの実験作『さまよえる宇宙船』を受けて、SFゲームブックを2本。そして宇宙船の複数乗員ネタをもっと洗練させて『海賊船バンシー号』を仕上げた後、本作『王子の対決』はチャップマン版の『ソーサリー』とも言える大作ゲームブック……と称するのは褒めすぎだな。でも、ジャクソンの先鋭的なアイデアを手堅い佳作に仕立て上げる職人的センスに満ちた人だと認識している」

翔花「NOVAちゃんは、チャップマンさんのことが好きなの?」

NOVA「まあ、『王子の対決』が最終作になったのが残念だと思える程度にはな。相方のマーティン・アレンが1人になると、できたのが『アーロック』という奇天烈な作品だったことを考えると、チャップマンさんが上手く手綱を引いたからこそ、『王子の対決』が名作と呼べる程度の作品になったと言えよう」

晶華「これ、名作なんだ」

NOVA「俺は個人的にそう思っているぞ。ただ、FFシリーズ史では、2人用ゲームブックの続編が出なかった点で、孤高の金字塔と評すべきか。作るのに異常に手間が掛かる割に、売れ行きはそれほどでもなかったのではないか、と思ったり、いろいろと問題点を内包してはいるわけだが」

翔花「2人対戦ゲームだと、90年代にトレーディング・カードゲームが主流になって、ゲームブックにそういう物が求められなくなってしまったわけね」

NOVA「日本だと、ゲームブックブームがそのままT&Tやソード・ワールドといった文庫TRPGへの導線になって行ったから、2人用というゲームジャンルにさほどの需要を喚起させられなかったというのもある。そして、『王子の対決』は2人用なのに、いろいろな不純物を詰め込みすぎたという欠点がある」

晶華「不純物って?」

NOVA「まず、2人用ゲームって、対戦形式のゲームが伝統的なんだよな。将棋やチェス、そしてシミュレーションゲームマルチプレイヤー対応じゃなければ、1対1がゲームの基本だが、『王子の対決』は2人協力プレイという新ジャンルを示した。そこに徹するなら、本作は非常に面白いシーンが展開されているんだよ」

翔花「うん、戦士と魔法使いの協力プレイね。戦士が解決できない状況を魔法使いが解決したり、お互いに助け合えるゲームブックは新鮮だと思う」

NOVA「90年代は、2人対戦ゲームというのも流行したが、複数プレイヤーの協力プレイのストーリーボードゲームも登場して、話題を呼んだわけだ。『王子の対決』は競争形式の中での協力を持ち込んで、それを貫いたら良かったと個人的に思うんだけど、不純物というのは、ロタールがクローヴィスを陥れる形でストーリーに干渉したり、途中でそれぞれ一人旅になって、互いに不干渉のソロ冒険シーンが長すぎるうえに、選択ミスで死ぬことが多い。つまり、2人協力プレイに徹すれば、準TRPG的な新しいジャンルを開拓できたのだろうけど、協力と競争の両方を取り入れた結果、どっち付かずな作品になった感」

晶華「両方取り入れたから、盛りだくさんで豊かなゲーム性を持つ、とプラス志向の評価もできると思うけど?」

NOVA「これは、プレイヤーが2人用ゲームに何を望むか、にもよるな。どっちが勝つかの対戦形式を望むなら、本作は『対決』と銘打っているのに、実際には戦わないという点で、不満が出てくる。そして、ロタール側はクローヴィスにイヤがらせを仕掛けられるのに、クローヴィスが反撃にロタールを攻撃することはできないという問題がある。ゲームとしては、やられたからやり返すという楽しさもあるわけだが、ロタールが攻撃しているのにクローヴィスが初心者の場合、気づかなかったりするし、もしも気づいてしまったら、お返しができないという理由でモヤモヤが生じてしまう」

翔花「どんなイヤがらせがあるの?」

晶華「最初にロタールの一人旅を選ぶと、二匹の鬼(オーガー)に襲われるの。そのまま戦ってもいいんだけど、鬼を騙してクローヴィスを襲うように仕向けるという選択肢があるのね。成功すると、鬼はクローヴィスを襲いに行く流れになる」

NOVA「この辺の相手のプレイに干渉するシステムは楽しいんだが、上手くコミュニケーションを交わさないと、不愉快になったり、そもそもクローヴィス側がシステムに不慣れの場合、干渉されたことに気づかないわけで、両方の本を比較しないと仕掛けの面白さが分かりにくいという問題もある」

翔花「わたしとしては、別行動中の策謀よりも、同行中の助け合いが楽しいと思う」

NOVA「片方が行動不能に陥って、もう一方がフォローするシーンとか、兄弟の助け合いイベントが上手く機能している箇所は面白いと思ったな。あとは同行シーンだと、双方のプレイヤーが相談するとか、情報交換を促すような仕掛けがあるとか、非常にテクニカルな工夫が見られて面白い」

晶華「別行動(一人旅)シーンでは『状態』(クローヴィス)と『行動』(ロタール)の2つの数字によって、互いの進行を管理するシステム(物語のフラグ立てにもなってる)が独特だし、同行シーンでは助け合いイベントが用意されていて、他にない特長が見られる作品だと」

NOVA「本作をいろいろ解析していると、一人旅シーンは全部で6つに分かれていて、それを辿ることで戦士の書や魔法使いの書がそれぞれ単独でもプレイできるようになっている」

翔花「クローヴィスだけの冒険や、ロタールだけの冒険でも普通に楽しめるわけね」

NOVA「一人旅シーンを基本に、同行シーンを5つ挿入することで2人用の物語を成立させているわけだが、今回のプレイではこういう流れになった」

 

  1. 同行ルート1:開始からスカムダー川の石橋での別れまで。一人旅ルート1とは両立できない。また、橋での再会から始まる同行ルート2とも両立できない。よって、「一人旅ルート1→同行ルート2」となるか、「一人旅ルート1→一人旅ルート2」となるかのルート分岐が発生する。
  2. 一人旅ルート2:クローディアは願いの井戸イベントと魔女との対決イベント、ロザリンは湖を渡るイベントと妖精女王とのイベントを経験。実はそれぞれ重要アイテムの羊皮紙と指輪の入手に関わるため、攻略上は重要なルート。
  3. 同行ルート3:帝国の徴税官との遭遇イベントから始まる。実のところ、帝国の徴税官は一人旅ルートでは発生しないので、このゲームブックをソロでしか攻略していないプレイヤーは、徴税官を知らないことに。その後、さっさと兄弟が別れて、一人旅ルート3に入ることもできるし、しばらく同行した後で、運命の三姉妹との遭遇イベントを経てから、一人旅3に入ることも可能。
  4. 一人旅ルート3:最も多彩なルート分岐が発生するので、フローチャートを作るのが大変だった箇所。クローディアは、巨大コウモリに拉致されて、透明薬を飲んで、クマと戦って、洞穴から脱出した後、もう一つの洞窟で一度死んで、紆余曲折を経て、最終的に雪山で氷虫と戦って、羊皮紙を獲得した。ロザリンは、沼地の迷路イベントから雷獣とのバトルを経て、ジンの館イベントで2つめの指輪を入手。ここも攻略上の重要ルートということになる。結果的に、本作では攻略上の重要イベントは、必ず一人旅ルートで発生し、同行ルートを優先すると、重要アイテムを取りこぼすという問題が内在している。
  5. 同行ルート4:帝国の徴税官との2回めの遭遇から開始。2人プレイだと、イヤでも徴税官とは出会い、帝国への悪感情を掻き立ててくれる。ガンドバッド王国と帝国の戦いを描いた続編ゲームブックや物語が読みたいところだが、誰か書いてないだろうか? まあ、本作が大人気作品だったら二次創作のネタにもなるだろうけど、レアな作品っぽいからな。「クローヴィス ロタール ガンドバッド」で検索しても、うちのブログか、中山哲学さんと岡和田晃さんのオンライン対決記しか挙がって来ない。ガンドバッドを抜きにすると、西洋中世のフランク王国にまつわる歴史研究がいっぱいで……と閑話休題。徴税官イベントをクリアすると、さっさと別れて一人旅ルート4に入るのがクローディア的に正解(羊皮紙入手のため)だったのだけど、修道士に関わって、宿屋に泊まり、アマゾンとのイベントに踏み込んだために、一人旅ルート5に入ってしまいました。
  6. 一人旅ルート5:クローディアは妖精の森の散策。ただの通過地点なので、攻略上必須のシーンではありません。一人旅ルート3に比べると、のんきにイベントクリアできたな、と。一方、ロザリンは波乱万丈展開で、カラムダー港から海賊イベントを経て、ペレウス王国の王の呪いを解くための悪霊退治でボロボロになりました。そこまでは順調だったのに、海賊イベントで魔法をかけるのに失敗して、最初に死んだり。異常にダイス運の悪さが目立ったな。
  7. 一人旅ルート6:オークムート島でのクライマックス。一応、ヒドラが守る橋の前で合流するんだけど、橋は一人ずつでしか渡れないので、結果的には別行動のままクライマックスの最終試練にまで挑むことに。溶岩の上の橋の両端で対面しつつも、橋を渡ると崩れるので、結果的に合流できないというニアミスシーンが印象深い。「橋を渡ったら危険(バッドエンド)」という情報は、ロザリンでしか知り得ないため、それを相方に知らせるかどうかがドラマ上でも重要、と。当プレイでは、心身ともにボロボロになって、姉との再会を望むロザリンが涙を呑んで、姉の無事を優先して、別れを決断するシーンに結実。おかげで今生の別れにはならずに、姉の王位就任を祝福する妹姫のハッピーにも通じるエンディング、と。

 

晶華「あのシーンで、橋を渡るお姉ちゃんを放置していたら、お姉ちゃんがバッドエンドで、私が王位に就けるという勝ち方もあったけど、それって後味が悪いと思ったので、姉妹愛を優先するのが物語的にも正解だったと思うのよ」

翔花「うん、ロザリンちゃんに助けてもらったおかげで、クローディアは女王になれたのよ。めでたしめでたしってことね」

NOVA「それで完全解析のためには、今回通過しなかった一人旅ルート1と4、および同行ルート2と5の他、一人旅でも通過しなかったイベント分岐をチェックする必要があるんだが、今回のプレイでは半分ほどしか経験していないと思うんだな」

晶華「ゲームブックのイベントを全部解析するのって、大変なのね」

NOVA「とりわけ、今作は2冊分だからな。もっとも、フローチャートも書き終えて、おおよその構造も把握したから何とかなると思うが、それにしても先に言っておきたいことがある」

翔花「何?」

NOVA「同行ルート4で修道士が売ってくれるアイテム群なんだが、ほとんど何の役にも立たないクズアイテムだらけだ。唯一、〈機械仕掛けの鳥〉を魔法使いが買った場合だけ、一人旅ルート4で役立つぐらいで、ほぼ意味のない買い物タイムと言えよう」

晶華「攻略上の重要アイテムは、一人旅ルートで入手できるようになっているから、同行ルートは入手アイテム的には無意味ってことね」

NOVA「あくまでソロプレイのゲームブックに、2人用の追加要素をいろいろ盛り込んだ構成だからな。まあ、その盛り込んだ部分が楽しいと言えば楽しいんだが、同時に本作は死にやすい作品でもある。後でまたバッドエンドの数を解析確認したくもあるが、2人で気楽に楽しめる難易度ではないと思う。選択ミスで死に、ダイス運の悪さで死に、これを2人でプレイした場合、相方が死んで、どうしようか、と気まずくなったもう1人って展開もいろいろあったのではないだろうか」

翔花「わたしは死んだときに、NOVAちゃんとアキちゃんがフォローしてくれたおかげで、パラグラフを選び直して、何とか進めたんだけど」

晶華「私は、海賊イベントで魔法のかけ直しをGMのNOVAちゃんに認めてもらえたおかげで、何とかなったけど。コボルドの集団に囲まれたときも運だめしに失敗して、透明化が破られた際に、とっさに別の呪文をかけて難を逃れたし、そういう救済処置がなければ、バッドエンド2回だわ」

NOVA「2人用の物語部分が結構面白いので、相方が不運にも死んでしまった場合に、残されたプレイヤーがやった〜と喜べずに、つまらないと思ってしまうんだな。だからと言って、相方は相手の死んだ状況をなかなか知り得ないから、どうすれば死んだところから再プレイできるかを提案しにくい。まあ、当記事では俺が客観視できるGM役として、対応策を考える記事構造にしたおかげで、話を進めることができたわけだが、とにかく、死にやすいゲームブックを2人で楽しくプレイする場合のフォローが行き届いていない作品ということになる」

翔花「単純な対戦型なら、相手が死ねば、自分の勝ちで終わりだから、負けた方が悔しがって、もう一戦って遊び続けることもできるけど、協力型ゲームで一方が脱落したときの処理がこの作品は十分なフォローが為されていないってことね」

NOVA「片方がゲームオーバーになれば、もう一方はただのソロゲームとして攻略を続けるだけだが、それはそれでつまらないと言うか、まだ同行ルートで共にバッドエンドを迎える展開の方がプレイヤー同士でどうするかの話し合いが行いやすいと言える」

晶華「とにかく、2人協力プレイという面白い切り口を開拓した斬新なシステムだけど、それでいてソロゲームと同じぐらいの死にやすさを含んでいて、脱落したプレイヤーへのフォローが十分でないから、人気が出なかったと言うことかしら」

NOVA「理想は、ソロプレイでクリア済みの熟練プレイヤーが、より深い楽しみのために2人用に挑戦するってのが、いいと思うんだが、いずれにせよ初心者向きゲームブックとは言えない難易度なのが、2人プレイを楽しむ際のネックと言える」

翔花「同行ルートだと、お互いの情報が共有できるけど、一人旅ルートで死んだ場合に、相手側は何のフォローもしてあげられないシステムだから、一人旅ルートではチートプレイを駆使しても死なないように話を進めるってのが、相手プレイヤーへのマナーにもなるかも」

NOVA「純粋に対戦型なら、チートプレイは卑怯なゲーマーということになるが、物語を破綻させないためのチートは、その場の関係者が許容して楽しむためならOKと考えるし、ストーリー性とゲーム性のどちらを重視するかで意見も分かれるだろうが、中立で客観視できる裁定役のGMがいれば、どこまでのチートが許されて、どのような救済策が施せるかと考える余地がある、と」

 

不安定な魔法システム

 

NOVA「ともあれ、ゲームブックにおける2人協力プレイの実験作にもなった本作だが、クローヴィスよりもロタールの方が難易度高かったりもする」

晶華「単純に技術点が2少ないという能力面もあるけど、頼りの魔法が6分の1の確率で発動失敗するという不安定さがネックなのよね」

NOVA「TRPGのAFFなら、6ゾロで魔法が暴発するシステムだから、失敗率が36分の1。つまり、約3%で事故る。しかし、FFゲームブックで6分の1(約17%)という高い確率で魔法が失敗してしまうシステムは他にないと思う」

晶華「大体、魔法を使う際の選択肢で効果をうまく発揮したり、不適切な使用法だったりで、成否が決まるのがゲームブック。でも、そこにプレイヤーの選択とは関係なく、キャラクターの能力とも関係なく、純粋にダイスの出目だけで魔法の発動失敗が起こるのは、不安定すぎると思うの」

NOVA「戦闘時だけならともかく、その他の魔法使用時にも、6分の1で魔法が発動失敗して、結果的にバッドエンドを迎えるシーンが、ロタール側には多すぎる。魔法使いだから、魔法が唯一の状況解決手段であるシーンは多いのに、魔法点の消費に留意しながら、適切なパラグラフ選択を考えたうえで、6が出たから魔法失敗ってシステムがなかなか厳しすぎるな、と」

晶華「たった1回のダイス目の悪さでバッドエンドを迎えるのが、技術点判定や運だめしだけでなく、魔法の成功判定まで関わってくる、と」

NOVA「技術点や運点は、キャラクターの能力に関係してくるから、ある程度、プレイヤーが調節できるところがある。しかし、魔法は有無を言わせず6分の1で失敗だから、システム上、よりランダム性が厳しいんだ。技術点10だから2Dで11や12で失敗という状況だと、FFのシステムとして受け入れやすいのだけど、1Dを振る判定はFFでも珍しいというか、しかもキャラの能力とは関係なく一律して6分の1ってのは、ほぼギャンブルに近い。どんな魔法を使うかの選択で成否の結果を分かつうえに、使用時にダイス目で失敗する可能性が他の判定よりも高いというのは、個人的に余計なルールの付与かな、と」

晶華「そういうルールは、マーティン・アレンさんっぽい?」

NOVA「まあ、1Dによる判定は、『アーロック』の宇宙船戦闘ルールを彷彿とさせて、FFの他のシステムとは違う感じだし。ロタールがクローヴィスに比べて難易度が高いのは、単に魔法が使えるから(選択の幅が広い)だけでなく、肝心の魔法が常に失敗のリスクを抱えていて、しかも失敗したときのフォローの手段がほぼ皆無という点」

翔花「バッドエンドの数をクローヴィス編と比べてみる必要があるわね」

NOVA「事前に準備しておかなくても、フレキシブルに多彩な魔法が用意されている(パラグラフで指定された3つの魔法から1つを選ぶ)のは、手軽に魔法が扱えるシステムで面白いと思うが、発動失敗率の高さと、失敗したらバッドエンドに直行という局面が多いことで、攻略が非常に不安定になりやすいのがロタール編という感想だ」

 

歴史の話

 

NOVA「さて、次に背景世界の話だが、この本が邦訳された87年という年は、俺がD&Dを購入して、魔法使いや中世ヨーロッパの歴史に非常に興味を高めて行った時期だ。そして、ちょうどタイミングよく高校で世界史の授業を受けていて、フランク王国の王様の名前がクローヴィス1世で、息子の名前がクロタール1世で、いかにも史実に由来する名前で格式あるなあ、と感じたりしていた」

晶華「ロタールじゃなくて、クロタール?」

NOVA「この初期のフランク王国メロヴィング朝と言って、6世紀初めから8世紀半ばまで続いたが、統一期間は比較的短くて、クローヴィス1世の後は60年以上の分裂時代を経て、そこからの再統一の後で内戦後に、カロリング朝に引き継がれる」

晶華「つまり、クロタールさんは統一を維持できなかったのね」

NOVA「と言うか、クローヴィス1世の4人の息子が分割統治って形で、所領を分け合ったんだ。そして、後継兄弟が亡くなったために、もう一度、フランク王国は一番長生きしたクロタールさんが最終的に統一するわけだが、その息子たちにまた分割される。そういうことを繰り返しながら、分割統治という慣習をやめようという流れになって、カロリング朝の時代になるわけだが、最盛期は800年に皇帝となったカール大帝シャルルマーニュ)というのはテストで出る常識だな」

翔花「覚えるのは、メロヴィング朝のクローヴィスさんと、カロリング朝カール大帝だけでいい?」

NOVA「できれば、カロリング家の創始者カール・マルテルと、その息子の小ピピンメロヴィング朝を倒して、カロリング朝の時代を作った)も重要人物なので覚えておくといいだろう。ともあれ、この辺の王様の名前は、ピピンとかドロゴとか『ロード・オブ・ザ・リング』のキャラクター名のモデルにもなったりするし、王朝の系譜図とかは異世界ファンタジーの歴史を考える土台にもなるな。そして、歴史上重要なのは、843年のヴェルダン条約だ」

晶華「何だか西洋中世史の授業になってるんですけど、ゲームブックにどうつながるのよ?」

NOVA「もうすぐつながるから我慢しろ。ヴェルダン条約によって、フランク王国はまた3分割されて、西フランクが現在のフランスに、中フランクが現在のイタリアに、東フランクが現在のドイツの原型になるという話はテストに出る」

晶華「私はテストなんて受けないし」

NOVA「いや、当ブログの管理役を拝命したからには、これぐらいの知識は持っておけ」

翔花「そう言えば、うちのブログ時空も3つに分かれているわね。コンパーニュの長がヒノキちゃんで、ウルトロピカルの長がダイアンナちゃんで、うちの長がアキちゃん」

NOVA「まあ、別にフランク王国を意識したわけじゃないんだが、どちらかと言えば、三国志の天下三分の計? それはさておき、西フランクの王が末っ子のカール(シャルル2世)で、中フランクの王が皇帝位も継承した長兄ロタール1世で、東フランクの王が次兄のルートヴィヒ2世ということになる」

晶華「ああ。ここでロタールの名前がまた出て来るのね」

NOVA「つまり、『王子の対決』のロタールは、メロヴィング朝のクローヴィス1世の息子のクロタールと、中フランク王のロタール1世のイメージを引き継いだ名前ということだな」

翔花「だったら、その子孫はシャルルとかルートヴィヒって名前を付けたら、それっぽくなるのね」

NOVA「シャルルはフランス語で、英語だとチャールズとか、ドイツ語でカールになるとか、ルートヴィヒはドイツ語で、フランス語ではルイとか、英語ではルイスとか、イタリア語ではルイージとか、この辺のヨーロッパ系の名前の変化系が高校時代は面白いと思ったな。ただ、今、ルートヴィヒを調べてみると、元々はクローヴィス→クロードヴィヒ→ルートヴィヒに派生したということを知って、へえ、と面白く感じている。あと、ルートヴィヒには『名高き戦士』の意味も備わっているとか」

翔花「クローヴィスには、そういう意味もあったのか」

NOVA「ClovisからCが抜けて、vがuに派生して、Louisになったという話もあって、クローヴィスとルイス、ルイが関連性を帯びるわけだ。一方、クローディアは元々、ローマの名門クラウディウス家に由来する女性名だから、クローヴィスとはつながらない」

晶華「ロタールとかロザリンに面白い謂れはあるの?」

NOVA「ロタール(Lothar)はドイツ語読みで、派生名に宗教改革で有名なルターがいる。英語読みしたら、ルーサーになりそうだな。ロザリンはRosalynが一般的だろうが、本作ではLotharinという方がらしいな。ロザリオという言葉もあって、バラと信仰のイメージもあるから、そのイメージで見てもいいかも」

 

NOVA「さて、この物語の背景となってるガンドバッド王国だけど、1986年に登場したFFのワールドガイド『タイタン』には収録されなかった謎の国だった」

晶華「ええと、タイタン世界の地図で左上の大陸が火吹山なんかがあるアランシアで、右上がソーサリーで有名な旧世界、そして下にあるのが第3の大陸クール」

NOVA「クールは今回、FFコレクション5で初めてスポットが当てられることになった暗黒大陸だが、FF創始者のリビングストンがどんどん展開していったのがアランシアで、共作者だったジャクソンがソーサリーで新たに作ったのが、より文明的な王国が多い旧世界。一方、ジャクソンやリビングストン以外の若手作家の作品を取り込むように設定されたのが暗黒大陸の異名を持つクールだ」

晶華「だったら、ガンドバッド王国もクールのどこかに位置づければいいわけね」

NOVA「だから2014年に出た『超モンスター事典』に収録の地図で、そう設定されたんだ」

翔花「ああ。右上のパイクスタッフ平原の北にガンドバッドの文字が記されている」

晶華「だったら、帝国はどこになるの?」

NOVA「さあ。この地図だと、スカムダー川とか、カラムダー市とか、オークムート島とかも全く分からないんだが、今後さらなる詳細が設定づけられるのを期待したいところだ」

 

晶華「では、次回から『王子の対決』の中で、私たちが通らなかったイベントを探索して回ることにしましょう」

翔花「IFルートってことね」

(当記事 完)

*1:シリーズ開始は84年。邦訳は87年から。