屋久島より帰る
NOVA「ただいま」
ケイPジロー『壊れたイチロー兄さんの代わりに、参上したッピヨ』
009『おお、お帰り。今か今かと帰りを待っていた。ぼく一人での留守番は荷が重すぎました』
NOVA「お前、一人だと? ジョエルとケイソンがいただろう?」
009『いや、杖の精霊と暗黒騎士とはなかなか上手くコミュニケーションがとれないから』
NOVA「ケイソンとのコミュニケーションが困難なのは分かる。だけど、ジョエルはNOVA1987の意識を宿しているはずだから、NOVA同士、コミュニケーションがとれないはずがなかろう」
009『いや、普通の人間は、過去の自分とコミュニケーションをとる機会なんて、そんなにないですから。昔のことを思い出すことはあっても、昔の自分とお喋りをするなんて、どうかしてます』
NOVA「そんなことを言ってると、時空魔術を習得できないぞ」
009『いや、ぼくは確かにWhite Wizardを名乗って、魔法使いを気取ったりもしていたけど、時空魔術といえば、ファイナルファンタジーの時魔道士しか知りません。他に魔法で過去に遡ったりするなんて、レイストリンとか、かなりの高等魔術じゃないですか』
NOVA「2009年のNOVAにはできなかったのか?」
009『できませんでした』
NOVA「少し過去記事を検索してみる。俺がこのブログで、『時空魔術』って言い始めたのはいつからだろうか?」
NOVA「なるほど。2018年の春からか。意外と最近だったことが分かった。というか、花粉症ガールの物語に合わせるように、俺の時空魔術師設定がPONと生えてきたんだな。たぶん、時空魔術師にして、言霊魔術師という妄想設定は長年、俺の中に眠っていたんだけど、正式な言葉として浮かび上がったのは、この時が最初だったわけだ」
009『つまり、2009年のぼくはまだ時空魔術師として、きちんと覚醒していなかったのです。ましてや、未来の自分から召喚されたり、ケイソンなんて中学時代にゴミ箱に捨てた習作を呼び起こしたり、高校時代に書いた「光の杖」をネタにしたりなんて思いもしていない』
NOVA「まあ、2009年だったら、『プレ・ラーリオス』で遊んでいたんだな。今、思うと、いろいろやりたいことを遠回りした挙句、無駄に時間を浪費したのかもしれないが、その時にあれこれ考えた経験があるからこそ、自分のやりたいこととか、やりたくないこととか、創作傾向とか、寄り道脱線癖とか見えてきて、今の自分につながってるとは思う。ところで、お前はどうして、今さら俺にですます敬語を使っているんだ?」
009『10年後の自分の凄さを分かったからです。2009年の自分には、「過去の自分とお喋りするような器用な設定のブログ記事」なんて、とても書けやしない。ましてや、昭和の高校生と、平成の30代の自分と、50過ぎの3世代の自分の会話で一記事仕上げようなんて狂った発想は、とてもとても……』
NOVA「それって褒めてないよな」
009『創作家にとって「狂ったような発想」ってのは褒め言葉ですよ。すべからく作家たるもの、自分の中の妄執やこだわりを突きつめつつ、理性的に作品として伝えなければならない。狂気に偏り過ぎると読者にとって意味不明となり、理性が勝ち過ぎると真面目につまらない。妄想は妄想として認めつつ、思い切りよく情念を叩きつけ、それでいて自分を客観視する。それが、ぼくにはできていなかった』
NOVA「人、それを離見の見という。あるいはメタ認知と言い換えることもできそうだな。俺も自分で書いていて、なかなか器用なことをしているな、と思うことがあるが、まあ一人ボケ一人ツッコミとか、いろいろな芸の応用だろうな。ともあれ、お前にはこの記事を読め、と言っておく」
009『ええと、ぼくが間違えてイチロー兄さんを自爆に追い込んだ状況分析みたいなものですか』
NOVA「お前は最近、不用意なことをしでかすようになって来たからな。兄を自爆に追い込むのみならず、いつぞやは俺に転移呪文を仕掛けて、ここから追い出したりもした」
009『ああ、そんなこともありましたね』
NOVA「まさか、お前がマピロ・マハマ云々の転移呪文を使ってくるとは思わなかったぞ。あの件は俺にも落ち度があったから、一方的にお前を責めるつもりはないんだが、お前が自分の中に眠る力を自覚せず、突発的な事故みたいな形で発動させてしまうのはいささか危険に思えてな。お前は俺の13年前の分身として、ある程度の力を覚醒してきたようだが、精神的に未成熟な面があるから、もう少し呪文的な言葉は慎重に使えと命じておくぞ。兄を自爆に追い込んだり、未来の自分を追放したりするような真似は今後、控えて欲しい」
009『分かりました。自分の中に眠っている時空魔術や言霊魔術の能力を、無意識に発動させてしまわないよう制御しろということですな』
昭和時代とのカルチャーギャップ
NOVA「では、009への教育的指導はこれぐらいにして、次に移ろう。ジョエルとコミュニケーションがうまく行かないって?」
009『ええ。1987年の自分がここまで無知だとは思いませんでした』
NOVA「そりゃあ、高校生なんだから、大人の目から見て無知なのは当然じゃないか」
009『いや、同じ高校生でも同時代を生きていたら、話は通じると思います。しかし、昭和の高校生じゃ、話題が重ならないんです。スパロボも知らない、インターネットも知らない、バブル崩壊も知らない、消費税も知らない。ガンダムの話をしようにも、Gガンどころか逆襲のシャアすら知らない。ウルトラマンデッカーが、ダイナモチーフだって言っても、『ダイナって何ですか? ウルトラマン80までしか知りません』とか言い出す始末。87年の昭和人間と何の話で盛り上がったらいいのか、いろいろ試行錯誤して答えは何とか導き出したんですが……』
NOVA「ほう。どんな答えだ?」
009『必殺仕事人です。少なくとも、必殺剣劇人までは話ができました。まあ、仕事人以前の旧作は分かったり、分からなかったり様々ですが、「からくり人の仕掛けの天平」の名前を出したら、「確か森田健作さんですね。口から相手に花火を飲み込ませて腹の中で爆発させるとか。当たるトラ年か何かで見たような気がします」と応じてくれたりも』
NOVA「仕掛の天平はインパクトあるからなあ。だったら、昭和の必殺話だけでも、十分にネタにできたはずだろう」
009『それで平成に入って、「必殺仕事人2009」の話をしたら目を輝かせていたんです。「へえ、2009年まで必殺は続いていたんですか。てっきり、剣劇人が最後とばかり……」という反応で』
NOVA「いきなり、2009に飛んだのかよ。その前に、『激突』があっただろうが」
009『いや、ぼくは2009年から来たんだから、旬の話題は2009を置いて他にありません。だけど、東山さんが主水の後継者だって話をしたら、「えっ? それって少年隊の? ありえんでしょう」って反応だったりも』
NOVA「確かに昭和の感覚だと、それはあり得んだろうな」
009『「どうせなら、ひかる一平にして下さい。それなら許します」とか』
NOVA「ジョエルがそういうことを言ったのか? 許しますって何様のつもりだよ?」
009『まあ、杖の精霊の言ってることだし。とにかく、必殺ネタなら何とか話ができそうだと思って、当ブログの過去記事でもチェックしたんですね。ちょうど注目記事に昔の「商売人」感想記事が挙がっていたので、その辺を読んでみました』
NOVA「2010年に書いた古い記事なのに、どういうわけか人気なんだよな、商売人感想」
009『マニアックな読者が付いてくれているみたいですね』
NOVA「商売人と言えば、鎌倉殿に比企尼役で出ていた、元おせいこと草笛光子さんだが、先日、比企能員を始めとする一族が滅亡したので、これで出番終了かな、と思う。比企一族には手裏剣戦隊のモモニンジャーも所属していたんだが、ジードのライハさんに似た仕事人の娘に殺されて、時代はまさに商売人から仕事人に移ったのだな、と感じたり」
009『商売人から、鎌倉殿に話を展開するとは……』
NOVA「まあ、鎌倉殿の善児は、本家のテレ朝が制作している東山・仕事人よりも、殺し屋としての凄みが濃厚だからな。こいつが画面に出ているだけで漂う緊迫感が違う。三浦メフィラス義村と梶原善児、私の注目しているキャラです。
「年一のスペシャルで当たりか外れかをドキドキしながら見ている現在の必殺よりも、毎週コンスタントに放送しているレギュラードラマの方に愛着が出て来るなあ。善児の決して美形とは言えない風情ながらトボけた雰囲気の中に秘めた凄みに、俺は令和の中村主水を見た」
009『令和の中村主水かあ。そうなんだよなあ。藤田さんはもういないんだよなあ』
NOVA「何だ? 今さら湿っぽくなりやがって」
009『いや、ぼくは2009年から来たから、最近、ジョエルといっしょに商売人感想とその周辺記事を読んでいて、初めて藤田まことさんが逝去された話を知ったんだよ。そして、2人でいっしょにガーンと来た。ジョエルなんてマジ泣きして、しばらく黙りこくって、この場はお通夜の雰囲気になったりもしたわけで』
NOVA「杖の精霊が?」
009『杖の精霊だって泣いていいじゃないか。それだけ中村主水に入れ込んでいたってことだ』
NOVA「まあ、気持ちは分からなくもないがな。今年は必殺シリーズ50周年だし、来年は中村主水誕生50周年だから、何か記念記事を書きたいよな」
沈む夕日見つめ、あかね色の雲に見えるもの
NOVA「ともあれ、俺は感情移入し過ぎる性格だから、割とガーンと来て泣きやすい。で、そろそろ、このキャラは死にそうだと思うと、下手に深入りし過ぎないよう距離を置くようにして、精神安定を図ったりするようになったな。ただ、思いがけないキャラの死とか、もっと思いがけないリアルの人間の死なんてものには、その都度いろいろと込み上げて来るものがあって、せめてできることは思い出語りをしながら偲ぶことと、追善供養の気持ちで祈ることぐらいか」
009『とにかく、最近は訃報が続いて落ち込んでいた気分のところに、今さらながら藤田さんの12年前の訃報を知って落ち込んでいるのが、ぼくだ。ジョエルは落ち込み度が酷くて、口も聞けないモードに入った』
NOVA「なるほどな。だから、さっきから何も喋らずに、お前が代弁していたわけか。それにしても、何らかの作品の50周年を祝うとなると、逆にキャストの方を初めとする関係者が鬼籍に入られているケースもあって、偲ぶ機会も多いってことだな」
009『昨年はルパン3世の最初のアニメ50周年だったし、今年はマジンガーZの50周年で、さらに必殺シリーズ50周年か。そういう作品シリーズと出会ったり、追いかけたりしているうちに、いろいろ感じ入って思い入れや思い出が生じることも、縁ということかな』
NOVA「作り手との縁を感じるだけでなく、感想記事なんかを書いたりすることで、共通の価値観を持った同じ趣味の読者とも縁が生まれたりするわけで、今年は特に『何かや誰かを見たことで生まれる縁』を強く意識するようになった」
009『それがドンブラ脳ってことか』
ケイPジロー『ドンブラ? よく分からないッピ。翔花ママもドンブラドンブラ言っていたけど……』
NOVA「お前は、2020年の終わりに屋久島に行った後、昨年はずっと向こうに常駐していたからな。こっちで俺や翔花がドンブラにハマる流れを見ていない。ドンブラザーズについては、去年の年末に俺、こういうことを言っていたし」
NOVA「その後、脚本家が井上敏樹大先生だと知ったときの反応はこれだ」
NOVA「その後の俺は記事中に何回ドンブラって書いてるんだろうな」
009『ここまでの記事数にして46記事ですな。つまり、46番めのスーパー戦隊に匹敵する数だけドンブラを話題に挙げ、しかも平均すると、5日に1回はドンブラと書いているわけで』
NOVA「俺がゾーフィなら、『そこまでドンブラが好きになったのか!』と驚嘆しているところだ」
ケイPジロー『ゾーフィって何だッピ?』
NOVA「お前には令和4年を学び直してもらう必要がありそうだな。009、ジローの教育はお前に任せた。ただし、桃谷ジロウからおかしな影響を受けないように細心の注意を払えよ」
009『それはまた難易度の高いミッションをおっしゃる』
NOVA「何とかせい! 鎌倉脳だと、無茶振りは当然になるぞ」
ケイPジロー『ドンブラ脳と鎌倉脳、令和4年は思ったよりカオスだッピね』
NOVA「こうやって人はフィクションの歴史を紡ぎ上げていくんだ。その中で、思い出の1ページが刻み込まれていき、その時代を生きた感覚が残る。古き良きものは美化されて語られ、その伝統に積み上がるように、またはひっくり返すように、新しい良いものが生まれる。もちろん、自分の好みに合わないつまらない物も数多く作られているのだろうが、自分が楽しめないものにこだわっても仕方ない。悪縁なんてぶっ飛ばせ。楽しいものでつながる縁なら、この世はハッピーパラダイスって言ったところか。逆に、人が楽しんでいるものに、つまらん難癖をつける輩は地獄の亡者と変わらんな。
「しみじみ深く感じ入る『もののあはれ(哀愁や幽玄)』と、美や凄さ、楽しさや面白さを素直に讃えられる『をかし(享楽、感動)』こそが日本古来の伝統文化だと本居宣長先生もおっしゃっている。ボケとツッコミのお笑い芸も、江戸期に変質した『をかし』の一形態だが、笑えない攻撃的なツッコミは風情にあらず。良いものへの鑑賞眼、審美眼が磨かれてこそ、そうでない物への批判が成り立つわけだから、時代を超えて受け継がれる良いものを味わえて愛でる自分でありたいものだ」
009『「あはれ」と「をかし」か。故人への惜別の念は「あはれ」で、その人たちの遺した傑作佳作を味わうことは「をかし」に相当するのかな』
NOVA「西洋演劇学だと、カタルシス(浄化)って言葉を使って、恐怖や悲哀の原因をきれいに流してスッキリさせることを重んじる。一方、東洋演劇学は『余韻を残す』ことを重視すると聞いた。もちろん、作品ごと時代ごとジャンルごとの細かい違いはあるのだろうが、個人主義で自己完結型の契約重視が西洋、調和主義で物心継承型の情緒主義が東洋と分けていいのかな」
009『すると、桃井タロウのお供ってのはどうなるんだ? あの関係性は契約じゃないのか?』
NOVA「主君への忠誠を誓うという形式は、意外と重視されていない。大体、忠誠を誓う相手を蹴り飛ばすのは、そういう形式を嫌ったゆえで、ドンブラは契約よりも情緒で人は縁を結んだり、鬼になったりする和風のドラマ、その根本精神は時代劇に通じることがここ最近でようやく実感できた次第」
009『いや、桃太郎ってだけで時代劇だろう?』
NOVA「ストーリーが時代劇の定番を崩して、ゲーム感覚、ヴァーチャル感覚を表面に出しているからな。時代劇をネタにした破天荒な作品……と思わせて、やっぱり時代劇じゃないか、と俺のドンブラ脳は言っている。だから『喪失感によるあはれ』と『神輿や祭りによるをかし」で分析できる。一方、脳人の世界が西洋哲学の価値観に通じているんじゃないか、というのが俺の見立てだ」
ケイPジロー『なるほど。ドンブラは奥が深い哲学だッピね』
NOVA「まあ、ただの深読みに過ぎず、脚本家はそこまで考えていないかもしれないがな。とにかく、ドンブラ脳と鎌倉脳、これこそが令和4年の時代感覚で、昭和や平成にはなかったものだ。まあ、令和を代表する作品になるかどうかは知らんが、俺の中では昭和→平成の必殺脳、時代劇脳の系譜を受け継ぐ革新的伝統芸能の位置付けだ」
(当記事 完)