久々の創作論
NOVA「お盆休みも終わったので、平常運転だ」
晶華「はあ……」
NOVA「何だ、その溜め息は?」
晶華「せっかくのお盆休みなのに、今年はどこにも遊びに行けなかったなって」
翔花「NOVAちゃんはずっと、ウルトロピカルでゲームブックの話ばかりだったのよね」
NOVA「ああ。盆休みの間に、1本終わらせたかったからな」
晶華「私たちにも時間を使って欲しかったと思うんだけど」
NOVA「ケイP一族と、お前たちの雑談記事を書くつもりはあったんだが、どうも何の話題を書こうかって思いつかなくてな。頭の容量がゲームブックと、書籍整理にばかり使ってたお盆だ」
翔花「書籍整理かあ。何か面白い本はあった?」
NOVA「それについて語ると、記事がいっぱい書けそうだが、ちっとも整理が進まないので、今回は割愛だ。それよりも、今回は以前に語った『主人公論』のパート2だ」
翔花「ゲームのリプレイや小説の主人公は、いわゆるプレイヤーキャラさんよね」
NOVA「そうだな。プレイヤーキャラが複数でチーム(パーティー)を組んで、そのチームのリーダーとか、中心人物が主人公と認定される。ファンタジーRPGで目立ちやすいのは、バトルで先陣を切る戦士や騎士、あるいは勇者みたいな人物だが、その後、作品の種類が広がると術士タイプの主人公や、盗賊タイプの主人公が出て来たり、戦いはできないマッパー(地図書き)兼詩人なんて主人公が出て来たりもした」
NOVA「盗賊タイプのキャラが主人公だと、ファンタジー界隈だと、やはり、この作品が最も有名だろうな」
晶華「どんな職業や属性のキャラクターを主人公にするかで、その作品の見せ方も変わってくるわね。戦士を主人公にすれば、戦いが物語の中心になるだろうし、魔法使いが主人公なら、魔法の描写が中心になる」
翔花「物語で作者さんが見せたいもの、描きたいものに合わせて、主人公の職業や役割が設定されるわけね」
NOVA「この場合、作者視点だと、主人公を先に決めてから事件を後から考えるパターンと、事件を先にイメージしてからそれを解決もしくは観察する主人公を設定するパターンの両方が考えられる。そして、良い物語だと主人公がその事件に関わる必然性や動機が明確だし、下手な物語だと主人公の設定が事件と有機的に絡まないで、『何でボクがそんなことをしなければならないんだ?』とネガティブなキャラになってしまう」
翔花「でも、最初はネガティブだったのが、何かのきっかけで発奮して、『仕方ないわね。こうなったら、わたしが何とかするしかない』ってスイッチが入るのも、主人公あるあるよね」
NOVA「主人公が陽性ポジティブか、陰性ネガティブかで物語の雰囲気が変わって来るが、前者の方が当然、ストーリー作りが楽だし、『頑張れ。君が頼りだ』と言われて『任せといて下さい』と胸を張って言えて、結果を出せる主人公はスムーズに話が進む。受け手の心象も、単純バカと揶揄する向きはあれど、そういうツッコミも込みで物語を回しやすいわけだ」
晶華「そうでない性格の主人公は、まずメンタルセッティングから整えてやらないと、話が進まないわけね」
NOVA「ネガティブ系の主人公で人気キャラになろうと思えば、彼もしくは彼女が発奮する動機付けやスイッチをどう納得できるように見せられるかだな。それこそ好きな子のピンチとか、大切なものを傷つけられた怒りとか、秘めたる才能を認められることで自分に自信がついたとか、ネガティブからポジティブへの転換にどのようなドラマをはさむかが物語最初の山場となったりもする」
翔花「ここで動機付けが成功するかどうかが重要ってことね」
NOVA「一般人が戦士に切り替わるのは、多くのバトル物の第一話を研究すればいいわけだが、基本は『日常生活→日常を脅かす敵の出現→力を与える存在との邂逅→力を獲得した主人公が戸惑いながらも(あるいは調子づいて)敵を倒す→日常の変化を感じる主人公でつづく』というフォーマットだ。たまに、敵出現と、力の源との邂逅の順番が入れ替わることがあったりするし、第一話時点で既に邂逅済み(敵の出現を予測して事前に準備していた)というケースもある」
晶華「物語が始まった時点で、すでにヒーローになっていたってこと?」
NOVA「例えば、現役ヒーローのウルトラマンアークやブンブンジャーはそうなってるな。どちらの主人公(アークやブンレッドの変身者)も1話の時点ではヒーローに普通に変身していて、そんな主人公と仲間になる協力者(石堂シュウとブンピンク)が出会うのが1話という構図になっていた。つまり、1話の主人公はドラマ的にメインヒーローではない人間ということになる」
翔花「それはなかなか変化球ね」
NOVA「まもなく最終回のガッチャードは、典型的な初変身から始まったけどな。ただ、仮面ライダーでも第1話が初変身じゃない主人公は結構いて、昭和だとアマゾン、ストロンガー。平成以降だとアギト、剣、響鬼、W、ウィザード、ビルド、ギーツがそうだったと思う。しかし、いずれにせよ、メインキャラクター(しばしば副主人公やヒロイン)との出会いが1話で描かれて、ヒーローの活躍に驚く構図だ。完全に例外はストロンガーで、2話で誕生秘話が描かれるが、1話の時点ではさすらいの謎ヒーローとヒロインという構図。まあ、シリーズが続く中で、マンネリ化を防ぐための変化球とかが見られるって感じだな」
特撮ヒーローの種々の主人公像
晶華「主人公をヒーローとしての新人として描くか、ベテランとして描くかの方向性もあるわね。最初は未熟で、悩んだり失敗も繰り返す主人公が1クールも過ぎる頃には頼り甲斐が出て来る作品と、最初からベテランで、成長するのは仲間の方で、チームとしての関係性の成長の方がメインのドラマになるとか」
NOVA「そう。チーム物だと、チームそのものが主人公という作劇もありだな。だから、チームメンバーそれぞれのドラマ作り(各回の主人公)を設定することで、マンネリを避けることもできる」
翔花「戦隊だと、基本はリーダーのレッドが主人公*1だけど、他のメンバーが実質的な主人公になることだってあるもんね」
NOVA「最初のゴレンジャーからして、アカとアオのダブル主人公で行こうって企画会議で語られたわけだしな。まあ、アオレンジャーの役者の宮内さんが『主役じゃないとイヤだ』とゴネたらしいので、説得するための方便らしいが、まあ、宮内=クールな助っ人ヒーローというイメージを構築することになった」
晶華「宮内さんの最初のヒーローの仮面ライダーV3こと風見志郎さんは、クールよりは熱血漢を強調したヒーローだったもんね」
NOVA「最初のライダーにはなかった家族の仇討ちという要素を加味することで、陰のある主人公という設定を取り入れたけど、それよりも熱血特訓めいたドラマとか、個人の復讐よりも大切なもののために戦うヒーローってドラマを強調することで、クールだけど明るいV3像を確立し、それに対して情念の塊だけど陰キャラ科学者のライダーマンというアンチテーゼとのドラマは他にないキャラ像だと思う」
翔花「元々、仮面ライダー1号の本郷猛さんが陰性の科学者というキャラだったよね」
NOVA「後の武道家の藤岡さんのイメージじゃ考えにくいよな。役者は熱血豪快な方向に化けたけど、最初の本郷は文武両道ながら文の方向や繊細さを強調したのは、石ノ森さんの原作ありきのイメージで、だけど2号の一文字隼人から明るい作風の番組に切り替わる方向にTVが改変し、そこから新1号の本郷猛も鬱屈さを振り払った頼れるお兄さんヒーローに転身した」
晶華「衣装のイメージもあるわね。青系のジャケットを礼儀正しく着こなした真面目な科学者風味の旧本郷さんと、ワイルドに着崩して肌をさらした新本郷さん」
NOVA「ヨーロッパのスイスの山岳地帯で、ああいうワイルドな着こなしを身につけたのかもしれんな。洋行帰りだから、日本の生真面目な学生スタイルからイメチェンしたのも納得できる」
翔花「役者さんが成長するのと同じように、劇中の登場人物も長年演じていると、時期による違いが見られるのね」
NOVA「これこそ、長期シリーズの醍醐味かもしれんな。まあ、永遠のヒーローというのも一つの夢だが、成長して円熟する主人公というのも追っかけ甲斐があると思う。また、若手ファンを取り込むために、リブートやリメイクで今の時代に合わせた主人公像の刷新というのも、往年の思い出を大切にしたいファンからは賛否両論あれども、作品そのものが語られなくなるよりはいいのかもしれない」
晶華「ところで、変身ヒーローものだと変身する人が主人公で、ロボットものだとロボットを操縦する人が主人公で分かりやすい構図よね。チーム物やバディ物だと、メイン主人公とサブ主人公(脇役ではなくて立ち位置は主人公とほぼ同等)に分類されると思うけど」
NOVA「ヒーロー物だと、単独もしくは協力して怪人や敵ロボットを撃退できるだけの戦闘力を持っているかがポイントだな。サポート役しかこなせないと、サイドキック的な扱いだと思うしな。仮面ライダー2号は主人公だが、ライダーマンは主人公と言えないのは、仮面ライダーV3の劇中で、怪人を撃破したことがないからだし」
翔花「ええと、ネットアームとかで怪人を拘束して、とどめはV3に任せるって形ね。セラムンにおけるタキシード仮面の位置付けってことか」
NOVA「まあ、後の客演で自らの力で怪人を撃退するまでになったし、少なくとも役者自身は『電人ザボーガー』でヒーローを演じたからな」
晶華「電人ザボーガーって1974年だから、今年で50周年記念だったのね」
NOVA「そうか。ええと、今さらながら1974年にスタートした番組をチェックすると、Xライダー、アマゾン、ウルトラマンレオ、ロボコン、マッハバロンで、アニメロボだと、ゲッターロボとグレートマジンガーが挙がる」
翔花「へえ。ゲッターロボ50周年だったんだ」
ゲッターロボの話
NOVA「チーム物の主人公を語るうえでは、ゲッターも大事だよな。何しろ、空陸海の3種のロボがほぼ同格で組み換え合体するという発明が大きい。これによって、3人のチームワークがドラマの核にもなるし、リョウとハヤトとムサシは一応、1号機のリョウが主役でチームの中心だけど、水中戦ではムサシが活躍するし、リョウよりハヤトの方が格好いいというファンも多い。スパロボでは、戦況による変形こそがゲッターの魅力だったが、真ゲッターが主体になると、あまり変形がゲームシステム的にも重視されなくなった」
翔花「どうして?」
NOVA「真ゲッター1と、パイロットの竜馬の攻撃力の高さ(エースボーナス込み)が最大の魅力となって、真ゲッター2の回避能力や地中潜行能力、真ゲッター3の水中適性があまり活用されなくなったので、変形の必要性が激減したからだな。昔は、水中だとゲッター3の出番だとか、ゲッターのお仕事は地中に潜ってボス敵を奇襲しながら、一撃必殺の熱血・必中・幸運のシャインスパークやストナーサンシャインを決めることだったり。または、序盤のゲッター2の山岳や街の防御効果を活用しての回避盾を務めながら、反撃のドリルでザコを落とす役どころも印象的」
晶華「ザコ戦では、ゲッター1より2の方が強かったわけね」
NOVA「昔は、ゲッター1って、射程の短いブーメラン以外の飛び道具を持たない接近戦オンリー機体で、回避もできず、装甲もスーパーロボでは弱い機体だったから、ザコ敵の集中砲火にさらされるとあっさり撃墜されるんだよ。だからザコ戦では鉄壁マジンガーを前線に出すか、回避が得意なMSやゲッター2、後にオーラバトラーを前線に出すのがセオリーと言えたわけだ。今は、そんな役割分担戦術を考えなくてもクリアできるようになっている。ゲーム性としては、昔の方が面白かったのも事実だ」
翔花「でも、今の方が、自分の好きな機体で無双できる楽しみがあるみたいね」
NOVA「少なくとも、変形やチームワークが魅力のゲッターの魅力がスポイルされたな。変形がただの武器演出でしかなくなった真ゲッタードラゴンに至っては、なおのこと」
NOVA「いや、元祖ゲッターGの声優さんと主題歌BGMだと、結構、燃えることを再確認したや。いいMAD動画だな、これ」
晶華「ええと、元の動画はこっちね」
NOVA「とりあえず、やはり神谷さんを中心とした旧声優陣の共演に魂を持って行かれるオールド世代であることを改めて感じたな。まあ、新声優もかれこれ10年以上はやっているから、ダメってわけではないんだが、ライブラリでも昔の方が燃えられる世代ということで。ともあれ、ゲッターロボ50周年というのは、あまり意識していなかったから、ここでお祝いしておこうと思う」
翔花「現役アニメとしてグレンダイザーUにスポットが当たりがちだけど、グレンダイザーさんの50周年は来年だから、今年はやはりゲッターさんに注目すべきってことね」
NOVA「後は、やはりヤマト50周年も一応、祝っておこう」
タツノコプロの女リーダーキャラ
NOVA「さて、ジャンルドラマにはジャンルごとの定石というものがあるのだが、作品数が多ければ、定石外しの作品もあったりする」
翔花「例えば?」
NOVA「タイムボカンシリーズなのに、時間移動をしないヤッターマンとかイタダキマンとか」
晶華「ええと、タイムボカンシリーズって全部で何作品?」
NOVA「タイムボカン、ヤッターマン、ゼンダマン、オタスケマン、ヤットデタマン、逆転イッパツマン、イタダキマンの7シリーズが昭和だが、その後、平成に入ってから、怪盗きらめきマン、平成ヤッターマン、夜ノヤッターマン、グッドモーニング・ドロンジョ、タイムボカン24と、続編の逆襲の三悪人が加わったかな。まあ、きらめきマン以外は、ヤッターマンのリメイクとかスピンオフとか、原点のタイムボカンのリメイクで、あまり新ヒーローって感じじゃないけど」
翔花「最もメジャーなのは、ヤッターマンね」
NOVA「タイムボカンはメカ主体のバトルで、ヤッターマン以降が変身ヒーローの要素が加味された。作品フォーマットを固めたのがヤッターマンで、タイムボカンはヤッターマンの原点ではあるけど、3悪と宝探しモチーフ以外は、共通要素が意外と薄い感じもする。タイムボカン+ヤッターマンの要素を合わせた形で、シリーズを定着させたのがゼンダマンになるかな。
「とりあえず、少年・少女とマスコット的なお供ロボットのトリオに戦闘メカが付いて来るのがフォーマットで、それに対する敵は女ボス(小原乃梨子)と、痩せ型の頭脳派部下(八奈見乗児)と、デブの肉体派部下(たてかべ和也)の3悪が中心。で、マージョ様あるいはドロンジョ様の小原さんが、先月、鬼籍に入られたことで、3悪の声優さんがみんなこの世からいなくなってしまったわけだ。改めて、冥福を祈ります」
晶華「タイトルの主役は善玉の方だけど、エンディングは完全に悪役メインだし、歌でも悪役主役よって歌ったりしているし、実際、これほどの愛され悪役を長年演じてきた人たちはいなかったと思うの」
NOVA「で、きらめきマンでは、ヒーロー側が怪盗をやったので、3悪が警察という、悪じゃない正義をやるという逆転現象がネタにできるわけだな」
翔花「ええと、きらめきマンは1号が男で、2号が女という主人公側の構成も逆転させているみたいね。きらめきマン1号が女性で、2号が男性という時流に合わせた変更が見られるわけで」
NOVA「まあ、1号が男、2号が女というのも、実はヤッターマン、ゼンダマン、オタスケマンの3作だけなんだがな。ヤットデタマン以降は、男単独のヒーローで、ヒロインは変身しないサポートポジションか応援役にポジションが後退した。つまり、ヤッターマン2号のアイちゃん、ゼンダマン2号のさくらちゃん、オタスケマン2号のナナちゃんまでが戦うヒロインとして先進的だったけど、ジェンダー論的には、そこから時代に逆行する構図となったわけだ、ヒーロー側は」
晶華「それでも、悪役側は女性リーダー像を通し続けた、と」
NOVA「まあ、作品によっては、3悪の上に黒幕のドクロベエ様とか、トンマノマントとか、コルドー会長とかがいて、チームのトップではあっても、組織の長ではない構図でもあったが、それでもタイムボカンのマージョ様とか、ヒーロー側ではゴーダムのゴワッパーの女チームリーダーとか、たまに先進的な設定を見せてくれるのが70年代のタツノコだったなあ」
晶華「タイムボカンが75年で、ゴーダムは76年か。この時期の女性リーダーとして、タツノコさんは善悪双方から推していたわけね」
NOVA「で、ゴーダムは人気作にはならなくて、女性主人公のロボット物は売れないと判断されたわけだな。時期尚早すぎたというか、キューティー・ハニー→魔女っ子メグちゃんの方向の継承者にはならなかった、と。あと声優的には、ラ・セーヌの星→ゴーダムの岬洋子になるわけか」
変身しない変身ヒーローもの主人公
NOVA「で、タイムボカンシリーズの主人公に寄り道してしまったが、定石外しの主人公話はこちらを語るつもりだった」
翔花「変身しないのに、主人公? ええと、ウルトラマンネクサスの孤門一輝さん?」
晶華「最終回でやっと変身したけどね。他に、タイトルロールの主人公が変身しない魔法少女ものとしてまどマギの鹿目まどかさんがいるけど」
NOVA「主人公が、変身ヒーローやヒロインのドラマに関わりながら最後の最後で、ヒーローの想いを継承して覚醒するまでの物語だな。視聴者としては、彼や彼女がいつ変身するのかをやきもきしながら話を追いかけることになる」
翔花「平成ライダーだと、2号ライダーにたまにいるよね。主人公に助けられたりしてヒーローに憧れたりしているキャラが、ドラマの中心になって、やがて中盤ぐらいで変身能力を獲得したと思ったら、後半で闇堕ちして主人公と対立したりするけど、最終的には和解するパターン」
NOVA「で、劇中では主人公として扱われていたのに、最後の最後で結局、変身することなくドラマを締めくくったのが、響鬼の安達明日夢だったな。リアルタイムの視聴者は、彼が響鬼さんの弟子として、アで始まる鬼に変身するのを楽しみにしていたんだが、それはディケイドのアスムというパラレル響鬼の世界でしか実現しなかった」
晶華「ファンの期待とは違う方向に進んだことで、賛否両論だって聞くけど、NOVAちゃんとしては?」
NOVA「俺は、天美あきらさんが鬼の道を断念した方が残念だったけど、轟鬼さんが斬鬼さんの後をしっかり継承したから、そっちに感情移入できたので良しとした。これで、轟鬼が再起不能で終わっていたら、ガッカリも極まりなかったろうが、さておき。変身しない主人公といえば、アイアンキングの静弦太郎も有名だな」
翔花「有名なの? 特撮マニアさんしか知らないと思うけど?」
NOVA「まあ、アイアンキングを見て、ウルトラセブンと混同するのが、非特撮ファンだろうしな」
NOVA「アイアンキングに変身するのは、主人公ではなくて主人公の相棒の2枚目半の霧島五郎というのが、この作品のポイントだ。そして、主人公の弦太郎は生身でも怪獣と渡り合う戦闘力を持っていて、変身ヒーローなのにそれほど強くないアイアンキングをサポートして勝利に導く役どころ。言わば、ヤッターワンやゼンダライオンがピンチになったところに、メカの素や愛のムチで助けるヤッターマン1号やゼンダマン1号に相当……というのも少し違うか。実際は、アイアンキングが弦太郎のサポート役だもんな」
翔花「ええと、変身しない人が主人公で、変身ヒーローが準主人公のサポート役ってこと? ウルトラマンで言えば、アラシ隊員やイデ隊員が主人公で、ハヤタ隊員が脇役みたいなもの?」
NOVA「むしろ、アラシかイデがウルトラマンに変身するようなものか。今の仮面ライダーで言えば、宝太郎がただの錬金術師で、戦えるけど変身はしない。それを助けるために、加治木がガッチャードに変身するようなドラマ作りに思える」
翔花「それは斬新かも」
NOVA「他には、主人公の雷甲太郎が、ヒーローのアイを召喚するダイヤモンド・アイも変わりもの特撮と言えるが、こちらは要するにポケモンみたいな召喚系として、普通に系譜が受け継がれているな。ピンチの際や、バトルの際に、主役がロボや魔人、ヒーローを召喚する作品は、鉄人28号や非操縦型の勇者ロボ系など数多い。これが主人公も共に戦う相棒感覚が増すと電人ザボーガーになるんだが」
晶華「この場合、主役はロボやポケモンなんかに命令する立ち位置ね」
NOVA「遠隔操作するか、上手くコミュニケーションをとって願いを聞いてもらう感覚だな。アイの場合は、ライコウの正義感や勇気に、神の使いとして感じ入ったという設定だが、要は主人公の資質に対して絆を結んだから、共に戦う相棒として助けてくれるということだ」
翔花「主人公は、変身しないけど心はヒーローってことね」
NOVA「そうだな。そして、これは番組の制作事情だが、主人公役者は番組の顔なので、撮影中の事故で退場すると困る。だけど、アクションはある程度、しっかり描きたい。すると、役者に代わって、アクションを担当させるスーツアクターさんとの二人三脚で変身ヒーローを描くという制作体制が確立しているわけだな」
晶華「70年代のときは、そういう組織体制がなかったから、顔出し役者さんを目一杯アクションでも使って、スーツアクターさんはあくまでサポート役、出番も比較的少なめってこと?」
NOVA「巨大特撮には手間も金も掛かるからな。その辺のノウハウが確立するまでの試行錯誤が、アイアンキングだったりする、と。今はノウハウが確立した中で、どう新しいアイデアを盛り込むか、という時期だが、CGをどう活かすかという方向性で、平成はいっぱい進化した。そして、現在は、ドローンを駆使したカメラワークで、今までにない絵作りを魅せようとしている段階だな」
翔花「主人公や脇役のキャラ設定の他に、撮影事情などの演出背景もあるわけね」
NOVA「これは現在の特撮あるあるなんだが、昔と違って悪の組織のアジトが大掛かりなセットを組めないみたいなんだな。その辺をCGでまかなおうという映像実験もキングオージャーなんかで試みたりはしているんだが、基本的に今の戦隊やライダーの敵役はいつもの本拠地や基地を持たないので、画面奥にボスが鎮座して、その周りに幹部や戦闘員がいて、怪人が今回の作戦を説明するような絵面はあまりない。今のブンブンジャーもサンシタがどこかのお店にたむろしてたり、裏路地で景気の悪そうな会話をしていたりする一方で、ヒーロー側は主役が金持ち設定だから、豪華なセットを組んでもらって常連メンバーがくつろいでいる」
晶華「敵の基地まで作れる予算がない、と」
NOVA「そういう撮影事情も、話のネタとしては面白いが、主人公設定としてはあまり関係ない話なので、これぐらいにして、ここから話が本番だ」
光と闇のコントラストとか
翔花「来たわね。今までの話が、ただの前置きだって奴。本当に話したいことは別にあるって、NOVAちゃんのパターンが」
NOVA「だって、この記事は創作論だぜ。これまでは、映像作品の主人公の描き方の変わったケースを思いつくままに紹介して来たが、ちっとも創作論になってない。例えば、論にしようと思えば、『主人公とは何か? どのように描くのが主人公として成立するのか?』という作劇理論に何らかの問題提起と回答仮説を導き出さなければいけない」
晶華「ああ。質問と答えがなければ、論にはならないってこと?」
NOVA「類例を並べて、楽しく蘊蓄語りをしているだけでも、興味ある読者さんを楽しませる読み物雑文としては成立するが、論としてアカデミックにしようと思えば、『一定のテーマを見据えて、それに設問を用意した上で、話の筋道を構築しないといけない』わけだ。まあ、それじゃなければ、ただのエッセイだな。それでも清少納言さんの『枕草子』みたいに、類例や感じ入った事物をあれこれ散りばめるだけで、それって分かる〜とか、良いセンスしてるじゃんという文学作品は成立するが、この場合に大事なのは、清少納言さんが決してマニア芸を売りにしていなくて、日常によくあるものをしっかり観察して、読者さんに『そう言われてみれば、確かに可愛いとかキレイとか、共感させられる筆致』が一つの魅力だな」
翔花「清少納言さんはマニアじゃない?」
NOVA「マニアなのは、紫式部の方だろう。で、マニアってのは、奥深い探究心と闇を抱える一面があって、清少納言さんはそういう闇やマニアっぽさは自分の作品に残さないように、表面の明るさを表現する方に専心したみたいだから、平成ライダーで言えば、明るい1号ライダーが清少納言で、陰湿な2号ライダーが紫式部ということになる」
晶華「何、その変な理論は?」
NOVA「ただし、昭和だと、1号ライダーが陰性で、2号ライダーが陽性ということだが、これはまあ、石ノ森さんの原作コミックが奥深いテーマの陰性要素を持っていて、それをTVのヒーローに転化する際に明るさを加味した流れがあって、闇→光へのブラッシュアップがライダーの魅力ということになる。で、原点回帰と言っちゃうと、話が暗くなるわけだが、この光と闇のコントラスト、そして複合させた合わせ技こそが俺の好きな映像美、もしくはストーリー美だと考える」
翔花「光と闇を上手く対比的に描いて、ここぞというところで混じり合わせて、昇華させるってこと?」
NOVA「トワイライトマジェードも、ヴァルバラド黒鋼も、そういう合わせ技フォームになったからな。マニアは、闇も知りつつ、闇に留まらずに、その中で輝く何かを見出して表現できることを喜ぶんじゃないかなあ」
晶華「マニア論はさておき、主人公論につなげると?」
NOVA「一般的に主人公は光サイドに所属し、敵役の闇と対峙する中で、闇を晴らして光に変えるのがヒーローとしての役割だろう? たまに闇堕ちしかけて、それまで主人公に感化された仲間の呼び掛けで自分を取り戻すこともあるけど、闇堕ちしたまま終わるのは二次創作か、一部の例外だ」
翔花「TV版のディケイドさんの最終回とか?」
NOVA「牙狼とか大人向き特撮だと、闇の中の光とか、スタイリッシュな闇を強調して描くこともしばしばだが、平成ライダーの場合は、明るい戦隊と暗いライダーという対比だった時期があったのが、時々逆転シャッフルしたりして(とりわけ監督や脚本家などスタッフを入れ替える形で)互いのシリーズに刺激を与えながら、近年はそこにウルトラマンを混ぜたりもしてくる」
晶華「近年は、ライダー役者や戦隊役者がウルトラマンに出張したり、監督までゲスト的にお招きしたりするもんね」
NOVA「昔は、脚本家の上原正三さんが円谷と東映の両方で書いてたりしていたが、10年代は坂本浩一監督のハシゴっぷりが定着して、玩具会社のバンダイが主導したりもしながら、両作が潰し合わないような形でスケジュール調整したり、人員移動やゲスト出演に口を挟んだりもしているようだ」
翔花「そこに庵野監督も絡んだりしていたよね。シン・シリーズの映画とかで」
NOVA「ウルトラとライダーの設定がシャッフルされたりして、昔は光のウルトラと闇のライダーという対比論が定番だったが(90年代初頭)、世紀末から21世紀に入ると闇のウルトラという属性が定着し、闇堕ちしかけた不良少年風のゼロさんが更生してニュージェネ代表的な存在感を固めることで、新たなウルトラファミリー的な世界観を築く一方で、ライダー界隈もクロスオーバー要素を高めたのがゼロ年代後半から10年代。ただ、令和に入ると、戦隊の方が力の入った変化球を投げる一方で、ライダーは若干マンネリ気味に思えるかな」
晶華「そう? AI、文豪、悪魔、リアルゲーム、錬金術、お菓子と毎年ヴァリエーションは相当なものよ」
NOVA「細かい設定はな。ただ、1年間のローテーションで、大体この時期になるとこういう展開になって……というパターンになって、大筋が読めるようになると、次に何が来るか読めてしまうわけだよ」
翔花「そりゃあ、NOVAちゃんは20年以上もシリーズを追っかけてるから、おおよそのパターンを知り尽くしているからじゃない? NOVAちゃんが見たことのない、食べたことのない味なんて、どう作ればいいか」
NOVA「戦隊は、色の組み合わせを変えることで、マンネリ感を脱却することに成功したから、ライダーは……まあ、いいか。設定を変えることよりも、映像演出を変えることで、今度は新味を出してくるみたいだし、設定は似たようなものでも、アクションの見せ方で変化を付けることは可能。でも、錬金術に比べて、お菓子って記事ネタにどうできるかな」
晶華「今、発表されてるフォーム設定は、グミ、チョコ、ポテトチップス、マシュマロ、キャンディの5種類みたいだけど」
NOVA「他に考えられるのは、ガムとビスケットやクッキー、それに和菓子の羊羹や団子、まんじゅう系、それにカシワモチだな」
翔花「カシワモチフォームなんて出たら、盛り上がること間違いないわね」
NOVA「あとは、お菓子から派生して、スイーツ系が強化フォームであるかもな。アイスクリームとかヨーグルト、イチゴパフェとか、ブルーベリーサンデー、ホットケーキにカレーパン、レーズンパイにクレープ、そして最終的にデコレーションケーキフォーム」
晶華「とりあえず、過去のライダーよりも、プリキュアを参考にする方が良さそうね」
NOVA「ライダーだと、フルーツモチーフの鎧武だな」
(当記事 完)