寄り道は続く
NOVA「結局、寄り道から抜け出せないことに気づいた」
晶華「どうして?」
NOVA「妖精郷はクライマックスの翔花救出だろう? プロットはあって完成品のイメージもでき上がっているんだけど、気を逸らす異物が頭に入り込んで、今のまま書いても、良い物にならないと思うんだな。翔花救出に専念するには、まず雑多な想いを吐き出してから、ということになる」
晶華「つまり、5月4日の前にお姉ちゃんを助けられなかったら、件のコメント主のせいなのね」
NOVA「いやいや、そこで他人のせいにするのは美しくない。俺の心が集中できないのは、俺のせいだし、『創作家のデリケートな心は、人を楽しませる創作家の本義を見失った者には、想像できない』から、相手にそういう善意を期待してもダメなんだ」
晶華「どういうこと?」
NOVA「創作家にももちろん光と闇の両面があって、『自分の創った作品が受け入れられて、人を幸せにできて、称賛されたら自分もフィードバックを受けて幸せになれる』 これが理想だな」
晶華「『作った料理が美味しくて、喜んでもらえたら、また作ろう』って気になるものね」
NOVA「まあ、それほど美味しくなくても普通に食べられるとか、腹が減ってるから何でもいいとか、こんな不味いものを食えるかとか、そもそも『君の味の好みはぼくの舌に合わないから誰か他の人にあげた方がいいよ。ぼくは自分が好きなものを作って食べるから。君がぼくの料理を楽しんで、そういう味に合わせてくれるなら食べてもいいけど、君の料理の腕では、そこまで器用に作れないだろう? 君の言動を聞いていれば分かる。料理の舌が肥えていないだろうってね。ぼくが美味しいと言ってるものを、ろくに味わえていないんだから』とか、いろいろなリアクションはあるだろうけど」
晶華「『練習して、美味しい料理を作れるようになったの。だから食べて』と相手が言ってきたら?」
NOVA「スイーツが食べたいと言っている人間に、『激辛カレー』は味の好みを無視しているし、『毒入りチョコ、食べたら死ぬで』って表示されているようなものを食べたくはないだろう?」
晶華「毒入りチョコって分かるの?」
NOVA「作り手と会話していれば、どういう価値観を持っているか読めるから、そこで作風が合うか合わないかは分かるだろう。もちろん、性格は合わなくても、作ったものは美味しいというケースもあって、イヤミだけど料理の腕は本物と舌鼓を打つようなマンガを最近読んだ」
晶華「だったら、もしかすると面白いかも?」
NOVA「それなら、俺が読まなくても、誰かが評価してくるだろう? そもそも、創作家ってのは『自分の創ったものが一番面白い』とナルシストになる気持ちと、『創ってみたけど、自分の理想の作品とは違う』とがっかりする気持ちと、『だけど、誰かに褒めてもらった。もしかすると、本当は面白い? だったら、もっと面白さを追求しよう』って他者評価が自尊心につながる気持ちと、『自分の中では傑作なのに、どうして世間では受け入れられないんだ? 世の中は自分のことを分かってくれない』と妬み嫉む気持ちと……まあ、個人差は多かれ少なかれあるにしても、いろいろ気持ちが揺れ動くよな」
晶華「NOVAちゃんも?」
NOVA「自分が想像できない気持ちは、言葉にできません。ただ、他者からの評価は、そりゃあれば嬉しいけど、それは俺の中の絶対的な基準にはならないの」
晶華「どうして?」
NOVA「お前がいるからさ」
晶華「え? ええ? それって、どういうこと? 愛の告白?(赤面)」
NOVA「具体的には、自分の中に自分を愛するブレない柱となるメタな核を構築できているかだな。世界の全てが敵に回っても、俺は自分を信じる……って強い想い? まあ、創作では誇張表現でたまに見かけるし、信じるものが自分以外の愛する人や、仲間、師匠、あるいは神さまへの信仰とか、大事なものが何かという点で、そのキャラの性格もろもろが決まってくる」
晶華「私は、NOVAちゃんの大事なものなんだ」
NOVA「そうなるように、ブログで育てた。最初は、よく分からない幻みたいなイメージだけど、言葉を紡いでいるうちにキャラクターが見えてきて、エピソードが見えてきて、イマジナリー・フレンド(IF)ならぬイマジナリー・ドーター(ID)ってところだな」
晶華「現実じゃない仮想の存在ってことよね」
NOVA「そういうキャラを頭で創って、何らかの形を与えることが創作ってものだろう? そして、エピソードが重なって、日常でお喋りしたり、一緒に事件を解決するストーリーを紡いだりしているうちに、自分の中でかけがえのない存在になっていく。あとは、そういうキャラが自分だけのものではなく、他の人も受け入れるようになれば、自分一人じゃない仮想現実を紡ぎ上げたってことじゃないかな」
晶華「つまり、私はNOVAちゃんにとって現実?」
NOVA「まあ、俺はフィリップ・K・ディックが好きだし、尊崇するとまでは言わないが、『現実と幻想の境界線』というテーマでSFファンタジー観に結構、影響を受けていると思う。もちろん、ディック以外も好きなSF作家、ファンタジー作家、その他、いろいろな作品は数々いるけれど、それなりに血肉にしているのは間違いないけど、果たして自分は本当に自分自身なのか、とか、現実と虚構のどちらが真の姿なのか、というテーマは哲学的で、『想いを現実に変える力』というのは、近年のフィクションの王道とも言える」
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